既報のように、辰巳ダム付け替え道路予定地の近くで絶滅危ぐ種の渡り鳥、ミゾゴイが生息しており、営巣・繁殖の可能性が高いことが、森の都愛鳥会の調査によって明らかになりました。
ミゾゴイは、バードライフ・インターナショナルが今年6月に発表したアジア版レッドデータブックで絶滅危惧TB類に分類されています。
日本で生息する鳥のうち、絶滅危惧TA類(ごく近い将来における絶滅の危険性が極めて高い種)はノグチゲラとオオトラツグミの2種、絶滅危惧TB類(近い将来における絶滅の危険性が高い種)は8種です。ミゾゴイの推定個体数は世界で1000未満とされており、TB類の8種のうち日本で繁殖する他の3種、タンチョウ2200、ヤンバルクイナ1500〜2100、シマフクロウ1000未満とくらべても、ミゾゴイが絶滅の危険性の非常に高い希少な鳥であることが分かります。コウノトリ(TB類、推定個体数2500)やマナヅル(U類、5500〜6500)、オオワシ(U類、5000)などとくらべると、ミゾゴイがおかれている危機的状況はいっそう鮮明です。
森の都愛鳥会の申し入れを受け、石川県は道路工事を一時中断していましたが、お盆休み明けから工事を再開すると言い出しました。事態を重く見た世界自然保護基金(WWF)ジャパンは、道路建設中止や辰巳ダム計画の抜本的見直しなどを求める要請書を谷本正憲知事に提出するとともに、8月20日、花輪伸一自然保護室主任が地元の市民団体メンバーとともに現地を視察し、県河川課と意見交換を行いました。
茶谷信夫次長から工事の説明を受けるWWF・花輪主任(中央;口許にペンをあてている人)午前の現地視察では、県辰巳ダム建設事務所の職員が、道案内をしながら工事の状況などを説明しました。
約15名の市民が集まったことにたいし、建設事務所の茶谷信夫次長が「自然保護団体といいながら、こんなに大人数では鳥の生息地に悪影響になる」などと述べました。森の都愛鳥会・本間勝美会長が「重機を動かし轟音を立てることこそ悪影響。工事こそやめるべきだ」と反論しました。
ミゾゴイが営巣していると考えられる場所に近づいたとき、茶谷次長から「ミゾゴイだけでなくサシバなどたくさんの貴重な鳥が生息しているところなので、ここから先に入るのは5人までにしてほしい」「二人も三人も声を出すとまずいので、解説するのは一人にしてほしい」との要請がありました。市民団体メンバーは4・5人ずつのグループに分かれ、交代で生息地に入ることにしました。
ところが、茶谷次長は、参加者が歩いているその林道が、付け替え道路の工事用車両が資材を運ぶ道路になると説明しました。6人の足音、ふたりの声を遠慮しなければならない場所だといいながら、何台ものトラックを走らせて工事の騒音を響かせようというのです。
それとも、石川県は、足音より静かな超低騒音車両の開発に成功したのでしょうか?
ミゾゴイ生息地のすぐ近くで工事が進められている。
「立ち入りは5人まで」と制限しながら、この道を舗装・整備してトラックを走らせるという。午後は県庁を訪ね、河川課と意見交換を行いました。
森の都愛鳥会・本間さんは、県が林道整備の目的を地元の生活道路整備と説明したので林道工事にはあえて反対してこなかったが、茶谷次長が工事用道路としての整備であることを明らかにしたとして、県側の事実を隠した不誠実な対応を批判しました。県側からは何らの釈明もありませんでした。
また、本間さんは、県と森の都愛鳥会の間で林道工事以外の工事を中断することが合意されていたにもかかわらず、沢に重機が入り合意にない工事が進められていたことに抗議しました。山本光利河川課ダム建設室長は、ダム建設室は愛鳥会と合意したが、現場(辰巳ダム建設事務所)が工事を進めたと、無責任な態度をしめしました。
森の都愛鳥会との合意を無視して荒らされた沢。
石川県では、県庁で結ばれた合意に現場担当者は拘束されないらしい。WWFの花輪主任は、公共事業に関連してミゾゴイの生息環境保全が問題になるのは今回がはじめてのケースで、石川県がミゾゴイを保護すれば全国的なモデル・ケースになることを強調し、工事を凍結しての徹底的な調査を求めました。しかし、県側は、工事の再開・続行に固執しつづけました。「環境に配慮しながら工事を進める」といいますが、どのような「配慮」をすれば6人の足音、ふたりの声でおびやかされる生息環境を保全できるのかについては、何も語りませんでした。
山本ダム建設室長は、「100パーセント、ミゾゴイが生息していると確認されたわけではない」と、工事再開を正当化しました。
花輪さんは、一般に承認されている営巣確認の方法について説明したうえで、数年間くりかえし同じ場所で繁殖期に声が聞かれるということは営巣・繁殖していると考えるべきであることを指摘し、予防原則の重要性を強調しました。本間さんは、生息環境に配慮するというのなら、来年4〜7月の渡りの時期に徹底した調査をできるよう、少なくとも1年間は工事を凍結するべきだと主張しました。
これにたいして、大森義弘ダム建設専門員は、新たにつくられる道路がミゾゴイの生息環境に与える影響がはっきりしないとして、つぎにミゾゴイが渡ってくる時期までに工事をやってしまいたいと発言しました。
「工事をやってしまって来年からミゾゴイが来なくなったらどうするのか」と碇山洋・辰巳の会事務局長が問い質すと、山本室長は「来なくなったのが工事のせいかどうかは分からないですよね」と言い放ちました。また、碇山事務局長が、なぜ徹底した調査のためにたった1年を待てないのかと尋ねると、山本室長は「私たちは事業の促進が基本的な立場ですから」と答えました。工事再開の“理由”としてしめされたのは、結局、これだけです。
このままでは、ミゾゴイはまちがいなく“第二のトキ”になってしまいます。
谷本正憲知事と山本光利ダム建設室長は、日本の環境保護の歴史に名をとどめる位置に否応なしに立たされていることに気づくべきでしょう。
ミゾゴイ保護の流れをつくったのか、ミゾゴイ絶滅への引き金を引いたのか、歴史に記録されるのはどちらかです。