※ご注意※今回のお話も「総帥夫妻+子カミ」のシリーズです

 

 

片腕だけで支えるように

 

 

今夜は夫のお出迎えが出来なかったけれど…
そんな事はどうでも良い、という事は向こうも解っている。

一応ノックをする礼儀正しさはあったが、それと同時に慌てるように部屋に入ってきた。そんな彼にアムロは微かな笑顔を向けて出迎える。
「カミーユは大丈夫か?」
「大丈夫…ウォルトン先生の診断結果は貴方にも送られているだろう?」
「ああ…だが原因不明というのが気になる…」
アムロは椅子から起ち上がり、ベッドに近付いてきたシャアに少し背伸びをして口付けをした。
「俺は何となく原因は解るよ…熱も下がってきたからそんなに心配しないで」
その『母親』の笑顔を見て、シャアは初めて安心する事が出来るのだ。
「そうか…君が言うならば大丈夫だな…」
そして自分からも「ただいま」と小さく呟いて、彼のくれたモノよりは熱めなキスを贈る。
「知恵熱…みたいなものだと思うんだけど、以前も家族で出来かける前の日に…あっだたろう?」
「1年前の事だな…そうか…興奮し過ぎとでも?」
「そうだね…こういう一日だけの高熱とかよくある例みたいけど、昔から説明付かないってさ…ミセス・フォーンもそう言ってた」
アムロの一番身近な母親先輩の言葉に、シャアも口元を吊り上げた。
「寝顔が穏やかだ…大事には至らないと信じよう」
眠っているカミーユの額にそっと大きな掌を乗せると…

いきなりカミーユの瞳がパチリと大きく開いた。
「…ぱ…パパっっ…」
少々驚きながらも自分を待っていてくれた息子に、シャアはとびきりの優しい笑顔を見せる。
「苦しくはないかな?カミーユ…」
「う、うんっうんっっ…だいじょーぶっっ…ねえパパっあしたっっ…あしたねっっ
…ボクっっパパとサッカーしたいっ…」
息子の訴えに若い夫婦は同時に視線を絡ませた。アムロは「任せる」という言葉を夫に視線で送る。
「…カミーユ、サッカーはダメだ…明日もベッドで寝ていないとね」
その言葉に大きな藍色の瞳が一瞬見開いて、そしてみるみる潤んでくる。
「え…ええ…だってぇ…パパっ…あしたおやすみ…やっと…やっと…」
ふえっっと顔を歪ませると、カミーユは我慢できずに大きな泣き声を上げた。
「パパとやっとあそべるのにぃっっ…ヤっ…イヤだあっっ!パパとあそぶっっ!
サッカーするんだあぁっっっ…!!」
大きくうわああんっと泣き出した息子の身体を、アムロはそのままベッドから抱き上げた。そしてアムロの首にしがみついて、イヤイヤと泣き続ける彼の小さな背中を優しくポンポンと叩く。
「いい子だからカミーユ…パパの言う事を聞いて…ね?」
「やだっ!やだあぁぁぁっっ!!」
激しい感情を受けてアムロは、チリリッ…と頭痛を感じた。この子の癇癪はNT能力を持つものには、ちょっとした武器になってしまう。…酷過ぎる時はNT因子のないオールドタイプに対しても被害を与えてしまうのだ。
あまりにも強いその因子故に抑えきれない感情が精神攻撃となるなんて…この子が大人になっても、ソレをコントロールする事が出来なかったら…きっとこの子は壊れてしまう…
それはアムロが最も怖れている未来…
母親の不安は無意識に伝わるので、カミーユも癇癪が治まらない。よしよし…とアムロが宥める姿を、シャアも同じ様に頭痛を感じながら見つめていたが…

「カミーユっ!」

いきなり大きな声を出した父親にカミーユはビクンっと全身を震わせて…
そしてピタリと泣き声が止まった。
「そんなに泣いてしまうとママも泣いてしまうぞ…カミーユはママまで哀しませたいのか?」
「…ぁう……」
「それではナイト失格だ」
シャアが手を拡げたので、アムロはカミーユの身体をそのまま彼に渡す。素直に自分に抱っこされる息子をシャアは視線を自分より高めの位置にして持ち上げる。この位置が息子が大好きな高さだからだ。
涙と鼻水で彼の顔はぐちゃぐちゃだが、瞳はハッキリと自分を見つめている。その様子にシャアは微笑んだ。
「ひっ…く…パパ……ごめんなさい…」
「よし…いい子だ」
カミーユの頭を優しく撫でて語りかける。
「サッカーは出来ないが、明日はずっとパパが一緒に居てあげよう…それが約束だからな」
「…ほ…んと?」
「ああ、ちゃんと守るさ」
「ぅぇっ……パパぁっっっ」
自分の頭にぎゅっとしがみついてくる小さなその身体を、シャアは愛しさを込めて大きな掌で撫でてやった。隣でその様子をずっと見つめていたアムロの、その安心しきった表情に安堵しながら…

 

日付を変わる頃には、すっかり平熱となったカミーユを真ん中にして、夫婦は広いベッドに身体を埋めていた。
「うん大丈夫だね…すっかりか落ち着いている…」
カミーユの髪や頬に優しく触れてアムロは確信した言葉を漏らす。
「それは良かった」
息子を抱き締めるようにして横たわる妻を、片肘を付いてシャアは優しい瞳で温かく見守っている。
「明日は本当にお任せしていいのかな?」
「私もカミーユの過ごす休暇は楽しみにしていたのだからね…それは叶えさせてくれ」
その言葉にアムロは優しく笑った。
「ありがとう…貴方にこんなに愛されて、カミーユも本当に幸せだと思うよ」
「君の事も心から愛しているのだが…」
まるでカミーユだけとでもな言い方だ、と明らかに不満な様子を表情に乗せた夫に、アムロは声を上げて笑った。カミーユを胸に抱き止めたままで、少し顔を上げて瞳を閉じる。シャアは身体を近付けて、アムロの柔らかい唇に己のそれを重ねた。
「奥方の幸せ度数が解らない程の無能な総帥閣下ではないだろう?」
「意地悪い言い方をする…」
「まあたまには俺も貴方を苛めたいかな?」
クスクスと笑うアムロに、シャアは先程よりは情熱的なキスを贈った。
「アムロとカミーユは…私が神からの贈り物で感謝出来る、唯一の存在なのだからな」
「…解っているよ…俺だって同じだ…」
品物や技術や精神力…その他の財産なら、自身の努力や金銭的な事で手に入れられる事が出来るかもしれない。
しかしアムロという人間の存在は、どんなに強く望んでも確実に手に入れられるというものではない。
想いが通じ合わなければ、彼は自分の傍に来てくれなかった。
自分は彼を愛して、彼も自分を愛してくれた…ただ、たったそれだけの事だ。しかし、それだけの事が二人をこの上もなく幸せにしている。
だからこそ、これも神の采配なのだろう、と運命に感謝するのだ。
カミーユはそんな自分達に天から授けられた掛け替えのない存在なのだ…
彼を息子として与えてくれたその采配にも、シャアは心からの感謝を与えたい。そんな奇跡を、アムロとカミーユを自分に与えてくれた…そんな神の存在を信じても良いか、と思うのだ。
この素晴らしい運命を与えてくれた、その存在に…
「…ん…ダメだよ…今夜はカミーユが居るんだから」
「解っているよ…でも明日はせっかくの休暇だからね…」
「ぁあっ……しょうがないな…もう…静かに…だよ?」

 

翌日。
シャアはカミーユの自室で無理をさせない範囲で、彼の遊びに色々と付き合う。
今の息子は、積み木やブロックの類や…とにかく何か作る事が好きな様だ。それに付き合ったり、カミーユの手には未だ無理なMSプラモデルを作ってやる事にする。シャアの手元をまるで魔法でも見る様に瞳を輝かせて、ずっと見つめているその姿が本当に愛しい。
「パパっっすごーい…とってもすごいーっっ」
そんな息子の褒め言葉が、どんな仕事を成功させた時よりもシャアを満足させた。
アムロはそんな親子の様子を同じ部屋で見つめたり、時々一緒に参加したり…ただ幸せに過ごしていた。
…シャア…ありがとう…
今のこの幸せを、ただ強く感謝しながら……

「…でね…つぎはこのいろがね、はいるのー」
「ほう…成る程」
「このいろとこのいろがこうくるから…ほら、これでぜんぶ!うまったよ!」
大人でも難しいだろうの色パズルを、次々と解いていくカミーユに、シャアは本気で感心している。
…やはりこの子は…他の子供とは違うぞ…さすが私達の奇跡の息子だっ!
「アムロっ…カミーユは凄いな、知っていたか?」
と親バカな部分も覗かせてシャアは少々興奮して妻を呼んだ。
「5歳にもならない子供がこの法則を簡単に解くとは…お、次の問題もいけるか…」
ふと妻の反応が返ってこない事が気になった。
「…?アムロ?」
見ると彼はソファーで、静かな寝息を立てていた。
シャアは立ち上がってアムロの傍に歩み寄る。そのまま起こさない様にと、ゆっくりそっと抱き上げた。
「パパ…ママはおねむなの?」
「ああ、カミーユは眠くならないのかい?」
「ボクはへいきっっ!パパとまだまだあそぶっっ」
その宣言にシャアは苦笑して、アムロをカミーユのベッドに運び横たえた。
「いつもご苦労様…アムロ」
今のアムロはずっとカミーユの子育てに奔走してくれている。一日だけでしかないが、その役目を交代出来たなら…
「…少しは私も役立てたかな?」
そう呟いてシャアはアムロの頬に優しくキスをした。

 

アムロが目覚めてから家族3人で風呂に入る事にする。
「え…お昼寝しなかったの?カミーユ」
「うんっっパパとずっとあそんでいたよーっっ…エライでしょっ?」
アムロに身体を洗って貰いながら、えっへんとカミーユは自慢するポーズを取った。
「そうか…じゃあ…」
…この予感は絶対に当たるね…
その後、広い浴槽でシャアと防水玩具で遊んでいる息子の様子を、アムロはじぃっっと見守っていた……
そしてその瞬間はやはり訪れてしまった。
「あっ!シャアっっ!カミーユ…そのまま寝ちゃうからっ!溺れない様に気をつけてっっ」
浴槽の中でいきなり睡眠モードに入った息子は、流石のシャアもその習性を予測出来なかった様で。
そしてアムロは、夫が珍しく慌てる姿を見る事が出来たのだが……

 

撫でても突いてもキスしても、全く起きない…反応しない。
そんな爆睡モードな息子の寝顔を、シャアとアムロは優しく笑いながら見つめている。
「貴方は疲れてない?大丈夫?」
アムロの労いの言葉にはキスと共に平気だと応えた。
「私もとても楽しかったよ…カミーユにも色々と新たな発見が出来た」
「そうなのか?ふうん…まあ良かった…のかな?」
あまり良く解らないけれど…という表情をする妻をシャアは優しく見つめた。
「予定とは少々違ってしまったが…君の代わりが一日でも務まったのなら、良かったと思いたいね」
琥珀の瞳を少し大きくして、アムロはシャアをしみじみと見つめる。そしてとびきりの優しい笑顔となった。
「それはとてもとても感謝しているよ…ありがとうシャア」
二人は強く抱き合ってキスを交わし、そのまま寄り添って…扉続きとなっている夫婦の寝室へと移動する。シャアはアムロの身体を片腕だけで支えるようにして、ベッドへと横たえ、もう片方の手で灯りを落とすスイッチを押した…

 

「ホントっ?パパとりょこういけるのっ?!」
「うん…正確にはパパのお仕事に特別に付いていくんだけどね…月に行けるよ?カミーユ」
「やったあぁぁ!!うれしいっっっ!」
その日はカミーユと出掛ける用事があって、そのご褒美の事は、リムジンエレカの後部座席で話したのだが。
「ねえねえガトーちゅうさっ!つきにいくのっっ…ちゅうさもいっしょ?」
「はい…私もご一緒いたしますよ、殿下」
とても喜びはしゃぎまくるカミーユ殿下を、総帥夫人と皇子の送迎を総帥自らに頼まれた親衛隊長は、ミラー越しに優しく見つめる。
息子のそんな様子を、その小さな身体を抱き寄せながら微笑ましく見つめていたアムロは……
----------?!

その瞬間、何かを感じた。
誰かの……意識に微かに触れた…?
この感触…まさか……
ふと見るとカミーユも、不思議そうな顔をして外を見ている。もしかして…
「…ガトー中佐、この建物…軍の?」
「はい、予備兵訓練校ですが…どうかいたしましたか?」
総帥夫人と皇子が同じ様にじっと外を見つめている姿が、親衛隊長を少々不安させる。そして、やっとアムロがガトーへと視線を戻した。
「あのね…ガトー中佐…お願いがあるんだけど……」

カミーユは未だ外を見つめている。
「…なんかおもしろいのがいる…」
何故か嬉しくなって、皇子はそう呟くのであった。

 

 

THE END

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痛々しい煩悩全開で申し訳ないけどっっ…私は幸せだっ♪(苦笑)
(2012/2/12UP)