3月16日(火)、第2回石川県公共事業評価監視委員会が開かれました。
第2回監視委では、辰巳ダム計画に関する集中審議が行われましたが、県側の報告・説明の中には事実に反する発言、事実を隠した発言、市民からの批判によって破綻済みの主張を繰り返した発言が少なからずありました。
第2回監視委は辰巳ダム再評価についての結論を出すことができず、結論は第3回以降に先送りされましたが、県側報告の内容を重視した辰巳の会は、「第2回公共事業評価監視委員会での県側説明の問題点」を、事務局(県土木部監理課)を通じて監視委員会・川島良治委員長に提出しました。また、同文を、監視委員全員に郵送しました。
1999年4月15日
石川県公共事業評価監視委員会
委員長 川島良治殿
兼六園と辰巳用水を守り、ダム建設を阻止する会
事務局 碇山 洋
公共事業の効率性・透明性確保のための御尽力に敬意を表します。
3月16日に開かれた第2回公共事業評価監視委員会を当会役員4名で傍聴させていただきました。石川県の公共事業史上はじめての試みを成功させようとする熱心な議論を聴くことができ、一同、大いに勉強になりました。
ところが、辰巳ダム建設計画に関する審議における県側の説明の中には事実に反する発言、事実を隠した発言、市民からの批判によって破綻済みの主張を繰り返した発言が少なからずあったことを、辰巳ダム問題に関わって県側とやりとりしてきた当事者として、率直に指摘せざるをえません。公共事業の「再評価」を掲げた場でこのような説明が行われたことに驚きを禁じ得ません。
辰巳ダムについての監視委員会の結論は次回以降にもちこされましたが、県側からの誤った情報にもとづいて結論を出されることのないように、県側説明の問題点をお知らせしておきたいと思います。
次回の監視委員会での審議の参考にしていただければ幸いです。
<目次>
1.監視委員会事務局の説明における事実の歪曲について
(1)口頭での回答は市民側から未回答を指摘されてから
(2)県側の文書では意見交換の対象は辰巳ダムに限定していなかった
2.県河川開発課の説明の問題点
(1)「1時間92ミリ」の降雨量算定は「データの捏造」に基づくもの
(2)「市街地よりも山間地ではより強い雨が降る傾向がある」とはいえない
(3)那須地域の事例を引き合いに出す非科学性
(4)「高畠地区で水位を3メートル下げる」のは辰巳ダムの効果ではない
(5)毎秒0.8トンで良好な河川環境はつくれない
(6)夏場に発電はできない
(7)環境アセスメントへの批判にまったく答えていない
(8)文化財保護審議会の具申の再検討こそが必要
(9)「近隣のダムの水は大丈夫」は誤り
(10)支離滅裂で検算のしようもない「洪水被害防止効果=3千億円」
(11)引き伸ばし率2.5倍は国の基準から逸脱している
おわりに
1.監視委員会事務局の説明における事実の歪曲について
当会をふくむ15の市民団体が監視委員会に提出した「県公共事業評価監視委員会の運営に関する再申し入れ」(1999年2月2日付)への監視委員会の回答について、監視委員会事務局・横田氏(県土木部監理課長)は、「機会ごとに口頭で回答した」と説明しました。また、「辰巳ダムについては意見交換をすると文書で回答した」とし、「15団体」側が意見交換に向けた予備交渉の場で突然一方的に辰巳ダム以外の事業についても意見交換の対象にするべきであるとの主張をもちだしたかのように説明しました。
(1)口頭での回答は市民側から未回答を指摘されてから
昨年11月26日付で「15団体」が行った「県公共事業評価監視委員会の運営等に関する申し入れ」に対する川島委員長からの回答は文書(12月16日付)で「15団体」世話人(白山の自然を考える会事務局長・高橋外男氏)が受け取りましたが、「再申し入れ」への回答は文書でも口頭でもないままでした。「意見交換会」の予備交渉(3月6日に実現)の可能性について横田氏から碇山に電話で打診があった際、「再申し入れ」への監視委員会からの回答がない段階で県との「意見交換会」の予備交渉に入るわけにはいかないことを碇山が指摘してはじめて、1回目の「申し入れ」への回答が監視委員会の最終的な見解であること、「再申し入れ」にたいするあらためての回答は行わないと決まったことが、横田氏から説明されました。
市民団体側から「再申し入れ」への回答がまだないことを指摘されてはじめて、3月3日にこのような説明がなされたのであり、「機会ごとに口頭で回答した」という横田氏の説明は事実に反しています。
(2月4日、碇山はじめ辰巳の会役員3名が辰巳ダム建設事務所を訪ねた際、横田氏から川島委員長回答(12月16日付)に関連した発言はありましたが、「再申し入れ」への監視委員会の回答に関する言及は一切ありませんでした。)
(2)県側の文書では意見交換の対象は辰巳ダムに限定していなかった
県側から「15団体」にたいして公共事業再評価に関する意見交換の提案があり、電話・ファックスでの折衝のなか、「辰巳ダム建設事業をはじめとする公共事業の再評価『意見交換』に関する打ち合わせについて」という文書(3月3日付)が「15団体」に届きました。この文書を基礎にして、「15団体」が出した3点の条件を県側が受け入れたため、3月6日の予備交渉が実現したのでした。
ところが、「辰巳ダム建設事業をはじめとする公共事業の再評価『意見交換』に関する打ち合わせについて」(傍点は碇山;以下同様)として県側から提案してきたにもかかわらず、県側は、今回の意見交換は辰巳ダム問題に限定したものであるとの主張を、予備交渉の場で突如もちだしてきました。「15団体」側は、県側からの提案を受けて団体間の調整を行いこの予備交渉に臨んだのですから、この県側の突然の主張によって、交渉をそのまま続けることができなくなりました。
以上が事実であって、「辰巳ダムについては意見交換すると文書で回答した」という横田氏の発言は、まったく事実に反しています。
2.県河川開発課の説明の問題点
県河川開発課が監視委員会にたいして行った説明は、いくつかの重要な問題について、事実に反するもの、県民から提出された批判を黙殺したものでした。辰巳ダム計画に関するこれまでの県の主張には非常に多くの問題点がありますが、ここでは、第2回監視委員会において県側が行った説明の範囲に限って、その問題点を指摘したいと思います。
(1)「1時間92ミリ」の降雨量算定は「データの捏造」に基づくもの
辰巳ダムの治水計画の基礎になる「1時間92ミリ」という予測の算定について、県河川開発課・米田課長は、「雨量データが得られるようになってからの昭和15年から48年までの34年間のデータを使って適切な統計解析を行った」と説明しました。
県が1995年2月に公表した『犀川水系辰巳ダム治水計画説明書』では、昭和27年6月30日の犀川ダム観測点における降雨の実測データを基礎にして、犀川大橋地点の基本高水(毎秒1,920m3)が算出されたことになっています。ところが、昭和27年には犀川ダム観測点は設けられておらず、実測データなど存在しないのです。『計画書』では、約20キロも離れた金沢観測点(金沢市弥生の旧金沢地方気象台)の降雨データをそのまま流用して犀川ダム観測点の実測データであるかのように見せかけるという「データの捏造」を行って、「1時間92ミリ」という過大な虚構の数値を導き出しているのです。
米田課長は、この説明の直後、「70ミリを超える雨は広範囲には降らない」という市民からの批判に反論するなかで、「昭和27年には金沢地方気象台だけで観測していた。金沢地方気象台のデータを使っても支障はない」と述べ、「データの捏造」を自ら認めた形になったのですが、「雨量データが得られるようになってからの34年間のデータを使って適切な統計解析を行った」という説明との自己矛盾には気づかなかったようです。
また、米田課長は、新潟県で昨年1時間97ミリの雨が降った例をあげて、犀川水系でも同様の雨が降る可能性があるとしました。“新潟で降ったのだから金沢でも降る”という論法自体、まったく非科学的なものですが、新潟での97ミリの降雨は約20平方キロの範囲にしか降っていません。しかも「1時間97ミリ」は、84年間の観測史上それまでの53.8ミリの記録を大きく塗り替える新記録の値で、周辺の他の観測点での観測史上の最大降雨量はいずれも60ミリ台から70ミリ台です(1999年3月1日の金沢地方気象台長の当会への説明による)。この事例は、百年に一度の確率で辰巳ダムの集水域77平方キロ全体に、同時に92ミリの大雨が降るという辰巳ダム計画の想定がきわめて異常なものであることをこそ示しています。
(2)「市街地よりも山間地ではより強い雨が降る傾向がある」とはいえない
米田課長は、監視委員会への説明で、金沢地方気象台のデータを犀川ダム観測点に流用してもよい「理由」として、「市街地よりも山間地ではより強い雨が降る傾向がある」と述べました。
しかし、県自らが作成した『犀川水系辰巳ダム治水計画説明書』に掲げられている1時間ごとの降雨データの表(犀川ダム観測点が実在しなかった昭和27年のものを除く)を見ても、市街地(金沢地方気象台)よりも山間地(犀川ダム)でより強い雨が降っている場合は4例のうち1例しかなく、逆に、山間地よりも市街地でより強い雨が降っている場合は3例あります。要するに、実際のデータが示していることは、「データの捏造」を指摘した建設コンサルタント・中登史紀氏が主張するように、金沢では「同時に1時間70ミリを超える大雨は広範囲には降らない」ということであって、米田課長の説明とはまったく逆です。
つまり、市街地の観測データを山間地のデータとして流用することは許されないのです。
(3)那須地域の事例を引き合いに出す非科学性
米田課長は、中氏による「犀川水系の地域特性から1時間70ミリを超える大きな雨は2時間続かない」という批判に対する反論の形で、「栃木県の那須地域で昨年70ミリを超える雨が2時間続いたので、犀川水系でも降ると考えられる」と述べました。
太平洋側の、直線距離で金沢から3百キロも離れた那須地域の事例から、犀川水系でも同様の雨が降り得るという結論を直接に導き出すというあまりに非科学的な主張に、驚きを禁じ得ません。
米田課長は、那須地域の事例を引き合いに出すことで辰巳ダム計画の妥当性を証明したつもりかもしれませんが、この説明は、逆に、県の治水計画の杜撰さを証明した形になっています。那須地域と同様の雨が犀川水系にも降るというのであれば、たとえば浅野川水系にも降るといえるはずですが、県は、浅野川については洪水量の見なおしさえしていません。
そもそも、ここまでに見たように、“ある場所で大雨が降ったのだから、別の場所でも降り得る”などということを根拠にダム建設が合理化されると考えていること自体、県の治水に対する姿勢が根本的に誤っていることを示しています。「絶対降らないとは、断言できない」という意味の抽象的可能性としてなら、金沢地方気象台長が当会に言明したように(3月1日)、92ミリどころか、100ミリ以上、120ミリ以上の大雨が金沢で降る「可能性」も完全に否定しきることはできません。そのような抽象的可能性を根拠にしては具体的な治水計画のつくりようがないからこそ、過去の降雨実績のデータをもとに合理的な計算をして、「百年に一度の確率で降る雨」を具体的に想定するのです。「百年確率」の雨量算出の合理性を問題にされているときに議論を抽象的可能性のレベルに引き戻すことは、実は辰巳ダムの治水計画に合理性がないことの告白でしかないことを、県は知るべきです。
(4)「高畠地区の水位を3メートル下げる」のは辰巳ダムの効果ではない。
米田課長は、計画中の辰巳ダムと河川改修が完成していれば、昨年の台風7号(最大1時間雨量44ミリ)のときでも高畠地区で犀川の水位を3メートル下げることができたと説明しました。「3メートル」の算出根拠はまったくしめされておらず、検算不可能なこの「3メートル」という数字をそのまま受け入れることはできません。しかし、かりにこの「3メートル」を認めるとしても、それは辰巳ダムと河川改修の両方による効果であって、そのうちどれだけが辰巳ダムの寄与分であるかにはまったく触れられませんでした。
辰巳ダムの再評価について審議している監査委員会に対して、他の河川改修の効果を含んだ数字を出して、それがすべて辰巳ダムの効果であるかのような印象を与えようとする説明の仕方は、審議を誤った方向に導こうとする不誠実なものと言わざるをえません。
辰巳ダムの寄与分については、「読売」1998年12月19日付(石川県版)に、「県河川開発課の試算によると…(中略)…現在行われている河川改修に加え、辰巳ダムが完成すれば、(台風7号と)同雨量での水位は約3メートル下がる見込みだ。・……それでも、ダムによって下がる水位は約30センチに過ぎないという」という記述があります。県には、「3メートル」の積算根拠と辰巳ダムの寄与分について、検算可能な形で監視委員会にしめす責任があります。
(5)毎秒0.8トンで良好な河川環境はつくれない
米田課長は、辰巳ダムによって毎秒0.8トンの河川維持用水を確保し、水生動植物に良好環境を提供できると説明しました。
夏の渇水期には現在でも辰巳用水の東岩取水口の直下にある堰を越えて流れる水はほとんどない状態で、辰巳ダムができたとしても毎秒0.8トンの河川維持用水が確保できるかどうかは甚だ疑問です。また、0.8トンが確保されても、水生動植物に良好な環境を提供することはできません。
現在、犀川から取水している用水の取水量合計は毎秒約8トンです。河川維持用水とされる0.8トンはその1割にしか過ぎず、ほとんどが用水に取り入れられてしまう可能性が高いと考えられます。
また、県の試算にしたがっても、犀川下流で川幅が最も狭くなっている犀川大橋地点でさえ水深は10センチしか確保できないことになっており、川幅の広い大豆田あたりでは河道のごく一部を細々と流れるだけでしょう。この程度の水量で「水生動植物に良好な環境を提供する」ことなど到底できません。
金沢市の都心からわずか10キロほどの場所に残された犀川峡谷の豊かな自然環境を破壊して、下流にわずか毎秒0.8トンの水を流すなどという計画で「良好な環境を提供する」ということ自体、自然環境への配慮のなさを示しています。
(6)夏場に発電はできない
米田課長の説明では、発電は河川維持用水を利用して常時行い、夏場にも行う予定とされていました。
前述のように、夏の渇水期には辰巳ダム建設予定地には水がほとんど流れていない状態で、河川維持用水の確保も発電も、可能とは考えられません。
米田課長は年間発電量を1204メガワットと説明しましたが、これは、河川維持用水を常に計画どおり流すことができるというような一定の仮定から算出した数値と思われます。
仮定に基づく机上の空論ではなく、実際の犀川の水量のデータをもとに、どれだけの発電を行えるかを具体的に計算して検算可能な形でしめすべきです。
(7)環境アセスメントへの批判にまったく答えていない
米田課長は、1987(昭和62)年に行われた環境影響評価で環境への影響は少ないとされたことをもって、自然環境の破壊にたいする批判に反論済みであるかのように述べました。
1987年時点では、我が国においては環境アセスメントの理論や手法は未発達の段階で、アセスメント法もありませんでした。87年のアセスメントは、天然記念物に指定されている生物が生息しているかどうかなどにしぼられた、非常に一面的なもので、当時においても専門家から多くの批判が出されました(辰巳の文化遺産と自然を守る会『「犀川総合開発事業 辰巳ダム建設環境影響評価書」(昭和62年石川県土木部)についての問題点と提案』1989年)。
「公共事業の再評価」というのであれば、10年以上前の、しかも当時でさえ批判を受けた環境アセスメントの結論をもってよしとするのではなく、今日的水準で環境アセスメントをやりなおすべきです。
米田課長はイブキシダの移植についても説明しましたが、イブキシダ自体が重要だというよりも、暖地性のシダが雪国で繁殖しているという犀川峡谷の独特のビオトープ(生物生息環境)を保護することこそが重要なのです。生態系保護の観点を完全に欠落させている87年の環境アセスメントを絶対視することが、このような的外れの説明につながっていると思われます。
(8)文化財保護審議会の具申の再検討こそが必要
米田課長は、県文化財保護審議会が「辰巳ダム建設はやむをえない」としたことをもって、東岩取水口をはじめとする辰巳用水の破壊を合理化しました。
文化財保護審議会は、本来、ダム建設の可否を議論するべきものではなく、文化財としての価値を客観的に評価するべき機関です。文化財保護審議会が「辰巳ダム建設はやむをえない」などという具申をすること自体、審議会の任務を逸脱したことであり、その具申を理由に辰巳ダム建設を合理化することは許されません。
また、1980年のこの具申以降、辰巳用水の研究はさらにすすんでおり、具申時点では未解明であった水没予定区間の技術史的価値も今日では明らかになりつつあります。20年近く前の審議会の具申を理由に、辰巳ダム建設計画を継続するという結論を導き出すことは「再評価」の建前からも認められるものではありません。
(9)「近隣のダムの水は大丈夫」は誤り
米田課長は、辰巳ダムのダム湖の水が富栄養化するという批判に関連して、「近隣のダムの水は大丈夫なので、こちらも大丈夫と予想される」と説明しました。
しかし、有効容積、湛水面積、滞留日数、夏季の水深、集水域人口、汚濁負荷量、標高などが辰巳ダムと非常に似ている我谷ダム(大聖寺川)では、水質汚濁やカビ臭が発生しています。この点についても、87年のアセスメントに対して詳細な批判がすでに提出されています(辰巳の文化遺産と自然を守る会、前掲書)。米田課長はその批判を知る立場にあるはずですが、監視委員会への報告でこの批判にまったく触れなかったことは、反論不能とみなされても仕方がないものです。
(10)支離滅裂で検算のしようもない「洪水被害防止効果=3千億円」
当会の公開質問状(1998年12月25日付)の「辰巳ダム建設による洪水被害防止効果は3千億円との…試算の根拠、推計方法について御説明ください」という質問にたいする県側回答は、「辰巳ダム建設事業の治水事業としての経済効果は、……想定年平均被害軽減期待額として算出している」というものでした。ところが、第2回監視委員会での米田課長の説明では、「年平均被害軽減期待額は140億円」「140億円からダムの維持費5千万円を引いたものを資本還元率0.064で除したものが辰巳ダムの経済効果3千億円」とされていました。
(140億円−0.5億円)÷0.064=2179.7億円で、3千億円には820億3千万円足りません。また、公開質問状への回答では、“想定年平均被害軽減期待額=3千億円”とされていたにもかかわらず監視委員会への説明では“年平均被害軽減期待額=140億円”とされています。まったく支離滅裂な説明としかいいようがありません。
説明が支離滅裂であるにも関わらず、県は「3千億円」という結論を繰り返しています。このような、曖昧であるだけでなく検算不可能な数字を一方的に押しつけるのではなく、県は、検算可能な形で「3千億円」の具体的な積算根拠を監視委員会の審議に提供するべきです。
なお、かりに想定年平均被害軽減期待額が辰巳ダムの完成によって3千億円低減するとしても、それをすべて辰巳ダムの効果とすることは、実はまったくの誤りであり、当会は、「洪水被害防止効果=3千億円」という県の主張に対するより根本的な批判を近く公表する予定です。今回は、当会への説明と監視委員会への説明がくいちがっている点を指摘するに留めておきます。
(11)引き伸ばし率2.5倍は国の基準から逸脱している
「2日間降雨量280ミリ」についての村島委員からの質問に関連して、奥村河川開発課長補佐は、「降雨パターンを引き伸ばすことは全国的にやっている」と説明しました。
国の基準(『建設省河川砂防技術基準(案)』)では、「選定すべき降雨の数は…通常10降雨以上とし、その引き伸ばし率は2倍程度に止めることが望ましい」とされています。『犀川水系辰巳ダム治水計画説明書』によると、基本高水の決定過程で採用した降雨数は4降雨しかないうえ、引き伸ばし率には2.452という過大な数値を採用しています。
今回の監視委員会で、県側は、国の基準にしたがって辰巳ダムの治水計画を作成したと繰り返し強調していましたが、「データの捏造」などの問題を脇においても、辰巳ダム計画は国の基準からも大きく逸脱しているのです。
おわりに
以上、第2回公共事業評価監視委員会における県側の説明の主な問題点を、発言順に従って簡単に指摘しました。最後に、以上の検討をふまえ、監視委員会での説明・審議を傍聴した者の実感として、以下の3点を強調しておきたいと思います。
@ 監視委員会への県側の説明は事実に反するもの、事実を隠したものが多く、また県民からの批判を黙殺したもの、破綻済みの主張を繰り返しただけのものも少なくありません。このような説明は「再評価」の名に値しないし、「再評価」にとりくむ県の姿勢を疑わせるものです。
A このような県側の説明に依拠して監視委員会が「辰巳ダム建設計画は継続」との県の方針を認めるようなことがあれば、せっかく始まった公共事業見直しのシステムの歴史に最初に汚点を残すことになると言わざるを得ません。
B 県は、「意見交換会」をめぐる交渉の過程、当会をはじめ県民から出された辰巳ダム計画に対する批判・疑問を監視委員会に正確に伝えていないし、批判を受けすでに破綻した主張を繰り返しています。県が市民と意見交換を行い、その成果の上に立って監視委員会での審議を行うとされていますが、今回の県側の説明の実態は、県が意見交換の内容を正確に監視委員会に伝えるとは期待できないことを示しています。市民からの意見聴取はやはり監視委員会が直接行うべきであるし、県との意見交換には委員長・副委員長をはじめ監視委員のみなさんにぜひとも出席していただく必要があります。また、意見交換の内容の監視委員会への報告は、市民側も行えるようにすることも当然必要です。
次回以降の監視委員会では、以上について御配慮いただいたうえで審議していただけるよう、よろしくお願いいたします。
当会は、辰巳ダム計画の再評価を充実したものにするために、監視委員会への協力を惜しむものではないことを、この機会にあらためて表明させていただきます。