-----千年の王国・百の夜------

 

 

 

《 第六夜 》

 

 

4時間ほどの緩やかな時間を外で過ごしてから、2人は山荘へと帰宅した。
「疲れなかったか…?」
「ううん…全然大丈夫だよ」
玄関に着くと、マーサがその恰幅の良い身体を揺らして2人を明るく出迎える。
「お帰りなさいませ…お天気がずっと良くてようございましたね〜お外はどうでした?アムロさん」
「とても楽しかったです…下の牧場にはたくさんの動物が居るんですね」
と明るい表情で返してくるアムロに…マーサはおや?と思う。
「本物の牛…というものにかなり驚いていた様だったな」
からかう様な笑顔を見せて言うシャアにアムロは少しむくれた表情を向ける。
「…だってそうそう触れる機会なんてないからさ…もう言わないでくれよ」
おやおや…たった数時間の外出が、随分と素敵に関係を変化させたこと…とマーサは微笑む。
「久々の運動にお腹が空いたことでしょうから…夕飯はボリュームのあるものをお作りしますね」
2人はマーサに「ありがとう」と告げて階段を昇ってゆく。シャアがそっとアムロの腰に手を添えてその身体を支える様にする仕草は、今までの中で最も自然な光景として彼女の目には映ったのである。

 

アムロの部屋の前まで来ると、シャアはその細い腰を自分の方へと更に抱き寄せて…口吻を与える。
「…ん……ふっ……」
外で幾度か交わしたキスより明らかに濃いキスを。
アムロも拒まずに受けているが、内心は『この強引な男を図に乗らせない様にしないと…』とは思っている。
自信が無い時は人をまるで壊れ物の様にそっと扱うくせに…一度愛を確かめ合い心の障壁が壊されると本当に強引で大胆になってしまう男なのだ。アムロは過去にそれは痛い程に解る経験をしているので、今のこの…シャアの舞い上がっている?行動は理解は出来るのだけれども…。
…でも…今は…これ以上のコトを許すつもりなんて…無いから…
まだ蟠る心のこのざわめきを…捨ててはいけないのだ、とアムロは考えている。
じっくりとアムロの口内を味わっていたシャアはやがて唇を離すと、愛しいその濡れた唇を親指でなぞりながら静かに告げた。
「アムロ…夕食後で…今後の事について大事な話がある」
「…………」
言葉では応えずに少し目を伏せてシャアの熱い視線から逃げる。長めの睫毛の震えからその戸惑いは理解は出来るが…自分の変わらぬ意志だけはどうしても早めに伝えたかった。

 

 

まだ夜は暖炉の灯を必要とする地方である。
この広い居間の暖炉前はアムロのお気に入りの場所であり、その前に敷かれた毛が長めで柔らかいフワフワの絨毯の上に直接腰を降ろして、その火を見ているのが好きであるようだ。
今夜もアムロはその暖炉前に膝を抱えて座っている。パチパチと響く心地良い音…淡い灯の朱色がその横顔を微かに照らしており、シャアはそれを素直に綺麗だ、と思った。
暫くは側のソファに座ってその様子を、まるで愛しい宝物を見つめる様に眺めていたが、静かに立ち上がり…そしてアムロのすぐ側に跪く。

アムロは黙ったままシャアの方へと向き直り、その表情を見つめて返してきた。
シャアも何も言わずにそっとアムロの両手首を優しく掴み、己の両手で恭しく持ち上げる。そのまま以前よりいっそう細くなったその両手首に、唇を幾度も軽く押し当てた。優しく何度も…何かを懇願する様に許しを請う様にと、シャアはアムロの手首と掌の内側にたくさんのキスを送る。
その様子をじっと見つめて……くすぐったい…かも…とアムロは思った。
両方の手首から感じる柔らかい唇の感触はそこからじんわりと…アムロの胸の内でさえもくすぐったい気分にさせる。
やがてシャアは両手を静かに返し右手だけを取って、その手の甲へと恭しい仕草でキスを落とす。
ドキン…と一際大きく自分の心臓の鼓動が聞こえた。
次は左手を取り、同じ様に手の甲にキスをして…そのまま唇をアムロの薬指へと滑らす。
アムロの鼓動は更に早くなった。
やっと顔を上げて自分を見つめてくるその蒼氷色の瞳が少し揺らいで見える…。
「……アムロ…」
アムロの左手を持ち上げたまま、シャアはやっとその名を呟く。
「もう解っていると思うが…私はここでの療養を終えたら再び宇宙へと…ネオ・ジオンへと帰還する」
アムロは目を逸らさずにその蒼氷色を見つめていた。シャアもその藍色の瞳をしっかりと捉えている。
「……その時は…一緒にネオ・ジオンへと来て欲しい……私は君を…」
シャアは再びその左手の甲へと優しい口付けをした。
「ネオ・ジオン総帥キャスバル・レム・ダイクンの正式な妻として…迎え入れたいのだ…」
「…………」
アムロはこの言葉を予想をしていたのだろうか?表情を一切変えずにただシャアを見つめている。

暫しの間2人はただ見つめ合い…やっとアムロが口を開いた。
「………断ったら……どうするの?」
「何度でも…君が頷くまでプロポーズし続ける」
間髪も迷いも無しの即答だった。
「……嫌だって…言っても?……シャアなんか大嫌いだっ…て言っても?」
「絶対に好きにさせてみせる」
…また即答?…少しくらい…考えろよ……
「……何で……俺…なの?何で俺が…いいの?」
「君がアムロ…だからだ」
…本当になんて強引な結論だよ……貴方って本当に……
「私がいったい何年待ったと思っている?今更な質問だな」
身体が震え出す。解っていても自分が受け入れられない事実も…シャアは全てを受け止めてくれる事も…本当はとっくに知っているのだ。彼が其程までに優しい男だという事も…。
「…こ…こんなに…俺…こんな変わっちゃって……もう…貴方の……」
「それは…もう言うな。今のアムロが出来る事を考えてくれればいい…」
ポロポロと涙を零すその顔が心から愛しくて…繋いだ手からもアムロの優しい…決して拒まず受け入れてくれる波動を感じて…シャアも泣きたい気分になった。
「……あ…なた……本当に…ばか……だよ…」
「そうだな…でも君の為にそうなるのなら…私は永遠に愚か者でいいさ…」
シャアはもう一度だけその震える手の甲へとキスを落とす。
「愛しているよ…アムロ」
言葉が言い終わらないうちにアムロが思いっきり抱き付いてきた。そして声を上げて自分の胸で泣き出す…その華奢な身体をしっかりと受け止めてシャアも力強く抱き締め返す。
やっと自分の望みは叶えられたのだと……シャアも震える気持ちをもう抑えられなかった。

 

 

華奢だが柔らかいアムロの身体を抱き締める手を緩めて、その顔を覗き込む。顎に手を掛けて唇を重ね合い…熱い口付けを交わす。幾度もその角度を変えてじっくりと甘さを味わいながら、シャアの手は自然と「以前の様に」アムロの背中を彷徨い、そのまま腰から臀部へと降りていった。アムロの身体が大きく跳ねる様に震えたが全く躊躇せずに続ける。
前の身体より更に丸みを増し…だが弾力のあるその部分を愛しげに撫で回し続けて、もう片方の手は無意識に、先程から己の身体にその存在感を押し付けてくる胸へと伸ばされた。
……?!…いつ…いやだっっっ…!!
当然拒むアムロの思惟を感じ取りながらも、そっと…シャツの上からその膨らみに触れる。
「……!…っっんんっっ…!!」
シャツと下着の上からでも解る…その柔らかさと豊かさにシャアは興奮を隠しきれない。そんな何を今更…こんな歳になっても…?と自分のその欲情に少々驚きながらも…ゆっくりと形を確かめる様に、その掌はアムロの膨らむ胸の上を彷徨う。シャアの指が少し動くその度にアムロの身体は跳ねる様に震え…当然その反応は不埒な男をますます興奮させていった。
背中に廻した拳でアムロは何度もその広い背を叩くが…一向に止めてくれる気配が無い。
……ヤダっってっっ…!もっっもうっ…触るな!バカあぁぁ…!!
……何故?昔と…全く変わらない行為だろう?アムロ……
重ねられたままの唇…口内を犯されながら受けるこんな愛撫は…以前にもあったけど。
男の身体の時もシャアは良く胸を撫で回していたけど……でも……でもっっ
…ダメっっ!!まだ…まだっっ……せめて…ここまでで止めろよぉぉっっ!!
頭の中で必死に訴えるも…シャアの指がシャツの釦を外し始め……
その瞬間、アムロはその金糸の後ろ髪を思いっきり…それは思いっきり引っ張った。
「……!!??…ア…ムロっっ?!」
その勢いで重なった唇が外れて、シャアが流石に痛がる表情を見せる。
「ばっ…ばかっっ!!……うっ…嬉しいのっっ解るけどっっ!!この先は…俺がいいって言うまで絶対にダメだからなっっっーー!!」
アムロはもう一度髪を強くグイッと引っ張る。
「………すまない…つい興奮した」
素直に反省し謝る目の前の愛しい男に…怒りやら嬉しさやら切なさやら…とにかく色々複雑に混じった感情を向けてアムロは
「……ずっと抱いてて…ただ抱き締めるだけでっっ…それがちゃんと出来たら許すっ!」
と釘を刺す様に思いっきり言い放つ。
…ハッキリ言って今のシャアには拷問の様な状況だが…これ以上怒られてせっかくのプロポーズを台無しにされたら…それこそ更にもっと地獄である。
大人しくその言葉に従って、そっと優しくアムロを抱き締め……きちんとその言いつけを暫くの時間…アムロが満足するまで、しっかりとシャアは守り通したのであった。

 

 

長く抱き合って2人の心がまったりと溶け合った頃…
「…一緒に来てくれるのだな?…アムロ」
シャアが改めてもう一度聞き返すと、腕の中の愛しい存在は小さく頷いた。
「…うん……貴方と一緒に居たい……でも…」
「もう『でも』は無しだ…アムロ」
アムロの頬に手を掛けて自分の方へと仰向けさせる。確かにその表情に不安な色は少しあるが…。私の腕の中でもうそんな顔はするなっとつい言いたくなるシャアである。
「…シャア……『でも』…本当に…解らないよ?」
「だから…何がだ?」
「………俺の……身体…の事…」
アムロは何とも言い難い複雑な表情を作った。
「だって……いきなりこの身体になった…のなら……いきなり元に戻るかもしれない…って…今ふと思ったんだ…けど…どう思う?」

 

 

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……やはりどーしても我慢出来なかった総帥閣下を許してやってくだせぇ…!(2009/10/5 UP)