MAY
黒衣の騎士との戦いが終わると、ラビエルは報告の為に一旦天界へと戻った。
しかしガブリエルのねぎらいの言葉も、ラビエルは半分上の空で聞いていた。
ラビエルの脳裏には、天界に戻る直前のレイヴの姿が焼き付いていた。
リーガルを‥‥大切な親友をその手で倒したレイヴは、気遣うラビエルにかえって笑顔すら見せた。
でも、だからこそ、ラビエルはその深い苦しみを思い、息苦しい程の胸の痛みを覚えたのだ。
報告を済ませたラビエルは、ラツィエルからアイテムを補充する。
まだ地上界に降りる時間にはなっていなかったが、ラビエルはもう、いても立ってもいられなくなっていた。
妖精の話では、レイヴはヴォーラスに戻っていると言う。
ラビエルはレイヴの姿を求め、ヴォーラスに降りた。
だが‥‥降りては見たものの、レイヴを探そうとしてラビエルはためらった。
レイヴの事は気掛かりだったが、果たして会いに行って良いものなのだろうか。
黒衣の騎士との‥‥失ったはずの親友との戦いを依頼したのはラビエルだ。
しかも、リーガルが命を落としたのは堕天使の陰謀‥‥天使と堕天使の戦いに巻き込まれた為なのだ。
天使であるラビエルが、今のレイヴに会う事が許されるのだろうか?
ラビエルは、しかしどうしてもレイヴが気になった。
会わずに遠くから見守るだけならいいだろう、ラビエルは自分にそう理由をつけて、レイヴの姿を探した。
―――――――
小高い丘の上。
柔らかい緑の芝生の上に、幾つもの白い石‥‥墓標が立っている。
その中でも少し外れた場所にある、小さな墓標の前にレイヴはいた。
独りで佇むレイヴの後ろ姿は、酷く‥‥寂しげに見えた。
鎧に包まれた広い背中が、今日はとても小さく見える。
ラビエルは、息をする事も忘れてレイヴの姿をただ、見詰めていた。
――どれだけの時間が経ったろうか。
ふと、レイヴが顔を上げて振り返った。
慌てて我に返ったラビエルは立ち去ろうとしたが、遅かった。
「ラビエル‥‥?」
姿も、気配も消していたはずなのに、レイヴはラビエルに気付いたらしい。
気付かれてしまっては仕方がない。ラビエルはかなり離れた場所に姿を現して、俯いた。
「ごめんなさい‥‥邪魔をしてしまって」
消え入りそうなラビエルの言葉に、レイヴは淡く笑った。
「そんな事はない」
「でも‥‥」
レイヴは、白い墓標の並ぶ丘をゆっくりと見回した。
「ここは‥‥戦いで死んだ騎士が葬られる墓地なんだ」
レイヴは目の前の墓石に視線を落とす。
「これは、あいつの‥‥リーガルの墓だ。あの戦いで死んだ者は、遺骸も形見も何一つ見付からなかった。ここには何も入っていない。空っぽの‥‥ただの入れ物だ」
「‥‥‥‥」
何故だろう、レイヴの口調は静かなのに、それは酷く苦しげに、哀しげに聞こえた。
「俺は‥‥あの時、あいつを救えなかった。そしてまた‥‥今度は、あいつをこの手で殺した‥‥」
堕天使に魅入られたリーガルを救うには、その歪んだ生を断ち切るしか方法はなかった。
しかし、そう判っていても、自分の手でリーガルを殺したのだと言う事実は重い。
「‥‥ごめんなさい‥‥‥」
ラビエルは俯いた。それしか言えなかった。
しかし、レイヴは首を振った。
「君のせいではない。俺が‥‥未熟だったんだ」
「でも‥‥」
「俺は‥‥技も、心もまだまだ弱すぎる‥‥だから、誰も救う事が出来ないんだ」
そんな事はない、レイヴは今まで、たくさんの命を救って来た――ラビエルはそう思ったが、声が出なかった。
それに‥‥ラビエルにそれを言う資格はなかった。
「ラビエル。ここに‥‥側に来てくれないか」
レイヴが手を伸ばした。
言われるまま、ラビエルは素直に側に寄る。
と‥‥レイヴはラビエルの体を引き寄せ、強く抱き締めた。
「レ、レイヴ?!」
とっさの事に、ラビエルは真っ赤になった。
「‥‥暖かい、な‥‥‥」
慌ててもがこうとしたラビエルは、レイヴの言葉に動きを止めた。
「レイヴ‥‥?」
ため息のような小さな呟きは酷く哀しげで、切なげで‥‥ラビエルは、胸を突かれた。
抱き締められているラビエルにレイヴの表情は見えなかったが、触れ合った体から声にならない慟哭が聞こえて来るような気がした。
思えばレイヴは、リーガルを失った時にも涙を見せなかった。
男として、騎士として、それは当然なのかもしれないが『涙』によって軽くなる傷だってある。
なのにレイヴは、心の傷を、痛みを胸の奥深くに仕舞い込んでいる。
騎士団長として、勇者として、いつもと同じ静かな様子のまま、時には笑顔すら浮かべて見せる。
でもそれは、傷を消してしまえる訳ではない。いやむしろ表に出ない分、その痛みはいつまでも消えずにレイヴを苛み続けるのだろう。
ラビエルは、知らず、涙が溢れ落ちるのを感じていた。
胸が、痛かった。何の助けにもならない自分がとても辛かった。
肩を震わせているラビエルに気付き、レイヴは体を離した。
「どうして、泣く?」
レイヴが、気遣うような静かな色を湛えた瞳で見詰めていた。
それは、レイヴが泣けないから。
こんなにも深く傷付いているのに、何事もなかったように振る舞っているから。
しかし、ラビエルは嗚咽をこらえるのが精一杯で、声も出せなかった。
気遣わしげなレイヴに首を振って見せるが、その大きな瞳からは後から後から透明な涙が溢れ落ちて来る。
「‥‥優しいな‥‥君は‥‥‥」
もう一度、今度は優しく抱き締めたレイヴの手が、ラビエルの髪を静かに撫でる。
大剣を扱う為大きくて無骨なはずなのに、レイヴの手は驚く程優しく、ラビエルの髪を漉く。
ラビエルは、レイヴに縋ったまま泣き続けた。
自分は何の役にも立てない。
レイヴの傷を癒す事も、その支えになる事も出来ずただ泣いているだけだ。
それでも、自分の涙がレイヴの痛みを少しでも軽くしてくれればいいと‥‥そう、思った。
END
人の墓の前でイチャつくなっっ!(byリーガル)
何書きたかったんでしょーね、私‥‥。ラビは抱き枕か?(笑)まあ、レイヴは単純だから目の前で泣いてる女の子がいれば今の悩みなんて忘れてるでしょう(くどいようですが私はレイヴファン)。
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