ウォーター


佐川 亜紀 の 詩 V

2000年


12月の詩です。

いよいよ20世紀もあとわずか。
この世紀はいろいろなことがありました。
あなたは、何が一番の思い出ですか?

まだ ないもの

この机の上にある黄のカラーマーカー
100年前あったかな?
「恋し」と「愛」と「LOVE」の
活用についてアンダーラインを引く
世界を恋しって言えるかな?
この机の横にあるサザンのCD
100年前あったかな?
「TSUNAMI」のように押し寄せる淋しさは
1000年前もあったかな?
この机のむこうのTVの
戦争で足をなくした少年
100年前もいたかな?
この机の上の高い空
100年前もあったよね

菊名池にやってくる渡り鳥
100年後いるかな?
「みぞれ」って言葉
100年後あるかな?
被爆した少女
100年後いるかな?
あなたの手1年前までなかった
あったかいあなたの手
1年後あるかな?
100年前いなかったわたし
100年後いないわたし
まだ ないもの

ずっと あるものの
その間を
渡している
わたし
億年のほこりのような
一瞬のひかりのような
ずっと まだないもの
わたし


11月の詩です。

ご無沙汰している間に秋が深まってしまいました。
親族の介護と死去で、ふだんは意識しない死と生
をつよく感じるこのごろです。



今の家は斎場が近い
かすかに人を焼くにおいがする
温かい骨が鳴って
雨が粉っぽい
ザラザラ記憶とこすれる

家はいつも斎場に近い
家族のだれかをいつも焼いていたからだ
死んだ父は
幼いころの戦争のガラス片を
ずっと肩にかかえていた
死んだ母は
壊れていく心の破片を
ずっと生にかかえていた
私たちは
壊れていく家族のかけらを
心にしまっていた

家は人を愛し殺すところ
庭の木の根毛よりからまる愛と憎

秋には世界が斎場になる
あかあかと人間の罪が透けて照らされ
何事も無く地球の骨格がまた残る
人を罰のように人の中に生き返す
大きな裸木のような手がある


Fall

火のベッドに
銀色の風に運ばれ
まちがいのように
落ちてくるもの
時の素肌が光って
みかんの中で乱反射する
ひとふさ ひとふさのふくろに
こめられた火の水
舌がすすって
どこまでも純粋な
生の喜びの粒になる
死は大きく湾曲して
いたる所にもう一つの世界への
丸い橋が見える
土は栗毛の馬のように光り
すべて落ちてきたものを乗せて
時の中を走る


7月の詩です。

暑中お見舞い申しあげます。
7月の詩がこんな月末になってしまいました。
読んで下さっているキトクな方、すいません。
暑いので、水泳シリーズで行ってみました。

バタフライ

蝶があんなに激しく泳ぐのは
ほんとうだ
蝶は風の中を激しく泳いでいるのだ
だから 羽に虹をのせる
だから 羽に悲しみの極みの青をのせる
だから 羽に太陽さえのせるのだ
羽が燃えてしまっても
そして 羽を薄くけずり
世界の風を両羽で押し上げる
蝶があんなに激しく泳ぐのは
ほんとうだ


かなづち

わたしは泳げないので
ひたすら海に沈んでいく
ひたすら深く沈んでいく
ちょうちんあんこうや
鳥の足などの深海魚と
出会える
わたしの仕事は海の底で
かなづちを打つこと
ともすれば空に消えてしまいそうな
海をしっかり地につなぎとめる
釘は何でできているのか
生きているものの愛という骨なのか
神の悪意の釘か
わたしは今日も溺れながら
かなづちを打っている


クロール

クロールで
きみのところまで
泳ぎたい
空と海の出会うあたり
きみの立てる波が
ぼくの新しい世界を開く
水に生れた魚の記憶
足はひれになって
海が泳がしてくれる
ぼくが消えて海になるとき
命の芯のリズムで泳ぐ
生と死の水平線がゆれている

明日 地球が滅びても
生の意味をいっぱいに
かき上げて
全速力で
きみのところまで
すぐそばであり
はるか遠くでもある
きみのところまで
泳ぎたい

6月の詩です。

光のピアス

雨上がりの
木々の葉が
光のピアスをしている
少女たちの耳のように
ざわめいて揺れる

若い葉ほど
きずつきやすい
突然、心がどしゃぶりになる
ごく小さな光でも
身にまといたい

雨のむこうの雨
光のむこうの光
ノースリーブの声が
まだ聞けない


人の国

海辺の貝がゴビ砂漠の夕日の色をしている時
子猫の歯が正確な水晶のように並んでいる時
オーロラの幕が終らない劇場のように続く時
名付けようもないものを感じるけれど

どんなにゲノムが分かっても
なぜ、私が生れたか分からない時
その彼方のものを
その永遠に届かないものを
神と呼ぶかもしれないけれど

ここは人の国
ありふれた、
いやなことも、
へまなことも、
ばかなことも、
まちがいも、
そして、人のまますばらしいことも
たくさんある、
他の国の人と同じ人間が住んでる
ふつうの国
人間のまま
生きていく
神の国となって死にたくない
人間の国

***詩祭お礼***
6月3日の日本現代詩人会50周年記念詩祭は盛会に
終り、ありがとうございました。遠く、北海道、九州
関西などからお出で下さった方々ご苦労さまでした。
また、若い方にも多く参加して頂き感謝します。
シンポジウムはおもしろかったと評判いいです。
(私は受付けで聞けませんでした。)シンポジウムの
内容は、今年暮れに(予定)出るアンソロジーに収録さ
れます。刊行したら、お知らせします。

ところで、現代詩人会の会長、長谷川龍生さんが、詩人賞
特集冊子の巻頭でこう述べています。「日本の二一世紀社
会に生きる現代詩人は、全世界に視界を広げて、さまざま
な事柄に対面し、新しい知性を身につけて、芸術、詩の創
造に格闘しなければならないのです。たたかいから身を避
けて、実人生の避難の場所のようなものをこしらえ、その
場を安逸なところとして考えるならば、仲間うちだけの狭
い城の閉じこもってしまうのみです。」長谷川龍生さんは
現代詩でも、実験的手法、シュールレアリズムの実作者と
して、高く評価されています。

インターネットの詩は、<実人生の避難場所>的傾向が結
構多いと思います。<いやし><やすらぎ><遊戯>系が
主流。それに対し、今までの詩人は<詩は人生そのもの>
と考えていました。<おどし>!<めざまし><格闘>
系だったんです。(!!)(抒情詩人は<いやし>ですが。
バリバリ現代詩は、<格闘>系。)これは、世代の差か、
また、社会の変化なのでしょうか。詩の価値観もずれて、変わ
っていると感じるこの頃です。あなたは、<いやし>系
?<遊戯>系?<格闘>系?


5月の詩です。


風はどこから

風はどこから来るの
時を翔ける馬のひずめから
モンゴルの白馬をなでた風

風はどこから来るの
弾かれたことのない歌の中から
感情のソプラノとアルトがはりつめている

風はどこから来るの
知恵のぶとうを揺らし
竜巻で暮しを舞い上げるいたずらもの

風はどこから来るの
冷たい月の闇から
死んだものの最後の吐息

風はどこから来るの
明日の海から
混沌からいつも新しく旅を
夢見る一つの言葉のように



五月の風

五月の風が
ページをめくった
木漏れ日が
言葉を照らした
私たちは同じ行に線を引いた
私たちは初めてほほえみ合った
私たちは初めて瞳の奥をみつめ合った
大学の夏休み
経済と哲学と恋の
長い手紙が届く
水色の便箋に
かたい言葉をたどたどしく書き送る
心のやわやかい所が
世界のやわらかさのように開く
アルバイトから帰り
レモンスカッシュを飲む
何も持っていなかった日
ただ生命の力が夏の陽のように熱く
何かを求める瞳の輝きが
果てしない空を飛ぶ翼の光であった日
二人の心のページを
世界のページを開きたい若草の指

「理想」という名の本
人間の解放という言葉
パリのマロニエの下で読まれた
中国の大河のほとりで読まれた
ロシアのペチカの前で読まれた
ブルガリアの牧草の中で読まれた
アジアの銃弾の中で読まれた

言葉は重い影を背負った
言葉は死の波に何度も沈められる
言葉から体がはみ出る
言葉がかすれる
私たちは虐殺史を愛読する

虚飾の街で
私たちは出会うことなく暮らしている
ただ時に世界の彼方で
心の底で風が呼ぶ
五月の風は地球の息のように吹き止まない
(既刊詩集より)


4月の詩です。

4月ですね。新学期や新年度が始まり、どきどき
わくわくする季節。いつもピッカピカの一年生の
気持ち(だけは)でいたいもの。てゆうかこのHP、
一年生のまま二年目になりますが、どうぞよろしく
お願いいたします。

だけど

つやつやのかたい芽みたいに
「だけど」
みんなに合わせて
つい そうそうそう
ちがっちゃマズい
はずれものになっちゃう
考えたらヤバい
ういちゃうかも
だけど だけど
胸のつぶやきは消せない
あなたが消しても

「だ」でこの世界の現実をずっしり受け止め
暗かった田の日本の歴史を説かれ
人であることの限界を濁点のまま感じて
「けど」でちょっぴり現実を蹴っ飛ばす

だけどだけど
私は思う
私は始まる
  近頃、そうそうばかり言ってる
そうそうばかりで無くなる何か
危なくなる世界
だけど だけど
くちごもって
心をみつめる



聞いて

聞くっていう字は
耳が門の中に入っている
心には必ず扉があるから
扉を開けなきゃ聞こえない
春の日差しで花はいくつも扉を開け放ち
私を聞いて
香りに包まれているもの
川は水底までいくつも扉を持っていて
暮しのにごりと水言葉を隠す
毎日会っているきみが
聞いてと言っているのも気づかなかった
心はきずつきやすいから
自分にさえわからない
秘密の扉を持っている

ふわあ(何かが目覚めて)
ぷわあ(卵の中で息して)
ぶわあ(卵破って)
生まれてくるかすかなもの
聞いて


3月の詩です。

詩の前に近況を一言。
椎名林檎にハマりました。彼女の歌詞は現代詩ですね。
結構かたい言葉が多いです。でも、時代感覚が鋭い。
「ギブス」の「あなたはすぐに絶対などと云う(この字レトロ)/
あたしは何時も其れ(これもレトロ)を厭がるの(字よく知ってる)
(よく本を読んだ人らしい)/だって冷めてしまっちゃえば 其れすら
嘘になるじゃない」何か絶対的なものに冷めているのが今でしょう。
だから、逆に、絶対的なものを強く求めているのかもしれません。
迫力のある声・コスチュームもいいですね。
シュールな構成に引かれます。では、私の詩をどうぞ。

千の種

風船に花の種を付けて
千人の子供たちが
いっせいに空に放った
テレビの一こま
空の果てしない川に
夢の鮭の産みたての卵があふれ
命の鼓動が透けている
気流に押されながら
雲のパレットに
光る色たちが飛び散り未来を点描する
千の魂が解かれて遊ぶ

風船の爆弾 蝶の地雷
地球を何度も破壊する原水爆
原水爆の計算のため進化したコンピューター
コンピューターは希望にアクセスできる?
光の通信が驚くほど速くても
近くの闇のつぶやきが聞き取れない世紀末

ひからびた地球の片すみにも
憎しみがこびりついた地にも
花の香りを届けたい千の願いの種
千年がはぐくんだ種
私の心の庭に着いたら大事に埋めよう
かすれがちな命の源の願いが
くり返し芽吹くように
(2月15日神奈川新聞掲載)


2月の詩です。

割と温かい2月になりそうです。
横浜は雪降らないかな。ねこがくしゃみして、
インフルエンザが流行っているようです。(無関係?)
そちらはどうですか?

冬の音楽

空気がバイオリンの弦のように
はりつめた朝
水がかたくなな音符を
額に落す
弾くのは心の破片
北極熊の胸に温められた氷
昨日つららの言葉で
きみを傷つけて
どうしても溶かすことができない
ケトルの湯気のト音記号みたいに
世界を調和させる言葉が
わからない世界の冬
雪の結晶の中にある
命の交差点
「すべての細胞には心がある」って
心理学の本に書いてあった
だから
わたしの中の
リスの心も
テラノザウルスの心も
海草の心も
抱きしめて
冬の交響曲に
耳をすます



雪の後

リストラされた天使が
坂道ですってんころりん
空はカラーンと晴れです
しあわせ株式会社は倒産
希望商品はバブル
夢のアイテムも雲の中
せめて最後に
頭の上のリングを
ほっかほっかのドーナッツに
変えてもらい
さびしい子どもと
捨て犬と
三つに
分けて食べました



新年おめでとうございます!
セーヘルル チュッカハムニダ!
オルヘド チャール プータッカムニダ!(韓国語)

昨年4月からHPを始めて、ご覧頂いた方、リンクをお願いして
いる方、ありがとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
(オルヘド チャール プータッカムニダ)
私はPCオンチでのんびりやっていますが時々ご覧頂けたらうれし
いです。今後は、中国・台湾の詩もご紹介したり、いっそうアジアに
入れこみます。今、韓国の放送通信大学の同人誌に日本の詩に
ついて書かせて頂いていますので、韓国の情報もお伝えします。
あなたにとって良い一年となるようお祈りしています。
では、一月の詩をどうぞ。





きみに会えたこと

1999回のエラーの後
やっときみにつながったような
2000年1月1日のアクセス
1999回の失恋の後
やっときみにめぐりあったような
初日のシャワー浴びるきみと
1999回以上の戦争の後
やっときみに出会えたような
敵であった友であるきみに

出会えるってことは
一瞬 闇夜に超新星を
一緒に発見したみたいなことで
グチグチしてたら
新星もなんだ
くだらないチリかって
バレちゃうけど
くだらなさも
おもいっきりのわがままも
だめさ加減も
見せちゃって
お前もか ブルータス
やっぱり、生きてるって
そうだよな
と、ふっとうなずけたら
いいね

オレンジの初日をかじるみたいに
きみに出会えたら
それから、あっさりレモンを切るように
別々の街に行っても
出会いを新鮮な果実のように思い出せたら
いいね






ドラゴン・アッシュを聞きながら

ドラゴン・アッシュは龍灰
彼らの歌を聞きながら
龍が灰になっちまった時代を考えてる
昔は海や湖に龍がいて
ひからびた大地に雨を降らせるために
天空をまがまがしく暴れまわった
深海にひそんで未知の命を不穏に覚まし
魚たちの鱗を虹色にざらつかせながら
天にひたのぼる
美しい怒りは水も燃やす炎
言葉があられとなって降ってくる

そんな龍を灰にして20世紀が終わる
“大人達は同じことをそれなりには繰り返して
あとはそこで何かを見てこの世代に何を残す”
(「RealismU」)
「チェルノブイリに悲しい雨が降る」
何かを
想像力も灰にしてしまった
苦さと軽さ
灰のぬくもりが悲しい






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