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横浜詩人会


このコーナーでは横浜詩人会を紹介します。

横浜詩人会とは、神奈川県に住んでいる、またはかつて
住んでいた詩人達の親睦団体です。 現代詩セミナー、詩画展、詩書展を
開いたり、夏には「詩と ジャズの集い」の朗読会をやったりしています。
さらに、毎年10月には、「横浜詩人会賞」の授賞式を行います。

横浜詩人会のHPが開設されました。

*現在の事務局(2012年)
油本達夫
〒220−0054 
横浜市西区境之谷30−19

* 現在の会長 中上哲夫





第38回横浜詩人会賞決定
大谷良太詩集『薄明行』(詩学社)

パチンコ・ラスベガスは見つけられなかった 本当は
見つけたくなかったのかもしれない
マンションの入口にあの人と待ち合わせたとき
最後の夜になると気付いていたから
ジュースおごってくれない?と言われて
かわりにキスしてと頼んだ
(のは映画のワンシーンか?)
もう公園のベンチから
星空に飛行機は飛び立たない
(「できなさ」冒頭部分)

※今を生きる若い人の薄明かりのなかを迷いながら行く
心情が素直に描かれています。人間関係、物との関係、
自分の自分に対する関係も希薄ななか何かをつかもうと
言葉を注意深く自分に必要なだけ集める姿勢が印象的。
切実な気持ちが表れていますが、苦しさを訴えるというよ
り、手探りで正直に自分を確かめてゆく態度に好感を持
ちました。詩学社刊・1500円。



第37回横浜詩人会賞
中村純詩集『草の家』(土曜美術社出版販売)

命の根源と、朝鮮半島から渡日した祖父など自らのルーツ
をたどって「光を産みなおす さざ波の向こう」を幻視する作
品は初々しい詩心に満ちています。時間と異空間を重層化
させた構成は読み応えがあります。「生きること、愛すること
おのれのアイデンテイテイを問うことがそのまま詩になり方
法論にもなっている、したたかな新人の登場である」と新川
和江さんも評しているとおり期待の詩人です(2000円+税)



第36回横浜詩人賞決定
坂多瑩子詩集『どんなねむりを』(夢人館)に決定
坂多さんは1945年広島県生まれ。第一詩集です。


第34回横浜詩人会賞決定
長田典子詩集『おりこうさんのキャシイ』(書肆山田)

CESAR/WHERE?

SKYSCRAPERの一室で
あなたは わたしの発音を
丁寧に 矯正している
あなたの唇を見つめながら
何度も
WHERE?
繰り返す
(開けるたびに下唇を歪めるのはなぜ?)
整然と並ぶ歯が
くしゃくしゃの旗みたいに波打って
わたしの眼球は 焦点を失う
たてよこに開閉する唇の輪郭が だんだん薄くなっていく
シーザー、CESAR?
あなたの英語はとても美しい


―WHERE・・・・did you come from?
(ド・・・コ・・・カラ アナタハ キマ シタ カ)
―I’m from Mexico City.
(メキシコシテイ シュッシン デス)
I’m an Indio.
(ボクハ インデイオ デス)

とおくまで続く廊下の
たくさんの扉が
バタバタ音をたてて 開閉している
どの扉もあなたに続いているはずなのに
WHERE?
(どこにいるの)
うまく発音できなくて
(わたしも唇を歪めている?)
湿った熱風が
ひろい舌を伸ばして ぐるぐる渦を巻く
暗い廊下の入口で
震えながら 立ち尽くす
WHERE?(略)

*「一九九〇年代に入る頃、何の気なく出掛けて行ったニューヨーク、
マンハッタン」とあとがきの冒頭にあるように移民の街、ニューヨーク
との出会いは、実は「わたし、というマイノリテイ」の発見でもあったよ
うです。「ニューヨークという街を意識し英語という外国語を発するとき、
わたしは、来歴のない新しい『わたし』になることができたのだ。」
異言語や異文化の中で自己を考えるという意識はこれからますます
大切になっていくでしょう。繊細な言語感覚と根源的な存在の問いか
けにあふれているフレッシュな詩集。(書肆山田2200円)


第33回横浜詩人会賞決定!
光冨郁也詩集『サイレント・ブルー』(土曜美術社出版販売)

バラ線

銀色の刺に、凍える、空気は、
青い空の下で、
白い、息をつき、声がもれる、
頬の骨に、拳が石のようにあたる。

わたしは、
バラ線を後ろに、殴られる。
放り出された、ランドセルの黒い光。
ふった手の指を、銀の刺で切る。
数人の笑い声を後に、
片方、靴のぬげた足を、見ながら、
膝を曲げて、土の上で丸くなる。
鼻をすすりながら、体をゆすっていた。
後ろに首を曲げる。
バラ線が、銀色に光る。

学生鞄を投げつけられる、体育館。
ブレザーをひっぱり、
何度も、級友たちが、
わたしに群がり、床に倒そうとする。
遊び半分のしつこい、数人相手に、
わたしは、声をあげて、つかみ、
(本気で)蹴りをいれ、腕をあげる。
見上げる高い天井が、回転し、
目にみえるものが、入り乱れ、
ネクタイが舞う。(以下略)

第32回横浜詩人会賞決定!
奥原盛雄詩集『ゆくゆくものは戸をあけて』



おとうさんと おかあさんと

すでに
霊安室の
ふたつならんだ柩の中に
いますのは
巡礼姿の
父と


父はかつてない
無精ヒゲで
口をややひらき
母はなぜか
左の目もとと口はじに
鬱血をとどめて
氷った波
消えて固った
ロウソクの
顔かたちで
“そこ”に
いました

父よ
都会の
村夫子よ
覚悟のうえのことですか
胃かいようの出血を
医者も呼ばず
食事もとらず
二日も耐え
きょうの
未明に逝く
とは
母よ
八十のお嬢さん
思いどおりにならない
頭と気力をふりしぼって
仕上げたことですか
(ふたりの生の終え方を)
息絶えたまま
老いの垢をつみかさねた
居間にいて
二日もたって
父とともに
見つかる
とは

「いまは
わかる」
「花の花たる
ゆえんが」
「人の人たる
ゆえんが」
「生を脈うたせる
大河が」
「潮が」

からだは
検死の解剖台に
のぼろうとも
ふたつの
たましいは
あの川っぷちの家
わたしの生家にあって
自分そのものを
咲いていた

(後略)


第32回横浜詩人会賞は奥原盛雄さんの詩集に決定しました。
(書肆山田・定価*本体3000円)
奥原盛雄さんは、1947年生まれ。1995年に第一詩集『あら
たまの海へ』を出版。身近な生死と宇宙感覚が溶け合った独自
の世界。構成にも意識的で、さまざまな言葉の工夫もあります
が、言葉至上主義でなく、言葉になるまえの世界にしっかりアン
テナをはられています。家族の詩に深いものが流れています。

最終選考まで争った詩集は三上その子『ある日、やってくる野生
なお母さんたちについて』。第一次選考に挙げられたのは、西村
啓子『赤の雑踏』渡辺えみこ『声のない部屋』森口祥子『終りの冬』
江島桂子『花咲群』高橋次夫『孤島にて』古志秋彦『ルベーグ積分
序説』川本真知子『勾配のきつい坂』清水博司『いきつもどりつ』
北村悠子『なのに そのとき』の方々の詩集でした。





詩書展の作品のご紹介




詩;今辻和典 書;藤森雨迹

風には
時間の刺骨がある
西域の陽関で
わたしは
孤独な漢の兵士となる
ー風の断層よりー

*1999年10月9日から16日まで
横浜詩人会主催・書燈社協賛で
詩書展が開かれました。
多数のご来場ありがとうございました。
このHPでもその一部をご覧ください。





詩;筧慎二 書;後藤俊秋

レモンの匂ひのする時間
髪の毛に海草をつけてぼくらは逢った




詩;水橋晋 書;船本芳雲

ゆるやかに渦をまいて
水は過ぎる
一片の雲を映し
降る星の光芒を
内に潜めて




詩;佐川亜紀 書;日守菜穂子

あじさいの
紫千色
命のひかり
明に暗に
ささなみ無限




詩;金井雄二 書;柴田雪香

死を考えるのは
あたたかい陽をあびながら
生きているものを見たときだ
詩集「外野席」より




詩;村山精二 書;倉嶋黄道

閉口
口を開けて
眠る癖




詩;村野美優 書;鷲見奈保子

タンポポ タンポポ
地べたを たたいて
タンポポ 葉を開く




詩;徳弘康代 書;上野松峯

さよなら 水
と蛇口を閉めて出ていく
朝 水曜日




99年度横浜詩人会賞・田村雅之詩集『鬼の耳』に決定!




8月24日に選考会があり、1999年度の受賞詩集は
田村雅之詩集『鬼の耳』(砂子屋書房刊)に決まりました。

田村雅之氏は、1946年群馬県生まれ。相模原市在住。
詩誌「花」同人。砂子屋書房で出版に従事されています。
著書に『さびしい朝』『デジャビュ』など。


鬼の耳

三年前の夏に
はるか南の島で
鬼の耳と題された素焼きの壷を
その口に挿されたひともとの枯れ枝と
数珠つながりの実とともに
求めた
飴玉ほどの花房には
白濁珠が
ぎっしりと詰まっていて
そのオブジェを
ヤマトとウチナーの女男がかわす
相聞えのように
昼夜に賞でた

魂のひとつ
実のふたつ
つぶらのみっつと数えながら
それが馥郁たる香を放つ
月桃の花の実と知ったのはつい最近のこと
房室のなかの珠は
あの沖縄戦のがまの白骨にちがいない
と思ったのも
死んだ霊魂を鎮め祈りを永久に封じ込めておくのは
高貴で、誇り高い
わが敗者
鬼の耳にふさうと思うのだ
だからくりかえし問うてみる
ラデイカルに
根源的に
根の国の耳鳴りを
わが罪をつぐなうように
骨洗うように



細野豊さんの詩集『花狩人』から


インディオの血

「あんたにはインディオの血が入っているの?」
グアテマラから来たという
白人ふうの若者に聞いてみる
「スペインにはもともと
肌のあさぐろい人たちがいたから・・・・・・」
純粋なスペイン人の子孫で
インディオの血はまったく入っていないと
言いたいのだ
白人でありたい願望でいっぱい

カルメン・ビリャソンはちがう
先祖にはボリビアの大統領もいる
由緒ある家系だが
インディオの血が流れていることを
充分に知っていて
開きなおっている

グアテマラの若者!
カルメンの肌を
アンデス山脈の雪のように
輝かせているものが
君には 見えないのだろう



99年度現代詩人賞受賞・山本十四尾詩集『雷道』




雷道

獣が何万回と往来して獣道ができる 人が何万回と往来して人道が
形成される あの青い天にも道がつくられるのだと古老はいう


この淡紅色のかりんの花と白いすももの花の間の真上の空に へこ
んだ一筋の道がはっきり見えるであろうと指をさす あそこが雷道
なのだとつけくわえるのだ


いま私たちは暗い部屋にいる 稲妻が光り雷鳴がどすんと地響を与
えはじめると 古老は避雷用に蚊帳をとりだしてきて張るのだ そ
のなかで 切りたての青竹に こげめをつけた鮎を入れ そそいだ
熱酒を飲みだしたのだ


それでは検証しようと古老は廊下に出る 春に見たかりんとすもも
の間の真上をあらためて指をさす 稲妻が走り雷鳴が激しく轟いて
いる そして不思議なくらいに それらは道の外に飛びだしていな
いことが見届けられるのであった


芳しい香を放つかりんの実とすももの実を見上げる秋 その間の天
に目をむける あるという雷の道あたりがくぼんでみえるのは 検
証したときの確信によるものなのか 幻惑なのか私にはまださだか
でない ただしみじみとみる青い天の広さにみとれて立ちつくすば
かりなのである


*老いた母、母以外の女に三人の異腹子を誕生された父など
肉親のうずまく情念を漢語の効果的な使いかたで高度な美に
結晶させた詩集。日本の伝承生活が形成してきた優美を再認
識する。(書肆青樹社 2500円)



95度 現代詩花椿賞受賞・芸術選奨文部大臣新人賞
八木幹夫詩集『野菜畑のソクラテス』






だいこん

なに 生き方を変えろだって
ふざけんじゃねいやい
こちとら ご先祖様代々
ぴりっと からくて ぶかっこう
ああ ぶかっこうで いいともよ
そこらの西洋かぶれのねいちゃんみてえに
ハイヒールはいてよたよた歩く
やわな あんよたあ
どだい 根性がちがわあな
泥がついててきたねえだと
とっとと消えろ
この すの入った大根役者



きゅうり

きゅうりのつるはどっちまきだか知っている?
知らない
左巻き それとも 右巻き?
どっちでもいいことばかりいってるのね あなたって
地球の引力や磁力と関係あるのだろうか?

朝日のあたるだだっぴろい畑で
みどりのかなしい夢からさめて
あたりかまわず
渦巻状の手をのばし
つかめるものは
藁をもつかみ

ぼくの引力圏の夢から消えて
こいびとよ
きみはどこへいったのか

空にむかう
支柱もなくて
日照りにやかれ
地を這いまわる

きょうはじっくり
冷静に
きみのことを考えてみるよ


*わかりやすくユーモアたっぷりの文体でしかも
ピリッとくる生き方が示されています。ガブリとたべたい
とれたての詩。いつまでも鮮度保持。
(ふらんす堂 2300円)




今辻和典詩集『西夏文字』
99年度・地球賞受賞





風の文字には虫がいる 虫とは動物の総称であり 風の起
こす気に応じてそれが生まれ出るという つまり風は生き
物の母体であった わたしの生まれた日 風も青くおおら
かであったはずだ その雄大に薫る時空に背きながら な
んと卑小に地べたを低く這ってきたことか


家相は山を背にし東に水を臨んでいるか 風と陽気を受け
ているか 風水師に方位を問われるたびにわたしはうろた
える いつも吉相の薄い思想の室は乱脈な間取り 北に向
日性があったりする


風はわたしに転向や逆転向を そして静止も教えた 乱気
流にひるむ風見鶏に仕立てた この生ぬるい無風に日々
わたしは確かな自転や方角を失いがちだ 百葉箱の記録も
いよいよあいまいである(後略)


*本年度現代詩人賞の最終候補まで残った詩集。
誠実な人格による現代史への深いまなざし、漢字からよびさまされる
存在の洞察力が魅力です。(書肆青樹社 2300円)



1998年横浜詩人会賞受賞、金井雄二『外野席』

野球ファンにもたまらないさわやかで切なくいとおしい思いの詩集です。


堀内投手がそこにいる!

金井雄二

照明がはいると
芝生の緑も生きかえり
硬式ボールの縫い目は赤く
真夏の夜の後楽園?
あるいは神宮
そう、ホリウチがでてくるまえに
トイレに入っておしっこをした

たとえばぼくはいつの時にも
ネガフィルムのような小さな一コマを
この眼で確認したかっただけなのかもしれない

試合前のランニング
ホリウチは腕を直角にまげると
ゆっくり、ゆっくり
(今日は暑いなあーと言う顔つきで)
外野の芝生を踏みつけながら
走ってくるのだ

ぼくは外野席を蹴って
ボールを追う野手さながらに
フェンスぎわまで走りより
すべての力をこめて手を振った

額の汗をぬぐっていたホリウチが
ぼくには手を振りかえしてくれると思えたんだ

目の前を通りすぎたとき
ヒョロリと飛びでた長い首の根元にある
ホリウチにでっかいホクロがテレビで見たときと
同じ場所に同じようについていて
遠のけば遠のくほど
さらにでっかくまるでホリウチのように動いていた

あっ、あれが堀内だ!

*堀内恒夫投手=巨人軍V9時代のエース


1997年横浜詩人会賞受賞、樋口えみこ詩集
『なにか理由がなければ立っていられないのはなぜなんだろう』


97年は、今の若者の感覚で、絶対な価値観が崩壊した時代に率直な疑問をもったり、やるせなかったり、愛したかったりする気持ちの樋口えみこさんの詩集『なにか理由がなければ立っていられないのはなぜなんだろう』が受賞しました。



どうして心臓をつぶすの

どうして心臓をつぶすの
毎日
かみあわないことばかり
どうして
憎みあうの
どうして気づかないことで傷つけるの
どうして
人を好きになるの
どうして憎むの
もう一人の自分がいないから?
どうして時々優しいの
サルの物語で泣いている

どうして殺すの
痛いのに
どうして生きてるの
この世の中に誰かがいても
いてもいなくても同じじゃなくて
意味がないなんてものじゃなくて
汚れた地面が
私のためにたまっていく
もう地面は生き返らない
何にもならない存在じゃなくて
悪を重ね汚している
汚されている
どうして
口にする言葉は
もう前に誰かが言ったことばかり
ウソばかり
でもウソ以外に喋れない
だって言葉がないんだもの
どうして
愛しあえるの
ホラ,もう32行目で自分の言葉なんかなんにもない
でも全然、
でも全然
でも全然全然全然なんだ

どうしてまだ書こうとするの
全然全然全然だから?
毎日
全然全然全然なことばかり
どうして全然全然全然なの
サルの物語で泣いている




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