|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
- Midnight Blue -
2/2
|
「あの時は、心配かけたな」 ガウリイの瞳があたしを覗き込む。 「大変だっただろう? リナ」 あたしは、虚をつかれて黙り込んだ。 何かを言おうとする口は言葉を紡ぐことができない。 そう。 あたしはきっと、大変だった。 そんなことはあの時に思いもしなかったけど。 そんなこと、絶対にガウリイに言うつもりなんかなかったけど。 あたしはきっと大変だった。 だって、あたしはあの時に思い知らされたのだ。 いつの間にか、このクラゲが、あたしの中に占めていた場所の大きさを。 そして、それが意味することを。 あたしがガウリイと旅をしている本当の意味を───。 いくらそのことから目をそらそうとしても………あたしは確かに知っていた。 自分の中にあると思っていなかった純粋な気持ちを。 こんな───こんなくらげ相手に。 あたしは黙って唇を噛んだ。 無言のまま佇むあたしを、ガウリイの武骨な手が引き寄せる。 動かないあたしは、そのままもたれるようにガウリイの胸に抱き留められた。 「───来てくれてありがとう───」 言葉が、身体に直に伝わってくる。 胸が───とても痛かった。 泣ければ、楽になっていたのかもしれない。 けれど、あたしは泣くことはできなかった。 泣く資格がないのはとてもよく知っていたから。 今も………あたしはただ、ガウリイを抱きしめているだけだった。 そうじゃない。 あたしはガウリイに抱きしめられていた。 そばにいなかったあのときだってきっと、あたしはこの手を感じていた。あたしが、何より失いたくないと思っていたのは、きっとこの─── 「───何言ってんのよ、ガウリイ。あんただって来てくれたじゃない、ここに。あたしのいるところに」 目を閉じて告げる、あたしの声は低く掠れていた。 あたしの記憶にはないけれど───ゼルガディスやアメリアがそう言っていた。 行方不明になってしまったあたしを、ガウリイは一生懸命捜してくれたのだと。 「さっき、言ったろ?」 ガウリイの顔はあたしからは見えない。 でも、その声は、何よりも雄弁にガウリイの心を伝えてくれていた。 「───守ってみせるって───」 あたしは、多分、信じなかっただろう。 それを、ガウリイ以外の人が言ったのであれば───あたしはきっと信じなかった。 それでも───。 あたしはかすかに頷いてみる。 嘘をつけるほど器用なやつじゃないから。 だから。 それがほんとに実現するかどうかなんて、そんなことにはどうてもいい。 ガウリイが今心からそう思ってくれていること―――それだけが本当に大切なことで―――それが、あたしにとってのすべてだった。 頷いたあたしを、ガウリイが更に引き寄せる。 身動きすらできなくなるくらい深く───。 「───リナ───」 ガウリイが、あたしの名前を呼んだ。 その声の中に含まれた何かが、あたしの顔をあげさせた。 そして───あたしはガウリイの表情から眼をはなせなくなる。 あたしたちは、互いの瞳を覗き込んだまま、しばらく沈黙の時間を分け合った。 何かを含んだ沈黙の時を。 ガウリイが、熱のこもった眼であたしを見下ろしていた。 「───キスしていいか?───」 低い声があたしの耳元に囁きかける。 いやだ、と言えば言えたんだと思う。 ガウリイは本当にゆっくりとあたしに近づいてきていたから。 ―――手が、髪に触れる―――。 筋張った、手。剣を握る力強い手。 ―――調った顔立ちが、近づいてくる―――。 あたしを支えてくれる、存在。 守りきってしまうのではなく、必要な時に手を差し伸べられる位置に、いつもいて。 ―――長いまつげも、彫りの深い顔立ちも―――。 綺麗な外見も、くらげな中身も、全部ひっくるめて、あたしはガウリイに惹かれている。 でも、多分、何より好きなのは―――あたしに与えてくれるこの安心感。 自分がここにいてもいいのだと、自分がこのままでいいのだと、無言のままに伝えてくれている、この安心感。 あたしは、ただ………。 そう。 あたしは、ただ確かめていたかったのだ。 あたしの存在、ガウリイの存在、その位置を。 だから………。 ───ゆっくりと、ガウリイの顔が近づいてくる───。 あたしは、静かに瞳を閉ざした。 ガウリイも、目蓋を閉ざしたのが、暗闇に飲まれる寸前のあたしの視界に映った。 この感情を何というのか、あたしは知らない。
驚きも、躊躇いも、すぐにその熱の中に溶かされる。
そして、結局───。
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|
|