《長い睫にキスをして》

 

「少佐…良いですか?くれぐれも滞在は3日間だけだという事をお忘れ無く」
「…はい…解ってます」
「4日目にはルナ・ツー近くの領域でMS部隊の臨時演習を行います。必ずこれに合流して下さい」
「了解……」
「何よりもご自分の今の立場を考えて下さい。お忍びで行くという事を肝に銘じて…良いですね?」
「……はい…もちろん…」

 

「…さすがのアムロも、ナナイにかかると大人しく素直になるのだな」
「……そりゃあ…アレだけ鬼の形相で注意事項言われたら…誰だって大人しくなりますよー?」
少し離れた位置から、先程から不機嫌オーラ出しまくりで小言を言うロッ○ンマイヤーさんのよーなナナイと…叱られて小さくなっているハ○ジのよーなアムロを、しみじみと観察しながらシャアとギュネイは唸る…。
「ギュネイ!!」
「はっ…はいっっ!!」
慌ててナナイ達の元に走っていくと、相変わらずの形相のナナイにいきなり両肩をガシッと掴まれた。
「…貴様の責任は重大だ…アムロ少佐に何事かあったら、腹切って詫びる覚悟はしておくよーに…よいな?」
ゴゴゴゴゴゴ…と、効果音を付けるとしたらソレだ。ナナイ副官、マジで怖いッス…!冷たいモノが背中を流れるのを感じる。もちろん真剣に必至でお守りするけれど、命を賭けて…って事か…やっぱり…
「ナナイ、そういう言い方は良くないな」
シャアの言葉に助け船かっっと振り向くギュネイだったが……
「アムロに万が一の事があったら……彼に自害など許されないぞ?…死んだ方がマシだろうの、それはそれは酷い目に遭わせてやる、と訂正したまえ」
笑顔のシャアだが当然の如く目は笑っていない。
-----マジ……ですか……ですね……!!
「も…もちろんですっっ大佐っ!俺の全てをもちろん命を賭けてっっ…何があっても自分が死んでも少佐をお守りいたしますともっっ!!この身に変えて…絶対に約束しますぅっっっーー!!」
文字通り、顔面蒼白の表情であった…。

 

取り敢えずアムロとギュネイはフォン・ブラウン市への定期貨物船にこっそり乗り込む事になる。特別のランチは出せないし、民間の定期便に乗せるなどは以ての外ある。今やネオ・ジオンのニューアイドル?のアムロ・レイは軍内部以外の人目に付く場所には出てはマズイのだ。…取り敢えず無事に結婚式を挙げるまでは。
時期に「総帥夫人」となる人物を内密に乗せる事になった貨物船の艦長は、緊張と重圧で胃痛を感じていたが…ナナイの更なる脅し、いや厳重注意勧告で胃に穴が空きそうな気分に変わった事であろう…。

とにかくナナイは今回のアナハイム行きは大反対であった。
「こんな大変な時期に何を考えていて?!軽率なっっ!!」と男共を一喝したのであるが、当のアムロが真剣に懇願するので…仕方なく渋々同意したのだ。いくらアナハイム・エレクトロニクス社の祝いの品とはいえ、モビルスーツという兵器には変わりない。婚姻を前にアムロ・レイがそんなモノを嬉々として取りに行った…と連邦軍側にバレたら…また何イチャモン付けてくるか解らない2人ではあるまいに…。
しかしアムロのエンジニアとして…いや多分メカフェチとしての
ν ガンダムへの想いはナナイの想像を遥か突き抜けて遠い銀河の中心部までイッていたワケで……要するに「止めたらもっとヒドイ事件が起こりそう」だったので。それにシャアはとにかくアムロに甘い甘い甘い甘い……甘過ぎるんじゃーっっっ!この色ボケがぁっっ!!
目の前で抱き合って口吻を交わしている2人を見ていると、…一発くらい(シャアを)殴ってもいーんじゃないかしら…と思ってしまう。

そりゃ自分とアレな関係あった時は…確かにビジネスライクなお付き合いでしたわよっっっ
貴方には心の神殿に住む御方がいたのもよーく存じ上げていましたわっっっ
でもその御方と結ばれた途端に…そのだらしない締まりの無いデレデレぶりはいったいなんですのっっ?
こんな自己中心的甘ったれ情けない大きな子供と…アムロ少佐は一生添い遂げると決めたなんて…
すっごい尊敬するわ…ホント……まあ、少佐の前ではえーかっこしートコがある男だしある意味正解?
……どーでもいーけど…長っっ!…何分くっ付いてんのよっっ!少佐が苦しそうでしょーっっ!この助平男っっ!

いったいどちらの男と付き合っていたのか判らない思考をグルグルと巡らす有能副官である…。

「アムロ…本当に気を付けてくれ。定期連絡を絶対に忘れるなよ?」
「…うん…でも2時間毎にメール…は必要ないと思うけど?」
「本当は1時間毎にしたかったのに譲歩したのだ」
「……解ったよ。ホントに心配症過ぎるよ…貴方」
最後にもう一度KISSをして、まあ1日2回くらいで充分だなー…と温度差がある事をアムロは考えていた。

 

取り敢えずスムーズな運航で出発した貨物船を安堵で見送り、ナナイは傍らの自分の上司を見やる。
「…本当に甘過ぎる……と自分でお考えなりません?」
「一応は理解しているつもりだ。…もし何かがあれば…私が責任を果たすだけだ」
「くれぐれもそんな事態は起きない事を願ってますわ」
傍らで軽い溜息を付かれた事を感じながら……ふとシャアは何気ない胸騒ぎを覚えた。小さな小さなざわめきではあるけれど…日頃から自分のニュータイプ能力を当てにはならんと自負する彼だが……

------何だ…?……いったい…何の予感が……するのだ…?

 

「しっかし結婚お祝いに新型モビルスーツとは…アナハイムもかなりの太っ腹ですよねー」
「…うーん…どうなんだろう?
ν ガンダムの部品はジェガンとかの規格品を使用している部分多いから…意外に安い…と思うケド…」
ピピピ…とキーボードを叩く軽快な音が貨物船内の小さな客室に響く。
「少なくともシャアのサザビーの半額くらいで済む、と思うよ」
「……少佐…それでも恐ろしい値段だと思うッス……」
ソレを安いと言うんですかーという顔をしている部下に、アムロは苦笑いを向けた。
「ううん…まあ…タダより怖いモノは無い、とも言うし。アナハイム社との交渉は今後も注意が必要だろうけどね」
またモニター画面に視線を戻す…と、ギュネイの様子がこちらに興味津々、と感じた。
「見るかい?」
「よろしいんですかっっ?!」
ぱあっと明るくなる彼を見て、やっぱり未だ子供だなあ…と微笑ましく思った。
モニター画面には予想通り、RX-93−
ν …アムロ専用の新型モビルスーツの姿があった。「白いガンダムだ…」がギュネイの第一感想。本体は記憶にあるRX-78型と際だって大きな変化は無いように思える。唯一の明らかな違いは…
「…この…背中に背負ってるの…放熱板ですか?」
「これはファンネルだよ。フィン・ファンネルって名付けた」
「ええっ?!コレが?…どーやって使うんスか?」
パパパ…とアムロが展開する画面を食い入る様に見入るギュネイ。
「あ…そっか…折りたたまれるんだ……ってこんな大型なのに、なんでこの機動性…」
「ファンネル自体に専用ジェネレーターとメガ粒子加速帯を付けてある。その加速帯を開放型にしたお陰で…ホラ、こんな事も可能なんだよ」
シミュラークル画面の中で、4つのフィン・ファンネルが機体の周囲に正四面体の対ビーム・バリアを展開していた。
「うはあっっ!…凄いっっ…どういう原理……あ…!もしかしてこれ…I フィールド…!」
「そう、良く出来ました」
至近距離でにっこり笑うアムロを見て、『かっ可愛い…』と思わず赤くなってしまうギュネイ。
「せっかく同じ原理のメガ粒子ジェネレーター使って居るしね…ずっと以前から使ってみたかった技術なんだ。あと問題は……」
顎に指をかけてじっと考え込む仕草を見せる。
「サイコミュ・デバイス…なんだよな…」
「何か不安でも…?」
「…ん…正直言うとね…今のままではこのフィン・ファンネルをちゃんと扱える自信がない」
「……は…?」
「俺のニュータイプ能力はそう高くないし…ちゃんとコントロール出来るかどうか…」
「……すいません…俺は少佐のおっしゃっている意味がぜーんぜん解りません……」
「…?…難しい言葉は使ってないと思う…けど?」

首をかしげる上官を見つめて、以前ナナイ副官が言ってた事はこれかー…と思い当たった。
アムロは自分のニュータイプ能力に大変懐疑的である、と。元々ニュータイプそのものに否定的感があるせいか、その力を信用してないというわけだ。元ニュータイプ研究所所長である彼女は、連邦軍に残されていたアムロの研究データの一部を大変難儀であったが、紆余曲折を経て何とか入手出来たらしい。そのデータ数値は大変驚愕であったという。しかしアムロそのものは自分の力はせいぜい戦闘時に少しプラスになるくらい…としか考えてないのだ。ちなみにそのアムロのデータはギュネイの強化人間としての訓育に使用された、と聞いている。
目の前のその当の本人は相変わらず浮かない表情をしていた。
「ニュータイプ専用武器なんて使うの初めてだから…余計に不安なのかもな」
「…鼠捕る猫は“無意識に“爪を隠す……ってヤツですね…」
「…?…何か言ったかい?」

 

「ようこそアムロ少佐…この度はご結婚おめでとうございます」
アナハイムの技術員達は格別の笑顔で出迎えてくれた。
「あ…その…ありがとうございます…」
まだまだ照れてるなあ、とアムロの様子にギュネイは微笑ましくなる。
「残念な事に今回はお忍びの内密訪問…という事なので…大きな歓迎が出来ないのですが」
「お気遣いなく……それより早く案内していただけますか?」
一刻も早く自分の「子供」に会いたいアムロであった。

案内された格納庫には厳かに佇む白い機体……出逢うことは決して叶わぬであろうと覚悟していた自分の…
「……
ν ガンダム……やっと遭えたね……」
「…少佐…?」
ギュネイは一瞬アムロが泣いているのかと思った。もちろん実際は涙を流してなどいなかったが…アムロの純粋な感情に触れて…という事なのだろう。ギュネイは妙に感動する。
-----ああっアムロ少佐……本当にコレに会いたかったんですねっっっ!
-----少佐に愛されてる…色んな想いが積まっているこのガンダム……ちと羨ましいぜっっコイツっっ!

早速アムロは作業服に着替えて最終調整に篭もりっきり…となった。

「サイコフレーム…?」
「ええ、ネオ・ジオンで開発された新しいモビルスーツ用の構造材です。ご覧の通り金属粒子自体にサイコミュ機能があるわけですから…ファンネルのレスポンスは格段に向上しますよ」
サイコフレームの構造画面が映し出されたモニターを眺めながら、アムロはふと気になる事があった。
「…これはもしかして……最初から…?」
「はい。シャア総帥直々の指令で必ずこれを使用する様にとの事でしたので。あの方のサザビーのフレームにも同じ素材が使われています」
「……そうなんだ…あ…同じサイコミュシステムって事は…もしかして…?」
「はい。二機で並ぶと…もしかしたら共鳴するかもしれませんね。実際にやってみないと判りませんが…」
「へえ…まるで兄弟機みたいですねーー…いや夫婦機かな?」
「…茶化すなっっ…ギュネイっっ!」
真っ赤になるアムロ少佐はやっぱり可愛い♪…年下の部下にからかわれて憮然とするアムロであった。

 

3日間ほとんど不眠不休での調整を無事に終え、ν ガンダムは無事にロールアウト、となった。
「アムロ少佐…是非それぞれのモビルスーツに乗り込んで結婚式をしてくださいよー」
「俺達MS技術員の夢ですーーー」
笑顔で見送ってくれる技術員達に、苦笑いしながら何度も礼を述べてアムロはコクピットに乗り込む。ギュネイもノーマルスーツ姿で同じく後ろに乗り込んだ。
「…少佐……総帥にちゃんと連絡…入れてないでしょ?」
「え?…2回くらいメール送ったよ?」
「…俺の方にもモノ凄い勢いで何度もメール来てたんスけど…ナナイ副官からの愚痴も……」
「…ったくもう…あの人は心配症過ぎるよねっっ」
ぶつぶつ言うアムロを見て、いちおー婚約中なんだよな…と、少しだけ総帥に同情するギュネイである…。
ネオ・ジオン用長距離MS輸送機シャクルズに乗って、
ν ガンダムは無事に月の引力圏を脱出した。

 

正に死角無しの素晴らしい動きだ。その速さ、展開、攻撃、防御……
目の前に拡がるフィン・ファンネル達の鮮やかな演舞とも言える動きに、ギュネイは目が釘付けとなる。同時にアムロの並外れたそのコントロール能力にも感嘆する。
-----格の違い…ってヤツだよな……ホント参った……
「…ああ…まだ甘いかなあ…」
テストターゲットを全て墜として、ポツリと漏らすアムロ。
「そうですか?かなり良い反応だと思いますけど…」
「逆に良すぎる…だよ。脳波にストレートに働き過ぎる気がする…意志と関係なく…ってカンジでね」
「はあ……」
近くで演習を続けているネオ・ジオンのMS隊が目に入った。
「少佐…俺もヤクト・ドーガで出ますので」
アムロは頷き、ν ガンダムを母艦の甲板に降ろした。コクピットから降りたギュネイが手を振ってMSハッチへと消えて行くのを見届ける。
「…さて…邪魔者は居なくなったワケだ……ごめんよギュネイ…」
そしてアムロはバーニアを加速させて、宇宙空間へと戻って行った……。

 

「……アムロ少佐が戻られてない…って……?!」
ギュネイの叫び声がMS格納庫に響き渡る。演習を終えて、各MSは全て帰還しているのだが、
ν ガンダムの為に開けてある場所にはその機体の姿が見られなかった。
「あ…何でも深刻な調整が必要なんで…アナハイム社に戻るって…シャクルズも一緒に、です」
整備士がビクビクしながら答えるが…ギュネイは焦った。
----そんな話…俺は聞いてないぞっ!!…律儀な少佐が護衛の俺に何も言わずに出るなんて…そんな事は絶対に有り得ねーってっっっ!!
演習の時には確かに
ν の姿はあった。母艦に戻らずにシャクルズに再び乗って行ってしまった…という事か…。
俺に黙って…内緒で……つまり……それは…

「……しょ…少佐……まさか…まさか…本当に……」

ギュネイの顔色かすっかり青から白に変わってしまう…身体がガダガタと震えてきた。
どうかどうかこの恐ろしい予想は当たっていませんようにっっっ…!!

吐き気さえもこみ上げて来る。そんなギュネイに追い討ちをかける様な一言が飛び込んできた。

「ギュネイ中尉ーーっっ!!急いでくださいーー!総帥から直々の通信が入ってますよーっっ!!」

……
神様の意地悪ーーーっっっっ!!!

ギュネイは本気で泣いちゃおーかー……と思ったのだった…………

 

続き

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お題で続き物…いーんかい…(汗っ)
次こそは色っぽいシーンがあるハズっっ……はあはあ…(2008/7/27)