《 As You Like it 総帥夫妻の新たな一頁 ---その1---  》

 

 

-----キモチ…イイ……
髪や頬を優しく撫でられる気配に、意識がゆるりと覚醒していく。
ぼんやりと瞳を開けると、目の前には最愛の夫君の顔があった。
「ああ…すまない…起こしてしまったな」
「……お…かえり……」
ほとんどはっきりしていない頭でも何とかその言葉を紡ぎ出す。
そんな細君の様子が愛しくて、シャアは再びその髪や頬や瞼に今度は優しいキスを落とすのだった。
最近のシャアは帰宅が大変遅い。ほぼ日付越えである。
故にアムロの就寝時は、一人でベッドに潜り込むという日々であった。
寂しい、などという言葉は絶対に口にしない聡明な総帥夫人ではあるけれど…
もちろん寂しく無いワケがない。
だから…こうして彼が遅く帰ってきてベッドに潜り込んでくる時は必ず目が醒めて…そしてギュッとその逞しい身体に抱き付くのだ。
シャアの手が自分の身体を優しく撫でていてくれる事に安心し、再びアムロは眠りに落ちていく。
そんな日々が続いていた。
毎晩のアムロの様子がとても愛しくてたまらない、としても………
「…さすがに…私も限界だな…」
思わずポツリと呟いてしまったシャア・アズナブル総帥閣下は
つまり…もう何日も「おあずけ」を食らっているワケであって。
目下のトコロ、「夫婦の愛の営みをしてない日」を連続記録更新中なのであった………

 

連邦から半自治権を獲得したばかりのネオ・ジオンは、現在かなり積極的に動いている状況だ。
特に一番近いサイド3からの専用の工業用コロニーや豊富な資源用小惑星の確保を優先としており、次々とそれに成功している。
現在のサイド3全体は完全な連邦軍の統治下にある。各コロニーに連邦軍も常駐し、代表も連邦政府から派遣されているのだが、元々此処はジオン発祥の地である。「ダイクンの血」を歓迎する色合いは他の何処のサイドより強い。シャアの台頭は鬱積されたその水面下に潜んでいたモノを揺り動かすのには充分であった。
その事実を把握し切れていない連邦政府は「完全に自分達が統治している」と信じているサイド3とネオ・ジオンとの直接交渉を容認し、サイド内の各資源用小惑星の管理権の決定でさえも委ねてしまったのである。
シャアの持つ「血」を甘く見ている証拠であった。その呑気さのお陰でか驚くほどスムーズに各交渉は進んでいる。サイド3内のいくつかのコロニーも連邦政府からの独立、並びにネオ・ジオン傘下加入をそのうち表明するものもあるであろう。
連邦政府のその甘さは、巨大な組織になり過ぎた故の脆弱さだ。強力な指導者も生まれず、文民統制を掲げて官僚主義に成り下がり、利権と保身だけを求める愚者共が統治している。故にティターンズの様な軍閥の支配も簡単に許す。だが…それを長年許容してきたのも、その手の議員を選び、ただ己の安泰だけを求め自分達では何も行動をしないアースノイド達なのだ。
そんな地球連邦政府の大統領になるべきだ…と昔この自分に言った輩が居たが、何故そんな事まで自分が面倒見る必要があるのか…というのがシャアの本音だ。
冷酷だと言われても、自分はたった一人の愛する者との人生の事しか考えていない。
その為に、愛する彼と自分を信じてくれる周囲の者の為だけに行動を起こす…今の自分はやっと「自分の為の生き方」を「自分で」選び取ったのだ。ただそれだけ…なのである。

 

 

アムロは、最近のシャアが忙しい故に身体を壊さないか…と心配していた。
鍛え上げられた軍人気質と体力のせいか、少ない睡眠時間でも充分に回復し疲れを溜める事は無い、と本人は言うのだが…精神的なストレスはどうやっても全て解消する事は出来ないだろう。
何よりも…ちゃんと「愛の営み」をしていない事も、いくらアムロであっても気にならないワケはない。
逆に今までの事を考えると「あのシャアがよく我慢しているな」…とさえ思う。
…まあ…欲望を吐き出すだけなら…起床時バスルームに直行し、2人で○▲♂を◇●⇔あったり、◎■で※♯▽∞してあげたりしてるのだが…(忙しい朝なので所要時間10分程…)

MS隊統括本部の自オフィスで勤務時間中ではあるが、何気なくシャアの事を考えていた時……
専用プライベートアドレスにメールが入った。

『明日はやっと休日となった。偶然君の休暇とも重なるのがとても嬉しいよ』

…勤務時間中なのに…と思いつつ、顔が見る見る緩んでいくのは否めない。
最近やっと落ち着いてきた、とも言っていたし…。向こうは自分のスケジュールを全て把握しているので、もしかしたら無理矢理合わせたのかもしれないが…それでも久し振りに2人で過ごせる休日が素直に嬉しい。
------明日が2人とも休み、という事は……今夜は……うん、確定だな…
「愛の営み」の事を素直に考えた。本当に久し振り…なので、シャアが何をしてくるか少し怖い気もするが、頑張っていた彼にはご褒美なのだと考えてやるしかあるまい。
-----ご褒美……か

ふと、頭を過ぎったモノがある。
暫しの思案の後………顔がぼんっっと思いっきり赤くなってしまった。
「…だっ駄目だっっっ俺っ!!…そっそんな事を考えてはダメーっっっっ!!」
そう叫んでから、ぶんぶんと思いっきり頭を振る。…自オフィスなので誰も見ていないし。
「そっ…そりゃ……許してあげたら…シャアは…喜ぶと思う…けど……けどっっ!!」

そんな恥ずかしい事…考えてはイケナイ……

でも。
『機会』としては最高に良いタイミングとも言える。
頑張った貴方にご褒美…だよ?……と。

「い…言えるかあぁぁーーっっっ!!そんな言葉ーっっっっ!!」

先程から人が見ていない故か、ぶんぶん頭を振り回したり、机にゴンゴン頭を打ち付けたりバンバン叩いたり……の愉快な動作をずっと繰り返しているアムロ・レイ総帥夫人であった。

 

専用のリムジンカーの後部座席を開けて、アムロが乗り込むの確認した時…ヤケに顔が赤いなあ、とギュネイは気付いていた。
だが気分が悪そうな感じではないので、病気ではないのだろうと考える。
まあもう帰るのだし…彼には総帥を始めとする公邸中の者が気を配っているし、何かあったら大騒ぎするだろうし…一度倒れて以来、多くの者がアムロの体調には気を付けているような雰囲気があったので。
…明日は休日だし大丈夫だろう。
アムロ少佐の護衛も務めるギュネイ中尉の勤務スケジュールは上司と全く同じである。
もうすぐ総帥公邸が見える、という時…ふと良く知った気配に触れた。ギュネイ自身はあまり会いたくない人物なのだけれど…。
「…カミーユが来ているみたいだね」
そんな戸惑う彼の様子に気付いてか、苦笑しながらアムロが呟いた。
「そう…みたいっスね。今日は検診とか…ですか?」
「…いや…多分ご飯食べに来ただけじゃないかな?…いつもよりちょっと早い時間だけど」
あの医者、ほとんど公邸に住んでいるよーなもんだよな…とちょっとムカつくギュネイである。
一方アムロの方も、何気なく焦る気持ちが湧いてきている。
------カミーユ……来たのか……
そして此処で初めて、彼の来訪を心から歓迎できない心情を感じたのだった…

いつものリビングルームで、カミーユはいつもの様に寛いで彼の帰宅を待っていた。
「こんばんわーっアムロさん」
「あ…カミーユ…えっと今夜は…どうしたの?」
普段通りの明るい笑顔を返してくれないアムロを不審に思いながらも
「ここのところ俺も忙しくて此処で呑めなかったんで…でも何となく今夜は大尉が相手してくれる予感がしたんで来ちゃったんですけど…」
と説明してみる。
…相変わらず素晴らしい勘だよ、カミーユっっ!!
暫し黙っていたアムロは……
徐に携帯電話を取り出した。
「……あ…もしもしギュネイ?…悪いけど公邸に引き返してくれる?…うん…カミーユがね…えっと…ギュネイと呑みたいんだって!!」
「…?!…アムロさんっっ!」
「…え?何?………上官命令だ…ギュネイ……今すぐ引き返すっっ!いいねっ!」
少々乱暴に電話を切ったアムロはかなり険しい表情をしている…。
「あ…アムロさん…?」
「…ごめん…カミーユ……本当に悪いんだけど…今夜は…今夜だけは…ゴメン…」
「え…?はい…アムロさんがそう言うなら……って……ん?……あ…っ?!!」
いきなりカミーユは驚愕の様子となった。
「あ…ああ…アムロさんっっっ!!まさかまさかっっ…まさかーっっっっ?!!」
「…は…?…えっ…えっと…何?カミーユ……」
ガシっっとカミーユはアムロの両肩を掴む。

こ…心の準備っっ!……で、出来ちゃったんですかあぁぁーっっっ??!!

「…………………………」
本当に勘が良過ぎるんだよなあ……カミーユ……

思わず視線を逸らしたアムロの頬はほんのり赤くなっていた。
「…………その……ずっと…お仕事…頑張って…くれてたから……」
何故か理由まで説明してくれる。
うがああぁぁぁぁーっっっっ!!とカミーユの心の中で叫ぶ声はアムロにもしっかり通じた。
「そっ…そりゃ大尉も大変だったかもしませんけどっっ…!!確かに
12日もヤってないくらいなんでしょうけどっっ!……でも…でもですよぉっっ?!」
…なんで正確にその日数を言い当てるっっ?!
赤くなったまま黙って俯くアムロを見て、カミーユもガックリと項垂れた。
やがて何かを決心したように勢いよく顔を上げてくる。
「……解りました…アムロさん…大尉の書斎……今ちょっと開けてください…」
「…え…?」

アムロと共にシャアの書斎に入ると、カミーユはサイドボードから何本かの酒瓶を取り出し始めた。
「いくつか貰っていきますよっっ…もう今夜は呑まずにはいられませんからねっっ!」
「…カミーユ…それ凄く入手困難の代物だったって…シャアが言ってたけど…」
彼の手にしている一本を指差してアムロは言う。
「構いませんよっっ!こんな貴重ヴィンテージ物なんて比べ物にもならない…トンデモナク凄い事を大尉は今夜アムロさんにして貰うんですからあーっっ!!」
うわあ…そんな言い方する?とアムロはまた赤くなってしまった。
「だいたい…今夜は意識無くなるくらい呑まないと…凄まじい邪悪オーラ立ち上りそーだしっっっ!…それに…アムロさんと万が一…感応しちゃったら……俺っ本気で泣きますからねっっっ…!!!」
「…は…?…よ、よく解らないけど……カミーユ…俺と…?…」
「ああっギュネイの奴にもちゃんと呑ませますよっっ!…アイツだってそれを感じないとは言えないしっっ…」
「…あ…あのさ……カミーユ……」
「何ですか?!」
つい声を荒げて応えてしまう。
「その…俺と感応する…って事……そのまさか……」
アムロの質問は本当に素朴な疑問であった。
「あの…さ……シャアに…抱かれているカンジ…する…とか…?」

…ゴトゴトゴトンっっっ

…と音を立ててカミーユの手から酒瓶が落ちた……下が絨毯で良かった。
ゆっくりとアムロに振り向いたカミーユの表情は、それはそれは思いっきり蒼白で引き攣っている……
「…本気で俺を殺す気ですか……………アムロさんーーっっっ……!!」

……なにもそこまで…そんな泣きそうな顔をしなくても……

 

階下ではしぶしぶ迎えに来たギュネイが待っており、彼にも酒瓶を押し付けながらカミーユは念を押すように告げる。
「アムロさんっっ…本当にイヤだって思う事はさせちゃダメですからねっっ!!」
アムロはただ苦笑いを浮かべるしかない…。
「ホラっ行くぞっ!ギュネイっっ今夜はお前ん家でヤケ酒だっっ!!」
「ええーっ?!俺の官舎に来るのかよっ?!そんな急にっっ…」
「…男の情けでエロ本隠す時間は与えてやる…さあ行くぞっっ」
「あっあのなあっっ…んなモン、平気でその辺に出してなぞないわーっっ!!」
賑やかに2人が立ち去った後に、ミセス・フォーンを呼ぶ。
そっと耳打ちした言葉に、彼女はとても優しい笑顔を向けてくれた。
「寝室のカバーリングを変えて参りますわ…アムロ様のお好きな色に…」

ああ……やっぱり…ドキドキしてきたよ……

 

シャアはかなり遅い時間に公邸に帰宅してきた。
それでもアムロの就寝前であり、昨日までと比べても早い時間だ。
「お帰りなさい…シャア」
久し振りにちゃんとこの言葉が言えた事をとても嬉しく思う。
「ただいま…アムロ…」
彼の細い身体を抱き締めて甘い口付けを交わし合える事に…シャアも幸せに感じていた。
「今夜は…ちゃんと愛し合えるな…」
「……うん…」
腕の中のアムロが恥ずかしそうに頷く仕草でさえも…本当に愛しくてたまらない。

少し所用を済ませてからバスルームで汗を流して、主寝室へと入る。
アムロが淡い空色で統一された…彼の好きな色だ…ベッドの上にちょこんと座って待っていた。
シャアが近付くと彼が立ち上がったので、そのまま腰を抱き寄せようとすると…
何故かするりとその手から逃れる。
「アムロ…?」
訝しむシャアの言葉には応えずに、アムロはベッドサイドの上から何かを持ってきた。
黙ってそのままそれを自分に手渡してくる。彼のその手が少し震えているのが解った。
手渡された白い箱……開けろというのか?
そっと開けてみる。
…中に入っている物……それは……
先日アムロがミセス・フォーンから受け取ったモノが…そのまま入っているのだった。

「…アムロ……これは…」
これが意味する事…アムロの言いたい事…もちろんシャアは瞬時に理解出来た。
だが…その彼は何も言わない。ただ俯いて小さく震えているだけで…
「アムロ…」
促すような口調。
私は…はっきりと君の口から聞きたいのだよ……

予想していた通りだ…やっぱり彼は意地が悪い。
アムロは意を決した様に、シャアの首に両腕を回して抱き付き…その耳元でそっと呟く。

「…To your As You Like it ……」

…貴方のお気に召すままに……

 

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…この続きは、結局同人誌発行となりました…。※詳細はG-OFFLINEページに… (2009/3/12UP)