黄昏の岸 暁の天 (小野不由美 講談社文庫)★★★

 待望の十二国記シリーズの最新刊。
 戴国で謀反が起こり、泰王驍宗は行方不明、泰麒は傷つき記憶を失ったまま蓬莱(日本)へ流される。荒廃する一方の国を救うため、将軍李斎は景王陽子に助けを求める。他国への干渉を厳しく戒める「天意」の制約のもとで、なんとか戴国を救おうとする陽子の呼びかけに応じ諸国の麒麟が泰麒救出のためにかけつけるのだが....。新潮文庫ででている十二国記の外伝「魔性の子」が記憶を失った泰麒の蓬莱(日本)における生活の話であったのに対し、本書はその間十二国側で何が起こっていたのかを記す物語。
 本書のポイントは、陽子が十二国の世界の構造を規律する「天」の存在と意義に疑問を抱くようになる点。およそファンタジーものは、当該ファンタジーの世界を根本で規律する何らかの原理を前提とし、最後にその原理に沿ったアクションをとることで主人公が敵をうち破る等困難を克服するという構造をとるのが通例。本シリーズでは「天」「天意」がその根本原理にあたるのだが、著者はこのファンタジーのいわばセントラル・ドグマに挑戦しようとしている。陽子が抱いた「天」への疑問は十二国記の世界観を根底から揺るがすものであり、今後物語がどう展開していくのか興味深い。本書は5年待ったかいのある力作であるが、早く次作もよみたいものである。
(本シリーズはもともと講談社X文庫ホワイトハートからでているのがオリジナルシリーズであり、こちらからもイラスト付きで上下巻分冊で5月に出版されている。)

 なお、十二国記シリーズをまだ読んだことのない人は、早速本屋に走り、まずは「月の影 影の海(上・下)」をGetしましょう。十二国記の世界にはまること請け合いです。講談社文庫版と講談社X文庫ホワイトハート版がありますが、装丁・イラストのみの違いで中身は同じ。お好きな方をどうぞ。

わたしたちはなぜ科学にだまされるのか (ロバート・L・パーク 主婦の友社)★★★

 物理学者であり、米物理学会のワシントン事務所長を務める著者が、世の中にはびこるインチキ科学(著者の言葉では"ブードゥー・サイエンス")のからくりをあばく疑似科学批判書。永久機関、常温核融合、ニセ薬、健康に悪い電磁場、宇宙人などおなじみの項目が取り上げられている。著者は、これらのインチキ科学に携わる当事者のみならず、これらをエンターティンメントとしておもしろ半分にとりあげるマスメディアの責任、科学に無理解な政治家なども俎上にあげて鋭く批判する。また、おなじみの項目に加えて、レーガン時代のスターウォーズ計画やさらには日本も参画している国際宇宙ステーション計画が科学的な観点からは著しくコストベネフィットが低く、巨額の予算を無駄に消費することによりかえって本来の科学進歩の足を引っ張っていると指摘する。特に、国際宇宙ステーションについては、著者のような視点での批判的議論を読んだのは初めてであったので非常に新鮮であった。
 本書に取り上げられている項目は、我が国のマスメディアでも肯定・否定とりまぜて折にふれて登場するものも多い。著者のいうがごとく「われわれは自然の法則に支配された世界に暮らしており、魔法はけっして起こらない」ことをあらためて認識しておくためにも非常に有益な書である。
 なお、著者は米物理学会のサイトに週間コラムWhat' Newを連載しており好評を博している。

天国への階段(上・下) (白川道 幻冬舎)★★

 家業の牧場を乗っ取られ父は失意の中で自殺、将来を誓い合った恋人も奪われたた主人公柏木圭一は、孤独と絶望の中で上京し26年間の努力の末に若手実業家として注目される存在になる。築き上げた地位と資産を使い、復讐を遂げようとするそのときに、昔関わった事件が柏木の行く手に陰をおとす.....。
 幻冬舎の一大宣伝が目を引いた作品。コンセプトは「モンテ・クリスト伯」で状況設定は「砂の器」といった趣。さすがに白川道だけあり、骨太でまっすぐな復讐劇+恋愛劇で上下二巻800ページを一気に読ませる力作であることは間違いない。
 ただ、あまりに直球勝負すぎて、ときとしてご都合主義的にみえる部分がめにつき、物語の深みをそいでいるのが傷。「流星たちの宴」や「海は涸わいていた」にみられる独特の叙情的雰囲気があまりかんじられなかったのもストーリー展開が単線的にすぎるためと思う。ラストに向けての収束もバタバタまとめた感じで余韻をかくものとなっているのが残念。

誰も教えてくれない聖書の読み方 (ケン・スミス 晶文社)★★

 聖書をいろいろな解釈や脚色を抜きにしてそのまま読めばいったい何が書かれているのか? 殺戮、セックス、性差別などに満ちたテキストが満載されているんだよ、君たち知っていたかい、という趣向の聖書ガイドブック。この本を読めば、おそらく誰もが本当にそんなことが書いてあるんだろうかと思って、聖書の本体をひもときたくなるはずだ。およそ洋の東西を問わず教典の類は歴史的産物であり、その一部分を抜き出して現代の視点でみればおかしなところがいっぱいでてくるのはいわば当たり前のこと。それらの要素の取り上げ方、配置、批評が絶妙のバランスをもって構成されているのが本書が成功している理由だろう。いわば著者の「つっこみ能力」の勝利である。原文がどのような文体なのかよくわからないが、山形浩生お得意のちょっとひねった言い回しの翻訳がよくあっている。
 当然のことながら、真面目なキリスト教徒達からは本書に対し強い批判の声があがっているそうだが、本聖書に改めて人々の関心を向けさせるという意味では結構キリスト教普及に一役かっている本といえるかもしれない。  

エンダーのゲーム (オースン・スコット・カード ハヤカワ文庫)★★

 86年のヒューゴ・ネビュラ両賞受賞作。物語の舞台は近未来。昆虫型異星人バガーの二度にわたる侵攻をしのいだ人類は三度目の侵攻に備え、バトルスクールに世界中から選抜された少年・少女を集め高度の軍事教育を行っている。バトルスクールに入学した主人公エンダーは、誰よりも抜きんでた天才ぶりを発揮し瞬く間に進級していくが、一方でエンダーの苦悩と孤独は激しくなっていく。その行く手には....。
 SF的設定を借りた少年の成長物語。主人公の内面が丁寧に描かれる一方、ストーリー展開もつぼをおさえたうまさがあり500ページを一気に読まされる。エンダーの兄と姉が匿名のポレミークとして地球の政治思想状況に影響を与えていくサブストーリーがバトルスクールを舞台とする本編としっくっり整合していない感じがすることと、ラストがやけに宗教的になってしまっているのが難といえば難。もっとも、ラストは本作の続編である「死者の代弁者」につなげる布石なのでやむを得ないもののようではある。「死者の代弁者」も読んでみたい気はするが、より一層宗教色が強くなりそうでやや躊躇するところ。
 なお、本作品は同タイトルで1977年に発表されたデビュー作(短編集『無伴奏ソナタ』に収録)を長篇化した作品。

心とろかすような (宮部みゆき 創元推理文庫)★

 宮部みゆきの初期作品「パーフェクトブルー」の続編。探偵事務所に飼われている元警察犬のマサの一人称で語られる異色作。初期の作品なので、若書きという感は否めないが、苦い現実をみつめながらもどこかハートウォーミングな雰囲気がただよう宮部節は当時から健在。気軽に安心して読める一冊。

掌の中の小鳥 (加納朋子 創元推理文庫)★

 しゃれた雰囲気の短編連作ミステリ。女性バーテンダーが切り盛りする小粋なバー「エッグスタンド」を舞台に、ふとしたきっかけで出会った主人公の男女二人と店の常連客の間で日常のささやかな謎をはらむ物語が展開していく。
 以前に加納朋子の作品は優しいが弱いという趣旨の感想を書いたことがあったが、本作品は弱さを感じさせない適度な優しさが前編に横溢しており心地よい。主人公の女性が男の視線で見ると何とも魅力的でよい。
 各編は謎解きとしてはまあ可もなく不可もなくの部類。ただ、「できない相談」は、エラリー・クイーンの名作中編「途中の家」のバリエーションなのだろうが、ちょっと設定に無理があるような気がする。

ロシアは今日も荒れ模様 (米原万里 講談社文庫)★★★

 米原万里のロシアエッセイ。文庫版としては「不実な美女か貞淑な醜女か」「魔女の1ダース」に続く第三弾(出版社は違うが)。最前線で活躍している通訳ならではの興味深いエピソードとセンスの良い文章があいまって、前二作に引き続き非常に面白い作品に仕上がっている。縦横にちりばめられたロシア小咄にニヤリとし、エリツィンやゴルバチョフの知られざるエピソードに引き込まれ、ロシア人の酒量について驚かされる。このような作品を読むと、優秀な通訳というのは単に言葉の翻訳者ではなく"文化の翻訳者"であるというのがよくわかる。数多のロシア紹介本より数倍ロシアとロシア人の本質について理解が深まったような気にさせてくれる本である。

悪徳の都(上・下) (スティーブン・ハンター 扶桑社ミステリー)★★

 ボブ・リー・スワガーの父親、アール・スワガーが主人公の物語。硫黄島の戦闘で名誉勲章を受章しながら戦後の社会で自分の居場所をみつけられず酒浸りになっているアールが、伝説的FBIエージェントにスカウトされ、自らが訓練した若い精鋭の部下とともに賭博と歓楽の町"ホットスプリングス"(ちなみにクリントンの出身地のすぐ近く)の浄化のために立ち向かっていく姿を主軸に、保安官として殉職した厳格なアールの父親の死の秘密、ボブ誕生のエピソードなどを交え、骨太の物語に仕立てている。アールの人物描写はボブと比べて、まさにこの父にしてこの子ありといった趣。部下とともに行動する場面も悪くないが、後半アールが孤立していき一人で戦うシーンがハンターの真骨頂だろう。舞台設定の小道具として、ラスベガスの基礎を築いたギャング、ベンジャミン・"バグジー"・シーゲルをはじめ、実在の人物、エピソードも巧みに配置されている。なお、現代は"Hot springs"だが、邦題はもう一工夫の余地があるのではないか。

灰夜 新宿鮫Z (大沢在昌 光文社)★★

 おなじみ新宿鮫シリーズ。刊行順では8作目だが連載時点の関係で「VII」となっている。舞台は作品中には明示されていないものの明らかに「鹿児島」。通常のレギュラー陣は晶、桃井はじめ、鮫島以外誰も登場しない異色作。また、舞台が「新宿」ではない(管轄外である)ため、鮫島が「警察官」としては行動できないという設定面でも異色。
 同期の友人、宮本(鮫島が警察内部で異端者になる原因を創って自殺した人物)の法事に出席するため、この地を訪れた鮫島が事件に巻き込まれる。当初、麻薬売買と暴力団の抗争絡みの事件と思われたその裏にはさらに大きな陰謀が....、という設定。冒頭鮫島が監禁されているシーンと回想で宮本の地元における友人、古山と鮫島の交流が並行的に描かれているシーンはなかなかよいのだが、どうも中盤以降、展開が派手な割にはもたもたした印象を受ける。鮫島の「敵」となるべき人物が多すぎて鮫島の動きが拡散しているせいではないかと思う。また、ラストの描き方ももう少し余韻の残る描き方があったのではないかという感じがする。
 もちろん面白く読める作品なのだが、新宿鮫シリーズだけにどうしても要求水準が高くなってしまう。

黒祠の島 (小野不由美 祥伝社)★★

 失踪した作家の葛城志保を追って、彼女の取材調査を請け負っていた式部剛は、彼女の生まれ故郷「夜叉島」へ赴く。そこは国家神道から外れた「黒祠」の島であり、島民は排外的で志保の行方についての情報は全く得られない。しかし、式部は粘り強い調査を続け殺人事件があったことをつきとめる。ある嵐の晩に女性の惨殺死体が発見されていたのだ。因習に縛られた閉鎖社会における過去のいまわしい事件と現代の殺人事件はどのようにつながるのか。はたして志保はどうなったのか。島を無言の圧力で支配する神領家の秘密とは?
 読み進めて暫くは「屍鬼」のような作品かなと思っていたら、実は、現代版横溝正史であった。著者得意の伝奇ホラー要素がうまく盛り込まれた著者初の本格推理物。秀作。

「歳時記」の真実 (石寒太 文春新書)★

 私は自分では俳句を嗜まないので、本書は機能的に役立つというものではなかったが、さまざまな季語の解説にはなるほどと思わせるものが多々あり、一種の雑学本として興味深く読むことができた。また、本書を読むまで「歳時記」というのはある程度確立した内容があるものと漠然と思っていたのだが、時代の進展につれて、新しい季語の取扱いも含め、現代における「歳時記」の在り方について様々な考え方があるという点も勉強になった。

ねこ神さま (ねこぢる 文春文庫PLUS)★

 "ねこぢる"については興味はあったのだが、これまで読む機会がなく、代表作の一つである「ねこ神さま」が文庫になったのを契機に読んでみた。"ねこぢる"についての評価を耳にしているので、そういう先入観に引きずられているきらいがあるかもしれないが、本書については玉石混交という印象。作品としては「ねこぢるうどん」を誉める人が多いようなので今度はそちらを読んでみようと思う。

現代筆跡学序論 (魚住和晃 文春新書)★

 筆跡鑑定の本かと思ったらそうではなく(一部そういう部分はでてくるが)、中国古代の書から日本の江戸時代の書状、ひいては現代の学生の文字に至るまで「書く」という行為をさまざまな角度から考察し「筆跡学」なる新しい分野の学問を提起する書。
 実は、本書自体の評価については「書に関心ある人はどうぞ」といった程度なのだが、内容で一点印象深かったのは、ある史跡の年代評価について、書かれている書の筆使いの特徴から判断すると、歴史学者が当該史跡について主張している年代が間違っているのではないかという記述。著者の主張が正しいかどうかは別として、おそらく多くの歴史学者は著者のような異分野の研究成果に関心を向けたことがないはず。直接関係はないが、例の石器捏造事件の際にも人類学系の人たちからは、100万年も前の人類があんな高度な石器をつくれるわけがない(そのような生物学的特徴を備えていたとは考えられない)という批判がなされていたことを想起した。たこつぼに陥りがちな現代の学問の在り方の中で、広範囲にアンテナを広げておくことの重要性ということを漠然と考えさせられた。

官僚川路聖謨の生涯 (佐藤雅美 文春文庫)★

 幕末に下級武士の子として生まれながら、努力を重ね幕府官僚としては最高に近い位までのぼりつめ、日米、日露交渉などで活躍した外交史上に名を残した(といっても私は本書を読むまでその存在を知らなかったが)川治聖謨の評伝。
 それなりに興味深く読めたのだが、不満が残るのが、主人公の川路がどうも魅力的な人物には感じられない点。そのせいで非常に地味な物語になってしまっている。講談仕立てにしろとはいわないが、材料だけをみればもっと波瀾万丈のわくわくする物語に描けるのではないかという感じがする。実をいうと、佐藤雅美の作品については、どれも同じような感想を抱かせられる。もちろんそれが著者の持ち味であり、単に私の趣味に合わないだけなのかもしれないが.....。

全身落語家読本 (立川志らく 新潮選書)★

 立川談志門下でシネマ落語などで知られる中堅落語家、立川志らくの落語論。
 落語を最高のエンターティンメントとと信じる著者が、単なる昔の型をなぞる古典落語や中途半端の新作落語を縦横無尽に斬りまくり、現在という時代における落語の在り方を熱く語る。軽い文体のエッセイという趣ではあるが、著者の落語に対する情熱を感じることができる。先人の落語家に対する評価も興味深い。落語については不案内な私ではあるが、CDの一つも買ってみようかという気になる。
 なお、後半部は代表的な落語のミニ解説本としても便利。

動機 (横山秀夫 文藝春秋)★★

 警察署内に保管された30冊の警察手帳の紛失事件を描く表題作の「動機」(推理作家協会賞受賞作)など4つの短編で構成された短編集。表題作以外の作品は、服役を終えて出所し真面目に働く男に対して謎の殺人依頼の電話がかかってくる「逆転の夏」、特ダネ競争の中で地方新聞の女性記者にかけられた大手新聞からの引き抜きがかかる「ネタ元」、法廷で居眠りををしてしまった裁判官の周囲に起こる波紋を描く「密室の人」。
 「動機」以外では特に「逆転の夏」がよい。徐々に追いつめられてゆく主人公の心理が丹念に描かれている。4作品の中では最もミステリー色が濃い。もう少し書き込んで中編に仕立てることも可能だろう。
 いずれにしても各作品とも無駄のない描写で登場人物の真理を丁寧に描き、緊張感のある仕上がりになっている。完成度の高い短編集。

リセット (北村薫 新潮社)★★

 「スキップ」「ターン」に続く「<時と人>三部作」の待望の第三作。
 前2作はどちらも主人公の女性が時間の流れとの関わりの中で異常な状態におかれながら前向きな姿勢でそれに対応していくというものであったが、本作品は、時間の流れ自体に行きつ戻りつがなく、<時>と<人>の関わり方において前二作とは少し基調が異なる。
 第一部は戦時中の女子高生の生活を丁寧に描いている。第二部では一転して病床の父親が子供達に昭和三十年代の自分の少年時代の思い出を書き綴る仕立て。第二部の最後でこの二つの物語が結びつき、さらに第三部につながってゆく。この作品はSF的要素を排除しても十分成り立ちそうな叙情感溢れる作品に仕上がっており、この観点からいうと第一部と第二部を結びつける力業にやや違和感がないでもない。この結びつけをどう評価するかが本書の評価の分かれ目だろう。
 なお、私は昭和30年代半ばの生まれなので、この第二部の描写はああそうだったなあと感じる部分が多々あり、懐かしい気分を味わうことができた。著者の北村氏は私より10歳ほど年上だが、きっと自分の幼少時の風景をきっちり書きたかったんだろうなと思う。

封印 (岡田斗司夫、田中公平、山本弘 音楽専科社)★★
回収 (岡田斗司夫、田中公平、山本弘 音楽専科社)★★
絶版 (岡田斗司夫、田中公平、山本弘 音楽専科社)★★

 オタキング:岡田斗司夫、アニソンの巨匠:田中公平、と学会会長:山本弘の三者によるサブカル論評鼎談。もとは音楽専科社発行の声優雑誌"hm3"の連載。
 第一弾の「封印」は主にアニメ、第二弾の「回収」は特撮、最終の「絶版」はギャルゲー、魔女っ子アニメ、アニソンが中心。オタクが少しでも入ってると自覚のある人は必読。それにしても宮崎駿を「エコじじい」とはよくいったもの。あと「ドラえもんとのび太は不仲」とか、「根性の悪いアイドル声優××××××」とか危険ネタ満載。くれぐれも電車の中では読まないように。(ちなみに6文字伏せ字は"国○田真理子"との噂)

算学奇人伝 (永井義男 祥伝社文庫)★★

 第6回開高健賞受賞作品。江戸後期の算学者、吉井長七を主人公にした一種の時代劇ミステリ。「算学」という一般人にはあまりなじみのない世界を舞台にしながら、算学の問題に隠された宝探しといかさま賭博士とのサイコロ賭博100番勝負という二つの物語を軸に、江戸後期の千住近辺の風物などもうまく織り込みながら興味深い一編に仕立てている。難をいえば、少し薄すぎる。おもしろい主題なのでもう少し書き込んでほしかったところ。
 なお、私はてっきりよくある実在人物の姿を借りた歴史小説であると思って読んでいたら(開高健賞の審査員一同も同様の感想を持ったらしいが)、巻末の著者の解説をみると吉井長七は架空の人物とのこと。この人物描写力には脱帽。

と学会年鑑2001 (と学会 太田出版)★

 おなじみ「と学会」の年鑑。例会における会員が発見したトンデモなgoodsの発表と横浜SF大会で行われたトンデモ本大賞選考座談会で構成されている。安定したおもしろさがあり、「と」ファンは要チェック。
 なお、あとがきであの「2ちゃんねる」で展開された「と学会」批判に対する反論がなされている。興味のある向きは、問題の論争を2ちゃんの「オカルト板」の過去ログで読むことができる。

Mr.クイン (シェイマス・スミス ハヤカワ文庫)★

 舞台はダブリン。暗黒街のボスの背後で犯罪計画を練り上げるプランナー、クインを主人公にした新しいタイプの犯罪小説。
 語り口が徹頭徹尾軽口であることとクイン自身は実際の犯罪には手をそめておらず、かつ犯罪シーンの描写がサラッとすまされていることで軽快な仕上がりになっているが、彼のプランの下に行われる犯罪自体は冷酷無慈悲といってよく、いったん視点を被害者サイドにおいてみればとんでもない作品。どうも後口がよくなく、とても主人公に共感する気にはなれない。
 本書自体は新しいタイプの犯罪小説として評価はできるが、今後仮にシリーズ化されたとしても続けて読む気にはなれない。

平成お徒歩日記 (宮部みゆき 新潮文庫)★

 宮部みゆきが、古地図と現代地図を重ね合わせ、編集者とともに江戸時代の史跡をお徒歩するミニ旅行記。宮部みゆきの初めての小説以外の作品であるが、宮部テイストは横溢している。気軽に読めて知的好奇心を刺激され、自分でも歩いてみようかという気にさせられる一冊。

「週刊文春」の怪 (高島俊男 文春文庫)★★

 高島俊男が週刊文春に連載中の「お言葉ですが」の文庫化第二弾。言葉をめぐるエッセイは数多いが下手をすると単なる雑学ものになる。その点「お言葉ですが」は語り口、内容とも出色。こういう付け焼き刃ではない古典的教養には憧れてしまう。「お言葉ですが」を読むと言葉について間違った内容で思いこんでいたり、常識的な意味を知らなかったりということに気づかされることが多いのだが、本書でも、私が知らなかったことに例えば次のようなものがある。
   ○「初老」
     40歳については「不惑」という語をよく使うが、「初老」も元々40歳を表す語(どうも常識に属することらしいが知らなかった)
   ○「瓜田に沓を履れず」
     この「履れず」は「瓜畑に足を踏み入れない」という意味だと思っていたが、実際は「瓜畑で脱げた沓をはき直さない」という意。
   ○「全然」
    「全然」を肯定的に使う言い回しは、明治期にはごく普通。漱石、鴎外あたりに頻出とのこと。

裏本時代 (本橋信宏 新潮OH!文庫)★★

 本書は、80年代前半、著者が非合法出版物であるいわゆる「裏本」流通業界のトップにいた「会長」に気に入られ、その資金で雑誌「スクランブル」を創刊し、結局短期間で廃刊にいたるまでの物語。とにかくおもしろい。裏本世界の描写といい、ゲリラ的スキャンダル雑誌「スクランブル」の製作風景といい、猥雑で生々しいエネルギーに満ちあふれた世界に惹きつけられる。
 特に「会長」の激しいキャラクター描写が圧巻。「流通を制する者は資本主義社会を制する」との信念の下、裏本の世界からオモテの世界に進出しようとし結局挫折するこの人物は、間違っても個人的にはつきあいたくないが、しかしどこか憎めない魅力がある。著者も、ある意味では「会長」から被害を受けた立場であるがその筆はどこか暖かい。この「会長」こそが、数年後にAV監督「村西とおる」として一世を風靡する人物その人である。
 今一つラインナップの精彩を欠く「新潮OH!文庫」ではあるが、その中で本書は強くお勧めできる一冊である。

子供の眼 (R・N・パタースン 新潮社)★★★

 一級のリーガルサスペンス。前作「罪の段階」(新潮文庫(上・下))とは独立した事件なので本書から読むこともできるが、主要登場人物が共通していることもあり、できれば前作を先に読む方がよだろう。
 被害者があまりにイヤな奴なのでその描写が不愉快なのとアメリカンミステリーおなじみの家族関係がああしたこうしたという話が続き前半はやや疲れる展開だが、いったん法廷シーンにはいると後は最後まで一気読み。一見確実と思われる証言や証拠が、弁護人や検事の弁論によりいかにあやふやなものとなるか、逆に説得力のかける証言や証拠ががいかにもっともらしくみえるようなものになるか、二転三転するアクロバティックな展開は法廷ものの醍醐味を十二分に味あわせてくれる。前作「罪の段階」では判事を務め、本策では被告側弁護士を務めるキャロラインが良い。次回作は彼女が主人公のようであり楽しみである。
 この種の本を読むと英米的な当事者主義法廷が真理発見の場というよりはむしろ弁論を武器とする闘いの場であることがよくわかる。最近、日本でも司法改革で陪審員制導入の議論が行われているが、よくよく議論しないと中途半端な導入は危険だよなという思いになる。  


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