チャクラはアルバム毎にメンバーを変えていますが,基本的には板倉文さんと小
川美潮さんが中心のユニットと考えられます。
現在でも美潮さんと行動を共にすることが多い近藤達郎さん(現ラブジョイ,ウズマ
キマズウに在籍)も,「さてこそ」に参加しております。
80年代初頭の音楽シーンを賑わせたチャクラは,3枚の実験的なアルバム
を残して解消しました。
本当に短い活動期間でしたが,密度が濃く,歴史に残るアルバムを残してく
れました。
ワタシはいったい何回チャクラの曲を聴いたのでしょう。ちょっと大げさですが,チャクラという不思議なバンド名を,ワタシは生涯忘れないでしょう。
○タイトル :チャクラ(VICTOR,SJX-30011,
TKCA-30117)
○発売 :1980年
○パーソナル :小川美潮(vocal,chorus),板倉文(guitars,keyboad,chorus)
友貞一正(bass,chorus),
カツマタ・シンゴ(keyboad,chorus),
ヨコサワ・リュウタロウ(drums,percussion,chorus)
○プロデュース:矢野誠
○収録曲 :1.福の種(W-美潮,文,友貞,南明徳,
M-友貞)
2.マヌカン(W-鈴木博文,M-文)
3.あこがれ(W-鈴木博文,M-文)
4.島の娘(W-美潮,M-文)
5.東京スイート(W&M-文)
−モーニング・トップス〜オープン・スペース−
6.グッドナイト東京(W-安藤芳彦,M-文)
7.いっしょに(W-文,美潮,M-文)
8.アイ・アム・ソーロー(W&M-文)
9.空の友達(W&M-文)
※コメント :
小川美潮さんのチャクラへの参加はオーディションによるものだということです。「面白い声だ」ということで決まったそうです。
美潮さんは神奈川県の出身で,ビジネススクールに入学後(卒業後?),チャクラに就職したということになりますね。
チャクラは渡辺プロダクションに所属しており,その関係かテレビ出演もあり,「8時だよ!全員集合」に出演した時の模様は,PC−VANのSF・SIGの「SFはおたくだ!」等にも,書き込みがありました。
当時ナベプロにはあがた森魚氏も入っていたと思います。
ワタシがはじめてチャクラを知ったのはジューシー・フルーツも出演したTBS系の音楽番組で,森昌子の「先生」を破壊的なアレンジで歌っており,いっぺんでファンになりました。
この番組の司会は,確か芳村真理さんがやっていたと記憶しています。また,YMOが売れ出した頃で,今になってみると誤解だったかも知れませんが,テクノポップのバンドとして紹介されていたと思います。
ちなみに,ワタシはこの番組を見た翌日レコード屋に走り,矢野誠制作の文字を見て,即購入した次第です。
このデビュー・アルバムはバラエティーに富んだ選曲で,コブシを効かせた1,沖縄調の4,プログレ調の5−6,ユーモラスでちょっとエッチな7−8(7はハードロックのパロディー風),美潮さんのSEが聴けて,意味深な歌詞の9等,
遊び心に溢れたアルバムに仕上がっています。
3の様にスケールが大きく大らかな演奏とボーカルを奏でる人は,いまもっていないと思います。
ムーンライダーズの鈴木博文氏の歌詞も使われています。
シングルになった「福の種」は,どういうわけかNHKのラジオ番組「昼の歌謡曲」でかかった記憶があります。
プロデュースの矢野誠氏は,知る人ぞ知る矢野顕子さんの最初の旦那さんで,松本隆氏が在籍していたオリジナル・ムーンライダーズのメンバーでした。現在も頑張っていますね。
ジャケットの写真では,メンバーが全員中国風の服を着ていますね。真っ赤な人民服のジャケットで話題になったYMOの「Solid
State Survivor」の発売が1979年の9月でして,二番煎じというか,便乗商法というか,2匹目のドジョウを狙ったのかと思えなくもありません。
メンバーも矢野氏もこのアルバムはやや不満足だったようですが,デビューなくして未来はないわけですし,少なくともワタシにとっては,心地よい衝撃を与えてくれたアルバムでした。
美潮さんのボーカルは,平成再デビュー後に比較して棘があるというか,丸くないです。逆に言えば力強い感じ。
そして,デビュー当時から既に美潮さんは,ワン・オブ・ゼム,「優しい天才」でした。
○タイトル :さてこそ(VICTOR,SJX-30125,
TKCA-30118)
○発売 :1981年
○パーソナル :小川美潮(v等),板倉文(guitar等),ナガタ・ドンベイ(Bass等),近藤達郎(keyboad),
ヨコサワ・リュウタロウ(drums等)
○ゲスト
:松武秀樹,杉並児童合唱団
○企画・制作 :チャクラ
○制作協力 :チャーハン細野
○曲目 :1.めだか(W&M-文)
2.ミュンミュン(W-文・美潮,M-文)
3.おちょーし者行進曲(W-海老寿いわし・美潮,M-文)
4.You Need Me(W&M-文)
5.これから死んでゆくすべての生命体に捧げる詩(W&M-
文)
6.いとほに(M-文)
7.Free(W&M-文)
8.V(W&M-文)
9.微笑む(W&M-近藤達郎)
10.ちょっと痛いけどステキ(W-美潮,M-文)
※コメント:
細野さんやYMOの4番目のメンバーでもある松武秀樹氏も参加した2作目のアルバムは実験精神に溢れたものとなり,80年代の日本の音楽シーンを代表する傑作となりました。
全編に渡って板倉文氏をはじめとするメンバーの曲とセンス,美潮さんの自由なボーカルが冴え渡ります。
演奏面でも1枚目よりもさらに充実しており,パワー溢れるものとなっています。
4などは,テクノポップとも言えますし,美潮さん以外には誰にも真似できない凄いスキャットが聴かれます。
全曲聞き応えのあるもので,美潮の平成再デビューから聴き始めてまだ聴いていない人には,必聴モノのアルバムです。未聴の人は絶対に聴いて下さい。
後に「はにわ」でも再演される1。妙なスキャットと歌詞の2。元気が出る3。この曲は遠藤賢司氏の「不滅の男」と並び賞されるポジティブな応援歌です。
圧倒的天才的傑作,ドレミをイロハに置き換えた凝った歌詞が付いた6,パワー全開の10等,アイデア豊富な素晴らしい曲と演奏揃いです。
将来に渡って,ワタシが選ぶ日本のアルバム10撰に入ることを確約いたします。
ただ惜しむなくは,音質にはちょっと不満です。
※追記
近藤達郎さんのサイトは→http://www.netlaputa.ne.jp/~kndt/index.html
○タイトル :南洋でヨイショ(VAP,30108-20,
VAPCC83001)
○発売 :1983年
○パーソナル :小川美潮(V等),板倉文(G等)
○ゲスト :村上"ポンタ"秀一(drums),仙波清彦(percussions等),久米
大介
(keyboad),フルタ・タカシ(drums,コウダ・ミノル(bass),清水和人
(piano, marimba, clarinet),Ma*To(tabla),サカセガワ・ケンジ(tabla)
○企画・制作 :チャクラ
○曲目 :1.スウィング(タコに捧げるよ)(W-美潮,M-文)
2.南洋でヨイショ(W-下田逸郎,M-文)
3.本当のこと言えば(W-赤城忠治,M-文)
4.ペリカン(W-美潮,M-文)
5.私と百貨店(W-美潮,M-文)
6.まだ(W-美潮,M-文)
7.テーマ(M-文)
※コメント :
メンバーが二人になってしまたチャクラのラスト・アルバムは,7曲入りのミニ・アルバムになりました。
このアルバムのアナログ盤には,「ところてん透明人間」という美潮さんによるおか
しな小説が添付されていました。
CD盤では小説のタイトルのみが掲載されております。これに腹をたてたのか,URESII・SOUSEに全文が再録されました。
仙波さんやポンタさんが参加し,タブラが導入されていることから予想される様に,
このアルバムはエイジアン・ビート・ポップといった,リズムが強調された演奏が随所に聴かれ,現在までつながるエイジアン・ファンタジーの演奏スタイルに繋がるものとなっていると思います。
1&5など,とぼけた味の歌詞も健在です。
「本当のことを言えばワタシ嘘つきよ」と唄われる3のパラドックスな歌詞は,今でもハッとさせられます。
6はチャクラでは唯一内省的な歌詞で,「自分のことばかり考えていると何故だか素
直にはなれない。私たちまだ未完成」と解散の心境を臭わせる歌になっています。
しかし,これはミュージック・マガジンのレコード評にてニュー・ミュージックと酷評されました。
本件についてワタシはまだ「根に持って」おり,何故最後にこの様な歌詞の曲を唄わなければならなかったのか,評者は何も解っていないと指摘しておきましょう。
なお,古いバンドの復活が流行った時期のギグで,美潮さんが「チャクラ復活の話もあったんだけど,元々売れてないので,話題にもなんないだろうな」,ということで流れたと話していました。
半分冗談なんでしょうけど,ファンにとってみれば,何とも悔しい話です。
【チャクラのシングル盤】
「福の種/マヌカン」(Victor, SV-7018, 1980)
「空の友達/アイ・アム・ソーロー」 (Victor,
SV-7063, 1980)