UNCHAIN THE NIGHT 1

 

その部屋の扉が開けられた途端……アムロは絶句した。
「…な…なっっ……」
身体が小刻みに震えてくる。
「な、何だよぉーっっっっっ?!この部屋はっっっ!!」
振り向き様に、平然として後ろに立佇む男に向かって叫んだ。
「…見ての通りの『新婚仕様』…とでもいうヤツではないのか?」
アムロとは対称的に極めて冷静な様子でシャアはそう呟いた。

このコロニーで一番の高級ホテルの、更に一番上等なスイートルームである。
なのに、やけに甘い雰囲気のフェミニンな印象を受けた。
それは家具が白基調になっていたり、カバー類がレースやリボンで彩りされていたり…また部屋中に飾られている白い花、花…この多くの花が、ますますもってその甘ったるい雰囲気を強調しているのだろう。
シャアはドアの前で脱力しているアムロの肩を抱き、中に入る様に促す。
「ホテル側の気遣いだろう。そう腹を立てる程のコトでもあるまい」
「そ…そうだろうけど…」
『普通』の新婚カップルだったらこの演出に、『花嫁』は涙を流さんばかりに感動するに違いない。
しかし…しかしだ。『男』の自分がこの状況を喜ぶとでも思われているのか、と考えると情けなくて涙が出そうになる。今日という日の最後の最後で、随分と気力を奪われるモノを叩き付けられた気分だ。

アムロはソファーに座るなり、はあーっっと大仰な溜息を付いた。
そんな様子にシャアは苦笑する。
「本当に疲れた様だな」
「うん…特にさっきまでのアレ…がね」
式典よりもパレードよりも、先程までこのホテルで行われていたパーティーの方がアムロ自身には一番疲れる代物であった。招待客である連邦の重鎮や各コロニーの実力者達の中には、明らかにアムロに対して失礼な感情を向けてくる奴等も居たので。その多くが所謂『下種』な性的興味の上に立つものであったので、余計に不快で精神的負担になった。もっともそれは側に居たシャアにも充分伝わっていた様で、一部の連中は氷の貴公子の冷酷な侮蔑の視線と『ご丁寧な』挨拶をまともに受けて、かなり萎縮していた様子であったが。
…ホント疲れたケド…まあもういいか…夜も遅いし、後は寝るだけだし……
…ん?…寝るだけ…?

はっと何かに弾かれた様にアムロは立ち上がった。
そして足早に続きの間となっているベッドルームのドアに近付き、勢いよく開け放つ。
その中の様子は、アムロの気力を根刮ぎ奪い取る程の強烈さがあった…。
……マジで倒れそうだ……!!
「また何をそんなに…?」
ドアの取っ手を掴んだまま項垂れているアムロの背後から、シャアはベッドルームの内部を覗き込む。
案の定ベッド周りはリビングルーム以上に、それはそれは華やかに飾り付けられていた。
白いレースが垂れ下がる天蓋付きの大きなベッド、周りを埋め尽くす白い花籠、白いレース主体のベッドカバーの上にもご丁寧に多くの花が散らされていた。
「ほお…絵に描いた様な『新婚』用ベッドだな」
実に楽しげな様子のシャアに、ダメージ倍量受けているアムロは本当に腹が立ってくる。
「あ、あのなあっっ!…こんなベッドで眠れるワケ無いだろっっ!!」
…と叫んだ途端に感じる浮遊感。シャアは所謂「お姫様抱っこ」でアムロを抱き上げていた。
「シャ…シャアっっ!」
「やはり『新婚』なのだから、『花嫁』はこの様に運んで差し上げないとな」
「ちょっ…ま、待ってよっっ!シャアっっ…んっっ…」
抗議の声を唇で遮りながら、ベッドに向かってゆっくりと歩き出すシャアの内部には、喩えようのない高揚感があった。丁寧に静かにアムロの身体を花のシーツの中に横たえる。アムロは式典用とは違うパーティー用の白いスーツ姿なのであるが、それが彼の細さをより引き立てている様にも見えた。白いシーツと白い花に彩られて横たわる姿、こちらに向けてる不安な表情…どれを取っても扇情的過ぎて、シャアは堪らずアムロの身体に覆い被さった。2人分の体重を受けてベッドが大きく沈む。
「シャアったらっっ!ま…待ってってばっっ!」
「待てない」
それだけ言って、ゆっくりと顔を近付けていった。アムロは抵抗しているが、所詮彼は自分が体重を少し掛けただけで身動きは取れなくなる。
「…や…やだっっ……こんな始まり方…絶対にイヤだっっ!」
本気で涙目になっているので、シャアは訝しげに尋ねる。
「何が…そんなに嫌なのだ?」
うっ…と言葉に詰まった様な表情になった。まあ…多分いきなりだから心の準備が出来てないから…くらいが理由だろう、とシャアは思っている。ほとんど正解なのだが。
「……ふ…風呂…」
「何?」
「…つ、疲れたから…俺はお風呂入りたいんだっっ!そ、その後にしてっっ!」
「…では一緒に」
「駄目ーっっっ!一人で入らせてよっっっ!」
そう叫ぶと同時にアムロは少し怯んだ隙のシャアの身体を力一杯押しのけて、ベッドから降り立つとバスルームへ向かってバタバタと走り出した。
ベッドに一人残されたシャアはやれやれ、と髪をかき上げながら
「ったく…無意識に『花嫁』らしい可愛らしい事をしてくれるな」
と苦笑せざるを得なかった。

 

当たり前なのだが、バスルームも思いっきりその仕様である…。
広めのバスタブには既に湯が張ってあり、そこに白い薔薇の花が数個浮かんでいたのを見た瞬間…本気で目眩がした。
取り敢えず、スーツを脱ぐ。今日一日、ずっと色々な礼服で堅苦しかったので、本当に心からの開放感が心地よい。シャツも脱いで何とはなしにそれを見つめてしまう。
……汗も…結構かいたし……
本当ならシャワーが先かもしれないが、目の前のお湯に一刻も早く入りたくなったので、すぐにバスタブに入り全身をゆっくりと沈める。湯からは花の良い香りがした。浮かべてある薔薇以外にもおそらくその手のバスオイルを入れてあるのだろう。ますます気恥ずかしさを感じる。
……良い匂いになって…ヤってくださいってコト…?
他意は全く無く、普通にホテル側の好意なのだろうが…全てが『新婚初夜』というイベントの為に誂えたモノなのだ、と考えると本当に頭が痛くなってくる。
…まあ…確かに……もう…するしかないんだ…ろうけど……
「疲れてるから普通にぐっすり眠りたい」…という要望はあのシャア相手に通るはずも無い。
……でも全てがアレ前提で用意されているなんて……ああ…恥ずかし過ぎるっっ!
思わず頭までザブンっと湯に沈めてしまった。

湯から上がり、シャワーブースへと入る。備え付けられているボディーソープもシャンプーも…決して安物的でない本当に良い香りがする。柔らかいボディスポンジを泡立てながら、アムロは自分が妙な感情を感じている事に気付いた。不安の交じった高揚感の様なもの…シャアとのSEXは当然初めてではないのに…何だかこれから特別なイベントを行う様な、ドキドキの気分なのである。
…うわーっっっ!これって…この『新婚初夜』雰囲気に呑まれちゃってるってワケ?!
イカンイカン、と頭をブンブンと振る。そして無意識に身体をいつも以上に丁寧に洗ってしまっていた事にも気付き、思いっきり顔を赤らめたのだった。

……本当は…今更何を…ってのは解ってる……
……『夫婦』になったんだから…皆が考える事…当たり前だよ…
………あれだけの衆人環視の中で…キスまでしちゃったんだからさ…
シャワーを終えてバスタオルで身体を拭きながら、どうしよう…と考えていたが、結局バスローブだけを身に付けて、寝室に戻る事にした。

 

湯上がりのアムロは今すぐに押し倒したいくらいの色香があるのだが…
ここはグッと我慢…でシャアはご機嫌を伺う様に問い掛ける。
「私もシャワーを?」
コクンと頷くアムロに、そっと軽くキスをしてからシャアもバスルームに入る。
…アムロからとても良い香りがした……
それだけで十分に興奮する材料になるのだ。今の自分はまるで初めて彼に触れた時の様な…そんな歓喜に内から震えているのが解る。
全くいい大人がどうしたという事か…とは思うが、それ程にアムロとの『結婚』を待ち望んでいたのか…と自嘲する。たかがイベント、たかが書類上の結び付きぐらいにしか過ぎないというのに…大勢の前でアムロを自分の物と出来た事にでも興奮しているのか?自分も案外『ただの普通の男』であったのだな…。

 

同じ様にバスローブだけの姿で寝室に戻ると、アムロは何故かベッドの上に礼儀正しく正座して待っていた。花々はベッドの端の方に全部寄せられていて、その様子にシャアは思わず口元を緩める。
ベッドに上がり、アムロの肩に手を置く。彼の身体が一瞬ピクンとしたのが解った。
「アムロ…」
名前を呼びながら顔を近付けると、アムロはいつもの様にそっと瞳を閉じた。睫毛が微かに震えている。唇を重ねた瞬間も身体は震えていた。軽い口吻だけで終えて
「…アムロ…もしかして…」
緊張しているのか?と聞いてみる。開けられた瞳には明らかにその色があった。
「う…うん…何だか変なんだ……可笑しい…よね?」
初めてじゃないのに…と俯く様子が本当に愛しくてそのまま優しく抱き締める。
「可笑しくなぞないさ…私も…同じかもしれない」
「そう…なの?」
意外そうな顔でシャアを見つめる。確かに彼の表情には何とも言えない戸惑いの様なものもあって、アムロはふと安堵感を感じた。
…本当に初めてSEXする時みたいだ……
最もあの時は案外2人ともかなり夢中で余裕がなかった様な気もするのだけど。
もう一度唇を重ねる。そのキスにも何となく新鮮に感じられて、2人はますます欲情を煽られる感じがした。
シャアに身体を倒されベッドに沈みながらアムロは言う。
「…シャア…灯り…は…」
「駄目だ」
これ以上の要望はもう聞かんぞ、とばかりにシャアは激しくアムロの唇を貪り始めた…。

 

 

口内を掻き回されて…引きずるように激しく舌を絡ませられる。
あまりの勢いに舌が直ぐに痺れてくるが、当然暫くは止めてくれるわけもなく。
「…っ…ん…く…っっ…」
角度を変える時に漏れるアムロの苦しげな声が、更にシャアの欲望を煽るのだ。
アムロの口内全てを逃すまいとする様な激しい口吻を繰り返しながら、右手を彼のバスローブの合わせ目から忍び込ませ素肌を探る。掌で円を描くように胸の尖りに触れると、アムロの身体がビクリっと大きく震える。
そのままその愛撫を繰り返す。その刺激での全身を波立たせる様な彼の反応が、いつも以上に激しい様に思えた。背中に廻されている手が、シャアのバスローブを強く掴んで引っ張り上げ、抗議を訴えている。
声を出す事を許されないままに、殊更敏感な部分を弄られるのが本当に辛い様だ。
自分が満足するまでアムロの口内を蹂躙し…やっと唇を離してやる。
荒い息遣いと涙を浮かべた瞳、羞恥に染まる赤い頬…まるでもうイッてしまった様な顔をしているな、とシャアは口元を吊り上げた。
何か抗議の声を上げようとしているアムロの口角に唇を這わせて唾液を舐め取りながら、そのまま耳朶へと移動させる。再び彼の身体は大きく震えた。
「…や…いやだ…っっ……そこ…は…」
「君がココを舐められるのが好きなのは知っているよ…」
「すっ…好きなんかじゃ…ああっっ…!」
とても感じ易いからね、と耳朶を甘噛みし舌で耳の端をなぞる行為を繰り返す。もう片方の耳も指でゆっくりと擦りながら…。
「…ひ…あぁぁ……やっ…やめ…っっ…」
その耐え難い快感から逃げようとするのか、必至で身体を捩るアムロであるが…バスローブ越しの下半身からは彼の素直な反応を感じ取れる。そのまま耳元で囁いてやる。
「嫌だ、と言いながらもうこんなに……だよ。可愛いな、アムロは…」
「い…言うなってっっ…ああ…っっ…ん…」
その羞恥は更なる快感へと彼を誘うだけだった…。

 

 

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28歳の幼な妻(爆っっ)が乱れる中で、中途半端に続く……あわわわわ (2008/9/17)