※ご注意※今回のお話は「総帥夫妻+子カミ」のシリーズです

 

 

口づけしながら情熱的に

 

 

その日の午後のアムロはかな〜り不機嫌、であった。
不機嫌、というかイライラする…一番良い喩えはムカつく、なのだが。

しかしそんな様子は臆面も出さずに客の相手を努めている。
『総帥夫人』の大事なお仕事、だからだ。
「…ですから、今こそ必要な時と思うのでございますっっ」
「……勿論…それは私も考えております」
「ええ、小さな殿下が同じ年頃のお子様と交流を持たられるというのは、それはそれは大変重要な…ご成長の為にっっ…なのですからっ」
「解っています…ですがあの子の場合、色々と事情が複雑なのです…」
アムロは客から視線を外すつもりで手元のティーカップを手に取った。
「そのご事情は勿論っよーく存じ上げておりますっ…ですがお聞き下さい、妃殿下っっ…私共の息子はですねっ今までの下賤な子供達とは全く品格が違いますともっ!我が一族は前世紀から続く由緒正しい家柄っ!何よりも息子自身に極めて優秀な高い指数が有名学者によって承認されております故っっ殿下におかれましてはっ大変な素晴らしい遊び友達を得られる事は絶対に間違いないのでございますっ!」
…旧ジオン系の貴族って判で押した様にこの手の輩が多いよな…
全くよくもまあそんな厚顔無恥な台詞をイッキに捲し立てられるモノだ…
と内心呆れながらも、客のその顔は全く見ずにアムロは紅茶を口にする。
とにかく早く帰って欲しい…
いきなり彼は顔を上げてとびきりの笑顔を作った。
「解りました…考えさせていただきます…ですが他の肩からも色々とありがたいお申し出を受けておりますので…総帥閣下とも相談の上、改めてご連絡をいたしましょう」
アムロのその美しい笑顔に一瞬呆けた客は、途端に興奮した表情となった。
「それは大変ありがたいっ…私も総帥閣下にも何度もお話を申し上げております故っっお話は早いかとっっ…妃殿下のご憂慮は是非とも私共家族で晴らさせていただきたいと存じますっ!」
「ええ、ありがとうございます…ですので今日の処は是非お帰り下さい…」
無意識に強調してしまったのは仕方がない…

 

客は帰り際にその息子の身上書なるものを置いてゆき、そして恭しくアムロの右手に甲に口付けまでして行った。
扉が閉じられてから、アムロは盛大な溜め息を吐く。
「…ったく…これだってどれだけ金積んだのか…ってカンジだね」
身上書に視線を何気なく向けて、思いっきり渋面を作っていると、扉を叩く音がする。アムロの「どうぞ」という言葉と共に扉が開き、女中頭のミセス・フォーンが姿を表した。
「失礼いたしますアムロ様、お片付けの前に…さ、消毒を致しましょう」
素直に差し出されたアムロの右手を、彼女はアルコールを含ませた脱脂綿で丁寧に拭いている。
「空気も入れ換えましょうっ…ったく澱んでしまって仕方有りませんわねっ」
そう言って居間の窓を全てバタンバタンと次々と開けていった。もちろんそんな事をしなくともねこの部屋の換気は充分にされているのだが…しかし彼女のそのパフォーマンスにアムロも苦笑せざるを得ない。
「ありがとう…ミセス・フォーン」
「いえいえ…早くカミーユ様の処に行って差し上げてくださいませ」
向けられた笑顔にはアムロも自然な笑顔で返して、応接用の居間から出て行った。

 

「お待たせ…カミーユ、いい子にしていたかい?」
部屋の中央でメイド達と積み木遊びをしていたカミーユは、アムロの姿を見て思いっきり起ち上がる。
「…ママっっっ!」
そのままトテトテトテと転びそうに走り寄って来て、しゃがんで迎えるアムロの胸に飛び込んだ。
「キライなきゃくはかえったの?もうへいき?」
その言葉にメイド達も思わず笑い声を漏らしてしまった。「申しわけございませんっ」と謝る彼女達に、アムロは苦笑しながら手を上げて「本当のコトだからね」と気にしないようにと合図を送った。
しかし息子には頭を優しく撫でながら言い聞かす。
「…そういう時は『お客様は帰られましたか』って言わないとね…カミーユ…」
相変わらずカミーユには自分の感情が隠せないなあ…と内心アムロは焦った。カミーユの感情が自分には手に取るように解るのと同じく、こちらの気分や考えが素直に伝わってしまうのは、少々困ってしまう時もあるのだが…。
「でもママはずっとおこっていたしー…ボクがいってイヤなきゃくをたいじしてやろうとおもったんだよっっ」
「退治って…まあそんな悪者じゃないからさ…」
彼の頬に優しくキスしてから抱き上げる。
「心配してくれてありがとう…もう大丈夫だからね」
「うんっよかった…ボクはパパからたのまれているからっボクをたよりにしてっっママっ」
「頼まれている、って何をだい?」
息子の大きな瞳を覗き込んでアムロは優しく尋ねる。
「パパがいないときはカミーユがママのナイトっなんだってっ!…ボクがママをまもるんだよっっ!」
思わず笑みが零れてしまうのは仕方なく…アムロだけでなくその場に居たメイド達も、優しい笑い声を上げて「さすがですわっカミーユ様っ」と拍手を送るのだった…

 

シャアの帰宅は今夜も遅い様子であったので、アムロはカミーユと一緒に先に風呂に入る事にする…まあ殆どの日々を二人で入っているのだが。
髪を洗って貰う時もカミーユはいつも大人しく我慢していた。
「はい、もう目を開けていいよー…カミーユ、我慢できたねー今夜も本当にいい子でした☆」
ぷるぷるっっと頭を振って
「だ、だってボクはナイトだものっっ…これしきへーきっっ!」
といばるポーズを見せた息子を、アムロは本当に心から愛しいと思う。
一緒に広い浴槽に浸かり、カミーユに付き合って風呂用玩具で遊んでいると…
「……ママ…パパはこんやもおそいの?」
ポツリと呟くその姿にアムロは、もう何日会ってないんだったか…今夜で5日目か…と計算する。本当に寂しそうな様子に、当のシャア本人も毎朝毎晩、寝ている息子にしか会ってない事を、とても寂しく思っているその姿と重ね合わせた。
「そうだね…パパはこの時期はお忙しいから…でも明後日はお休みだよ?」
「おやすみ?!ホント?!…パパ、ずっとおうちにいるの?」
ぱああっと明るくなるその表情にアムロも嬉しくなる。
「居るよ…カミーユと遊ぶの楽しみにしているってさ」
「わああぁっっ!…やったあぁぁーっっ!」
「わわっ…!こらっカミーユっっ暴れないのっっ」
急にハシャギだした息子に思いっきりお湯をかけられて、アムロは溺れたら大変っ、と小さな息子の身体を必死で支えた。

「ねえママ…パパとなにしてあそぼうー?」
「んー…そうだね…それは明日考えても大丈夫だから…今はおやすみしようね?カミーユ…」
息子の身体を優しくポンポンと叩きながら、アムロはその額と頬にキスを落とした。
「だってパパとあそぶのひさしぶりだものー…おそとでサッカーがいいかなあ…あ、このあいだもらったあたらしいプラモデルーっいっしょにつくるっっ…それとあのカードバトルの…ねえねえママっっどれにしようっっ??」
やたら興奮している息子に、やれやれと苦笑しながらアムロは額をコツンと合わせる。
「どれでも遊んでくれるよ…だから安心してお休み…ね?」
瞳を閉じてもう一度その思念を送る。
「…ん……おやすみ…ママ……」
程なくしてカミーユは寝息を立て始める。この方法で必ず寝かしつける事が出来る、と知ったのは彼が赤ん坊だった時からだけれど…
…やっぱり「繋がっている」からかなあ…

 

日付が変わる頃に帰宅した夫を熱い口付けを交わして迎える。
「カミーユは今夜ももう寝ているな…」
「こんな時間だからね…貴方に会いたくて凄く寂しがっていたよ?」
「それはとても嬉しい事だ…だが寂しいのはカミーユだけかな?」
「…そういう意地悪い人に答えは教えてあげない」
シャアは苦笑してアムロの身体を抱き寄せ、再びキスを交わした。

「今日…グレイ・ティプトン卿が来られたよ」
モルトウィスキーの入ったグラスを差し出しながらアムロがさり気なく言った。
「貴方に推薦されて…とか言って強引に面会を受けました」
「カミーユの件は全てアムロに一任してある、と言っただけだがな…」
差し出されたグラスを見て、どちらの意味でもシャアは苦笑する。
「まあこの件で貴方を苛めるのは可哀相とは思うけどさ…あ、ストレートにしてないのは身体のに為だからね」
夜も遅いし、とアムロはシャアの隣に座って、トワイスアップである事に不満そうなその頬を、軽く突いて笑った。
「…どうせいくら断ってもカミーユの友達候補の申し出は次々と来るんだろうからさ…」
ほう、と大袈裟気味にアムロは溜め息を吐く。
「そうだな…君には気苦労を懸けるが、こればかりは致し方ないだろう」
「うん…解っているよ…ゴメンよ俺の方こそ」
シャアの肩にコツンと頭を寄せてアムロは軽く首を振った。
「最初のうちはいいんだけどね…だけどどの子もカミーユをそのうち怖がってしまうんだ…」
シャアはグラスの中身を一気に空けるとテーブルへと戻し、アムロの身体を抱き寄せた。
「あの子も成長すれば色々とコントロールが出来る様になるさ…そして私達がいる…大丈夫だ」
シャアの言葉と優しいキスはアムロを素直に安心させた。
「…うん…そうだよね…俺も信じる」
アムロも自ら熱いキスを贈る。シャアはそれに応える様に、口付けしながら情熱的にその愛しい身体を強く掻き抱いた。

 

翌日のカミーユは予想通り、朝からずっと興奮状態だ。
普段は少し嫌々な態度を見せる「お勉強の時間」も張り切って望んでいた。
「はい、今日はとても良く出来ておりますよ?素晴らしいですカミーユ殿下」
専門の家庭教師にも沢山褒められて、更にご機嫌な様子になっている息子を、アムロはいつもの様に同じ部屋でずっと見つめているのだが…
…うーん、大丈夫かな…と少し不安になる。
「ママ…パパはあしたおやすみ…だいじょうぶ?」
何度も繰り返し聞いてくる度に「大丈夫だよ」と言い聞かせるが……

 

やはり大丈夫ではなかった。
夕方からカミーユが発熱した。
主治医がすぐに呼ばれて、公邸内は一時騒然となる。カミーユはこの年の子供にありがちで、今までもいきなり発熱する事が幾度かあった。
しかし彼は普通の子供ではなく、ネオ・ジオン総帥閣下の一人息子なので、必要以上に心配されてしまうのは仕方がないのだが。
総帥家族の主治医ドクター・ウォルトンは素早く診断し、的確な処置を行った。
「…ウィルス性の熱ではありませんし、大事にはいたらないと思います…一応解熱剤を投与いたしました」
「ありがとうございます、ウォルトン先生」
胸を撫で下ろしながらアムロは頭を下げた。
「嫌な予感…当たっちゃったかな…」
そう呟いたアムロにウォルトンは素直な疑問を口にした。
「アムロ様は…原因に何かお心当たりでも?」
「ええまあ…明日『パパ』が休暇…なんです」
「成る程…興奮し過ぎたのかもしれませんな」

…今回も「知恵熱」ってヤツなんだろうけれど…
それでもベッドで眠るカミーユの赤い顔を見つめていると、やはり心配でたまらないアムロである。耳に器具を当てて熱を測ると、薬は効いている様子の数値にホッとした。
額に手をずっと当てていると、カミーユがうっすらと目を開けてきた。
「カミーユ…大丈夫…ママはここに居るよ?」
熱に潤んだ藍色の瞳でアムロをじっと見つめている。
「……ママ……あついよぉ…」
「うん、ちょっとお熱が出てるからね…はい、コレ飲んで…」
アムロが差し出したストローからカミーユは素直に、んくんく…と林檎ジュースを飲んだ。
「美味しい?」
コクンと頷くカミーユの様子に更に安心するが、熱が完全に下がるまでは油断は出来ない。
「…ママぁ……パパかえってきた?」
「もうすぐ帰ってくるよ…カミーユの事が心配だから、今夜は早く帰ってくるって」
「ん…よかった…あしたあそぶのっっ…やくそくしなきゃ…」
再び瞳を閉じた息子の、熱がありながらもとても嬉しそうな…
そんな寝顔を見てアムロは
…ううん〜どうしたものか……
と悩んでしまうのだった。

 

 

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長くなりそうなので次のお題タイトルに続きます…
私だけが楽しくて申し訳ないお話っっははははっ…(2012/2/6UP)