WARNING
※※カミアムなスパイスを振りかけてございます…
ご注意下さい…※※

 

X.カラダデオシエテ

 

 

自分のNT能力は、数値的に考えるのなら10代の時が最高だったのだろう、とアムロは思っている。特に感受性の豊かな思春期の頃は、精神的に未だ「純粋」な部分があるから…他人とリンクし易いのではないか?他のNTと呼ばれる者達もそうなのではないかと思う。
そして自分のNT能力は、どちらかというと戦闘能力の方へと特化してしまった様で、NT能力を持つパイロットとしては最高の理想の形…と言われているらしい。



スペースノイドはニュータイプに進化して正しいモノの見方が出来る…それはオールドタイプより優れており、我々こそが人類の未来を担う理想の種なのだ…
…とか何とか、自分の夫の父親は唱えたとか。アースノイドに軽視され続け、鬱積された宇宙移民達にとっては、まさしく大いなる福音の言葉として響いたことだろう。
そしてその言葉を利用し、躍らされる人間の極論と行動が、戦争を起こし多くの人類が死んだ。
自分の夫もその「ジオンの亡霊」に取り憑かれた時期があるのだ…その過去についての彼からの告白はアムロにも辛いモノであったけれど…それも自分が一緒に背負い償う罪なのだと受け入れた。

閑話休題……
実際、NTパイロットとして最高の位置にいるだろうの当のアムロは、この能力そのものを深く考える事を拒否している。1年戦争終結後の頃に色々と理解しようかと試みた時代はあったけれど…結局それはアムロの心も身体も傷付けただけだったから…

普段の生活で意識はしなくとも、ただやはり「普通の人」よりも勘が良いのは確かなようだ。そして同じNT同士だとその勘は増幅される様に思う。
自分の夫はNTである。彼自身は「なり損ないだからね」と卑下するのだが…アムロにはそうは思えない時があるのだが。全ての迷いがなくなり、自信に溢れる今の彼の洞察力と先読みの計算力は、本当に凄いモノがある。それが遺憾なく政治手腕に発揮されているので、それも一種のNT能力なのではないか、と自分は思っている。
まあそれは置いておいて…今のアムロの傍にはもう一人、カミーユという優れたNTが居た。能力的には、アムロの知る限り最高の位置に居るNTかもしれない。
そんな彼と居ると…思い過ごしかもしれないが、アムロは何だか感覚が研ぎ澄まされる様な気がするのだ。
それは向こうも感じていた様で
「俺…此処に来てから何だか昔の感覚を思い出すカンジがするんですよね…アムロさんが居るからかな?」
と言われ、「カミーユもなのかい?」と笑い合ったりしたのだが…

 

そんなカンジで、すっかり鈍くなっていると思われた能力でも、人間の強い感情はやはり感応し易いのか、ヤケに感じてしまう事がある。特に「悪意」や「欲」という感情は、普通の人間でも捉え易い様に、それはとても強くはっきり感じ取る事は昔から良くあったのだ。
だがアムロは…そんな感情を受け入れない様に「閉じる」術を覚えていた。OTの人間よりも鈍いのではないか、と思われる程に他人の感情に気が付かない様に。
これは昔…NTとしてある研究に関わった時に、「もう嫌だ」と思った時に…無意識にそれが出来てしまった。
その結果、研究員達は「アムロ・レイはNTとしての能力がかなり衰えた」と判断したらしい。それはアムロにとってある意味幸いな事であった。
今の自分の周囲のそんな感情全てを受け入れていたら、本気で気が狂うかもしれない。だから無意識に流す…
受け入れない…知らない…解らない…と。
そして「総帥夫人はあまりにも天然過ぎる」と噂される様になるのだ。

そんな「閉じ方」だから、うっかり油断すると…特段強いモノを拾ってしまうのである。

 

その日はMS格納庫で愛機νガンダムの整備をする日だった。チェックを終えて何気なくコクピットから出て、フワリと下へと降りようとした時に…
いきなり「ソレ」が襲ってきたのだ。

-------?!!---わっ…ヤバっっ!!

とても強い感情をモロに受け入れて…精神的に強く感じてしまい、吐き気が込み上げて来た。床に降りて、そのままフラフラと壁に寄り掛かる。案の定、自分をずっと護衛している彼が直ぐに駆け寄ってきた。
「アムロ少佐っっ?!…大丈夫ですかっ?!!」
「…あ……う…ん……だ、大丈夫っ少し休んでいれば…」
そう言いつつも自分の敬愛する上官の顔は真っ青である。ギュネイの心臓はその不安に強く鳴り響く。多分自分の表情も相当青くなっているに違いないのだが。
「と、とりあえず医務局へ行きますっっ…ちゃんと診て貰わないとっっ」
「えっ…い、いやっっそんな大袈裟にしなくてもっ…少し…休めば大丈夫だから…」
そんな風に言われても、ギュネイは荒い呼吸を必死で整えているアムロを見て、ただ焦る。とにかくいても立っても居られなくなった。
「ううーっっ!失礼しますっっ少佐っっ!!」
思いっ切りの決心をして、アムロの身体を彼は抱き上げる。
「?!!…わっ…わわっっ?!ちょっと待って!ギュネイっっ!」
上司の抗議は一切聞かずに、ギュネイはまさに猪突猛進な勢いで、歩いて10分の軍医務局までそのまま…アムロを所謂お姫様抱っこをして、ただ突っ走っていった。

 

軍医務局で一番若い医師であるドクター・ビダンは、結局総帥夫妻の主治医扱いとなっている。成り行き上、という言葉が一番しっくりくる経緯だが。
総帥夫人が担ぎ込まれた、と連絡を受けて、彼も病院の方からすっ飛んで来た。しかしアムロの様子と少しの質問で、彼は直ぐにその症状を理解する。
「毒気に当てられた…ってヤツですね…大丈夫ですか?アムロさん」
「ん……此処に来るまでに大分和らいだよ…カミーユも来てくれたしね」
その弱々しい笑顔を受けて、カミーユはアムロの手をそっと握った。そのまま出来る限り優しいの優しい想いを送る。
…大丈夫だから…不安にならないで…と。
「…アムロさんがいつもしてくれたヤツですけど…俺でも気休めくらいにはなるかな?」
「うん…とても気分が落ち着くよ…ありがとうカミーユ」
確かにアムロの精神は大分落ち着いてきている…それは触れていても良く解った。
暫くそうしていたが、やがてカミーユは手を離して「ちょっと待っててください」と席を立つ。そして診察室の外でずっと佇んでいるギュネイに声を掛けた。
いきなり現れたカミーユの姿に、ギュネイの身体に緊張が走ったのだが…
掛けられるのは容赦ない言葉だ。
「お前はもう帰れ…アムロさんは俺が送って行く」
「ええっっ?!そんな職務放棄っ出来るかっっ!!」
怒り出すギュネイにカミーユは冷たい視線を向ける。
「正確には職務怠慢だな…お前さ、気が付かなかったのか?アムロさんに向けられた『アレ』に…」
ギュネイは一瞬キョトンとしたが、ハッと思い出した様に焦る表情になった。
「あ…もしかしてっっ!…アレ…少佐が気が付いちゃったのか?!」
「解ってたのかよ…尚更怠慢過ぎるな」
カミーユの濃紺の瞳はますます氷点下状態でギュネイを睨み付ける。
「そうじゃないっ!…いつもの事なんだ…少佐が…そのなんと言うか……『欲情』向けられるのは…」
その言葉にカミーユの表情は別の意味で少し険しくなった。
「本当に露骨に向けてくるヤツも居るけど…少佐は気が付かないのか無視しているのか…今まで全く感じてない様子だったんだよっ」
ギュネイは落ち着かない様子で自分の前髪を掻き上げた。
「少佐は鈍いというか…ほら、良く『天然過ぎる』って言われているだろう?俺は多分意識して『閉じている』んだと思ってもいたけどさ……ううん〜〜今日に限ってアレを拾っちまったのかあ…はあ…何てこった…」
その辺りはカミーユにも理解出来るものはあるが…
「…やはりお前じゃ『ガード』は無理なんだな…まあこればかりは仕方がないが…」
途端にギュネイが思いっきり傷付いた表情をしたので、心の中では(八つ当たりで悪いな…)とは考えたが。
「能力…どうのじゃないさ。ある意味、完璧な『ガード』が出来るのは大尉…総帥だけだ」
思いっきり複雑な表情を見せているギュネイに、更に追い討ちになってしまうかもしれないが…
「まあ…あまり気にするな…だが今の状態は俺の方がお前より遥かにマシだからな…だから帰れ」
有無を言わせぬ物言いに、ギュネイは従うしか無かった。
すっかり落ち込んでトボトボと帰るその背中を見つめながら、これしきの事で彼がダメになるワケがない事も、カミーユはちゃんと知っている。ギュネイには心身共にもっと強くなって貰わなければならないのだから…ギュネイの為にも、アムロの為にも、だ。

 

「ギュネイを…帰しちゃったのか?」
「護衛士官として少しは反省して貰いたいんで…アムロさんは俺がちゃんと送っていきますよ」
その言葉にアムロは苦笑いを浮かべた。
「あまり苛めないでやってくれよ…彼のせいじゃないんだから」
「あの単純バカがこのくらいでへこたれますか…そういう意味では鍛えているんですね、大丈夫です」
まあカミーユなりの愛情表現?か…とは思うし、確かにそう心配しなくても彼なら大丈夫だろう。
「ところでアムロさん…もう平気ですか?」
「もう平気だね…久し振りだったから身体がビックリしただけだと思うよ」
カミーユはふとアムロの腕を取る。アムロには予期してなかったのか…一瞬だけ彼の身体が大きく震えて、カミーユは口元を吊り上げた。
「脈拍を測りますね…」
いつもの様に男にしては細いその手首にそっと指を添える。何気なくそれを見つめていると…妙に複雑な感情がフツフツと湧いてきた。

…天然に思える程に気が付かないフリをしているのは、ある意味とっても大変無防備って事じゃないかっっ
…アムロさんはやっぱり自覚が無さ過ぎる……
大尉や俺が…どうやっても守れない事だってあるかもしれないのに…
そんな時にもし…もしもだぞ……
…越えてはならぬ一線を……誰かが……
ああああーっっっっ!!もの凄く怖い考えになってしまったっ!!

そして…カミーユはある決心をする。

「……アムロさん」
「なんだい?」
「アムロさんは…そういう欲望に対してわざと気が付かないフリをしている…のが正しい?」
アムロはどう答えて良いのか解らなかった。
「…それはよく解らないんだよ…無意識なんだと思うけど…でも精神的に耐えられるレベルのものはちゃんと感じるからね」
カミーユは無言でじっとアムロの手首を見つめている。
アムロの心情には急激に不安が拡がり始めた。

……どうしたんだろう?カミーユ…何だかヘンじゃないか…?

今のカミーユの感情は本当に解らない。実際彼も「隠す」事をするので。他人より解り易い部分と解り難い部分がはっきりと分かれる…そんなNT同士の付き合いなのか。
「じゃあアムロさんは…俺が今思っている事は…解らないんですね?」
え?と思った瞬間、
いきなり彼に思いっきり抱き締められた。
「…っっ?!…カ、カミーユっっ?!」
突然の出来事に驚いて、アムロは彼の表情を見ようと思うのだが…抱き締められた体勢で肩越しではそれは叶わない。
「…これなら解る?」
更に身体を密着させられた…そして…
「…?!……」
思わず全身が震えたのは…しっかり感じてしまったからだ。
「言葉や感情より…正直に身体が伝える事ってありますよね…」
「…おっおいっ!…カミーユっっ…だ…駄目…ダメだよっっ」
身体を離そうと抵抗を試みるが、自分より逞しく成長しきった青年の身体は全く動かない。
「アムロさんは…俺の事をずっと子供だと思っている様ですから…少し自覚して貰わないと…ね?」
再び強く身体が押し付けられる。感じてしまったのは…彼の雄としての欲情。
感情では無く身体で教えてきたソレは…アムロにもはっきりと解った。
カミーユが上半身をゆっくりと離して、顔を向けてくる。明らかに自分の知っている今までの彼の…知らない表情だ。
何故かその表情は…自分の夫を思い出させて……
アムロの背中をゾクリと何かが駆け上がる。

「さてどうしましょうか?アムロさん…」
そしてカミーユがゆっくりと顔を近付けてきて…その唇が重ねられた……

 

 

NEXT→ (「夜の背中」に続く予定…)

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…まさかの展開?でまさかの続き……うーむうーむ(汗っ)
(2011/2/2 UP)