辰巳ダム建設を阻止するための共有地運動のよびかけ

1998年10月1日

五十嵐敬喜(弁護士・法政大学教授)
宇井 純 (沖縄大学教授)
高橋 治 (作家)
宮本憲一 (立命館大学教授)
山下弘文 (日本湿地ネットワーク代表)

 いま全国でムダで有害な公共事業にたいする批判の声がかつてなく高まっています。ダム建設、埋め立てや干拓、大規模林道、空港・港湾など、ほかに代替策があったりまったく不要であったり、不要・不急の公共事業の例は枚挙にいとまがありません。これらのムダな公共事業にわたしたちの税金が湯水のごとく注ぎ込まれ、大切な自然環境を破壊しているのです。

 歴史と文化の町として知られる金沢市においても、ムダで有害な公共事業の典型ともいえる計画が進められようとしています。石川県が犀川上流に建設を計画している、辰巳ダムがそれです。

 辰巳ダム建設予定地の犀川渓谷は、自然の豊かな地域で、ヤマセミやカワセミ、アカショウビンなどの貴重な鳥類が観察されています。また、深い谷であるため雪国としては独特の環境となっており、暖地性シダ類であるイブキシダ、コモチシダの繁殖の世界最北限といわれています。

 とりわけこのダムが文化を破壊するものとして有害なのは、「日本一の用水」とうたわれる辰巳用水の取水口から約160メートルの水トンネルを破壊することです。辰巳用水は、三代目加賀藩主・前田利常の命を受けた町人・板屋兵四郎の指揮のもと、わずか1年足らずの工期で、1632(寛永9)年に完成した用水です。取水口から兼六園までのおよそ10`bのうち約4`bは水トンネルで、平均勾配は230分の1、さらに日本で初めて伏越の理(逆サイフォンの原理)を使って兼六園から金沢城に水を引くなど、江戸時代の測量技術、土木技術の粋が辰巳用水に結晶しています。これは、箱根用水などとともに日本土木技術史を飾る傑作です。この貴重な文化遺産がダムによって破壊されようとしているのです。

 また、日本三名園のひとつに数えられる兼六園はすぐれた眺望の高台にありながら水がふんだんにつかわれていることで知られていますが、この曲水の水はすべて辰巳用水から流れ込んでいます。兵四郎は、勾配差を巧みに利用して、電動ポンプのない時代に高台へ水を揚げたのです。辰巳ダム予定地の上流には現在、集落がいくつもあり、造成されるダム湖に生活雑排水が流れ込むことになります。予定地は標高が低く水温が高くなるため、ダム湖の水の富栄養化は避けられません。その腐った水が辰巳用水を通じて兼六園に流れ込めば、名園の価値は台無しになってしまいます。

 石川県は、百年に1度の確率で降る大雨にたいする洪水対策を、辰巳ダムの最大の目的としています。しかし、百年確率の大雨時の流量算定において、データの捏造ともいうべき重大な誤りがあったことが明らかになり、県は反論不能となっています。また、県の出した虚構の過大な流量を前提としてさえ、河床を掘り下げるなどの簡単な洪水対策の代替策があります。

 辰巳ダムは、まさに、「百害あって一利なし」の計画です。

 このムダで有害な公共事業にたいして、「兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会」(辰巳の会)が1994年に結成され、1万6千名分の署名を県に提出するなど、辰巳ダム反対の世論が高まってきています。97年2月には、辰巳ダムを止める土地共有者の会(辰巳の会の付属組織)がよびかけ、全国98名によって共有地の登記が行われました。

 反対世論の高まりのなか、辰巳ダム計画は今年度政府当初予算では新規事業費が計上されず凍結状態となりましたが、景気対策の名によって補正予算で復活しました。いま、この計画をめぐる攻防は、重大な局面を迎えつつあります。この局面で、辰巳の会・共有者の会は、ダム湖水没予定地内に新たに取得した土地をつかって、辰巳ダム建設を阻止するために第2弾の共有地運動を開始することになりました。

 わたしたち5名は、これまで環境政策や公共事業の正しい発展のために微力を尽くしてきた者として、ムダな公共事業、有害な公共事業の典型である辰巳ダム建設を阻止しなければならないと考えます。この共有地運動にひとりでも多くの方が御協力くださるように、心からよびかけるものです。


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