「ふう……」
「どうした?アムロ…」
無意識に出てしまった溜息に反応されて、思わず慌ててしまう。
「なっ…何でもないよっ」
焦る様子のアムロの肩を自分の方へと抱き寄せて、シャアは優しく微笑む。
「そうか…ならば良いのだが…君の悩んでいる姿を見るのは辛いな」
そう言って髪と額にキスをする。
「…………
知ってるクセに……」ぼそっ
「何か言ったかい?アムロ」
「……何もっっ」
相変わらず優しい笑顔で自分を見つめてくるシャアを…アムロはちょっとド突きたくなった。
----俺が何に悩んでいるか知っているクセにーーっっっ!!
だからっ…そーーんなにだらしない鼻の下延びた顔しているんだよなっっ!
じとっっ…とキツく見つめると、彼は再びニッコリと笑い返してきた。
「………そんな嬉しそうな顔…するなっっ」
「何とでも…楽しみにしているよ?アムロ…」
チュッと音を立ててキスを送られて…そのまま幾度か同じように返したりするけれど。
…あ〜あ…ホントどうしよう??

今日は11月14日……

シャアの誕生日まで…あと3日、である。

 

アムロは本気で悩んでいた。
シャアの誕生日に何を贈ったら良いか…が解らないからである。
先日の自分の誕生日には、あーんな派手でこっ恥ずかしい贈り物を寄越してきただけに…
さて、自分が返す番…となると本当にどうしたらよいか解らず悩んでいるのだ。
考えてみればシャアへの誕生日プレゼントなぞ…初めて考える。
一緒になる前から向こうは自分の居場所をどこでどう調べたのか…という感じで匿名で花束やら何やらを贈ってきた事が幾度かあったのだが。
それに彼の誕生日そのものでさえ知ったのは、此処に来てから。

「11月17日…なの?…ふうん…俺と近いんだね」
「そうだな、嬉しいよ」
「…で、こっちの9月27日…ってのは?」
「それはキャスバル・レム・ダイクンの誕生日だな」
「え?だったら…こちらの方が正当だろう?」
「君が私を『キャスバル』と呼ぶなら…そちらにするが?」
「………変なコダワリ……」

おそらく、シャア自身は己の誕生日なんてどうでも良いのだ。
でも、今年は違う。アムロが贈ってくるモノをかなり楽しみにしている。
そんなのある意味、凄いプレッシャーを掛けられている気がする。
「シャアへのプレゼント…か」
彼はあまり物欲が無いし、元々何でも持っている男である。アムロが何を贈っても今更、というモノになってしまいそうだ。だが逆に、何を贈っても喜ぶだろう…という予想も出来る。
…だからといって、いい加減な気持ちで選びたくはないのだ。
喜んでくれるなら…「一番」喜んでくれるモノを贈りたい…
そう考える時…自分がいかに彼に惚れているのかを自覚して大変恥ずかしくなってしまう…
そんなアムロ・レイ総帥夫人であった。

 

 

「11月17日…って公休にならないの?」
「今のところ総帥閣下のご意志により…正式に独立したら解らないけれどね」
「休みが増えるのは歓迎するけれどねー……もう一ついただいちゃお♪」
「…少しは少佐に遠慮しなさいよー…レズン…コレ凄く高いケーキなのよ?」
「いいんだよナナイ大尉、たくさんあるんだし…お茶もお代わりする?レズン中尉」
「……いただきます……少佐すみません」
さすがに上官にお茶を入れて貰って、恐縮しない軍人は居ない。
此処は総帥府にある、ナナイ大尉のオフィス…である。「打ち合わせ」という名目で、レズン中尉と最近街で話題の菓子を伴ってアムロは訪ねてきたのだった。
「…で、アムロ少佐……内密のご相談というのは…?」
レズンに新しくお茶を入れたカップを渡すアムロに、ナナイは真面目な表情で問い掛ける。それを受けて、アムロは少し戸惑った表情となった。
「ん…その…大した事じゃないんだけど……他に相談出来る人いなくてね…」

「…はあ…つまり総帥閣下に…」
「何を贈ったら良いかが解らない…という事なのですね?」
こくこく、と思いっきり頷く目の前のアムロの真剣な瞳に「ホント大したコトねーじゃんっ」というツッコミが出来なくなってしまう2人である。
「そう悩まれなくとも…少佐の贈り物でしたら、大佐は何でも喜んでくださると思いますわ」
ニッコリと美しい笑顔でナナイは応える。
「それは解るけどっ…でも……どうせなら一番喜んで欲しいから…さ」
うわーっっっ!…と思わず2人は顔を見合わせた。
----これっ…絶対に無意識の惚気よねっっ!
----大佐ってホント宇宙一の果報者じゃなくてっ?
----ふふふ…少佐のこういう凄い可愛いトコ見られるの…
----私達も役得よねえーっっ♪♪

アムロ少佐の存在はネオ・ジオンでは勿論「真の」アイドルである。
ただ、やはり本人も男なのであるし、普段の態度は務めて大人で冷静で落ち着きが有り、しっかりとした上位軍人の態度を崩さないように努力している様だ。
過去には「白い悪魔」と怖れられた彼は、現在もMS部隊の隊員達を鍛えるその厳しさが「氷の女王様」とも影で怖れられている。しかし褒めるトコロはしっかりと褒めて「慈愛の女神様」ぶりも発揮するので、本当に隊員達にはたまらない「一生ついてゆきます!」な上官なのだが。
それ故に、そんな隊員達にもこんな可愛らしい一面まで見せてしまったとしたら…萌え心が止まらなくなってしまった連中にそれはもうもうっ!……な、絶対に犯罪が起こってしまうわっ!危険だわっっ!…と常日頃考えている2人は、自分達だけの前にしてくださいませねっ少佐ーっ…と思っている。
「そういえば少佐の誕生日はついこの間でしたね…どういうプレゼントでしたの?」
「そうね…それ聞かないとアドバイスもねえ……」
「ええっっ?!…言わなきゃ…ダメ…かい?」
「ええ♪教えてくださいよーっ少佐っっ♪」
興味津々な様子の2人に、仕方なくアムロは恥ずかしそうに誕生日当日の出来事を話し出した。

アムロからそれを聞いた後、やはりナナイとレズンは顔を見合わせる…
-----ちょっ…ちょっとっっ!砂吐くくらいっ強烈なんですれどっっ!!
-----…この宇宙世紀において、ベッドを花で埋める男…うわわわ…
-----確かに総帥閣下ぐらいしか実行する男も似合う男も居ないケドね…
-----…でも…女として1回くらい体験してみたいかも…?うふふ…

コソコソ、くすくすと笑い合う2人を見つめて…やはり黙っているべきだったか…俺は相談相手を間違えたのでは…とアムロは少し後悔をし始める。
「解りましたわっっ少佐……そのご相談はこのレズンにお任せくださいなっ」
レズンは自分の胸に手を当てて、わざとらしい態度を取っている。
「恋愛経験豊富なワタクシが、そんな少佐のお悩みにズバリお答えしましてよっっ☆」
「…え…え?…そ、そーなのか?」
その言葉に意外に思うアムロに、ナナイ戦術士官は冷静な一言を付け加える。
「…断っておきますが、少佐…レズン中尉の成績は確かに撃墜率は100%ですが、その後の捕獲率はゼロですので…そこのトコロをご考慮なさいますよう…結婚願望高くても未だに独り身ですからねっっ…ほほほほ!」
「うるさいわねえっっっナナイっっ!ちょっと長続きしないだけじゃんっ!…少佐…ワタクシ、これでも本気で狙った男は外しておりませんのよっ!記念日に男を喜ばせる方法などいくらでも伝授して差し上げますわっっ!!」
一瞬たじろいだアムロをある意味無視して、レズンはナナイに紙とペンを要求した。

「…どう?戦術士官殿」
「………悪くはないかもだけど…コレを少佐にやれって言うの?アナタ…」
じーっっと何やら書かれている紙を見つめるナナイの眉間には皺が寄っている。
「……このミニスカメイド服コスで出迎えるとか、ベビードール下着でベッドで待っている…ってのは少佐には無理だわ……だいたいこんな行為は清楚な少佐のイメージに合わなくてよっ!…そうですわよね?!アムロ少佐?!」
「…………合わない以前の問題だと思うよ……」
小さい声で応えるアムロは、相談した相手をやはり本気で後悔した…が、もう遅い。
…やっぱり面白がられているんじゃっ?!
「そう?ベビードール姿なんて良いと思うけどなー…じゃ、こっちの脱いだらいきなり過激な下着なんですっっ…てのもダメ?」
「…ううん……何だか新鮮じゃ無いかも?って気がするのよね…」
その勘の良いナナイの言葉にアムロは思わずギクリとする…。
「でもせっかくの記念日だもの…いつもと違う自分を見せるのがアリと思うわよ…ねえ少佐?どう思います?」
「どう…って言われても……」
思わず頬が赤らんでくるアムロであった。
「…それさ…もしかして全部……夜…のコト?」
オズオズと聞いてみたが、2人の美人士官はアッサリと言い切った。
「そーですよー?それが何か?」
「夫婦なら当然それでいーじゃないですかー」
…ああっ!!…自分は出来るだけその方向を避けてきたというのにっっ!!
「だいたい『あの』旦那様のコトですよー?奥様からの行為ならーそれが一番喜ぶに決まってますわよ♪」
「まあ『あの』大佐なら、少佐が身体に赤いリボン巻いて『プレゼント♪』ってだけでも凄く喜ぶと思いますけどーっっ♪」
……そんなイメージなのか…あの人は……やっぱりと言うべきか?
思わず頭痛を覚えてしまう。
「とにかくっっキーワードは 『いつもと違う夜を自分からプレゼント♪』 ですよっっ少佐!これならイチコロですっっ!大佐、大喜びですっっ!!」
ビシイッッとレズンに指を差されて、アムロはますますたじろいだ。
「うう…うっ…でもっっそんな…コト……」
ナナイはその紙をアムロの前にバンっと指し出して、其処に書いてある文字をビシバシ差しながら真剣な表情で訴えてくる。
「アムロ少佐…たまにはですね…こーゆーコトとか、こーゆー行為も…はたまたコレとかこの体位とかですね…自ら行ってその愛を表現されるコトも『妻』には必要ですわ!今こそ絶好の機会ですのよっっ!!」
こんな美人達が、それこそ明け透けにこんな話題を振ってくれるのは、色々な意味で嬉しいコトなのかもしれないが…今のアムロにはあまりにもストレート過ぎるお節介であった。
「……そ…そういうの…ちょっと俺には無理じゃない…かな…と…」
ボソボソと呟くアムロに2人は身を乗り出して熱弁を振るう。
「恥ずかしがっててはダメですわよっ!奥様っっ!」
「そうそうっっダメですっ…愛しているならそのくらいは当然ですっ!!」
そして2人は美しいユニゾンで訴えてきた。
「「貴方達は宇宙一の夫婦なのですから〜〜っっ!!」」

…どう関係有るんだーっっっ!…と叫びたくなった。
思わず泣きたいっっという表情になったアムロに…レズンがいきなりニコッと笑いかける。
「少佐……そんな恥ずかしいコトも実行出来るとっておきの方法があるの…ですけど?」
ふふふ…とそれは楽しそうに笑ってくる部下に、やはり一瞬怯んだのだが……

 

 

17日…誕生日当日である。
シャアの意向もあって、公邸ではいつもと変わらぬ朝であった。一応アムロは目覚めのキスの時に「おめでとう」と小さく伝えたが…。
いつもの様に自分を見送る妻に幾度かのキスをしながら、その夫はそっと囁く。
「今夜は早く帰るよ…」
殊更の甘い響きを込めた声に、アムロの身体は思わず震えた。

…結局、物品的なモノは何も用意してない…
今日の帰りに買う方法もあるが…ああ、どうしよう?
そんな風に悩みながら、MS隊本部の自分のオフィスへと歩いていると、後ろから自分を呼ぶ大声がしてきた。
「少佐ーっっっっ!おはよーございますうぅぅぅーっっ!」
ぶんぶん手を振る大変元気の良いレズン中尉である。
「おっおはようっっ…レズン中尉…」
先日のコトもあって何となく怯むアムロの腕を、レズンは遠慮無くガシっと掴んで、そそっと壁際に彼を連れて行った。その行為に、側にいたギュネイは思わず焦る。レズンは可愛くラッピングされた花柄の小さな袋を取り出した。
「少佐…コレは私とナナイからの、少佐への応援グッズですっ☆…今夜は頑張ってくださいねっ♪ふふふ♪」
ではーっっ…彼女はアムロから離れて元気よく去ってゆく。何気なく手渡された袋を少しだけ開けてみて…途端にアムロの顔はボンッと赤面した。
「少佐っっ何ですか?ソレ…」
敬愛する上司の不思議な表情に、ギュネイは素直に心配し質問してみる。
「なっ…何でもないーーっっっ!!」
アムロはその可愛い袋を思わず後ろへと隠すのだった……

 

予告通りにシャアは早く帰ってきて、アムロもいつもの様に出迎えた…つもりであるが、無意識にソワソワとした…落ち着きのない態度になっていたらしい。
「どうした?アムロ…」
シャアはいかにも…な表情で耳元で試すような言い方をする。
「な…何でもないよ」
そんな妻の様子につい期待が膨らんでしまう…こんな日の自分はどこまでも俗物で良いさ、とシャアはつい口元を緩めるのであった。

その日のディナーは邸の主人の誕生日に相応しいメニューにはなっていた。こんな日を2人だけで過ごす事にシャアはとても満足しているらしい。
「大事な誕生日なのに…本当にいいのか?」
「まあ…一部の側近共は色々と進言してきたが、何事かの行事は今は不要だと思っている。今夜君と過ごせる事が…私には余程大事だよ」
シャアのその言葉は、やはりアムロには嬉しいものであった。一応まだ新婚4ヶ月目辺りであるので、それに甘えても許されるだろう。…いや、この後も万年新婚カップルと、彼等は言われ続けるのであるが。
…そう…2人だけで過ごす事をシャアは選んでくれたんだ…だったら…
自分もちゃんと応えなければならない。アムロは手にしたワイングラスの中身をイッキに煽り、給仕役に更に中身を注いでくれる様にお願いした。

いつもより特別な2人だけのディナーは、優しく甘い雰囲気で進んでいたのだが…シャアはふと気になる事が出来てしまう。
……アムロのペースが異常に早いな……
元々其程アルコールを好まない彼なので、普段の食事時のワインなどもさほど量は口にしない。確かに今夜はアムロが大好きなワインを開けたのだが、それにしても……かなりのハイペースでその白ワインを呑んでいる。
「アムロ…今夜は珍しく呑むな…」
「ん〜…だって…特別な日だからぁ……」
赤らんだ顔色とその口調に妻の状態を素早く感じ取り、シャアはワインを下げる様に給仕役に合図した。
「あーっっ…ダメっっ…もっと呑むんだからっっ!」
「アムロ……」
理由が解らない妻の様子にシャアは少しだけ眉を顰めた。

案の定、食事が終わってダイニングルーム出ると…アムロの足元はかなり覚束ない。階段をとても昇れる状態では無かった。
「ああ…大丈夫だ。私が運んでいく」
心配する使用人達をシャアは安心させる様に言うと、軽々と妻を抱き上げる。
「シャアっっ…歩けるよおぉぉ…下ろしてっ」
「解った解った…すぐそこだからな」
こんな特別の日に、思いがけず酔っぱらいの世話をしなければならなくなってしまったシャアは…そこで軽く溜息を付いた。

仕方がないので、そのまま主寝室へと運んでいく。
ベッドに優しく下ろすとアムロは何故か楽しそうにケラケラと笑った。
「どうしたと言うのだ?アムロ…」
「ん……シャア……好き……」
「それはありがとう、私も愛しているよ」
優しく彼の髪を梳いてやると…ふふふ…と笑ってからアムロは…目を閉じた。
…当然、その後に彼の寝息が聞こえてくる。
暫くそんな妻の様子をベッドの端に座って見下ろしていたシャアは……
今度は大きな溜息を付いた。
……せっかくの誕生日だと言うのに…どうしたのだっアムロ!私を祝ってくれるのでは無かったのかっっ?!
アムロがいつもと様子が違う事が気にはなったが…シャアはかなりの落胆を感じている。少々俗物的な期待をしただけに失望が大きい。
…仕方が無い…取り敢えず汗を流してさっぱりするか……
もう一度軽い溜息を付いてから…アムロの頬に一つキスを落とすと、シャアは立ち上がり浴室へと足を運んだ。

 

「…と、とっておきの方法って…??」
きょとん?とした表情のアムロにレズンは自信満々の態度で告げる。
「それはですねっっ…全部アルコールの所為!にしてしまう…ってコトです☆」
「ああ〜〜アナタが良く使う手ね」
ナナイの再びのツッコミに、もう黙ってっっとギッっと睨み付けるレズンである。
「あ〜酔っちゃったぁどうしよう〜〜?とか、もう酔っちゃったからこんなコト出来るのーっとか…色々と使えますわよ?全てアルコールのせいにして新たな自分を発見出来る事もありますわっっ!!」
「そうそう、別れを切り出した男を、酔ったせいにしてフルボッコにしたり…とかやってるそーですわ、彼女」
「…それは今は関係ないでしょうがーっっっ!とにかくっっ少佐っっ…アルコールは便利なアイテムですって☆」
ウインク付きで勧めてくるレズンに、ははは…と笑って応えるしかないアムロである。
「そ…そう……女の人って大変だね…」
「女も男も関係ありませんって!…試す価値はあるかもですわよー?少佐♪」

 

「……う…ん……試してみる……」
むくっ…とベッドからアムロは起き上がった。
トロン…とした目で、周囲を見渡し…シャワールームとは別の、浴室へと繋がる扉をじいぃぃ…と見つめる。
「…シャア……そこ……?」
ノロノロとベッドから降りると、アムロはふらりとその扉へと歩いていった……

 

後半へ→
(それなりのアレコレシーンがございます…自己責任で閲覧下さいませ)

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在り来たりなネタで大変申し訳ないですがっ……後半は勿論17日に
UPいたしますーっ☆☆    (2009/11/14 UP)