《 As You Like it 総帥夫妻の新たな一頁 ---Prologue---  》

 

【アムロ・レイ総帥夫人の主張】

自分は大変ノーマルだ、と思う。ことSEXに関しては本当にそう思っている。
「男と結婚している時点でアブノーマルです」
…と突っ込まれれば「はいそうですね…」と素直に頷くしかないのであるが。

まあとにかく、自分はSEXに関する知識も興味も、ごく普通の一般人並にしか持ち合わせていない、という事である。自分だって当然っ(強調したいらしい…)幾人かの女性と付き合ってきた。どの相手もごく普通のモラル持ちであったので、普通の恋人同士の普通のSEXであった、と思う。アブノーマルの類に分類されるであろう事例を、要求された事も要求した事もない。

そして…今の自分、唯一のSEXのお相手も…最初はごく「普通」であった。
初めて寝た時も理不尽な無理強いはしなかったし…思っていた通りに激しい人だな、とは感じたけれど…それは自分が男でその勢いも熱さも充分受け止められるからか、と思っていた。
二度目の再会の時も、確かに以前より激しいSEXとなってしまったけれど…久し振りだったからついつい激しく求めてしまってのかも…寒い土地だったし…と考えた。
その何年か後に宇宙で再会した時は…もう三日三晩、離して貰えなかったけど…それも多分本当に久し振りだったから、そして二度と会えないだろうの覚悟があったからだろう、と思った。
結婚してからも、確かにほぼ毎晩の様に身体を重ねていて、そしていつもいつもシャアは凄く激しいなあ、と確かに思っているけれど…でもそれは自分の事を………以下省略。

……まあそんなふうに。
この奥様は「うちの旦那様は少々激しい事をなさいますが、決し自分に対して無理強いは致しません。変な小道具とかも使いませんし、我々は至ってノーマルなSEXをしている夫婦です」
…と主張したいらしい。(あ、いや、物を投げないでくださいっっ)
以前は色々と、一晩の回数とか時間とか場所とかで…ちょっとだけ行き違って喧嘩してしまった時期もあるけれど…現在はちゃんと話し合いで決着は着いている。
互いの取り決めでは……奥様の断固として譲れないっという主張に旦那様が渋々(?)譲歩した、というのが正しいのだが……SEXして良い場所とは、この総帥公邸という名の自宅で、である。寝室と専用居間と浴室…どうしても(?)という時と場合に寄りけりで互いの書斎で…なら最大譲歩。何せお互いの立場が立場なので(特に旦那様は人目に付きすぎる)移動中や職場で、など以ての外である。常にSPが付いているところで出来るはずがないだろうっ!…と奥様の激しい主張であった。(…いや旦那様の方はスリルを感じたがっている可能性が無いとは言えない)
その代わり…と言っては何なのだが、その制限分、かなり中身の濃い「愛の営み」をしているのではないか?
…という疑問が沸いてきますが…どーなんですか?奥様…

「こ、濃いっ?!…って何っっ?!ご、ごく普通のSEXしかしてないよっ?!俺達はっ!」
…普段どういう体位でしているのか…とかが気になるんですが?
「………どういうって…普通だと…思う…けど?元々俺は…その…そんなに知識が無いしさ…シャアに任せているから………まあ…良く『アムロは身体が柔らかいから助かる』とかは言われるんだけど…」
…ほーおー……ちなみに昨夜…の体位をちょっと図解していただけませんか?
「ええっ…?!…普通…だよ?……普通にね、こういうのと…ここからこーなって……えっとこうで……あ、こっちが俺ね……あとこういうのとか…最後にこうなって…シャアがこうして…(書き書き…)」
………………アムロさん…本当に身体が柔らかいんですね…(は、鼻血吹きそうだっ…)
「えっ…えっと何か…変…?…お、おかしいのか…な?」
……いえ…何を持って「ノーマル」とするかは「人それぞれ」という事がよおぉぉーっく解りました!

以上。脳内インタビュー終わり。(誰がしているかは各々の想像でお楽しみください)

「我々はノーマルですから」と主張し続けた(奥様だけが)総帥夫妻ではあるが…
総帥自身の予てからの望みが判明してしまった今では…総帥夫人の決意の日には、此処に新たな扉が開かれようとしていた……

♪ちゃららら〜ら〜〜ちゃららら〜ら〜〜ちゃららら〜……(お好きな盛り上がるBGMでどうぞ)

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その日、アムロは休暇であった。
「君と休暇が過ごせないのが本当に残念だ」…と本気で口惜しそうにしながら…シャアは見送りするアムロに10回余りのキスをしてから、いつものように総帥府へと出掛けていった。
有事下で無いMS部隊は、目下の所誰もがスケジュール通りに普通に休暇が取れている。それは大変良い事だとアムロは素直に思っている。逆にシャア個人は、大変特殊な仕事をしているのだから…彼の代わりになる者も居ないのだし、色々と不規則なのも仕方ないだろう。故にアムロの方はシャアと休日が合わなくてもいちいちは気にしていない。(一応表向きは…)

広い居間の大きな窓から差し込むのは人工の日差し…であってもうららかで温かい。
居心地の良いお気に入りのソファの上で、アムロは何気なく科学雑誌を捲りながら寛いでいた。
ふとノックの音が響き、慌てて飛び起きる。ちょっとお行儀良いとは言えない格好でソファに寝そべっていたので。音のリズムと気配で、そのノックの主が公邸の女中頭という事は既に判っていた。
「…どうぞ、ミセス・フォーン」
「失礼致します…アムロ様」
会釈をしながらドアを丁寧に静かに開けて、ミセス・フォーンが顔を出す。
「お寛ぎのところを申し訳ございません。庭師のトマスが先日お伺いした薔薇の植え替えについて…と」
「あ…そうだった!すみません、すっかり…」
慌てて立ち上がり、サイドボードの引き出しの一つを開ける。この邸では薔薇の植え替えにも当然主人の許しがいる。ついこの間、庭師が「アムロ様のイメージの薔薇園を新たに造りたい」と提案し、その計画の許可を求めてくると、公邸の主は快くそれを受諾した。何で俺のイメージで薔薇なんだーっっ?!と気恥ずかしく憤慨したが「誰も悪意など込めていない。むしろ真剣に君の事を考えているのだよ」とシャアにしみじみ言われて…まあ仕方ないと諦めたのだが。
「え…えっと…俺は薔薇の事は全く解らないので…シャアが選んでます」
先日庭師から手渡された、数多くの苗木の候補が記されている用紙を差し出す。是非にという希望の種類があったら、と言われて受け取っていたものだ。それを一瞥してミセス・フォーンは微笑んだ。
「…ええ…確かにアムロ様にお似合いの薔薇ばかりですわ。さすがは旦那様です」
愛想笑いで返しながら、俺に似合う薔薇なんてあるのかよっ…と心の中では思う。シャアなら似合うだろうけれど…ああ、確かに彼は薔薇でも何でも派手な花も似合う男だから。
「…アムロ様……少しだけお時間をよろしいでしょうか?」
「…?…ええ、大丈夫ですが…」
どうぞ、と右手を出してソファに座るように促す。それをしないとずっと側に立たれる事になるので。ミセス・フォーンは「失礼いたします」と頭を下げて、アムロの向かい側に座る。その時アムロは彼女が箱の様な物を手にしているのに気が付いた。
「何のお話でしょうか…?ミセス・フォーン」
「はい……まずこれを…」
ミセス・フォーンが箱から取り出してテーブルに置いた物……
それは綺麗に編み上げられた、飾りの組紐二本…であった。
一本は金色で、もう一本は赤い色の物だ。
「…?…これが…何か……?」
いきなり出されたそれを不思議に思った…が、しかしこれらには何とはなく見覚えがある。
「あ…れ?もしかして…これはシャアの…?」
縁を止めている飾りに、よく見知った彼にだけ使用を許されている紋章を見たので。
「その通りでございます。これは旦那様の礼服に使われている飾り紐でございます」
予備の、ではありますが…と付け加えられる。
「…ああやっぱり…」
「この飾り紐はどちらも今では貴重な本物の絹糸で織られております。そして…こちらの染め上げられた赤い色はヴァル・ロッド…『真実の赤』という意味の色なのだそうです」
「…『真実の赤』…へえ…シャアには相応しい色ですね」
落ち着いた光沢を放つ真紅のそれをアムロは何気なく手にとってみた。
「…で、その…これがどうかしましたか?」
相変わらず意味が解らないので、再度聞いてみる。
「はい……差し出がましいとは存じましたが…私もアムロ様のご意志をきちんとご確認しておこうと思いまして…」
「…は?」
きょとんとした顔で自分を見つめてくるアムロに、ミセス・フォーンは真面目な顔で向かい合っている。
「…その飾り紐は…手首だけで、なら大丈夫です」
「…え?…え??」
「しかし他の所も…ともなると長さが全く足りません」
「……え……えっと……??」
「アムロ様が旦那様にどこまでお許しになるのか…でご用意する物が違って参ります」
…許す?用意…?と考えた瞬間……
「…あ……??……
ってぇぇぇーーーーーっっっっ???!!!!!!!!!!!!!!!

アムロは本気で呼吸が止まるかと思った…。…きっと今の自分は、呼吸困難を起こしかけている金魚と同じ顔をしているに違いない。
「あっっ…あああ…あのっっ!!あのですねっっっっ!…みっ…ミセス・フォーンっっっ!」
「…大丈夫です、アムロ様…私とミスター・マクレインのみが気付いた次第でございます」
みるみる頬が真っ赤になっていく。…そりゃ夜中にあれだけ騒いだのだから…邸の様子に常に気を配っている二人が気付かぬわけがない。ましてや、他の使用人達が2階に上がる事は許されていない時間帯だった。
「それでアムロ様…もしもの時を考えまして…こちらは私が私費で取り寄せした物なのですが…」
彼女が再び箱から取り出した物……それは…
「そのヴァル・ロッドと同じ素材、同じ色の物でございます」
とても綺麗な真紅色の…シルクの幅広のリボン…の束であった。
「それならば長さも…充分ではないかと存じます」
ただ瞳を見開いて…そのリボンと手にしたままの飾り紐を…交互に見つめる。
「大変柔らかいシルクですので…縛り方によっては肌に痕もあまり付きません。どうお願いするかはアムロ様次第でございますが…」
「おっっお願いっ…て?!…えっと…えっと……はははははは…」
もう笑うしかない、笑っちゃえっっ……そんな気がしてきた。
「…アムロ様のご決心が付きました夜は…その後は私のみが寝室のお掃除をさせていただきます故…アムロ様は何の憂いもなく旦那様と愛を育んでくださいませ」
笑いが引き攣ってくる。ミセス・フォーンは冗談でも茶化しているワケでもない…ただ彼女は主人に対する純粋な心配と思いやりを持っているだけだ。以前も自分とシャアの性生活を真剣に心配してくれて、アドバイスをくれた。…ちゃんと解っている。解っているのだが…しかし……
は、恥ずかしいよぉぉーっっっっ!!…やっぱりぃぃーっっっっ…!!!

「私共はアムロ様にお仕えする者として…ただアムロ様の幸せを願うだけでございますが…差し出がましい提案をしました事は平にお許しくださいませ…」
深々と頭を下げる彼女にアムロは慌てた。
「とっ…とんでもないですっっ!ミセス・フォーンっっ!…そ…その……ありがとう…ございます…」
礼は言わねばならない。老婦人の女中頭は本当に…ずっと自分を心から心配していてくれているのだから…。…しかし…やはりコトがコトだけに、本当に恥ずかしくて仕方がない。

再び深々と頭を下げて、ミセス・フォーンは居間から退出する。
残されたアムロは暫く手元の飾り紐とリボンをじいぃぃっ…と見つめていた。
…この礼服用のアイテムで…なんて…そんな事して本当にいいんだろうか?
ああ…でも何だかシャアはその方が喜ぶ気がしてきた…いやっ絶対に喜ぶっっ!!

……やがてアムロはそのままテーブルにと突っ伏す。
ゴンっっとオデコに当たる鈍い音が響いた。
「…ううう……ど、どうお願い…したら……いいワケっっ?!!」
自分の乏しい知識ではもう何が何だかよく解らない。
でも…約束したのだ。シャアに……ちゃんと…待っていてくれ、と……

アムロ・レイ総帥夫人……その全ての覚悟を決める夜は……果たして…?

 

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何だか変なシリーズ化してしまって…申し訳ないっっ!
「やっぱり赤いリボンで…?」と友人がリクエストして下さったので、採用しましたコトよ♪(2009/2/11)