病は気から

その11

そんなこんなで時間も過ぎ、夕食も済ませた二人。
昼食後もあかりは数回トイレに行き、
最初に行ったときに、幾分緊張が取れたのか、
次からは、結構すんなりとトイレに行ったようだ。

(うんうん、やれば出来るもんだよね)

緊張を乗り越えた、あかりの努力も褒めたいまことだが、
何回思っても、あかりをここまで近づけることが出来た
自分への感慨で頭がいっぱいであった。

自分への緊張から、とうとうお漏らしするまで
トイレへ行くと言えなかった、あの時のあかりと自分の関係から、
今は百歩も千歩も近付いている。

(これなら、お風呂も一緒に入れたりしてね…なんて)

こっそり持ち帰った、あかりの下痢便を使って
オナニーをした風呂場で、湯加減を確かめながら、そんなことを考える。

(軽く冗談交じりに、一緒に入ろうって言ってみようか)

ちょうど良い湯加減になったのを確認し、
期待してない分、気軽に言えたまことの誘いに、
あかりは、事も無げに承諾するのであった。

「あはは、あかりちゃんたら」

まことも、あまりにもあかりの承諾が早すぎたので、
冗談を返されたのだと思ったのだが、
あかりはそういう所で機転の利く人間ではなかった。
単に、意識しすぎるまこととの差であろう。

程なく、二人で一緒に洗面所で着替えることとなり、
まことは、かえって恥ずかしくなったのか、
意識を抑えようとしているのか、服を脱ぐのが遅い。

対するあかりは、トイレを恥ずかしがるのが不思議なほど、
惜しげもなく服を脱いで、肌を露わにしていく。
チラチラとあかりの肌を見ながら、顔を赤くしているまことに
遅いよと急かすぐらいであった。

(うーん…まあ、ここまできたら入るしかないね!)

とりあえず、なるようになるさ。
そんな気持ちで、まことも意を決し、豪快に上着を脱ぐのであった。

 

ようやく風呂に入る二人。
さすがに狭い風呂なので、二人で一緒には浸かれない。
あかりが小さい分、何とかなりそうではあるが、まことが大きい。

無理をすれば入れないこともないだろうが、
お湯を大量に消費するであろう。
まずは、まことが先に湯船に浸かり、あかりが身体や髪を洗うことにした。

「…それにしても、あかりちゃん。アタシと一緒に入るのに抵抗無いのかい?」

あかりが洗髪も終わり、お湯をざぶりとかぶった頃、
まだ、あかりがすんなり二人で入浴するのを気にしてるのか、
しきりにその事を聞きたがるまこと。

「え?全然気にしないよ。だって、女の子同士じゃない」

「そ、そっか…。はは、そうだよね…」

おそらく、何でそんなことを聞くのかも理解できていないであろう
あかりの、当然ともいえる返事に、まことは力の無い笑みをこぼす。

自分の意識のしすぎと焦りを反省しながら、
鼻まで浸かるぐらいに、湯船に深く沈むが、
すぐに息苦しくなって、顔を出してしまう。

今の自分は、一体何をやりたかったんだと嘆きながら
何気なく横を向き、今度は身体の方を洗い始めているあかりを、
ぼんやりと眺め始める。

「ふうん…。あかりちゃんって、以外と胸大きいんだねえ」

「そ、そうかなあ…。そんなこと無いと思うけど…」

まことの言うとおり、あかりの胸は意外と大きい。
それでも、女子の平均で、やや大きいぐらいではあるのだが。

それを、まことが驚くぐらいに大きく見せているのは、
やはり、その身長と顔の見た目から来ているのであろうか。

クラスの中でも一、二を争う低い身長に、表情。

かつてはいつも沈んでいたような表情だったが、
今では、まことにだけは、本来のあかりの表情を見せ始めてきている。
その表情は、ともすればボーっとしてるかの印象を受けそうな、
ほのかに見せる笑顔が似合う、おっとりした表情。

そんな要素が合わさってか、まことにはあかりが非常に子供っぽく見え、
まことの頭の中には、当然のように
「あかりの胸は小さい」という先入観ができあがっていたのである。

また、それをあかりが全然意識してないというのも、
何げに胸のイメージを大きくしていた。

「よいしょ…。じゃ、まこちゃんの番だよ」

「あ、ああ。…!!」

あかりが、まことと湯船に浸かるのを交代しようとして立ち上がったとき、
まことの目の前には、あかりの股間に生えている陰毛が、目に入ってしまった。

胸と同様、まことの先入観を大きく裏切る、
既に一人前に生え揃った陰毛が、また、まことを驚かせる。

あかりがお漏らししたときに、それが目に入ったかもしれないだろうが、
あの時は、そんな余裕はなかった。
思えば、ハッキリとあかりの裸を見るのは、今回が初めてといえよう。

だが、さすがに陰毛の生えぐあいは話題にしづらかったのか、
思わず声を出しそうになるのを、グッと堪えるまことであった。

 

頭の中に、あかりの陰毛をちらつかせながら、
まことは、洗髪を終える。

いつもなら、この後ゆっくり湯船に浸かるところなのだが、
今日は、そこにあかりが浸かっている。

「あかりちゃんは、もう出るかい?」

とりあえず、あかりが出ないと湯船に浸かれないまことは、
そう聞いてみるのだが、やはり女は長風呂である。
もうちょっと浸かると、あかりは答えた。

さてどうするかと、まことが思案していると、
あかりが一緒に入ろうよと声をかけてくる。
一応は、無理をすれば入れる広さなのだが、
それよりも、あかりと密着してしまうのが、少々照れるまことであった。

それでも、こんなチャンスを逃すわけにはいかない。
やましい思いも加わりながら、まことは、入浴を試みてみる。

「よいしょ…。はは、やっぱキツイね。…身体触れちゃうけど、平気だよね」

上半身はともかく、下半身の方は、お湯の温もりでなく
ほとんどお互いの足の温もりしか感じない。
あかりの太ももの感触を味わいながら、ご満悦のまことであったが、
自分の体勢が少々辛いようだ。

それでも、こんな貴重な時間を捨てたくはないと、
笑顔を作りながら、下半身に力を入れ、堪える。

(何か、こんなのもいいもんだね…)

今さらながら、こうやってあかりと接近、
密着まで出来る自分に、恵まれすぎだなという思いが募る。

暖かな温もりと、いやらしいムードのかけらもない
このほのぼのとした空気に、まことのよこしまな心も、かき消されるようだ。

そんな雰囲気を堪能するかのように、湯船の中で何気ない話を始めまこと。
こんな雰囲気の中で話すというだけで、心地よさは数倍も違う。

いやらしい興味だけではない。
このような体験も、同じようになかなか出来ないのである。
そんな、おもわぬ心地よい時間を発見したまことは、
いつのまにか、体勢の辛さも忘れ、話に熱中するのであった。

 

いつしか、心地よい感覚に眠気が誘われてきたまこと。
会話も途切れ途切れになり、目も閉じかかってくる。

目の前でウトウトとしているまことに気付いたあかりは、
自分も会話を休め、まことを眺めながら、そのままくつろぐ。
いつの間にか上半身が上がって来ているまことの身体は、
高い身長に見合った、密かに自慢の胸が露わになってきている。

さらに、お湯の浮力で持ち上がり、
プカプカと浮きあがっているのが、その胸の大きさを示している。
目の前で、そんな風に浮いて来られては、
自然とあかりも注目してしまう。

ユラユラと揺れるその胸に、どうしても我慢が出来ず、思わず手が伸びるあかり。
いやらしい興味がないからこそ、無意識に手が伸びてしまう。

「…うわっ!な、なに?あかりちゃん!?」

無邪気な子供のような反応を見せる、あかりの手に
自分の胸を触られ、思わず眠気も覚めるまこと。
そのあまりの驚きように、あかりも一緒になって驚いてしまうのであった。

 

「ビックリしたなあ、もう。…ど、どうしたのさ急に」

「あ、ゴメン…起こしちゃった…?」

「いや、そうじゃなくて…」

自分の驚きとは裏腹に、
キョトンとした顔で見当はずれな答えをするあかりに。
ガッカリとしながらも、それがあかりらしいと苦笑するまこと。

ただ単純に、柔らかそうな、まことの大きな胸に触ってみたかった。
それだけである。この理由には、まこともただ笑うばかり。
それならば、好きなだけ触らせてあげようとでも思ったか、
あかりの前に胸を突きだし、好きにして良いと言ってみる。

どうするかと、まことが面白がって待っていると、
あかりは遠慮する様子もなさそうに喜んで胸を触り始めた。

「あ・・・!」

まずはゆっくり、軽く撫でるようにあかりは手を動かす。
ワザとやっているわけではないだろうが、その微妙な感触に
まことも思わず声を出してしまった。

しかし、あかりはそんなことも構わず、
まるで物珍しいものでも触るかのように、胸を触りまくる。
それに集中しているためか、独り言もこぼれる。

「ふわぁ…。やっぱりおっきいなあ…」

無邪気に胸を触りまくり、感嘆の声も出されては、まことも返事に困る。
適当な返事をしていると。あかりが突然手を止めたので、
もういいかな、とまことが声をかけようとすると、
あかりは、今度はいきなり胸を揉み始める。

「うはあっ!あ、あかりちゃん…!ちょっと…!」

「はぁ〜…。気持ちいぃ〜」

柔らかい胸の弾力を思う存分に味わうあかりは、確かに気持ち良いだろうが、
揉まれるまことは、それ以上気持ちが良いはずである。

だが、あからさまに感じるわけにもいかず、
我慢しようにも、あかりは胸を揉むのを止める気配がない。
あかりに止めてもらおうと、声をかけようとするが、
喘ぎ声を出すまいとするのが精一杯で、とても言葉にならない。

(マズイよ…。このままじゃ声が出ちゃう…)

あかりの前で、喘ぎ声はあげたくなかったまことは。
好きにして良いと言った自分を後悔しつつ、
とりあえず、どうにかして止めさせる方法を考える。

(…そうだ!)

「凄いな〜。まこちゃんの胸って、こんなに柔らか…きゃあっ!」

「…へへ。あかりちゃんばかり触ってちゃ、ズルイよね」

まことは、胸を揉むことに夢中で
すっかり胸元がおろそかになっているあかりの胸を、
反撃とばかりに、こちらも揉み返す。
これにはあかりも、たまらず体をビクつかせ、手を離してしまった。

「や、やだ…。突然触るなんてズルイよう」

「ダメダメ。アタシだってあかりちゃんにいっぱい触らせてあげただろ?だから…」

だから自分にも、あかりの胸を触る権利がある。
とばかりに湯船の中で徐々に立ち上がり、
あかりの胸を触ろうと襲いかかるようなポーズを取って、おどけるまこと。

これはたまらないと、あかりも襲われないように立ち上がって、
胸を両手で隠しながら、まことに背を向ける。

「隠したって無駄だよ〜。それっ!」

まことは、それがむしろ好都合であったかの様に、
背を向けたあかりに、そのまま抱きつき、
両手を、自分の胸を隠すあかりの手に持っていく。

「ああっ。…も〜、そんなに触ってみたいの?」

「あかりちゃんだって、アタシのオッパイ触ってみたかったから、触ったんだろ?」

まことの言葉に、あかりは返す言葉がない。
触られるのが嫌なのではないが、自分の胸がまことに比べて
小さいのが恥ずかしいと話す。

「そんなの気にすることないって。大きければいいってモンじゃないし」

学校の中でも、一番胸が大きいのではと自覚する、
自分と比べるのが、間違ってると言いながら、
あかりの胸は小さいわけではないと言い聞かせるまこと。

胸の膨らみを自覚してきた頃から、
学校で、よく他の女子のバストチェックをしていたまことと違い、
あかりには、今まで胸を比較する事なんてなかったのである。
初めて比較するのがまことでは、小さいと思ってしまっても仕方がないだろうか。

「うん・・・。じゃあ、ちょっとだけだよ…笑わないでね」

あかりが、そう言いながら胸を隠す手をどけると、
まことはすぐさま露わになった胸を触り始める。
あかりの胸は、手に余るほど大きいというわけではないが、
それでも、十分な感触は楽しめる。

弾力もまずまずであるし、指を吸い込むような柔らかい感触は、
とても心地がよい。

「はぁぅ…!」

指で触り、撫でまわすだけから、
今度は手で包み込むようにすると、まずは軽く揉んでみる。
あかりは思わず、かすかな喘ぎ声をあげてしまう。

「ふ、くっ…、ふぁ…」

持ち上げるような動きを加え、こねるような感じで胸を揉みまくるまこと。
あかりの方も、感じているかのような声をあげるが、
それを我慢しようとしているような。かすかな恥じらいが声に現れている。

「…気持ちいいかい?」

今までの流れだからだろうか、
あかりの胸を揉んでいても、まことはあまり性的興奮は高まっていなかった。
この言葉も、単純に気持ちよいかを聞くだけのためだった。

ちょっとしたじゃれ合い。それは、まことだけでなく
あかりも、同じ考えであったのだろう。
まことの言葉に、あかりは返事こそしなかったものの、コクリと頷く。

(へぇ…。あかりちゃんも、やっぱり感じるんだ…)

体だけではない、感じ方も
やっぱり女になっているんだと、まことは実感する。

「あ、ふぅ…。く、くすぐったいよぅ…」

あかりの反応を面白がって、さらに胸を揉み続けるまこと。
色っぽさと可愛さが混じったような声で感じているあかりの声が、たまらなく良い。

「くすぐったいって、どこが?」

「う、うん…背中が…何か…」

そう言われて、ふとあかりの背中を注目してみると、
自分の胸が、あかりの背中に押しつぶされている。
おそらく、まことの胸の感触がくすぐったいと、あかりは言うのであろう。

「それじゃ、これはどうかなあ…」

ちょっとしたイタズラ心のつもりで、
まことは、胸をよりあかりの背中に押しつけながら、体を上下に揺さぶってみる。
すると、あかりの背中と、自分の体の間で、まことの胸が揺れる。
身体が濡れているせいもあり、それはツルツルと、面白いように揺れた。

「はぁっ!あふっ、く、くふうぅん…」

あかりの反応も、胸を揉んだときに比べ、さらに激しくなる。
張りのある、スベスベの餅のような胸が、
背中の敏感な部分をいやらしく刺激し、
胸の中央にある乳首が、さらにそこをピンポイントに攻める。

二つの刺激で攻められては、あかりも感じてしまわざるを得ない。
おそらく初めての快感であろう、この刺激には
どう反応したら良いかも分からず、ただ身体が感じたままに任せるのみである。

「はぁ!あっ、あっ、ああぁっ!」

(こりゃ凄いや…。こんなに感じるなんてね…)

あかりの反応を完全に楽しんでいるまことだったが、
さすがに体を揺するのも疲れてきたのか、動きを止め、一休みする。
ようやく快感が止まったあかりも、
ゼイゼイと乱れた呼吸を落ち着けようとしていた。

「ちょ…ちょっと、くすぐったすぎちゃった…」

そう言って、はにかむあかり。

どうやらあかりは、感じたとは受け取っていないらしい。
あくまで、くすぐり遊びとして感じていたようだが、
それでも、思わず声を出してしまったのは、恥ずかしかったようだ。

まことも、一息つきながらも、あかりの胸から手を離そうとはせず、
ひとしきり楽しんだ余韻を、今だ堪能していた。

胸で背中をイタズラしただけで、
こんなにも敏感な反応を見せてくれるあかりに、
まことはふと出来心を抱いてしまった。

(…ここだったら、どうなるのかな…?)

あくまで、胸触り、背中くすぐりの延長線。
単なる興味から、ほんのイタズラ心から。
まことの右手が、あかりの股間へと伸びてしまったのである。

「えっ…!?」

 

まことの指が股間に触れたときの、あかりの反応は、
意外と大人しかった。ちょっと驚いただけである。
反応があまりにも小さかったためか、
まことは、あかりが反応したことすら気が付かなかったぐらいであった。

あかりの湿った陰毛を手のひらに感じながら、
指はあかりのアソコを軽く撫でていく。
すると、今度はあかりの体がピクリと動く、それらしい反応を見せた。

「あ…、う、う…んっ…」

気持ちがよいのか、悪いのか、
感じているのを我慢しているのか、不快感を堪えているのか、
ハッキリとは分からないが、確かに反応だけはしているあかり。

どうも手応えを感じないまことは、なおもアソコをまさぐり、
ついには、アソコの中へ指を侵入させようとしたとき、
我慢しきれなくなったあかりが、まことの抱く手を払いのけて、
しゃがんで湯船に逃れるのであった。

「そ…そこはダメだよう、もう」

急に自分の手を払いのけ、大慌てで湯船に逃れたあかりに、
まことは、やっぱりあかりも感じるのだと思った。

「…ははーん。ひょっとしたらあかりちゃん、気持ち良かったのかなぁ?」

嫌そうな、照れくさそうな、あかりの可愛い声に、
つい意地悪っぽい台詞が口に出てしまう。

「え!?そんなこと…そんなことないよ…」

立ち上がったまま、あかりをイタズラっぽく意地悪そうな目で見下ろすまことに、
あかりは、プイと顔をそらしてとぼける。

「そっかあ…。あかりちゃんもオナニ…ウプッ!」

あかりのとぼけ方がまた、動揺が見え見えだったのが
余計にイタズラ心をくすぐり、まことの意地悪な台詞が続こうとしたところで、
あかりにお湯をかけられるという逆襲にあい、口を止められてしまった。

「もー。エッチなんだから、まこちゃんたら」

「エヘヘ…。ゴメン、からかい過ぎちゃったかな」

あかりに叱られて、素直に謝るまことだったが、
その顔はあくまで笑顔であった。
あかりも、本気で怒ってたりはしない。
まことが決していやらしい気持ちで、こんな行為をしたわけではないのを、
あかりは、無意識のうちに理解していたのである。

 

あかりとて、オナニーの一つも知らないわけではない。
それがどういうものであるかも知っているし、したことだって当然ある。
それが、隠すべき、恥ずかしい行為であるということも分かる。
セックスという行為だって、知っていることは知っているのだ。

それを、何故まことの前では、ああも無防備に出来たのか?
相手の胸を触るという事を思わずしてしまったのか?

いつものあかりなら、考えられない行動であろう。
だが、まことと一緒だからこそ、それが違ってくるのである。

あかりの、まことに対する信頼が強くなるにつれ、
あかりにとって、まことは親友という存在だけではなくなってくるのである。
父よりも頼れ、母よりも甘えられる。
ありのままの自分をさらけ出しても平気な
本当の保護者であるかのような、そんな気がしてしまうのである。

まことの親友であり、子供でもあるような。
そんな気持ちになってしまうからこその、行動であったのだろう。

 

「さ、もう出ようか。のぼせちゃうね」

そして、二人は立ったままで冷えた体を、
もう一回湯船に浸かって暖めなおしてから、
何事もなかったかのように、風呂を出たのであった。

その12

「ホントに美味しいよね。このケーキ」

「そうかい?ありがとう、嬉しいよ」

風呂から出て、髪を乾かした後、
おやつの時間にまことが焼いた、ケーキの残りを味わう二人。

「業務用のオーブンでもあれば、もっと美味しく出来るんだけどね」

小さい頃から、空手などを習い、男勝りと呼ばれたまことも、
実際の所、趣味は料理であり、部屋の内装は少女趣味である。

空手も、母の薦めで習ったものであり、
彼女が望んでやったものではない。だが、性にはあったらしい。

浮気をした女に騙され、借金を作り、母親と離婚した父。
そう母親に聞いた事から、まことは男への対抗意識を燃やしたのである。

『男は、だらしない生き物だ』
『男は、女を幸せには出来ない』

その思いが、まことを空手に打ち込ませ、
強くしていった理由なのである。
しかし、その反面で、女性らしい好みを持つ自分に、悩むこともあるのだ。

「不良少女」「怪力女」などと、からかわれたことも原因であろうが、
まことの持つ元々の資質は、やはり女性ということであろうか。

 

「そういえば、まこちゃんのお父さんはどうしてるの?」

ふと出てきた、あかりの発言に、一瞬言葉が詰まるまこと。

あかりは、まことの親が離婚しているということを知らない。
この発言も、当然の疑問であり、悪意はない。

「…ああ、ゴメン。アタシんち、父さんいないんだ…」

なぜ父親がいないかという理由までは分からないが、
まことの返事から、自分がまずいことを聞いてしまったことに気付くあかり。

まことも、答えるのが辛かった。
嘘をいうのも嫌だったし、正直に答えれば
あかりに罪悪感を起こさせてしまうのが、目に見えていたからだ。

「あ、いや。気にしなくていいよ」

別に自分が気にしてるわけじゃないからと、あかりを慰め、
話題を切り替えようと、テレビのチャンネルを変えるまことであった。

 

さらに時間がたち、夜も更ける。
夜更かしはしないタチのあかりとでは、あまり盛り上がりには欠ける。
深夜の番組を見るのも、あかりは初めてらしく、
こんなのもやってるんだと、興味深げに見ていた。

話題もなくなり、ボーっとしてるうちに、
お互いに眠気を感じてきたので、早々に寝ることにした。

「あかりちゃんもベッドだったね。何だったらアタシが布団にしようか?」

来客用の布団を敷きながら、まことがあかりに話しかけると、
あかりは、別に布団でも寝られると答えた。

布団の問題はあっさり片づいたが、
このまますんなり寝てしまうのも、何か惜しい気がするまこと。
風呂場でのこともあるし、結構思い切ったことをしても
大丈夫だと思ったまことは、二人で一緒に寝られないかと思った。

「そうだ。ねえ、あかりちゃん、一緒にベッドで寝てみないかい?」

下心を見透かされないように、いかにも突然思いついたという演技で、
あかりに聞いてみるまこと。
もちろん、嫌そうな素振りを見せたときは、
すぐに笑ってごまかす心の準備は出来ている。

「え?…うーん、何か、いいかもしれないね。寝ようよ」

「よーっし、それなら布団はいいや!さ、寝よ寝よ」

心の中でガッツポーズを決めながら、布団を放り投げるまこと。
急いでベッドの中に潜り込むと、手招きしてあかりを急かす。

「まこちゃん、Gパン履いたまま寝るの?」

あかりの一言に、まことはまだパジャマに着替えてないのに
ベッドに潜り込んだ、自分の不格好さに気付き、すっとんきょうな声をあげた。

「ぅ、ぷぷっ、…あはははっ」

思わぬまことのドジに、堪えきれず笑ってしまうあかり。
顔を赤くしながらベッドから出たまことは、
意外なところで出た、あかりの無防備な笑顔に、魅入られてしまう。

(可愛い・・・!)

これぞ、まさしく笑っているという笑顔であろうか。
ここまであかりが笑うことが出来、また、その表情が本当に楽しそうなのが
まことをも嬉しくさせてしまう。

(この笑顔だ…。アタシは、これが見たかったんだよ…)

まことの実力?ではないが、
ともかく、あかりの笑顔が自分の前で引き出せたのが、
まことにとって幸せであり。そして、達成感でもあったのだ。

 

ともかく、まこともパジャマに着替え終わり、
ようやく眠りについた二人。

まことにとって、狭いベッドの中で
一緒に寝られるのが嬉しいのは当然だが、あかりも、それは一緒であった。

学校でも一人。
家に帰っても、両親を心配させまいと明るく振る舞い、
甘えないように努め、孤独感は増すばかり。

こうやって友達同士で一緒に寝るのも、
あかりにとっては、まるで母親と一緒に寝るような感じであった。

本当は甘えてるのだけど、傍から見れば甘えには見えない。
まことの側にいられるのは、実に心地が良いのである。

 

純粋に嬉しい時間を味わうあかりに比べ、
まことは、この状況は嬉しいことは嬉しいが、複雑でもある。

あかりを家へ連れてきてから、何度か起こる欲求。
あかりに欲情し、あかりを抱きたくなる欲求。

一緒に風呂に入り、一緒に寝る。
ここまで実現できたのに、どうしてそれは出来ないのか。

その欲求が、今まで実現したこととは別物だということは分かっている。
しかし、あかりへの接近が深まれば深まるほど、
それが実現できそうな、期待も高まっていくのである。

今、この瞬間に横で寝ているあかりに抱きついたら、
もしかして、あかりは素直に身体を差し出してくれるかもしれない。

だが、それが出来れば苦労はしない。
常識という心が、まことにそれをさせないでいる。

 

(寝られない…)

二人が就寝してから、既に30分以上起っている。
色々な思いが浮かんでくるまことは、今だ目がさえて眠れない。

(贅沢すぎるのは分かってるけどさ…。でも…)

例え、二人が恋人同士の関係であったとしても、
仮に、まことが男だったとしても、
やはり相手があかりであっては、期待は出来まい。

それでも、何かしたい。

満足できない思いを、少しでも解消させることは何か無いだろうか。
それが、余計に期待ばかりを募らせてしまうことが分かっていても、
もっと前進したい。もっとあかりに接近したい。という思いは、
やはり我慢することはできない。

(あかりちゃん、もう眠ったかな…)

体を動かさないように、首だけを動かして、
隣で寝てるあかりを窺うと、
あかりはまことの方と反対に、横向きになって寝ていたので、
眠っているかどうかは分からなかったが、静かだったので
おそらくは眠っているのだろうと、まことは判断した。

そう判断するや、毛布の上に出していた手を、
ゆっくりと動かし、毛布の中に入れる。

手の位置を下げているうちに、手の甲が、あかりの背中に触れると、
ほのかな温もりが、手の甲に伝わってくる。
しかし、まことの手が目指すのは、あかりの背中ではない。

自分に背を向けて、横向きで寝ているあかり。
背中が触れるということは、尻も触れるということ。

やはり、いやらしい事がしたいまこと。
ちょっと触るぐらいなら。寝ているのなら…。
そんな思いが、こんな行為に出てしまうのである。

 

手を裏返し、手のひらをあかりの尻に向け、
ようやく触る準備は出来たのだが、なかなか手が動かない。
思わず手に力が入り、実行になかなか移せないのである。

もちろん、もしあかりが起きていたら、という不安もある。
もしもバレた時の、言い訳を頭の中で考えながら、
まずは人差し指で、あかりの尻を触れてみる。

軽く指があかりの尻に触れたところで、すぐさま指を離す。
ほんの一瞬、触れただけであるが、
尻の丸みや、その弾力を感じ取ることはでき、それだけでまことの胸は高鳴る。

(大丈夫だよね…。気付かないよね…)

何度かそれを繰り返し、あかりの反応がないと見るや、
いよいよ手の平であかりの尻を味わおうと、
慎重かつ大胆に、手をあかりの尻に持っていこうとした瞬間、
あかりの体が大きく動いた。

(な…!起きちゃった…!?)

まるで、物を盗んでいる最中に人の気配がしたときのように、
大慌てで手を戻すまこと。
実際の手の動きは、微々たるものであるが、
まことには、あかりの尻への距離は、とてつもなく遠く感じるのである。

訳は分からないが、とりあえず寝たフリをするまこと。
あかりは、まだモゾモゾと動き、ついには上半身をベッドから起こした。

(どうしたんだろうなあ…。寝てると思ったんだけど…)

目はつぶっていても、気配や毛布の動きで、
あかりが体を起こしたのは分かった。
あかりがなぜ起きたのかは、まだ分からなかったが、
お尻を触ろうとしてたのがバレた時のためにと、
まことは、寝たフリを続ける。

目をつぶっていながらも、あかりの挙動は何となく分かる。
気配を読むのも、静かな夜だから、やりやすい。

体を起こしたあかりが、まことの顔を覗き込んでいるのを感じる。
おそらく、まことが寝ているかどうか確認しているのだろうか。

あかりにじっと見られているのを感じると、思わずくすぐったくなり、
顔がにやけてしまいそうになるのを、堪えるのに必死のまこと。

だが、どうやらあかりは、まことが寝ているのだと判断したのだろう。
あかりの視線が自分の顔から離れたことに、まことはホッとした。

やがて、あかりはベッドから出て、忍び足で歩き、
静かにふすまを開けて、部屋から出ていく。
それを確認したまことの身体から、緊張が一気に抜けた。

「ふぇ〜っ。ビックリしたなあ。…あかりちゃん、トイレにでも行ったのかな」

多分、オシッコでもしたくなったのだろうと、
軽く考えたまことは、心に余裕でもできたのか、
先ほどあかりの尻を触ることができなかったのを、残念がっている。

「バレなくて良かったけどさ…」

ベッドの上で身体を転がしながら、
無意識に自分の股間に手がいってしまうまこと。
あかりの尻の感触でも想像しながら、さすっているのであろうか。

(…ん?もしかして…)

その時、まことの頭の中に、ある考えが浮かんだ。
胸騒ぎともいえる、その考えに、
すぐさま毛布をはねのけ、ベッドから起きる。
急いで、しかし物音を立てぬように、あかりの後を追った。

とはいうものの、追うほどの距離ではない。
ふすまを開ければ、トイレまではあっという間である。
まことの予想通り、ふすまを開けると、
すぐ向こうのトイレのドアの窓から、明かりが着いているのが確認できる。
あかりがトイレに入っているのは、確実であった。

 

真夜中である。とにかく、ちょっとした足音さえも
あかりに気付かれる可能性がある事を恐れたまことは、
床にはいつくばるようにして、トイレの前へと近付いていく。

まことの胸騒ぎは、まだ解決してはいない。
このトイレの中で、もしかしたら、あかりがウンコをしているのかもしれない。
何といっても、コソコソと自分を気にしながら、
寝始めてからまもなくしてトイレに行ったのである。

あかりは、ウンコをするために
トイレに行くタイミングを計っていたのでは?
そんなまことの胸騒ぎは、やはり単なる胸騒ぎでは終わらなかったのである。

 

キュ、キュッ…

スリッパの滑るような音が、何度もドアの中から聞こえてくる。
おそらく、あかりが用を足すために、足の位置を変えているのであろう。
何度も足の位置を変えているというのは、ちょっと変な気もするが…。

今だオシッコの音すら聞こえてこない、静寂の時間。
高まる焦りの気持ちで呼吸が荒くなるのを必死に堪えるまこと。
ゴクリと、生唾を飲み込む音も、よく聞こえる。

もしかしたら、排便の音が小さいのかも。
さらにトイレに近付き、ドアに耳を貼りつけ、より中の音に意識を集中させる。

「ふぅん…」

キュッ…キュ、キュッ…

あかりの溜め息と共に、スリッパの音が、まだ聞こえてくる。
その度に、あかりが足位置を変えるだけでなく、
体勢をも直しているのが分かる。

なぜ何度も体勢を変えているのだろう。
まことがそう疑問に思ったときに、ついに排便の音が聞こえてきた。

ブチィ…ビチ…ビチピチ…!

(!!・・・やっぱり)

まことの耳に、とうとうあかりのウンコの音が聞こえてきた。
やや小さい音だが、回りの静けさのおかげで、それでもハッキリと聞き取れる。

プ…!ブピチッ!ブピチビチ…!

ドアの向こうから聞こえてくるこの音から、
あかりは軟便を吐き出してしていることが分かる。

下痢便とはまた違う、水分こそ多いものの、粘り気の強い軟便。
だからこそ、肛門から吐き出されるときの空気音はつきものである。

断続的に空気音が続くということは、軟便の量も多いのであろうが、
この空気音の小ささは、不思議な気がする。

だが、これもあかりが一生懸命
音を小さくするための工夫を凝らしているからなのである。

何度も体勢を変えているのは、
最も空気音が小さくできそうな体勢を模索していたためであるし、
その間にも、肛門を少しずつ緩めながら、
軟便をスムーズに吐き出すタイミングを窺っていたのである。

肛門を緩めては締め、軟便を吐き出す瞬間にオナラが混じらないか、
一気に大量の軟便が溢れはしないか、
この静かな夜の時間の、コッソリとする排便に、非常に神経を使っているあかり。

そのことは、まことにも何となく分かった。
音を立てないように、夜のまこと宅にウンコの音を響かせないように、
慎重に肛門を開き、軟便を吐き出しているのが。

時間は掛かるが、音は最小限に抑えることができる。
あかりは、時間よりも、音を取ったのだろう。

 

しかし、まことにはそんなことはどうでも良かった。
まことの思いは、久しぶりにあかりのウンコに遭遇できたことよりも、
どうして自分にウンコをしたいということを告げずに、
寝た後に、コッソリとトイレに行ったのかということ。

あかりは、まだ自分に全てをさらけ出せるまでには
行ってなかったのかということ。その悔しさしかなかった。

(どうして…。言ってくれてもいいじゃないか…)

自分は、あかりがウンコをしようと好きでいることができるのに。

決してバカにしたりはしない。
あかりさえ気楽に「ウンチをしてくる」と言ってくれれば、
自分も、それを当然のように平然と受け止めることはできる。

あかりと一緒にトイレに入ったっていい。むしろ、入りたいぐらいだ。
何といったって、自分は、あかりのウンコさえ愛することができるのだから。

(贅沢かもしれないのは、分かっているよ…)

確かに、以前あかりの家で、まことがウンコをしたとき、
まことも、ウンコに行く事をハッキリとは言わなかった。

それを考えれば、あかりがウンコに行くことを告げないのも、
どんなに心を開いたとしても告げられないのは、当然のことかもしれない。

しかし、止まるところを知らないまことの思いは、
そんな都合の良い願いをも叶えられなければ、
我慢できないようにさせてしまうのである。

このドアをこじ開けてでも、あかりの元へ飛び込みたい。
あかりのウンコの側へ行き、あかりと共に、あかりのウンコを共有したい。

ウンコの臭い、形、色、温もり。あらゆる感触を手に入れたい。

(いけないだろ…そんなこと…。変な事なんだよ…この気持ちは…!)

しかし、それでも近付きたい。
ある意味、あかりの全てを自分のものにしてしまいたいという、
束縛の欲求なのかもしれない。

だが、まことは二人の間の距離を、完全にゼロにするには、
『ウンコ』という問題を解決することが絶対必要だと信じていた。

あかりを殻に閉じこめてしまったのがウンコなら、
二人の出会いのキッカケもウンコ。
そして、今こうやってあかりが自分の家に泊まりにくるまでになったのも、
やはりウンコがキッカケであった。

強引かもしれなくても、自分があかりのウンコを
受け止めてあげられるのだということを、あかりに示さなくては、
二人はこのままで終わってしまうし、
あかりも、このまま殻から脱出しきれずに終わってしまいそうな、
そんな予感がするのである。

 

しかし、どうやってトイレに入ればいい?

本当にドアをこじ開けて、トイレに押し入るか?
しかし、あかりの羞恥心を無視して、そんな無茶をしては
最悪嫌われる可能性が、非常に高い。

やはり、あかりを説得してトイレに入れてもらうしかない。

しかし、どうやって説得する?

この状況であかりに声をかけることが、不自然すぎる。
そして、あかりのウンコを見るために、トイレに入るのだということを
あかりは承諾するであろうか?

まことは、必死に考える。

どうやって、あかりに話しかけるか?

どうやって、トイレに入れてもらうか?

それとも、いっそのこと何事もなかったかのようにベッドに戻り、
あかりがウンコをしたことを気付かなかったフリをする方が、
結果的に良いのではないのか?

少ないとはいえ、まだ日はある。

もしかしたら、もっといいチャンスがあるかもしれない。
もしかしたら、もうチャンスはないのかもしれない。

ここで思い切って行動して、必ずしもあかりに接近できるであろうか?
失敗してボロボロになるより、ここで止めるというのが現実ではないか?

・・・ガラガラガラ、

まことの必死の考えを中断させるかのように、
トイレの中から音が響く。
あかりが、紙を取っているのだ。

(もうすぐ、あかりちゃんはウンコを流しちゃう…)

何とか、軟便を全て吐き出したあかり。
紙で尻を拭いたら、すぐに水を流し、軟便を葬ってから、ベッドに戻るであろう。
もはや、まことが選択をできる時間は、ほとんど無い。

(嫌だ…。このまま、あかりちゃんと終わりになんてなりたくない!)

紙を巻き取る音が、まことの純粋な望みを引き出した。
つまらない考えなどしたくない。どこまでも、自分が望む限り
あかりに接近し、やがては一つになりたい。

後悔なんて恐れていられない。

自分があかりと一つになるためには、止まっている暇なんて無い。

立ち止まることが、すなわちあかりとの仲を、そこで終わりにすることである。

だったら、良い説得の言葉なんて考えることは無用だ。
自分のありったけの気持ちを、ぶちまけてやればいいことじゃないか。

自分の本音こそが、今まであかりに近づけた理由なのだから、
ここだって、本音で行けばいい。

「…待って!あかりちゃん!」

まことの大声は、ドアの中にいるあかりの元にも届いたであろう。
紙を巻き取る音が、ピタリと止まった。

トイレのドアを挟んで、二人の間に一瞬の沈黙が起こる。
しかし、その沈黙も、すぐに終わる。

「……だ…、誰…?」

「アタシだよ。まことだよ、あかりちゃん」

その13へ続く