病は気から

その3

「と…その前にちょっとトイレ借りるね」

だから、先に2階へ上がっててと告げ、
あかりの部屋のある、2階へ行って勉強する前に、トイレを借りたまこと。

「よいしょ…」

トイレのドアを開けると、
正面に向かって、一段高くなって便器が設置されている。
スリッパを履いて、便器をまたぎながらジーンズを脱ぎ始めるまこと。

(今日は外が暑かったからなあ。結構蒸れちゃってるね)

チャックを下ろし、ジーンズを膝まで下げる。
ジーンズのせいもあってか、股間にしっとりとした湿り気を感じていたまことは、
パンツのゴムをつまみ、股間をのぞき込むように伸ばしてみると、
かすかにすっぱい、蒸れた臭いが感じられた。

(あたしもスカートを着られればなあ…)

あかりのように、スカートを着ていれば股間が蒸れることも無いのにと、
しみじみと感じるまこと。

長身で男っぽい感じのまことには、セーラー服はともかく、
私服ではスカートが履きづらいというコンプレックスがあった。
好みだからジーンズ、パンツルックでいるんだ。と思っているまことだが、
それが、ごまかしでしかないということが、時折思いに出てくる。

もっと小さな頃は、いつもヒラヒラのスカートで、可愛くキメていたものだが、
背が伸びるにつれ、誰に言われるでもなく、ズボンに乗り換えていった。

それでも、彼女の、可愛い少女になりたいという願望は、
白っぽいピンク色のフリル付き、という少女趣味なパンツに現れていた。

そんなことを考えながらも、手はいそいそとパンツを下ろし、
すでに便器の上でしゃがみ込んでいた。

 

おもむろに放尿を始めるまこと。
一直線にアソコから飛び出したオシッコが、水溜まりで豪快な音を立てる。
考え事をしていたせいもあるが、まことは、音消しを忘れていた。
あかりの家とはいえ、外のトイレではないという安心もあったのだろうか。

放尿中に、ゆっくりと拡がっていく肛門。
そのまま、何故か力み始めるまこと。
実は、彼女はウンコがしたかったのであった。

トイレを借りると入ったが、ウンコをするとは告げていない。
さすがの彼女も、はっきりウンコをしてくると告げるのは出来なかった。
しかも、あかりという妙に意識してしまう友人であるならば、尚更であった。

あまり時間がかかれば、あかりにウンコをしてきたと気付かれてしまう。
あかりちゃんなら別にいいけど、何か嫌だ。
まことは、急いでウンコを吐き出そうと肛門に力を込めた。

「ふんっ……!」

プゥ〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!

(うわっ!やっば〜…)

まだあまりウンコが下りてきていないのに、
思いっきり力んでしまったまこと。
そのため、肛門からオナラが出てしまったというわけである。

溜まっていたガスをウンコと勘違いして、
大きな音を立ててしまったまことは、慌てて後ろを振り向く。
しかし、当然ながらそこに見えるのはドアだけである。

(ま、大丈夫だよね。あかりちゃんには先に上がってて、って言ってあるし)

あかりの家は、玄関を上がってすぐ横の所にトイレがある。
あかりが玄関にいたら聞こえるかもしれないが、
もう2階にいるだろうと言うことで、ホッとしたまこと。

(そんなことより、早く糞しちゃわないと)

前へ振り向き、再び力み始めるまこと。
家には、あかりの他に家族はいない。もう多少の音は構わないと、
声を出しながら、思いっきり力むのであった。

「…………………」

しかし、あかりはそこにいた。
まことの放尿音も、オナラも、完全に聞こえていた。
あかりは、目の前のドアを見ながら、呆然と立ちつくしていたのであった。

(ど、どうしよう…、どうしよう…!)

あかりは、なぜか震えるばかりで、そこから動くことが出来なかった。

 

あかりは、玄関でガス抜きをしようとして、
危うく下痢便を噴出させそうになりながらも、何とか平常を振る舞おうと、
何となく、まことのオシッコが終わるのを待って、
一緒に2階へ上がろうとしたのであった。

靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて、トイレの前で
ぼんやりと佇むあかりの耳に、妙に聞き慣れた音が聞こえてくる。
ドアの向こうから聞こえてくるのは、水と水とがぶつかり合う豪快な音。

「…………!」

ジョボボッ!ジョ〜ジョボボボボボボボ〜ッ!

何と良く聞こえることか。
まるでその場にいるかのように鮮明に聞き取れる音。
だが、あかりには、それがまことのオシッコの音と分かるのに、数秒かかった。

そして、たたみかけるようにオナラの音である。
あかりにとって、一番のタブーといえる音の連発に、
あかりの頭の中は真っ白になってしまった。

悲しいことに、それでもあかりの脳は、
それが、まことの出した音だということは、ハッキリと判断している。

(木野さんのオシッコの音…。木野さんの…オナラ…)

あかりの頭の中は、まことのオシッコとオナラの音だけが、せわしなく響いていた。

 

「ふん…!うんくく…くはぁ!」

ベチッ!という音を立てる。まことは一本目のウンコを出し切ったようだ。
先端が便器についても、まだ肛門からぶら下がっている長めのウンコ、
出し切った瞬間、ウンコは弓なりに反って便器に叩きつけられていた。

 

早くトイレの前から逃げ出したいのに、体がすくんで動かず、
まことの力む声が嫌でも聞こえてきてしまうあかり。

(もう、やめて…。お願い、木野さん…!)

「…ふ〜んん、ん、んんんっ!」

あかりの願いも無視し、まことの力む声はまた始まる。
ウンコはまだ出るようだ。

 

あかりにとって、一番知られたくないのは、ウンコをする行為である。
お漏らしという心の傷から、というだけではない。
小さな頃から、それを異常に警戒することによる結果が、
授業中のお漏らしという悲劇を生んだのである。

お漏らしをする前は、授業が終わると、真っ先にトイレに駆け込んでいたあかり。
しかし、いつも駆け足でトイレに向かっていくあかりに気付いた女生徒から、

「あかりって、休み時間になると、いつもトイレに走ってくよね。そんなに我慢してたの?」

と言われ、あかりは、トイレの個室に入るところを見られたくないあまり、
一番にトイレに駆け込めばいいと考えていたのだが、
トイレに行くまでの走る姿が、不自然に目立ってしまうことに気付くと、
もう駆け足でトイレには行けなくなっただけではなく、
トイレに行こうとしている自分を悟られまいとすることに、
非常に神経質になっていった。

廊下を歩いているとき、教室を出るとき、
はては、椅子をたつ瞬間まで、あかりは、常に周囲の様子をうかがっていた。

人の視線が異常に気になる。

人の視線から逃れたい。

もう自分を見てほしくない。

いっそのこと、みんなに無視された方がどんなに楽か、
そうすれば安心してトイレに行けるのに。
友人を誘って、一緒にトイレに行ける周りの女生徒たちが羨ましいとも思った。

トイレに入るときは、まず遠くから様子をうかがい、
人がいなさそうな時だけ、トイレに向かった。

学校の女子トイレは、常に人がいるものだが、
ビクビクしながら、誰とも目を合わせずこっそり個室に入る。

小学校のときから、さすがに場数を踏んできたせいもあるか、
事件の前の頃には、人が多少いても、足がすくんでしまうことはなくなっていった。

しかし、例外もあった。

事件の当日、あかりは、定期試験の日ならトイレでお喋りする連中いないと、
安心してトイレに向かった。

そして、女子トイレの入口をまたごうとした瞬間、
ちょうど用足しを済ませた、当時のクラスの友人と鉢合わせしたのである。

「あ、あかり。あかりもトイレなの?」
「あ…!え、そ、その…う、ううん。ちょっとね」
「なんだ、そうなの。でもなんでここに?」
「な、何でもないの。たまたま…たまたまなの」

あからさまにトイレの入口で鉢合わせしただけに、
いぶかしがる友人だが、別にどうでも良いことなので、気にしなかった。

結局、あかりはその友人と一緒に、クラスに戻ってしまい、
トイレに行く機会を逃した。
なまじ友人であるが故に、用を足すことを知られたくなかったのである。

以降の休み時間も、行こうと思えば行けたのに、
さっきの友人の目が気になって、席を立つことが出来なかった。

『あかり、やっぱりトイレを我慢してない?』
『やっぱりさっきはトイレに行きたかったんじゃない?』

そう思われることが怖かった。
友人は、まったく気にしていなかったのに…。

トイレに行きたくなったのに、無理に我慢をして、
さらに、友人の目というものに対する不安。
そして、定期試験という緊張。あかりの神経を酷使するには、もってこいの状況。

この神経の疲労が、やがては試験中に腹痛を起こす原因となり、
そして、クラス中が注目する中での下痢便脱糞へと繋がることになるのであった。

 

絶対に知られたくないタブー。
あかりにとって、死ぬより辛いことかもしれない、排便行為を知られるということ。
しかし、今回は、あかりが他人の排便行為を知ってしまったのである。

「友人にさえ知られたくない」=「誰もが知られたくないはず」

まことは気付いてないとはいえ、彼女の排便行為の
一部始終を知ってしまったあかりは、
まるで自分が犯罪でも犯してしまったかのような気になってしまった。

「…んはぁ!…ふぅ〜」

(あ…ああ…あ、ごめんなさい…ごめんなさい…)

太いウンコを出し終えたのか、スッキリしたように一息つくまことの声。
安堵するまこととは裏腹に、体の震えが治まらないあかり。

(早く…逃げなくちゃ、ここから…離れなくちゃ!)

2階へ上がろうとするが、ふらつく足下。
しかし、まことに気付かれてはいけないと、慎重に、急いで階段を上がる。
下に響くかどうかは分からなくても、部屋のドアもゆっくり開き、閉めた。

部屋についても、どうして良いか分からず、とりあえず座るあかり。
忘れようとすればするほど、頭の中は、まことの行為でいっぱいになり。
とうとう、まことの排便姿を頭の中にイメージしてしまっていた。

ジーンズを下ろすまこと。

下半身をさらけ出すまこと。

便器の上でしゃがみ込むまこと。

まことの尻、そして、まことの尻からモリモリと溢れ出る…

(ごめんなさい…!許して…許して…!わざとじゃないんです!)

どんなに心の中で謝っても、罪の意識は拭えない。
直接謝るのはもってのほか。絶対に口に出さないこと。
あかりには、それしか罪の意識から逃れる方法が思いつかなかった。

 

あかりが苦しんでいる間に、3本ものウンコを出し終えたまこと。
さすがに一本目以外は、長さこそ無かったが、太さはまずまずで、固さは十分。
ある意味、下痢軟便ばかりのあかりが羨むウンコかもしれない。

まず立ち上がって、それから紙を巻き取り、アソコ、そして肛門を拭く。
健康的なウンコのためか、紙にはうっすらと茶色い汚れが付いただけだった。

数枚の紙を使い、肛門を綺麗にしたあと、水を流す。
一本目のウンコが相当重たいのか、ウンコが流れ出すまでに結構時間がかかった。
水流に押されながら、ゆっくりと、ズリズリと動くウンコ。
そして、ついに水流に負けたウンコが、あっという間に流されていった。

(やっぱり時間がかかっちゃったな。仕方がない、堂々と行くか)

さすがに3本のウンコは時間がかかったか、
開き直ってトイレを出、2階へ上がるまこと。
あかりなら、ウンコかオシッコかなんて、そんなことは考えない。

「あかりちゃんだもんな。ハハッ」

まさか一部始終を聞かれているとも知らず、
ちょっと恥ずかしい気持ちを紛らわすために、軽く独り言をこぼすまこと。

「お待たせ!さ、はじめよっかぁ」

元気良く、あかりの部屋に入ってきたまことは、
恥ずかしさが顔に出ているのか、それとも、
3本ものウンコを力んだためか、頬は少し赤らんでいた。

対照的に、あかりの方はやや顔が青ざめている。
切羽詰まってきた腹痛を、まことへの罪の意識が加速させ、
限界は、ますます近付いてきている。

(落ち着かなくちゃ…。私は、何も知らないし、何もなってない…)

それは、罪の意識だけではなく、
自らのお腹にも、言い聞かせているのであった…。

その4

「うーんと…ねえ、あかりちゃん。ここなんだけどさあ」

あかりのおかげで、まことも少しずつ勉強が分かるようになったとはいえ、
まだまだあかりを頼ることは多い。

たまに張り切って、難しい問題に自分で挑戦して
なんとか解いたと自信満々であかりに見せるが、
あっさり間違っていると指摘され、結局あかりに教わる光景も微笑ましいものであった。

今日は、あかりに質問する回数は比較的少ないようだが、
それでも、聞くことが多いのは確かなようだ。

「うっ!…う、うん。ここはね…」

腹痛には波がある。地獄の苦しみから一転、まるで天国のように
あかりのそれも、今は少し波がひいていた。

それでも、痛むことは痛むお腹を堪えながら、何とか笑顔を作りつつ
まことの質問に答えるあかり。

その表情が、まことの目には、苦笑いのように写る。

(ちょっと聞きすぎかなあ…)

学校では授業中に居眠りしていることが多く、
あかりと勉強をするようになってからは特に多くなった。
うるさい教師の、つまらない授業より、
あかりに聞いた方が分かりやすいし、コミュニケーションが取れると、
つい、まるであかりが家庭教師であるかのように質問責めにしていた。

自分のテスト対策にはなっても、あかりの勉強の邪魔になるんじゃないかと、
あかりの意思と見当はずれながら、ようやくまことも思い始めていた。

とりあえず、まことは、分からないところは飛ばして、
簡単なところを進めようと決め、しばらく質問をしないことにした。
その間に、あかりにも勉強を集中させてあげようというつもりであった。

 

急に静かになったまことに、あかりは少しホッとする。

あかりは、今日の勉強を、あまり進ませるつもりはなかった。
まことに気付かれない程度にペンを進め、
とにかく意識をお腹と肛門に集中させ、腹痛と、
下痢便の噴出を耐えきる考えであった。

まことの質問責めが止まれば、それだけ意識が散らされる回数が減り、
より限界を堪えることが出来る。

勉強を始めた時点で、すでにあかりのパンツは、
尻のあたりにうっすらと茶色い汚れが付いていた。

玄関で漏らしそうになったネバネバの水下痢便は、慌てて締まった肛門を濡らし、
座ってるうちに、パンツが尻、肛門に密着して、ついた汚れである。

この程度では、まだパンツの表側にまで染みはしないし、
あかりも、汚れていることにすら気付いてはいなかった。
しかし、今のあかりのパンツには、とうとう表側にまで染みる、
まだほんの少しではあるが、汚れが進出していたのである。

 

ペンを進める音がコツコツと響く、心地よい静寂を破り、
突然響くまことの声。
先ほどまで何回もあったその声は、あかりの集中を乱し、
それだけでなく、急な発言によっての驚きを与えた。

ノートを見るフリをして、実は自分のお腹を見ながら、
片手でお腹をさすり、自分自身に大丈夫と何度も言い聞かせるあかり。

そんなときに突然声を出されると、驚きのあまり思わず体の力が抜け、
肛門が緩んだ瞬間、ガスとも水下痢便とも付かないものが吹き出すのを感じる。

あかりの反応よりも先に、あかりの肛門は、自ら噴出を止めるべく締まり、
遅れてくるあかりの反応を待つ。

肛門を締めるということは、本人の意識だけで続くものではない。
特にあかりの場合には、下痢軟便を堪えることが多いだけに、
それは、大きな問題であった。

しかし、続く我慢、大きなコンプレックスにより、
あかりの肛門は、まるでそれ自体が意識を持つかのように動くのである。

あかりの脳の意識が緩んだとき、肛門に残る

「お漏らしは嫌」「ウンチやオナラを人に知られたくない」
「音を、臭いを出したくない」

という意識が、肛門を締めさせるのであった。

しかし、それでも普通の人間に比べれば、である。
いずれ限界は来るものであるし。それまででも、完全に噴出を防げるわけではない。

その結果が、今の汚れパンツである。
このまま時間が経過すれば、そのシミは、
より一層広がっていくはずだ。

尻にパンツが密着するたびに、湿り気を感じる。
パンツを汚したことは、もうあかりにも十分なほど分かりすぎた。

何度経験しても、慣れることはない、
おぞましいぐらいの悪寒が、腹痛に加わり、あかりを苦しめる。
この悪寒が、限界の時間にまた一歩近付いたということを示すのであった。

 

静かになって安心したあかり。
しかし、静かになった事は、逆にまずいことでもある。

「うぅ…、はぁ、はぁ…。んっ…、くうぅ…」

時間が経つにつれ、痛むお腹。
より意識して締めなければ、いつ開くか分からない肛門。
もはや平常を保ちつつ、それを耐えることは無理であった。

そんな状態のためか、鼻だけでなく、
口での呼吸もしなければ息苦しくなり、
さりげなく口を半開きにして、気付かれないようにゆっくり呼吸をするが、
どうしても呼吸は荒くなり、微かにうめき声も漏れる。

さすがにまことも、あかりの妙な呼吸に気付き、
どうしたのと聞くが、あかりが正直に答えることなど出来るはずがない。

「何でもないよ…何でもないから…」

とはいっても、ふと気が付けば顔が真っ青になっているあかりに、
まことならずとも、そこで引き下がる者はいないだろう。

「何でもないって…顔真っ青だよ、そんな筈無いだろ」

あかりには、ただ何でもないと言うことしかできなかった。
こんな状況を凌ぐ、良いごまかしの言葉など思いつかないし、
考えてる間にも、尻の内側から、ガスと水下痢便が
締まる肛門をこじ開けようと波状攻撃を仕掛けてくる。

まことが喋っていた方がまだマシかもしれない。
それだったら、会話の間にさりげなくガス抜きをして、音をかき消す事もできるし、
あまりの腹痛のため、お腹からグルグルと発する不快な音も聞かれなくて済む。

まさに八方ふさがりな、この状況を抜け出したければ、
一言「トイレに行って来るね」といえば済むのだが、
どうしてもその言葉が出なかった。

「今、ちょっと難しい問題があって…考えてたの…」

こんな苦しい言い訳しか出てこないのだ。

トイレを我慢していることがばれるかもしれない。
しかも、今トイレに行けば、明らかにウンコをすることが、
下痢便をトイレにぶちまける姿が想像されてしまうかもしれない。

とにかく、お腹を下していることがばれなければいい、
オナラと下痢便に苦しめられていることがばれなければいい、
どんなに異常と思われても、それさえばれなければいい。

まさか自宅にいて、学校でお腹を壊したときのような苦しみを味わうとは。
後20分、後10分と、時計ばかりを気にし、
授業が終わるのが先か、限界が来るのが先か、
まさにこれからの人生を左右する、たびたび起こる必死の戦い。

自宅こそが、唯一の安心できるトイレがあるというあかりだが、
自分にあれだけよく接してくれまことの前ですら、その場を封印してしまう。
しかも、自分の下痢便が臭いと言われた、初めての出会い。
その恥ずかしい思い出が、よりトイレに行くのを我慢させてしまう。

(これ以上…、これ以上イジメられたくない…。知られたらイジメられる…、ウンチがばれたらイジメられる!)

もしかして、今度ウンコをしったことを知られたら、
まことも自分を馬鹿にしだすのではないか、
信じたくても、もしかしたらという思い。
それは、肛門を急襲する水下痢便の痛みよりも、大きかったのである。

 

(まさか、あかりちゃんトイレを我慢してるんじゃ…)

まことも、あかりの異常の理由に、感づいた。
だが、あかりが何故我慢しているのかという所にまで考えは及ばず、
単に恥ずかしがっているだけだと思い、
自分から言えないのなら、こっちから行かせてあげれば行くだろうと
単純に考えてしまう。

「もしかしてさあ、トイレ我慢してるんじゃない?いいよ、気にせず行っておいでよ」
「…………!!」

あかりの顔が、一瞬にして真っ赤になる。
紅潮は瞬く間に耳まで移り、あからさまに同様と羞恥が見える。
あかりの苦しみを知らないまことは、赤くなったあかりを可愛く感じてしまった。

「あはは、真っ赤になっちゃって。ほら、早く行ってこないと」
「…違う…違う!トイレじゃないったら!」

まことには、全く予想外であった、机を叩いてのあかりの怒りの言葉に
思わず驚いて背筋がピンと伸びる。

「あぁ〜、…ゴ、ゴメンなさい…!と、とにかくトイレじゃないから」

まことは、あかりは絶対にトイレを我慢していると確信していたが、
初めて見る、あかりの怒った表情に、それ以上会話を続けることが出来なかった。
それよりも、小さく聞こえた「あぁ〜」といううめき声と、
その時に見せたあかりのしかめっ面が心配でたまらなかった。

(こうなったら、あかりちゃんが自分からトイレに行くのを待つしかないか…)

正直、あかりが一瞬とはいえ、
あそこまで怒るとは想像していなかったまこと。
なんだかんだ言いつつも、今までの女友達との付き合い方が出てしまう。
肝心なところで、あかりの敏感すぎるコンプレックスに気が付かないのであった。

 

とりあえず、今の騒ぎに一段落がつき、二人の間に妙な沈黙が訪れる。
怒ったときに、机を叩いた勢いで、腰が上がってしまったあかりも、
ゆっくりと腰を下ろす。
その時に、さりげなく手を尻の所へ持っていき、
スカートをめくって、尻のあたりをまさぐる。

(うう…ぐぅ…、ああ…どうしよう…)

パンツの上から重ね履きしているブルマにまでは、まだ染みてないものの、
ブルマの上から、尻の割れ目のあたりを指で押してみると、
グチュグチュと微かに音がする。

尻の割れ目一面に感じる、冷たい粘着感。
恥ずかしさのあまり、思わず怒ってしまった時、
あかりと共に、限界を堪えていた肛門の意識は、
あかりの気のゆるみに、水下痢便の勢いを支えきれなくなって、
一瞬だが、肛門を開かれてしまい、噴出させてしまったというわけである。

尻の割れ目と、パンツの間で糸を引くようにネバつく大量の水下痢便。

グチャ…ネチャ、グチ…

ようやく腰を下ろしたあかりの尻に、またも不快な音と共に、
ひんやりとした水下痢便がパンツの中で広がる感触に、ゾクッとする。

しかし、次の瞬間から、
背筋が冷たくなるどころではない感覚が、あかりを襲う。
様々な出来事に、あかりが気を取られている隙に、
下痢便は既に、肛門のすぐ間近まで、下りてきていたのである。

地獄の合間に見えた天国は、さらなる地獄への布石でしかなかった。

一度緩んだ肛門は、もう完全な力で締まることはない、
さらに、先ほど噴出した水下痢便が肛門を滑らし、
ヌルヌルになった肛門の皺は、その伸縮力も弱められて締まったのである。

(あ、ああ、あっ、ダメッ!ん、く、くぅ!)

真っ先に下りてきたガス、水下痢便が、
それに続いて下りてきた下痢便に後押しされ、
ますます強い勢いで、肛門から飛び出そうと、
直腸内を、まるで洪水のような勢いで突き進み、こじ開けに来る。

力の弱まった肛門は、もはや次にあかりが気を緩めた瞬間に、
今度こそ完全に開いてしまうだろう。

ガスが、水下痢便が、内側から肛門を襲う。
もはやまことのことなど気にしてはいられない、
うめき声が出てしまうのも構わず、俯いたまま必死の形相で肛門を締めるあかり。

そのたびにガスとも水下痢便ともつかないものは、
いったんは締まった肛門にはじかれ、直腸を追い返されるものの、
すぐに、前にも増した勢いで肛門に襲いかかる。

「う、うう!ぐうぅ…!うううぅ!」

ギュッと締めた握り拳に、額には脂汗を浮かべ、
あからさまに聞こえる苦悶の声に、
目の前でそれを見ているまことも、気が気ではなかった。

声をかけるわけにはいかない。そうすればあかりはますます頑なになる。
まことには、あかりが早くトイレに行ってくれることを祈るしかなかった。

(頼む…あかりちゃん…!早く…早くトイレに行かないと…!)

「ああうぅ〜!んんん!んぐぅ〜!」

生き地獄なのは、下痢便を堪えるあかりだけではなかった。
目の前で大好きな友人が苦しんでいるというのに、
何も救いの手をさしのべることの出来ないこの状況は、
まことにも地獄の苦しみを与えていたのである。

 

今肛門に襲いかかっているのはガスか、水下痢便か、
もはやそれを判断する余裕など無い。

噴き出したのがガスならば、限界まで、ほんの一時だが余裕ができる。
しかし、それが水下痢便であった場合、
その時は、文字通りあかりの最後である。

これからの自分の人生を、2分の一に賭けるのは無謀。
ただただ、どちらかが肛門にぶつかってくる瞬間に、
必死に耐えることしかなかった。

(もう、ダメ…トイレに…行かなくちゃ…行かなくちゃ…!)

肛門は、まるで心臓が脈打つようにビクビクと締まり、また緩んでは締まる。
ガス、水下痢便のどちらであろうと、
この状態になっては、肛門を突き破るのは時間の問題であると、
あかりには、経験から分かる。

ついに意を決し、ゆっくりと、慎重に立ち上がろうとするあかり。

ブルブルと体を震わせ、
よろよろと力無く立ち上がろうとするその姿を、
まことは、見上げることが出来ない。
ただ、ガクガクと揺れるあかりの足だけが、その視界に入っていた。

(良かった…。早く行ってきなよ…)

トイレに行こうと、立ち上がろうとする。

その何でもない動作も、今のあかりの肛門を緩ませるのには、
十分すぎる動作であった。
この隙を逃さず、今度こそと、肛門に襲いかかる何か。
ちょうど中腰の状態で、肛門を完全に締めることが出来ないあかり。

「あ、ああ!あっ!あ〜〜〜〜っ!!」

そして、ついに締まる肛門がこじ開けられた!
意思に反して締まらない肛門を、次々と何かが飛び出していく!

ブパ!ブプフゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!

「だめ!だめ!だめ〜〜〜〜っ!!」

飛び出す何かが、肛門にこすれて奏でる、恥ずかしく、情けない音。
そして、無意識にそれをかき消そうとするあかりの絶叫が、
先程までの心地よい静寂をぶち壊す。

そして、二人の時間が止まる…。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…はぁ」

再び静寂を取り戻した部屋に、あかりの荒い呼吸のみが聞こえる。
まことは、俯いたまま、もうあかりの方に
視線を向けることすらもできない。

(まだ…大丈夫。まだ…まだ!)

あかりの肛門から噴き出たのは……ガスであった。

パンツの中は、ネバつく水下痢便でベタベタであったが、
下痢便自体は噴き出してない。なら、まだ完全なお漏らしではない。

あかりは、まだ大丈夫と自らに言い聞かせつつ、
ガスが抜け、すっかり空になった肛門を再び締め直し、
ようやく完全に立ち上がると、俯いたままのまことに背を向け、
すり足で、少しずつ歩みながら、部屋を出ていった。

 

ドアの閉まる音を聞き、あらためて顔を上げるまこと。
追いかけちゃいけないと、頭では思っていても、
あかりを心配するまことの本能が、体を立たせ、あかりの後を追わせる。

「あかり…、あかり…」

そのまことの鼻に吸い込まれてくる、あかりが残していった放屁の臭い。
下痢気味の便から発酵される、放屁の中でも最も臭いその香りを、
まことは、うつろな目で、自らガスを吸い込んでいた。

何が何だか分からない。
ただ、その臭いが無性に愛おしく感じていた。
この後、もっと凄まじい臭いを嗅ぐということを予感しての、
無意識の鼻慣らしなのだろうか。
それとも、この臭いが、あかりの出した臭いであるからなのだろうか…。

「え…あ、アタシ?…そうだ、あかりちゃんを…」

すべての臭いを嗅ぎ終えたまことは、ハッと我に返り、
あかりについていこうと、ドアを開けた。

 

まことがようやく頭を上げた頃、
あかりは、自分の真下に連なる階段を眺めていた。

肛門を締めつつ、階段を下りるという動作は、
上がる動作よりも、遙かに肛門を緩ませる。
しかし、下りなければトイレには行けない。
お漏らしを免れたければ、一刻も早くここを下りるしかないのだ。

階段を一つ下りるごとに、肛門に激痛が走る。
今度こそ、もうガスではないだろう。
半分を下りたところで、肛門を内側から突く、
あまりの強さに、ピタリと足が止まる。

「行かなきゃ…、ここを下りれば、ここを…!」

思いっきり肛門を締め、最後の力を振り絞って階段を駆け下りる。
とうとうトイレのすぐ前までたどり着くが、
ついに力つきたか、そこから体が一歩も動かなくなってしまう。

苦しそうなしかめっ面の表情が、より険しくなる。
あまりの苦痛に目を閉じ、歯を小さくガチガチと鳴らしながら、
ただただお腹を両手で押さえ、
もはや、限界を迎えるのをこのまま耐えるしかなかった。

その時、あかりの部屋のドアが開き、
飛び出してきたまことが、上から声をかける。

「あかりちゃん!大丈夫!?今アタシがトイレに運んであげるから!もう少し我慢するんだよ!」

そう言うや、階段を駆け下りるまこと。
まことは、下痢便を我慢しながら歩くのはきつい筈と、
ならば自分がトイレまで抱えていけばいい。そう思って駆けつけたのである。

あかりは、苦痛でまことの方を見ることが出来ず、
さらに、まことのかけた声の意味も理解できず、
ただ、限界を迎えそうな自分に、他人が近付いてきている。
そういう判断しかできなくなっていた。

「うぅ、ぐうぅ…!ああっ!来ないで!来ないでぇ〜っ!!」

ドブバッ!!ブブブッ!ブブブブブブブフォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!

あかりの絶叫に、もう時間のないことを悟ったまことは、
あかりの下へたどり着いたら、
すぐさまあかりを抱え上げ、トイレのドアを開けて
パンツを下ろし、スカートをまくり上げ、
そして、後ろからあかりの両足を持ち、
幼児にオシッコをさせるような態勢で下痢便をさせるつもりであった。

「もう少しの辛抱だよ!あか…!!」

あかりの手前で急ブレーキをかけ、
今まさにまことの伸ばした手が、あかりに触れようとしたとき、
あかりは限界を迎えた。

先程の放屁音とは比較にならないほど、低く、重い音。

「ああああああぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

まことの耳をつんざく、あかりの絶叫。

これから、長い時間をかけて行われる下痢便大脱糞。

あかりには、
自宅で、しかも他人の前でそれを晒すという地獄。

まことには、
大切な友人の、最も知られたくない場面を、
自分の力足らずのせいで見てしまったという地獄。

同じ地獄でも、二人にとって、その意味合いは大きく違っていた。

(その5に続く)