しいや研究室−真田太平記TOP                                         

---

 

 

 ミニチュアを使ったSFX

もうひとつ、ドラマをより面白くしているのが、ミニチュアセットを使ったSFXだ。

番組制作当初、スタッフが頭を痛めたものの一つに、ドラマの重要な背景となる城をどう見せるかという問題があった。これまでの時代劇だと、現存する城を撮影して見せることが多かった。だが、それではどうしてもドラマが描こうとする“その時代の雰囲気“が伝わらない。

「大坂城にしても、当時は白壁や銅の瓦などなく外観は現存のものとずいぶん違いますからね。上田や沼田城にいたっては、城というより砦ていどのものだったことがわかってます。当時の姿を100%再現するのは不可能としても、出来得る限り本物に近いものを見せたい」(内藤チーフ・ディレクター)

 そこで、実物の1/20〜1/30の精巧なミニチュアを作製。このミニチュアでまず城の情景を撮影し、これに別撮りした本物の人馬や背景の山を合成して、城攻めの場面などに使っている。

 

 

内部構造まで忠実に再現

ドラマには、後に幸村が大活躍する大坂城をはじめ、真田の上田、沼田城、関ヶ原の合戦に先立って東西両軍の攻防が行われた伏見、大垣、岐阜城など大小20以上の城が登場するが、使われるのはすべてミニチュアセットだ。

制作したのは、東京工業大学建築学科の学生たちで、古図や絵巻、当時の建築資料をもとに、外観はもとより、内部構造、建築様式にいたるまで忠実に再現されている。

真田家が活躍した天正、慶長年間は、ちょうど築城様式の新旧交代時期にあたっているので、ドラマが進むにつれて城の作りがどう変化していくのかを見ていっても面白いだろう。

ドラマは、最終的には真田一族の人間を描くことを目的にしているが、その下地となる時代をいかにキメ細かく表現するかで、ドラマ自体の厚みが決まってしまうのだ。

 

 

 

音づくりの舞台裏

 

 風呂敷ひとつでさまざまな音が

新しい時代劇づくりの挑戦は、音の世界でも行われている。

たとえば、タイトルバックに雷が落ちる場面が出てくるが、あの雷鳴、驚くなかれ、地下鉄の音なのだそうだ。

「地下鉄音の低い部分を抜きとって、テープの回転を変えたりエコーをかけたりすると、ああいう音が出来るんです。<真田太平記>では、風邪の音や手裏剣が飛ぶ音ひとつとっても、こうして作り上げているのです」と言うのは、効果音担当の上田光生チーフ・ディレクターだ。

ことに、忍びの格闘シーンの音づくりには、苦心が多い。

「忍びが、“ブアーッ”と宙を飛ぶ音は、自然の風の音に風呂敷をバタバタさせる音を加えるとできます。でもそれだけじゃ物足りない。そこで一度、ロケットの噴射音を使ってみたら、なかなかいいんですね。どういう跳躍をするかで、いろんな音を使い分けているんですよ」

手裏剣が“ビュン”と飛ぶ音は、フェンシングの剣やムチを振った音を加工して作ることが多いが、風呂敷の一部をビリッと裂く音なんかが、意外とマッチするとか。また、敵を斬り伏せる音は、ガムテープを壁に貼り、その一部を思いきり切り裂くと、“ジャシッ”というすごい迫力ある音ができるそうだ。

だが、こうして作られた音も、その回の放送が終わると、捨てられてしまう。「そうしないと何回も同じ音を使ってしまうので、新鮮味が薄れてしまう」からというのがその理由。

 

  一つの場面には、一つの音しかない

 みなさんは、ドラマのバックに流れている心象音に気づかれたことがあるだろうか。画面や台詞だけでは表せない登場人物の心の動きを、抽象音で表したものだ。効果マンは、台本を精読して、その台詞の行間にひそむ登場人物の心理を音にするわけだが、<真田太平記>では雷や雪崩、風の音などに似せた音を多く使っている。だが、そのもとの音となると、想像もつかないような素材が使われる。

 一度、敵を射すくめるお江の目のアップに、低く重い風の音が心象音としてつけられた。このとき使われた音は、なんと換気扇の音だったのだ。

「どんな音を素材に使うかは、セオリーがないんです。ですから、毎回、いろんな音を使ってます。それも、この場面にはこの音しかないという、不滅のセオリーがあるからです」(上田ディレクター)。

 ドラマはこの先、関ヶ原の決戦に向けて緊迫した場面の連続。どんな音が飛び出すか――楽しみである。

 

 

  <<真田トップページへ>><<前のページへ>>