相補性原理について



「相補性原理」は量子力学の父ニールス・ボーアが1927年 に提唱した原理です。

 この原理を厳密に定義することは難しいのですが、要約すると「すべての物事には二つの側面があり、それぞれの側面は互いに補い合ってこそ、ひとつの実在について記述することができる」というもので、ボーアはこの相補性原理と中国の古代哲学である陰陽思想とが、よく似ていることに気付いていました。「一方を否定すれば、他方も成立し得ない相互依存の関係性」と解釈すれば、仏法で説く「不二」の思想に近いものでしょう。
 相補性(Complementarity)という言葉は、ボ−アが使用して以来その意味の「あいまいさ」を指摘されながらも、科学や哲学の分野で多種・多様な使われ方をしています。

 科学の公理に因果律がありますが、因果律は19世紀の科学の公理であって、今日の科学を導く公理は、因果律のみでは十分でなくなりました。
  ”なぜ?”という設問に答えることが出来るのは因果性が明らかにされている場合ですが、生命現象には”なぜ?”という設問に答えることが出来ない事例が多いのです。
 進化という現象に例をとれば、「生物が動物と植物に分かれたのはなぜか?」「オスとメスがいるのはなぜか?」などという設問に与えられる解答は神話的にならざるを得ません。
 しかし、現存する各要素間の関係性を明らかにして全体を構造として把握すると、各要素は相互依存の関係性で結ばれていることが判り、分化する要素間の相互依存性、すなわち相補性を直観することは容易といえます。

 因果律に相補性を加える必要性を力説したボーアの功績は大きいといわねばなりません。
 原因と結果の間にも相互依存性があり、因果律自体が「相補性原理」の一部と見ることも出来ます。



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