2.0081 〜 BIRTHDAY 〜 T

 

 

ネオ・ジオンは建国宣言と共に、首都を「スウィート・ウォーター」という名のコロニーに新たに置いた。旧共和国首都コロニーのズム・シティとは、さほど離れていない場所にある。
アムロの所属する第33部隊は旗艦ペールギュントを中心に巡洋艦13隻、所属MS数35と少数精鋭の最強部隊であった。いざという時は総帥閣下直属の親衛艦隊となる。ちなみにアムロは今17歳…その隊の中で最も最年少だ。当然の様にアムロ以外には十代の若者は所属していなかった。

重要監視エリアを他の部隊と交代して、アムロ達は10日ぶりに首都に帰還した。彼らには明日から3日間の休暇が与えられて、その後再び他の「小競り合い」エリアへと赴くことになる。いつまでこの状態が続くのかは未だ不透明であるが…今はただ少しでも連邦軍に脅威を与え続けられれば良い…それが彼らの役目なのである。

最後のミーティングを終えてそれぞれの家に帰宅する兵士達は…どの部隊もそうだろうが最高にご機嫌が良い。誰もがやたら陽気で開放感に満ち溢れている。
そんな光景をアムロも微笑ましく見つめていた。自分はネオ・ジオンに来て初めて戦場から帰る…ちゃんとした家を持った。ただし自分の家…と言ってしまうには、何だか変な感じのする場所なのだが…
そしてアムロは彼らの出ていく一般用の出口とは全く別の方向へと歩いて行く。かなり奥まった目立たない場所にある、VIP専用の裏口である。当然地位的に中尉クラスで使用できる場所ではないが、アムロのIDカードはその入り口を容易に開けてくれるのだ。
専用の地下ターミナルとも言える静かな場所に、一台のリムジンエレカが待機していた。そしてその前には…自分の上司が腕を組んで佇んでいる。
「少佐…?何か用事でも…」
実はガトーがこうやってアムロを見送る事は、そう珍しい行為では無かったので(最後まできちんと見届けたいらしい)、さほど驚かずにアムロは彼に近付いていった。
「レイ中尉…明日からの休暇期間であるが…」
「はい」
「必ず軍医務局へ行って、体調不良の診察を受ける事…いいな?」
ううっ…とアムロは言葉に詰まる表情を見せる。
「…それ…上官命令…ですか?」
「そうだ。退艦時のメディカルチェックを君が受けなかったと聞いたのでな」
有無を言わさぬ迫力でガトーは若い部下を見下ろす。暫く膨らんだ頬のままでその表情を見返していたアムロであったが…根負けした。
「………少佐……もう『告げ口』したでしょう?」
「人聞きの悪い事を…あくまでも『報告』なのだぞ」
表情を全く変えずに言い放つ上司をアムロは精一杯の強い視線で睨み返す。
「大袈裟になるからイヤなんですっ…ガトー少佐もっシャアもっっ…本当に過保護過ぎるんだからっっ…」
「レイ中尉…」
年相応の拒み方だな、と考えながらもガトーは身を屈めて、アムロと視線を合わせる。
「閣下は常に君を心配されている…傍に居られぬお辛い時間を私に託されているのだ…君をとても大事に想われているが故だ」
俯くアムロに出来る限り優しい声色で語り掛ける。
「そして私も君を心配している…総帥閣下に託されたという事だけではなく…同じ部隊の大切な仲間として、だよ」
ガトーの言葉に嘘偽りは無い…それははっきりとアムロには解る。
「……解り…ました…医務局に行ってきます」
ガトーの表情が見る見る安堵に満ちたので、アムロは少し可笑しくなってしまったが。
「アムロ・レイ中尉は我が侭ばかりで言う事聞かない…ってまた『報告』されたらイヤですからね」
「…そんな報告した覚えはないのだが…?」
心底解らないという表情を見せたガトーにアムロは思わず食って掛かる。
「あったでしょうっ?!…僕のゲルググJの戦闘システムのプログラミングを…全部自分でやって他の人に触らせなかった時…!」
「ああ、そういえば…」とガトーは何となく思い出した。
「それはダメだって…人の仕事を取らない、ちゃんと人の意見を聞かなきゃダメだって……シャアに怒られたんだから…」
思い出してしゅんとしてしまった自分に対して、ガトーは何がウけたのか思いっきり大笑いし出したので…本気で上司の向こう脛を蹴りたくなったアムロであった。

 

迎えのリムジンエレカは郊外の閑静な区域へと進んで行く。やがて多くの緑に囲まれた美しい貴族邸が現れた。思いっきり豪華というワケではないが、その立派な佇まい…周囲を取り囲む警備兵の数…その全てが、此処に居住する者の地位を完全に知らしめている。
ネオ・ジオン総帥公邸…此処がアムロの「家」であった。
アムロの帰宅を多くの使用人達が迎えてくれた。
「アムロ様…この度もご無事のご帰還を……ああ…本当によろしゅうございましたっっ」
本気で涙を浮かべて女中頭のミセス・フォーンが深々と頭を下げる。1年戦争が終結して1年以上は経つと言うのに…アムロの様な少年が未だに前線に居る事が彼女には本当に耐え難い事らしい。その言葉が出る度に「あと少しの辛抱ですから…」とアムロは慰めている様なものだ。
「今回も無事のお帰りをお祝いしまして…アムロ様のお好きな物だけでディナーをご用意いたしますわ」
「あ…ありがとうございます…」
未だそう多くの時間をこの公邸で過ごしては居ない故か…色々な事がどうもこそばゆく感じてしまうのは仕方がない、とアムロは考える。

そのまま夕方まで何気なく過ごし…アムロはただその時間を待った。やがて近付いてくるその「存在」に気が付いた時、思いっきり心臓が躍る。足早に階段を降りて行くと、既に待機している多くの使用人達がアムロの為の場所を示してくれる。程なくして聞こえてくるエレカの静かなモーター音…そしてその形が見えた時に、アムロの頬が見る見る小さな興奮の色へと彩られた。
その黒塗りのリムジンエレカが横付けされると…係の者がドアを開ける前に、それは思いっきり開け放たれて…アムロが最も愛する人物が本当に飛び出してきた。
「アムロっっ…!!」
「…シャアっっ…お帰りなさいっっ!」
アムロも走り寄って、両手を拡げた彼の胸へと飛び込む。そのまま強く抱き締められて、そして軽々と持ち上げられた。
「ん?…少し痩せたか?」
露骨に眉間に皺を寄せたシャアを、抱き上げられたまま見下ろしてアムロは微笑む。
「警戒区域帰りの後って…いつもこんなカンジだろう?心配する事ないって…」
そのまま軽いキスを幾度か交わした。アムロを降ろすとシャアはしっかりとその細腰を抱いて邸内へと入ってゆく。深々と頭を下げてそれを迎える公邸の者達は、若い主人とその若い恋人を…いつも温かく見守っていた。

 

「少し体調が悪いのでは…と聞いたが」
「う…ん……明日医務局に行ってきます…」
バツが悪そうに応える恋人を、若き総帥は相変わらず厳しい視線で見つめる。
「それは絶対に行くのだぞ…私の主治医に既に連絡を入れてある。スタッフが出来る限りの検査してくれるという事だ」
此処に直接行く事…とシャアは場所が走り書きしてあるメモをアムロに手渡す。それを受け取りながら
「…ほら…やっぱり大袈裟になったじゃないか……」
とウンザリした口調で呟いた。
「君と私の為だ…アムロ」
「…はーい…」
こんな時の総帥閣下には逆らわないのが一番…それはもう覚えた。
メモを何気なく見ていたアムロは、ふとシャアが身体に触れてくるのに気が付き…そのまま抱き締められた。
「こうして君が私の腕の中に在る事に…私はただ感謝を捧げる…」
「シャア…」
アムロはその広い背中に腕を廻して、彼の体温を思いっきり感じられる様にその逞しい胸へと顔を押しつける。
「…僕も貴方を…こうして感じられる事が…凄く嬉しい…」
その言葉がとても嬉しく…シャアの胸の内を更に熱くさせた。
「君を危険な目に合わせている原因の者が言える言葉ではないのだろうがな…」
「それは言わない約束……お互いに自分の出来る事だけをしているだけなんだから…皆そうだよ?」
今の自分は政治的な事例に集中して活動している為に、兵士としては休息中の様なものだ。貴方の代わりに、とアムロは自ら最も危険な場所へと赴いて、未だ兵士として闘ってくれている。
本来ならば…あの要塞で全てが終わっていたものを……
だからこそ、アムロの為にも他の兵士達の為にも…1億の住民の為にも…今の自分は別の闘いを成功させねばならない。それが己の選んだ責任と義務と闘いの道なのだ…
腕の中の温かく小さなこの愛しい存在に、シャアはどれだけの感謝を捧げれば良いのだろう…と常々思う。アムロは自分と共に来てくれた…血塗れた自分の手に…自らの意志でそれを重ねて……

----僕が傍に居たら…貴方は哀しくならないの…?
----ララァの代わりにはなれないよ…それでもいいなら…僕を連れて行ってください…

その想いにその純粋な優しさに…私はただ全身全霊で応えるだけだ…アムロ…

だからこそ彼の体調不調がとても気になってしまう。ディナーのメニューも…彼の好物ばかりであったのにあまり口を付けていなかった。…苺はやたら食べていたが…
ふと…シャアはある思い当たる事があったのだが…
まさかな…とそれは直ぐに否定をした。

そんな事を考える彼の腕の中で、アムロは……

シャアに触れたあの瞬間に…「解って」しまった

やっぱり大袈裟になっちゃったなあ………
優秀な医師達だもの…絶対に彼らにも解ってしまう…
もしもし…本当に………だとしたら……
もう…シャアの傍には居られない…彼から離れるしかない……だって迷惑になるだけだもの…
…こんな大事な時期に…彼の為に働けないなんて…役に立てないなんて……
そんな事絶対にダメだっっ!

だから…本当にそうなら……

…ゴメン…ね……僕は…君を……

アムロは無意識に…その場所をそっと撫でた……

 

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ちゃんと男の子ですが…あまり深く考えない方がよろしいよっ!
蒼皇子様、まさか人生最大の危機がっ?(苦笑)
(2010/11/4UP)