kyo
「あの時、俺が刺してたら、どうなってたんだろうな」
ルークが低くミリーナに囁いた。
銀の髪を一房手にとって弄ぶ。
陰になったその表情を伺うことは、ミリーナにはできなかった。
「あなたも私も、ここにはいなかったわね、きっと」
ミリーナが素っ気ない返事を返す。
そこには、ルークの言葉に動かされた様子は全くなかった。
「そういうことじゃなくて、さ」
ルークが手に取ったままのミリーナの髪にかすめるように唇を当てる。
「………いつか聞いてみようと思ってたんだ。
あんたが一体、あの時、何を考えていたのか。
………本気で俺に殺されるつもりだったのか」
「何を考えていたかなんて、覚えていないけど………」
ミリーナがじっとルークを見つめた。
「本気の覚悟がなければしなかったわ、そんなことは」
強く言いきり、ルークの手から、自分の髪を取り戻す。
くくっとルークが低く笑った。
「───やっぱり、あんた、いい女だよ。
───俺が惚れるだけの価値がある女だ───」
囁きかけるルークをミリーナが睨み付けた。
「約束、忘れてないよな」
ルークがミリーナの耳に低く囁きかける。
まるで睦言でもあるかのように。
「もし、俺が………」
ミリーナがその後を引き取って続ける。
「………もしあなたが、私に出会う前のあなたに戻ったなら………その時は私が止める」
「それって命を懸けてってことだよな」
どこか楽しそうにルークが告げる。
ミリーナが器用に片方の眉だけ上げてルークを見た。
「あなた………命を懸けないで止められるような腕しか持ってなかったの?」
気負いも怯えもない静かな口調だった。
ルークがその答えに、唇の端をつり上げて笑う。
ミリーナが続けた。
「それに………言ったでしょう? 私は自分に課した誓いは守ると」
「上等だ」
くっ、とルークの喉から低い笑い声が漏れた。
下から見上げるようにミリーナを見つめる。
「───いいねえ。今の台詞。どんな愛の告白より胸に来る───」
ミリーナがルークを睨み付けた。
かまわず、ルークがその手を取る。
「愛してるぜ、ミリーナ」
その指先にそっと口づける。
「………あんたが俺に惚れさせているうちは、俺はあんたのもんだ。
なあ? 俺のミリーナ」
ミリーナが顔をしかめ、ルークの手を振り払った。
ふっとルークから顔を背ける。
「───私はあなたのミリーナじゃないわ───」
低い声でルークが笑った。
「ま、確かにな。………いつかあんたを俺のもんにする、その時までは」
鋭く見つめるミリーナの視線をルーク受け止める。
その瞳に浮かぶ表情は、強く、そしてどこか虚無の色を持っていた。
だが、それは一瞬で消える。
「ま、それはとりあえずおいとくとして………。
早く、下に行こうぜ、ミリーナ。
あいつらが待ってるからな」
何事もなかったかのようにルークが言った。
その口調に先ほどまでの影はない。
「じゃ、先に行ってるぞ、ミリーナ」
ミリーナは、ただ黙ってルークが立ち去るのを見つめていた。
その口から、小さな吐息が漏れる。
そして、皆の上に夜の帳が降りていく───。