旅程 1

MAY



 
 

ヘブロンのヴォーラスから海峡を隔てた南に位置する小さな街。
 向こうから来る人波の中に知った顔を見付け、ヴォーラス騎士団長レイヴ・ヴィンセルラスは足を止めた。
 向こうもほぼ同時にこちらに気付いたらしい。
「レイヴ?久しぶりだな」
 人波を器用に擦り抜けて近付いて来たのは、長い金髪を後ろで束ね、女もうらやむような美貌を持った剣士、シーヴァス・フォルクガング。
 見掛け通りプレイボーイの貴族だが、それでいて剣の腕は超一流なのだから世の中は分からない。
 その上この二人、どういう訳か親しいのだ。
 片や生真面目、ろくに笑顔も見せないような堅物であり、片や浮いた噂の絶えない上に気まぐれ、わがままを絵にかいたような遊び人である、この二人が仲がいい事は理解に苦しむ所であった。
「どうだ、せっかく会ったんだから一杯やらないか?」
 駄目で元々、とシーヴァスは誘ってみたのだが、レイヴはあっさりうなずいた。
「いいだろう」
 てっきり、『何を昼間から』とはねつけられると思っていたから、誘ったシーヴァスの方が面食らう。
「?何を変な顔をしている」
 眉を寄せるレイヴに、慌ててシーヴァスは首を振り、彼を促して馴染みの店へと向かった‥‥。

 食堂も兼ねているこの酒場は昼間でもそこそこの客がいた。
 彼等は、目立たない、しかし店内が見渡せる奥の席に落ち着く。
「まあ‥‥元気そうで良かったが」
 珍しく言葉を選んでいるようなシーヴァスに、レイヴは苦笑した。
「あの時は世話になったな。お前とラビエルのお陰で、俺が今ここにいるようなものだ」 気を遣っていた事をあっさり言われ、シーヴァスは返答に詰まる。
 一カ月程前、シーヴァスはアンデッド達に捕らえられていたレイヴを天使・ラビエルの依頼で助けたのだ。
 しかしシーヴァスは、レイヴには自分の存在を知らせず、そのまま立ち去った。誇り高い騎士への気遣いだった。
「ラビエルは何も言ってないぞ。しかし、あいつの反応で助けてくれたのが俺の知り合いだと分かった。それに、迎えに馬車を寄越してくれたろう。あの御者から人相を聞いた」「‥‥‥」
 御者に口止めもしておくべきだった、と思うがもう遅い。
「‥‥確かに、あの時の俺は見られたザマじゃなかった。お前の心遣いには、感謝している」
 素直に礼を言われ、シーヴァスは照れ隠しのように笑って見せた。
「そうだな、今回の事は貸しにして置く。そのうち何かで返してもらうぞ」
「勿論だ。ただ、お前にだけは借りを作りたくなかったがな」
 そう言って淡く笑うレイヴの様子は、あれからまだ一カ月しか経っていないとは思えない程元気だった。
「フ、それだけ言えれば上等だ」
 苦笑したシーヴァスの口調にわずかに安堵の響きが混じる。
 自分のグラスに視線を戻したシーヴァスは、ためらいがちに口を開いた。
「お前‥‥」
 言い出したものの、シーヴァスは続けられずに口籠もる。
 何故レイヴ程の剣士がアンデッド如きに捕らえられてしまったのか‥‥疑問に思ったものの、それを口にしていいのかどうかためらわれた。
 しかしレイヴはシーヴァスの表情からそれを読み取ったらしい。
「奴等を率いていたのは‥‥リーガルだったんだ。あいつは、俺への‥‥生きる物への憎しみで甦って来た‥‥」
 一瞬、目を見開いたシーヴァスは、すぐに痛ましげな表情になって目を伏せた。
 シーヴァスは、幼い頃から二人の事を知っている。そして、あの戦いでリーガルを見殺しにした、とレイヴがどんなに自分を責めていたのかも‥‥。
 あの戦い以来、レイヴはほとんど笑顔を見せなくなった。
 他人と関わる事、好意や称賛を受ける事、心の底から楽しむ事すら自分に禁じ、ひたすら最前線で戦い続けた。
 だが皮肉にも、何の名誉も求めずに敵と戦うレイヴはかえって人々に称賛され、逆にその名を高める事となっていた。
「あの時、俺はリーガルと戦えなかった。あのまま死んでもいいとすら思った。そうしたら、あいつに怒られたよ」
 レイヴの言う『あいつ』が誰を指すのかはすぐ分かった。
「ラビエル、だな」
 レイヴは、苦笑してうなずいた。
「この俺が、まさか天使の救いを受ける事になるとはな‥‥だが、あいつの言葉で目が覚めた。今は親友として、リーガルを止めねばならないと思っている」
 レイヴの瞳に、もうわだかまりや陰りは全くなかった。
「‥‥変わったな、お前」
 シーヴァスの言葉に、レイヴはけげんそうな顔になった。
「どこが、だ?」
 真面目な顔で自分を見回すレイヴに、シーヴァスは爆笑しそうになる。
 レイヴ自身は気付いていないだろうが、確かに、彼は変わった。
 今まで痛い程感じられた、他人を全く拒絶するような厳しい雰囲気は、確かに和らいでいた。
 しかし、シーヴァスはそれを告げる気はなかった。
 シーヴァスの言葉を図りかねている様子に、わざとはぐらかすような笑みを浮かべて見せる。
「お前が勇者と聞いた時は驚いたが‥‥考えて見ればヴォーラス騎士団長殿なのだから、当然と言えば当然か」
 シーヴァスがこんな言い方をする時は、もう何も聞き出せない事がレイヴには分かっていた。伊達に、小さい頃から知っている訳ではない。
「俺の方こそ、お前も勇者だったと聞いて驚いた。まさか、いくらお前でも天使を口説いたりはしていないんだろうな?」
 図星を指され、シーヴァスは咳き込んだ。
「‥‥口説いたのか」
 冗談のつもりが図星だった事に、レイヴは呆れた。
「いや、まぁ‥‥口説いたと言うか、からかったと言うか‥‥」
「尚悪いだろう。まったく、呆れた奴だ。いつか後悔する羽目になっても知らんぞ」
 釘を刺しておいて、レイヴは立ち上がった。
「悪いが、もう行かねばならない」
「相変わらず忙しい奴だな」
 口調は呆れていたが、シーヴァスの表情は気遣わしげだった。
 そんなシーヴァスに、レイヴは笑顔を作って見せた。
「またどこかで顔を合わせることもあるだろうから、その時はゆっくり付き合おう」
 背を向けて出て行く、大柄な影を見送るシーヴァスの表情は晴れなかった。
 レイヴは今まで、リーガルに剣で勝った事はない。
 いくら割り切ったと言っても、魔物同然となったリーガルに勝てるのだろうか?
 しかし、戦いに挑むのはレイヴ一人でなければならない‥‥シーヴァスは、レイヴの勝利を願わずにはいられなかった。

                                      to be continued
 
 

 はい、続きます。
 この二人、会話させると結構面白そうなので接触イベントだけではつまらんなぁ、と思いまして。大体レベルアップのために似たような場所をウロウロしてるんですから会わない訳ないし、会ったら当然酒場で飲み明かす位はすると思うんですけどねぇ。‥‥と言う事で後少し、続く予定です。
 
 

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