-----千年の王国・百の夜------

 

 

 

《 第八夜 》

 

 

ソファーに座ったままで…アムロの震える指が着ているシャツの釦を一つ一つ外してゆく。
全てを外し終えると…シャツの端を持ってゆっくりとそれを開いていった。
目の前に現れた光景にシャアは思わず息を呑む。
ベージュ色のほとんど飾りの無いシンプルな下着に包まれた…丸く盛り上がった大きな…過去のアムロには有り得なかったモノ…がそこにある。居間の淡い灯りの下ではアムロのその白い肌は実に良く映えた。
その美しさにただ凝視する自分は…恥ずかしくも10代の若者にでもなった様にただ興奮を覚えていた。
豊かなその膨らみが幾度も上下し…震える肌と共にアムロの緊張感を伝えてくる。
キュッと瞳を閉じてアムロは、両手を背中に廻した。その手がホックを外すと、狭く押し込められていたその質量がぶるんっ…と解放感に喜ぶように弾んだ。
アムロはまだ震える両掌でゆっくりとその下着を上へとずらしてゆく。
シャアの予想以上に…豊かでとても形の良い美しい乳房がその全てを現した。それはまさに理想の滑らかなカーブを描いてつんと上向いており、その頂上を覆う桜色の部分も控え目に、だがその形も美しくその存在が大変艶めかしい。
「…とても綺麗だ…」
ほぼ無意識にその言葉は紡がれた。
「そ…そうかな…?」
「君は自分で見ていて…そうは思わないのかね?」
「……何だか…顔と身体全体を見てると…ココだけ…何だかバランス悪い気がする…」
「いや…そんな事は無いだろう…全体的に見てもとても綺麗だよ」
そう言いながらシャアがそこに顔を近付けてきたので、思わずビクリと身体を震わせた。
「うむ…アムロの肌は以前からとても綺麗だったが…それは変わらないな」
その息を柔らかな肌の部分に感じて、更にぶるっと震えが来る。
「本当に綺麗だ…触りたくなる…」
「…?!みっ…見るだけってっっ…!!」
その姿勢のまま、無言でシャアが自分を見上げてくる。その蒼い視線を受けて、アムロには背中をゾクリと何かが這い上がる様な感覚があった…。
シャアはずっと視線を逸らさない。その蒼色はある意味威圧感を湛え、懇願や慈愛の様な複雑な色合いをし、アムロの奥底に訴えかけてくる。
……昔と同じだ……
卑怯だ、とアムロは思う。この視線に俺が弱いの…知っていてっっ…
再び瞳を固く閉じて、アムロは本当に小さく…ゆっくりと頷いた。
シャアの指がその柔肌に静かに伸ばされる。
「…あっ…っっ…」
触れられた途端に声が自然に上がった。それはアムロにとっては未知の感覚だ。
今まで胸を触られた時の感じ方ともやはり少し違う…くすぐったいより妙に甘く感じる痺れが身体の奥に…何かがぎゅっと伝わる。この感覚がアムロには未だ何なのかが解らないのだ。
シャアは両掌でその乳房を優しく包み込む様に触れて、そのままゆっくりと持ち上げた。自分の掌にさえ収まらないその大きさに感嘆しながらも…その柔らかさを確かめる様に指を動かし上下させた。それはふるんっと心地良く弾み、シャアの目も感触も楽しませる。
ゆっくりとそれぞれの指を動かして、その滑らかな肌と柔らかさの感覚に酔う。やがて人差し指がその一番上の尖りを捉えて、その形を確かめる様に不埒に動いた。
「…んっ…!…やっ…だっっ…」
ぶるるっと大きく震えてアムロはイヤイヤと首を振る。
「…相変わらずココがとても敏感な様だな…とても可愛らしい…」
指の腹に徐々に固く立ち上がっていく感触を感じて、シャアは口元を吊り上げた。
綺麗な桜色…まさにヴァージンピンクといったところか…
…ああ…此処に早く…吸い付きたいよ…アムロ……
「…!!そっ…そんな事を今したらっっっ!!ほっ…本気で殺すよっっっ!!!」
…思考はしっかり漏れていたらしい。顔を真っ赤にしてその瞳は本気で怒っていた。
「…解っている…だから今はちゃんと自重する…」
「そっ…そんなニヤけた顔でっっ…言うなーっっ!!」
ニヤけた顔になるのは仕方がないだろう?…とシャアは再び笑う。
「私は逆に褒めて欲しいくらいだな…こんな生殺し状態で鉄の忍耐力を見せているのだから」
「……んっ…そっそんな…触りながら…言う言葉…か?」
相変わらずとても優しい愛撫だけれども…。
「…私は待っているよ…君が許しをくれるまで…な」
解っている…本気だったらこんな触り方で済むわけがない、という事も…。
「……そっそれは……わ、悪いとは…思っているけどっっ…ぁん…」
確かに男として…シャアの忍耐強さには敬意を払うつもりはある。最近のスキンシップの多さは身体の関係があったという過去を直ぐに思い出させるし…自分達はいつベッドインしてもおかしくない「恋人同士」だろうから。
しかし事が事だけに…やはりアムロは今はそのつもりがない。
良く解らない身体のままでシャアを受け入れるという事は…確かに正直に言って怖いのだ。
自分を優しく紳士的に扱おうとしてくれるシャアの気持ちはとても理解出来るのだが…SEXそのものの行為に関しては、決して紳士的に済まさない男である事は…よーーく知っているし。
だいたい男である時に「優しく抱かれた」なんて記憶はない。「男だから」容赦なく激しく求めてきたのだろうが…自分も「男だから」そういう扱いも別に構わなかったし…逆にその欲望の激しさと熱さが嬉しかった。獣の様に求め合える事に信頼さえ感じていた。
だから…今の自分は当然「処女」であるが…シャアは「初めての時」にいったい自分をどんな風に抱くのか…想像が出来ないだけに…怖い。
優しく心が傷付かない様に…してくれるとは信じたいのだが。
それでも……。
「アムロ…キスしても?」
「…え?…うんいいよ…」
そっと優しく唇が塞がれる。そのまま抱き寄せられて、肌が直接シャアのシャツに擦られる感触に身震いした。互いのジーンズ越しに下半身が触れる。彼がしっかり興奮している事を感じ取り更に震えが走った。当然の事なのだろうけど…。
唇が離されて互いの顔を覗き込む。…きっと自分は泣き出しそうな情け無い顔をしているに違いないとアムロは思った。
「アムロ……」
その優しい声に更に泣きそうになる。
「……ご…ごめんね………でも…もう……」
「解っている……もう無理をさせるつもりはない…」
思わず自らシャアにしがみつき、そのまま啜り泣いた。自分の背を優しく抱き締める彼の掌の熱さが…とても苦しくて辛くて。
「…シャア……もし貴方が望むなら……俺が………する?」
大丈夫…愛する人の欲望を沈める方法は昔だってちゃんとしていた。
予想もしなかったアムロからのその提案に流石のシャアも一瞬瞳を見開いたのだが…直ぐにまた穏やかな表情へと戻る。
「…いや、アムロ…私は君にそれだけを求めているのではないのだから…大丈夫だ」
優しく赤い癖毛を撫でて幾度もその髪にキスを送る。
「シャア……」
今の自分をどれだけ大切に想ってくれているか…それが痛い程に感じられて…

もう自分は…身も心も「女」になってしまったんだ……

アムロはシャアの胸の中で初めてその事実を自覚したのだった。

 

 

 

「ああ…もうダメダメっっ…ほらほら順番だよー?」
きゃうんきゃうんっ…と持参の犬用の玩具に群がる子犬達を、きっちり制する手筈は妙に慣れたものだ。その小さい全身でじゃれつき必死で遊びを要求してくる子犬達のお相手は…正直シャアは少々苦手であるのだが、アムロは全く動じず、今日も全身子犬まみれになって大変ご満悦した様だ。
「君がそんなに犬好きだったとは知らなかったな」
「うん、俺も知らなかった」
一匹の子犬を胸に抱えて、アムロはその額にキスを送っている。お返しとばかりに子犬に顔を舐められてはしゃぐその笑顔を、更なる笑顔で見つめているシャアである。
「君のそんな姿を見ていると……」
「?…何?」
きょとんとして首を傾げて次の言葉を待っているアムロが…あまりにも可愛すぎて。
「いや…何でも無い」
思わずシャアは口を押さえて視線を逸らした。
-----「母性を感じる」などと言ったら、殴られるかな…?

 

牧場からの帰り道をいつもの様に手を繋いでのんびりと歩いていると、ふとアムロが気付いた様に声を上げた。
「…アレ?…何だか下の道の方で……何か光った」
「?…そうか?私には見えなかったか…」
シャアが目を懲らすその先には……
「ああ……どうやら人間の様だな……こちらに向かって歩いてくる」
その声色が少し固くなる。
「…そっか…光ってたのは……金髪か…」
2人で立ち止まってその方向をじっと見つめた。
徐々にその姿がハッキリしてきた。何やら凄い勢いをつけてズンズンと丘の道を上がってくる。シャアと全く同じ色の金色の髪…スラリとした美しい体型の女性だ。良く見ると後ろから焦る様に必死な様子でレモンドが付いてくるではないか。
その女性は2人から1メートル程の距離まで来て…やっと立ち止まった。はあはあと息を少し荒げて…しかし真っ直ぐに2人を見つめている。
「…久し振りだな……アルティシア」
最初に口を開いたのはシャアだった。
「え…えっと……すみません…わざわざ……お久し振りですセイラさん…」
アムロも頭を下げて取り敢えず挨拶を…とした。
その美しい顔を強張らせて強い視線で2人を見つめていた…セイラはその言葉を受けて少しだけその表情を緩めた。
「……ったく……あなた方は……」
少し震える懐かしい声色。そこでやっと視線を外し…少し乱れた自分の髪を整えるように手を掛けている。
「…あまりにも……緊張感が無さ過ぎるのでは…なくて?…すっかり拍子抜けしましたっ」
再び厳しい表情で2人を見つめてきたが、その顔はアムロには良く知っている…懐かしい「金髪さん」の顔であった…。

 

 

 

出されたお茶には誰も手をつけず…ある意味重苦しい沈黙がこの部屋には漂っている。
「……本当に……生き残っていたのですね……本気で信じられません」
やっと沈黙を破ったのはセイラの声である。
目の前に居るのは確かに兄、キャスバルに間違いは無い。そしてその隣に寄り添う様に座り、シャアがその左手を握りそれを自分の膝の上に置いている…この兄の「恋人」である様な雰囲気の見知らぬ女性…も、確かに自分の記憶の中のアムロ・レイと一致する。
「…我々もそう思っている……奇跡が起きたようなのでな…」
セイラはアムロの方へと視線を移す。
「奇跡……アムロのその身体もその奇跡という事なのかしら…本当に…信じられないわ」
アムロは応えずに少し俯いた。シャアはその様子を見て握りしめていた手に少し力を込める。
「ああ…信じられぬ故に……確かめたいという事だ。それをアルティシア、お前に頼みたい」
「……その前に私も確かめたい事があるわ」
兄の瞳を全く同じ色の視線でキツく見つめ返す。
「兄さん…貴方は……生き残った今、これからどうするおつもりなのですか…?」
「私がネオ・ジオン総帥である事は変わらない。宇宙へと戻りその責を果たす…それだけだ」
一瞬の間さえ無く答えられた事が少々セイラの癇に障った。
「……まだ…連邦政府と争うと言うの…?戦争を止めるつもりはないと…?」
「…その戦争を止める為に私は戻るのだ…アルティシア」
「そんな…そんな事が本気で出来ると思っているのっ?!兄さんっ」
思わず声が上がり、セイラは大きく首を振った。
「兄さん…っっ…貴方は……5thルナを墜とし…大勢の人を殺しました!貴方は人として大罪を背負っているのよっっ…!多くの人が貴方を許していない…憎んでいるわっっ!!…そんな兄さんに平和への道を切り開けると思って?!」
その慟哭の様な訴えに、傷付いたセイラの想いを痛い程に感じ…その辛さにアムロは思わず表情を歪める。そして傍らのシャアを見つめる……だが顔は…
「…では…お前は…その大罪を犯した私が何せずに…このままただ安穏と生きてさえすれば良い…とでも言うのか?それとも…その罪を償い…命を絶てとでも?」
「……?!そ…っ…そういう意味ではありませんっっ!!」
シャアはその視線を妹から全く逸らさずにしっかりと見据えていた。
「…確かにあの時の私は…『道を間違っていた』と言える。だから今は他の道を取り、やり直せると解ったのだ…それをアムロが教えてくれた…」
一度アムロを穏やかに見つめてから、再び視線を戻す。
「私はその罪を全て受け入れる。逃げるつもりはない。そして全てをやってみて…それでも駄目ならば、気の済む連中にいくらでもこの命を差し出そう…」
「……兄さん……そんなの…そんな事……」
セイラの表情はみるみる歪み…今にも泣き出しそうな顔となった。
「……どうして……わからない……私には……」
必死で耐えようとしているが…やはりどうしても溢れてしまう涙をセイラはもう止める事が出来なかった…
「…お前に理解をして貰おうと思う事は…今の私には身の程知らずであるな…すまん…アルティシア」
泣き出す妹に頭を下げる……そこで初めてアムロが口を開いた。
「…違う…違うよシャア……セイラさんは貴方をとても心配しているんだよ…」
「アムロ…?」
シャアは己と妹を交互に見つめるその深い藍色を覗き込んだ。
「貴方がこれから行く道…とても厳しくて辛い事…実現出来るかどうか解らない事……セイラさんはちゃんと解っているんだ…だから……だから本当は行って欲しく無いんだよ…」
シャアの表情が思わず変わる。セイラもアムロのその言葉に身体をぶるっと震わせた。
「あ…アムロ……私は…」
アムロはその不安げな「金髪さん」を優しく穏やかな表情で見つめる……昔と逆だ…とふと思う。
「…セイラさん…大丈夫です……確かにその道はとても辛いけど……もうシャアは一人じゃないから大丈夫……俺が見てます…もう何も誤らないし寂しくもありませんから……」
「…アムロ…」
シャアはその握る手にギュッと力を入れた…今すぐにも抱き締めたい衝動に駆られる。

「…アムロ……まさか………兄さんっっ!!アムロも宇宙に連れて行くつもりなのっっ?!」
涙が止まった顔は今度は驚愕の表情となった。
「ああ…正式にネオ・ジオン総帥夫人としてアムロを……」
「いいえっ!駄目ですっっ!!」
シャアの言葉が言い終わらぬうちにセイラは力一杯叫んだ。

「アムロを連れて行く事は…私は…絶対に絶対にっっ…許しませんからっっっ!!」

 

 

 

NEXT

BACK

-----------------------------------------------------
…私はただ欲望に忠実なだけの女……… (2009/10/17 UP)