1.PRELUDE

 

 

宇宙世紀0080-------
地球連邦政府とジオン共和国の間で終戦協定が締結される事となる。
それは俗に言う1年戦争の終結…のはずであった。

連邦政府にとっては、この協定は圧倒的有利な立場で協定を結べるはずであった。何せジオン共和国は、その支配層であったザビ家の者が全員戦死しており、今の代表は脆弱な政府高官だけなのである。独裁帝国主義で纏められていた若い国家がその強い指導者を失ったのだ。そんなスペースノイド達になど、今更何が出来る?何の価値と力がある?と完全に見くびり高をくくっていた。

しかし…終戦協定の場に現れた、ジオン共和国の代表たる人物…予期せぬその登場に連邦政府の高官は全員がただ凍り付く。
堂々と現れたその彼の名は…

キャスバル・レム・ダイクン…
ジオン・ダイクンの忘れ形見…そしてもう一つの名をシャア・アズナブル…
ジオンの英雄であった…

 

そのシャアを中心とするジオン側の代表は、連邦政府が押しつけてきた一方的であり高圧的な和平条件をほとんど却下し、事もあろうにジオン共和国を「国家として解体」し、新たなる国家「ネオ・ジオン」の建国を宣言したのだ。キャスバル・レム・ダイクン…シャア・アズナブルを総帥として。
寝耳に水の様なジオン側の反撃に、当然連邦政府が応じるわけもなかった。
しかし「ネオ・ジオン」側も一歩も退かず、強引に交渉の場をそこで打ち切りとする。連邦政府は旧「ジオン共和国」とは終戦を迎えたが、新たに「ネオ・ジオン」の独立戦争を阻止すべくの戦力投入を余儀なくされた。
しかし連邦政府はこれも旧ジオンの残党共の最後の悪足掻き的な抗争と考え、政府そのものは真剣に取り合わなかった。しかしその甘い考えは瞬く間に払拭される事となる。

旧共和国の住民は新しい国家の建国を大いに歓迎した。新しい指導者の下で「平和的」な国家を作り上げる、という前向きな行動が、市民を「敗戦」という名のショックから大きく立ち直らせたのだ。
ジオンには未だ工業力と資源が充分にあった。実はそれは和平後に押収しようとしていた連邦がアテにしていたものである。元々ジオンは連邦政府よりは優れた科学力と技術力を持っているのだ。それを元に様々な部門でそれを生かす計画が次々と立てられ、ネオ・ジオン全体が活気づいてゆく。
そしてシャア総帥は大胆にも旧共和国の地球の残存兵力を全て残らず宇宙に上げた。「地上」の支配を捨てて、舞台を完全にサイド3を中心とする宇宙だけとした。己からの侵略攻撃は一切行わず、あくまでも防衛だけの抗争に徹し、その間に軍の立て直しを見事なまでに実現していったのだ。

これもジオン・ダイクンの忘れ形見という新しい指導者シャア・アズナブルの絶大なるカリスマと統率力が功を為した。また全ての月都市を味方につけた事が大きい。
逆に連邦軍は1年戦争時からの内部の権力争いと腐敗に立ち直りを見せる間もなく…ネオ・ジオン軍の統率力の前に苦戦を強いられる事となる。そんな中でも元来持っている兵力の豊富さがあり、ネオ・ジオンの独立抗争は半年以上は続いていた。

 

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現在のネオ・ジオン軍はあくまでも防衛のみに徹して、仕掛けられたら打って出る…という闘い方をしている。しかし大きな戦争にまでは発展しないとしても、小さな闘いは幾度もあった。
その日も領域での小競り合いに一個中隊は出撃し、なんとか収まり…巡洋艦に次々とモビルスーツが帰還していた。
この中隊はゲルググJ(イェーガー)と呼ばれるMSで編成される、現在のネオ・ジオンの一番の主力部隊であった。
一機の銀色のゲルググJが帰還し、カタパルトから格納庫へと入ってくる。この銀色のMSの流れる様に美しく無駄の全くない動きには、ハッチの誘導員達も常に感心をしていた。
格納デッキに落ち着いたMSのコクピットが開かれ、中からジオンでは珍しい白いノーマルスーツを来た人物が顔を出す。
「……ふう……」
ヘルメットを外して大きく息を吐いたパイロットに、このMS専任メカニックマンが声を掛けてくる。
「お疲れさまでしたっ…レイ中尉!…本日も全くの被弾ゼロ…相変わらずお見事な扱い方ですねっっ…本当に中尉のパイロットセンスは素晴らしいっっ!」
興奮した様子で捲し立ててくるメカニックマンに軽く片手を上げて…未だ幼い少年か、という風貌の彼は優しく穏やかな笑顔を浮かべた。
「ありがとう曹長…運が良かっただけだよ」
そしてその場を後にする。軽く床を蹴ってその細身の身体を軽やかに泳がせる彼に対して、周囲の多くの者達も声を掛けてくる。彼…アムロは赤毛を軽く揺らしてそれに応えていた。
アムロ・レイ中尉はネオ・ジオン随一のエース・パイロットである。…一応総帥閣下を除いて、と位置づけられるが、その総帥が「アムロが随一のパイロット」と宣言してしまった為、この絶対的指導者の言葉に逆らう者などは居ない。そしてその言葉通りの戦果を未だ年若い彼は叩き出しているのだ。
彼は元々ジオンの人間ではなく、連邦からの亡命者だという。その素性はほとんど明らかにされていないが、そのパイロットセンスから彼が「あのガンダム」のパイロットだったのではないか…という噂がひっそりと流れていた。…それが事実と解ってしまったら…ひっそりとは囁けないだろうが。
そんな噂や色々な情報が彼を取り巻いていたが、ネオ・ジオン軍の皆は誰もがアムロを温かく歓迎してくれていた。この軍で働くようになって半年が過ぎて…やっと自分が本当に居て良い場所なのだ、と認識出来る様になった。アムロは心からそれには感謝している。

巡洋艦の内部をロッカールームへと向かって歩き始めた時…
「…うっ……!」
アムロは自分の身体の奥から何かの妙な違和感を感じて吐き気を覚えた。思わず壁に手を突いて片手で身体を押さえる。
-----また…だ…最近多いな…
身体の何かの変調を一週間程前から感じていた。しかし…今は「小競り合い」がかなりの頻度で勃発しており、忙しいとの理由を付けて軍医の所にも行っていない。
----大丈夫っなんでもない…疲れているだけだよ…
そう自分に言い聞かせていた。今、この大事な時期にMSに乗れないなんて事だけは避けたい。
----シャアの役に立てなくなる…それだけはダメだっっ
それがアムロが此処に居る唯一の……

「アムロ・レイ中尉っ!」
その声にハッとして顔を上げると、目の前に今の自分の上司である…MS部隊隊長である男が、その逞しい身体を揺らして慌てて駆け寄ってくるのが見えた。
「どうした?!顔色が真っ青だぞっ!何事か…」
「だっ大丈夫ですっ…ガトー少佐っ…大した事はありませんからっっ」
アナベル・ガトー少佐は心底心配そうにアムロの顔を覗き込んでくるので…アムロは無理してでも笑うしかない。
「…ちょっと緊張の糸が切れた…ってヤツですよ…ご心配なく…」
未だ不安げな表情を崩さず、ガトーはアムロの肩に優しく手を置いた。
「無理をしているのではないだろうか?…レイ中尉…」
「全然してません…大丈夫です」
穏やかに笑う顔色は幾分平常にも戻っている様である。やっとその菫色の瞳に安堵の色を浮かべてガトーは呟いた。
「そうか…だが本当に無理はしないで欲しい…私は君の事をくれぐれも、と総帥閣下御自ら頼まれているのだからな…」
その言葉にアムロは思わず俯いてしまったが…
「……ありがとうございます…」
と小さく応えた。その態度と羞恥を称えた声色がガトーには微笑ましかった。
アムロ・レイ中尉は、彼にとって優秀な部下の独りではあるが…同時に総帥閣下から託された総帥の「大事な想い人」であるのだ。
ガトーは総帥とアムロの関係を知る、数少ない人物の中の一人である。己が全霊を持って忠誠を尽くす総帥閣下の大事な人は、自分に取っても全身全霊を掛けて守るべき者である。もちろん戦場の彼は、当に鬼神の如く…であり、自分の守りなど必要としない存在であるが…問題はそれ以外の場所だ。連邦からの亡命者という事実と、彼の幼く華奢に見えるその外見が、シャア総帥とガトー少佐の心配事の種であった。
アムロ自身は二人のその心配症がとても鬱陶しく感じる事あるのだが…最近は仕方がないと諦めている。

「とりあえず…着替えてきますね…失礼致します」
敬礼してその場を去るアムロの、その細い後ろ姿をじっと見つめながら…未だ内には微かな不安を残してしまうガトー少佐であった……

 

 

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…というワケでひとまず前夜祭…(苦笑) 
(2010/11/3UP)