1.まったく不要なダム

(1)洪水調節に辰巳ダムは必要ない

@「データの捏造」による虚構の過大な洪水量予測


 辰巳ダムの最大の目的とされているのは治水である。金沢市の中心部、犀川大橋地点で犀川の川幅は狭くなっているが、百年に一度の確率で降るという大雨のときにここで水があふれて甚大な被害をもたらすので、辰巳ダムが必要だというのだ。

 県の治水計画はつぎのようなものである。

 犀川大橋地点で安全に流すことのできる水の量(計画高水)は1,230トン/秒。ところが、百年確率の大雨時に犀川大橋地点に流れてくる水の量(基本高水)は1,920トン/秒なので、辰巳ダム(330トン/秒を調節)を建設し、上流(辰巳ダム建設予定地からさらに10キロ上流)の犀川ダムなどとあわせて、犀川大橋地点の安全を確保する。

 ところが、この基本高水1,920トン/秒の算定の基礎になっている百年確率の大雨の予測計算において、「データの捏造」ともいうべき重大な過失があったことが明らかになった。

 百年確率の雨量は、過去に実際に降った雨量の観測データをもとに、一定の計算式をつかって算出される。
 県の治水計画説明書によると、百年確率の雨量(92ミリ/時)は、昭和27年6月30日の犀川ダム地点の観測データをもとに計算されたことになっている。
 ところが、昭和27年時点では、犀川ダム地点には観測点は設けられておらず、観測データなど存在しないのである。(犀川ダムの完成は1966(昭和41)年)
 計画説明書に算出根拠としてあげられている表をみると、20キロもはなれた金沢地点の観測データの数値とまったく同じ数値が犀川ダム地点の欄にならべられている。石川県は、よその適当な観測データを、そもそも存在しない犀川ダム地点の観測データであるかのようにみせかけることによって、辰巳ダムの必要性を“説明”しているのである。
 ずさんの極みといわねばならない。
 このようなことが許されるのなら、建設省や県は、あちこちの観測点から都合のいいデータを集めて、どこででもダムの必要性を「説明」することができるだろう。

 そのほかにも、百年確率の降雨の時間分布を決定するさいに、引き伸ばし率が2.5倍と異常に大きいという問題もある。(建設省の基準では「2倍程度に止めることが望ましい」とされている。)

 「データの捏造」を指摘した建設コンサルタント・中登史紀氏によると、百年確率の雨量は80ミリ/時程度とみるのが妥当であり、それをもとに洪水量を算出すると、百年確率の大雨が降っても、現状のままでも犀川大橋地点で水があふれることはない。
 辰巳ダムをつくる必要はまったくないのである。


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