ウォーター


連詩のコーナー




日中四行連詩「つる」の巻


赤子の爪に羊水の海の桜貝
水瓜の赤い地球に
黒い種は破滅か再生か
胡瓜のつるに胡弓の音を思う
(佐川亜紀)

つるに縋って夢道を帰った
森を抜け風 に乗り湖を渡った
空中 ブランコの快適と恐怖
一瞬のこの世への帰還
(水田宗子)

池に垂れている緑も炎に化けた
鯉の呼吸でさえもあつい
地下 とにかく潜れば辿りつくのか
伝説の中の龍宮へ
(杜鳳剛)

龍宮へ潜入して遊んできた
謎の世界と現実との幻相を満喫する
語り尽くせぬ快適か恐怖
いつかまたあの美人魚の歌を聴きたい
(劉利国)

聖歌のメロディーがきこえた
青に染めた時間と出会った
赤緑色のオーロラは竪琴か胡弓か
時空の合奏を初めて聴く
(王秋菊)

太陽の触角が乱舞する矢のように聞こえ
四方八方から無差別に落下
鍼灸を強要させられる思いはこんなものか
北極への蔓を縋って攀じる途中でしょっちゅう折れるのだ
(陳 岩)

牛が三五〇〇頭不吉な雲の中
ぎゅうと言わせる 人間たちに
灸をすえてもこりない
原子の矢が乱舞する無人の町や村
(佐川亜紀)

無人の村で野宿した
戦いの終ったふる里
万物息絶えてもここにいると
星空の下固い大地
(水田宗子)

星空の下 雑木林の中
昼間に懸命に鳴いていた蝉たち
おのおの 明日の歌の歌詞を
ひそかに練っている
(杜鳳剛)

ひそかに偲ぶ七夕の日に
織女と牽牛の伝説が思い出されてやまぬ
天の川を仰いでは傾聴する歌声は
来る年まで待たねばならぬのか
(劉利国)

蝉泣きが止まった
鯛の吐息も安らかになった
川沿い柳の倒影がブランコに
織姫の双子が漕いでいる
(王秋菊)

地球が発した高熱の呻きは産前の陣痛
肌色違う秋の多胎児を生まんばかりに
ブランコに巻き付いている蔓を伝って
天にある黄金色の産屋に入ってみよう
(陳 岩)

※「カリヨン通り」15号掲載。2016年9月。







日中四行連詩<使者>の巻


入り海に飛沫の形で満開になるアカシアの花びらは
遅れた北国の春の到来を告げるのではない
水葬する使者を悼むために懸命に白く咲くのだ
そして、海に漂いたくて海風を待ち望む
(田 原)

凪いだ海は鏡のように穏やかで
鴎は飛び上がり、飛び降りながら歌っている
遥かな向こう岸から来る使者を待って
例年通り、一杯桜の苗木を積んだ舟を歓迎する
(陳 岩)

花はいつも終わりを待っている
どのように咲いてもいつもプレリュード
向こう岸に広がる虚な空を見つめ
この時咲ききろうとするばかり
(水田宗子)

時は巡り合い、昨日も
小坂の屈折の道を歩いた
落ち葉とともに種も散らし
秋、冬を経てまた春を
(杜 鳳剛)

紅葉の星々は地に還り
銀杏並木は銀河に続く
黄金の落ち葉が水面の城を揺らし
夢の浮橋は万年のかなたにかかる
(佐川亜紀)

かすかに揺れ動く夢の浮橋よ
どこまで伸び続くだろうか
幻の天空の城へ向かって
身を振って一直線に走り続けよう
(劉 利國)

何もない土地に人が集まり
未来への光だけを胸に
城の石をこつこつ積み上げる日々
祈りがけやきの葉に満ちる
(篠崎佳代)

太陽が大仏の目礼の中
西へ沈んでいき、燃焼を懐かしむ
石の神は日差の余温を溜めて
雪に覆われるのを待つ
(田 原)

月が次第に隠れていく
無数の星が瞬き、怪しむ
夜寒(よさむ)の果てしない真っ暗闇の中に
オギャーという産声は曙を呼びおこす
(陳 岩)

産まれたばかりの詩集を開く
夢を飲み込んだ蛇が広い草原となり
最早始まりも終わりも彼方だ
神に尋ねたければここで何を待とう
(水田宗子)

ここは星が浦、電車に乗ったまま
空の果てが見えるところだった
いつか鋼鉄の橋が海岸を横切り
傲慢に少年の思い出を踏み潰した
(杜 鳳剛)

少年の思い出に雪の音階は高まり
少女の夢に光を弦に風の竪琴が鳴る
北国の海岸は呼び声が積り
四川の大仏の顔から雨が滴る
(佐川亜紀)

一瞬が千年の如く、滴る雨の玉粒が瞬き
青春の思い出は浮かんでは消えてしまう
海岸に寄せられる金色の貝殻を手に入れて
いつまでもいつまでも丹念に眺め入る
(劉 利國)

速き雲の流れの中に
神の使者の後ろ姿をみたか
その姿は金色
掴むことのできない花びらにも似て
(篠崎佳代)


*一部の字を新字に代えました。
(カリヨン通り」13号から 城西国際大学出版会)



女性四行連詩<天>の巻


教育者という名の ペルソナ
天を仰ぐ
ふうっと 息をつないで
そっと 天を仰ぐ
飯田加奈恵


露草はあれほどの天をかかえ
海は千年の吐息を秘めている
手をつないで 手を離して
幼な子とあなたは 日々の宝さがし
和智綏子


日々の宝は 形無きものも
大切なものは だんだん見えなくなって
ふと思い出した言葉 失われた町
奥深い心の 未来を示す指に秘かに光る
佐川亜紀


絶対ね、と指きりしたけど
約束は守れない
とびっきりの笑顔の前で
針千本覚悟のアーカイックスマイル
福田順子


黄昏の靄に
姿消えゆく落葉は
夕日の笑顔を追いかけたのか
今を吹き抜ける一陣の風
王 秋菊


時の運河の両側に
赤や黄色の倉庫が立ち並ぶ
納めておきたいものは朝日だけ
まあるい景色の向こう側
篠崎佳代


向こう側から舞い降りてきて
雪は空白のノートを埋めていく
果たせなかった約束、還らぬ至福の時
続きは天からの贈り物
北田幸恵


プラタナスの葉が落ちていきます
風のない 昼下がり
還らない時をつないで
プラタナスの葉がおちていきます
飯田加奈恵


おちていく うきあがる
彗星の軌跡 無重力空間
もう少し寝てみよう
白鳥座に飛び乗れるだろうか
和智綏子


荒野の地球から落っこちて
銀河のベッドで
少し寝て起きたら四六億年後
最初の水粒になって 
佐川亜紀


イルミネーションのシャワーを浴びながら
ふと見上げた漆黒の空に一筋の光
四六時中輝きを放ち続けるLEDも
一瞬の一条の細い光には脱帽
福田順子


月の光をさりげなく浴び
漂泊に草臥れて
行方も知らぬ旅人はぼんやりと
北斗星を仰ぎ見る
王 秋菊


縦横無尽に行き来する
過去にも見知らぬ土地にも宇宙にも
われら旅人
顔のないまま同じ舟にのる
篠崎佳代


彗星衝突のあと
ムーミン谷の洞窟の闇を出ると
生命の旅の続きが始まる
天の星のかけらをペンダントにして
北田幸恵

(同人誌「カリヨン通り」12号掲載)





第十一回大連四行連詩
<共生>の巻

理不尽の長い厳冬を凌ぎ抜いて
匂い漂う梅の香りを嗅ぐ
時と人と自然と世界
宇宙万物の共生と共存を訴える
劉 利国


海に漂う夕日、祈りの燈籠
大地から、海に、天に捧げる祈り
あの不時を時として過ごしてきた
あの日のあの時、この日のこの時
杜 鳳剛


あの日三人の博士が誕生した
病室から送ったコメント
消えていくいのちを見送って
博士たちの金色の房が揺れている
水田宗子


人生という名の旅は、あなたの知的好奇心に
火をつけ、想像力を刺激するでしょう
色彩を持たない夢に金色の房を添えたい
失われた時間を探して歴史の謎をひもときたい
村井 隆


夢と謎は双子の兄弟のように
いつ何時も寄り添い、反発しあい
夢の中で次から次へと謎を解いて行き
目が醒めたら、謎はまた前方で手招きをしている
陳 岩


薫る詩の四つの花びらが開き
この苺 その菫 あの蓮
蕾の夢は謎の宝庫
芽の瞳に空の手招きが映る
佐川亜紀


泣きたいほど雲一つない青空
かすかに波立つ大連外語大の「明陽湖」
悠々と泳ぎ飛び交うアフリカ雁のなぞめく夢が
なんとなくその澄み切った瞳に伺える
劉 利国


澄み切った空、海、幼いときの日々
懐かしく思う 明るい月の美白の顔
煙りに輝くネオンの光に
蝕まれて溶けてゆく
杜 鳳剛


果肉が溶けて大地に泌み入る
一つ残された種の孤独
繰り返しの疲労から
石の永遠を夢見る時
水田宗子


蝉の声が石にも泌みこむ夏がきた
邂逅と生命の調和
耳でなく心で聴くそれは再生の予感
私はいま詩人に多色の夢を贈る
村井 隆


多色の夢をみる歳でもないのに
枕元で絶えず囁く水の音
それは天際から来る細い流れ
時空を越え、蜿蜒と我心(わがこころ)に忍び込む
陳 岩


多色の河が地を潤す
黄河は文字も実らせた
天際から来る豊かな流れ
共生の水の星 青く輝く
佐川亜紀




第十回大連四行連詩
<花>の巻

世界を旅した北宋白磁の碗
湛えられた千年の時
内に蓮花が咲き開き
静けさが薄紅色に染まってゆく
佐川亜紀

一斉に咲き競う桜の真っ白の花びらが
そよ風に吹かれながら、ちらちらと落ち漂う
千年の歴史も咲いては散る花のように
時空のトンネルに吸い込まれてしまう
劉 利国 

国境のトンネルを抜けると
雪国であった。時空のトンネルを
と空想しているうちに
そのままにいるわたしの昨夜は今朝となった
杜 鳳剛 (清明節の朝)

そのままに放っておかれて一億年
石になれて大往生の夢の時間
100年も生きない動物の欲望で
光あてられても迷惑なだけ
水田 宗子

光も当らない友好の花は散った
四〇年の互恵と文化の友情に正常性バイアス
新しい相互理解と友情の火が待ち遠しい
アカシアと水田桜は今年もきれいに咲いた
村井 隆

アカシアの余香が漂う端午の節句
難問を解くため、屈原に教えを請う
滄浪の水は濁る時も清む時もあるが
「濁」で足を洗い、「清」で纓を濯うことができるだろう
陳 岩 (端午の節句 )

新緑の時を告げる紅つつじの無数の鐘
白い画面にあふれるネット情報
滄浪のあおあおとした線が織りなす楽譜
「奏」と「騒」が混ざり合う地球
佐川亜紀

狂ったような地球に生きている動騒の人間たち
青い真実と赤い嘘に綴られる「情報時代」
今や、を楽しむ楽章
案ぜざるを得ぬこの世の行方
劉 利国

星の行方を追って
朝、早起きをし
夜の暗みか靄に包まれる小丘を登りつめ
意味不明の町の寝言が聞こえてくる
杜 鳳剛

歩いていたのか
ずっとここに留まっていたのか
遠くの空が霞の向こうから明るみ始める
頑な夜よ夢も連れ去らないで欲しい
水田宗子

中国の貴人は茶で身上(しんしょう)をつぶしたという
永いときをかけて広い中国を旅し
夢に見た明るい白磁の夏茶碗を得た
抹茶はすでに追憶の形もなかった
村井 隆

数十年の旅は追憶の種になり
出会った出来事や人がどれも鮮やかな花である
方向性の善し悪しを顧みる暇なく
疲れて一眠りして、また怱々と旅立つ
陳 岩





第九回 大連四行連詩
<浴火重生>の巻

また桜が咲く頃になって
大連四行連詩の誕生も四年目
「浴火重生(火を浴びて再生する)」の花が前よりもっと気高いように
カリヨン詩友間の交流もより深まっていく
/陳岩


花びらは炎
地を輝かせ
巡る水の時間に火を浴びせ
火と水がつり合い爆ぜる一瞬
/佐川亜紀


一瞬間のように咲き競う満開の花に思いを馳せては
大連の春先の微寒に耐える
過ぎ去る時と年輪を背負いながら、挫けずに歩き続けて
四行連詩の「歌合」の花を咲かそうとする
/劉 利国


咲かない木蘭の蕾
邪を引くのが怖くて肩を竦め
身動きもせず静かに
春寒と戦う
/杜 鳳剛


戦いは終わった 少し眠ろうか
ほてった心を鎮め
遠くの友よ目覚めたら会いに行こう
新しい季節が訪れる前に
/水田宗子


一雨後の新緑が芽吹くキャンパスに
かがやく大志と希望
走り疲れた老馬が厩に伏す
夢はまだ千里を走りゆく
/村井 隆


千里も万里も走破した老馬は
疲れてちょっと一服
満目の秀色に誘われて
鞭打ちを待たずにまた蹄を奮う
/陳 岩


千里眼でエーゲ海の飛沫を見て
一目で分かる地球の行く末
満目マンモス
傍目八目 人より蜂の知恵
/佐川亜紀


人に作られた世界の行く末を
一目で見通せる者はいないだろう
人目を忍び四行連詩を噛み締めて
一巡りの幸福を浴びている
/劉 利国


日光浴のつもりで浜辺に出て
びっしょりとにわか雨に濡れてしまった
僕は、海水浴だ、と
気分修正に、頑張る
/杜 鳳剛


空の鞄を抱えて帰った
重量オーバーの記憶
あなたに預けた軌跡の予感
翼の痕残した化石の沈黙
/水田宗子


沈黙の理解探しに火消の日々
小島の歴史と信頼が試される
羅を脱いで灼熱の暑さと別れた
明日という花を咲かせるために
/村井 隆

(「カリヨン通り」第9号掲載)



第八回 大連四行連詩
<吹く>の巻

馬の鬣で赤ん坊の名前を書く
鳥の羽で島の山々を描く
虹の足で村を染める
牛の笛で失われた歌を吹く
/佐川亜紀


風が木犀の香りを吹く
雨が空の塵灰を洗う
雁が突進のラッパを鳴らす
霜が地上のすべてを清める
/陳 岩


山道の果てに小さな祠がある
黒潮に乗って流れ着いた神様
笛や太鼓の鳴らぬ祭りの日
鰌や蝮、蜘蛛や蛭がお詣りに来る
/水田宗子


昔のままの奉天の空に陽が差して来る
悪夢は時間が連れ去った
多様な交流の積み重ねに
新しい友情が生まれてくる
/村井 隆


生まれ変わりを願って地に落ちた
木の実と葉っぱと
一年の繁栄と荒廃の循環を繰り返し
秋のある日の朝、僕と出会った
/杜 鳳剛


薄い霧に覆われている秋の洛陽の町を歩く
伝統と現代化、甍と高層ビルとの間を
千年の古都が喘ぎながら静かに息づいている
昔の光、今何処と、僕は時空を遡ってそれを見ようとしている
/劉 利國


私は1の目盛りだ 無数の私を秘めた
2本足で立って創った人間の都市
千年の古都 千年後の新都に
歩いていく1足の跡だ ∞の宇宙の中で
/佐川亜紀


茫茫たる宇宙鴻荒 悠々たる滄海桑田
百年一瞬 一瞬百年
天上に先駆者達の理想の星が輝き
地上に後継者達が蟻のように土を運搬している
/陳 岩


上からどんどん土がもられるので
下へ沈んでは生き延びてきた
でもおまえだって永遠じゃない
いつか掘り出されて世界遺産
/水田宗子


渤海の海の果てから出てきた世界遺産
遼東の底から出てきたマンモス
宇宙の底でいきた足跡は
まだまだ深い一億年
/村井 隆


哲学的な深さはないと
人を批判する人の話がわからない
人にわかってもらえないから
哲学的になるそうだ
/杜 鳳剛


鳥になったつもりで、メルヘンの世界を飛ぶ
太古より動かぬ星空を仰ぐ
人間によって作られた社会を眺める
哲学的な人になりたいとほらを吹く
/劉 利國



第七回大連四行連詩
<漁火>の巻

僕が追憶するー富士の白雪、有明の漁火
僕が傾聴するー法隆寺の鐘、カリヨンの時報
僕が謳歌するー吉野の桜、夕焼けの赤とんぼ
でも、僕が一番見たいのは、キャンパスに溢れる色とりどりの笑顔
/陳 岩

庭の樹々はオレンジ、レモン、金柑
砂漠の生き残り名人ローズマリー
願わくば桜の下にてとつぶやいた日系のおばあさん
瓦礫の風景なんのその蕾となって里帰りしてくる
/水田宗子

トイレには蕾のようなきれいな女神さんがいて
ピカピカにみがくとベッピンさんになるという
大学にもきっと女神さまがいて
学問と人間をピカピカにみがくと人材が生まれると…
/村井 隆

人間は、単細胞生物から
長い時間をかけてゆっくりと進化した結果
その進化はとまらないなら
結果として人間はどうなるのだろう
/杜 鳳剛

結果よりプロセスのほうが大切
卵生動物の宿命は自然との調和にあると思う
進化は退化と言いたいほど
世が乱れて、我が心も乱れている
/劉 利国

地が揺れ 海が乱れた三月
家を流され みぞれ雪の中
「日本加油!」のたくさんのエールは
心の灯に油を注ぎ温めてくれた
/佐川亜紀

三月 僕の心の海は波が荒れ狂うが
三月 僕の心の山は依然として確固不変
一つの声が絶えず僕の耳朶に響いているー
「島は不沈、日本は永遠」
/陳 岩

島を離れていった人たち
墓参りに戻ることなく過ぎた幾年の夏
心の谷間から谺が一つ帰ってくる
あれは友の声だ 消えることのない
/水田宗子 

三・一一 人も家も物も失った
家族と絆ということばがよみがえった
存在の美しさとかなしさが身にしみる
忍耐がやがて全ての扉を開くでしょう
/村井隆

心の扉を開いて
詰めるだけ詰め込み
そのうちに花が咲き、草も生え
花も草も心の微温を
/杜鳳剛

微温を温めておくと
いつかは情熱になるだろう
咲かせよ 心の花を
挫けずに たゆまずに
/劉利国

たゆまず命をはぐくみ 命を奪う 海
また 漁火を赤々と焚き 詩の網をしかけ
泳ぎ回る言葉たちを釣り上げ
たくさんの笑顔を集めよう
/佐川亜紀



第6回 大連四行連詩
<芽生え>の巻


りんりん凍みる冬の真珠
らんらん輝き出すメバルの瞳
液晶の氷面を破って
春風春水一時に来る
/佐川亜紀


燕が年始めの春泥を銜えて来
柳糸が緑の触手を伸ばし
幼児が小さな手で土中に種を埋め
地球の新しい希望の早蒔きが始まる
/陳 岩


この朝も老母は眠り続けている
むっくりと起き上がる遠い地の響き
目覚めくる幼児の太古の記憶
ゆっくりともうそこまで
/水田宗子


ゆっくりとした時間が立春に近づく
止まるという進化が春の意志を芽吹かせる
しみじみと年の港に近づく
大切な人に元気な時間を贈りたい
/村井 隆


時間は雪に結晶してふんわりと
雪は時間を積み重ねてつもる
春節まではあと一週間
今日この日は小年とよばれる
/杜 鳳剛


小年が過ぎ去って、春節が来る
あっという間に一年の暦を捲った
瑞雪は豊年の兆しと思いながら
爆竹の音で胸を躍らせる
/劉 利国


XXXXXXXX DNAの二重らせん
遺伝子の対句のつらなりに
私の姿が兆している
ちょっとした配合のいたずらも混ぜて
/佐川亜紀


ちょっと近付こうにも、高嶺の花
はっきり見ようにも、ラシャのベール
いつも夜空に寄り添って瞬く閃く星のように
雲間の月に憧れる
/陳 岩


長い政治の季節が過ぎて
もう人生も晩年 故郷に帰る時
青春も老年も今は目の中の瞬き
さあ行かなければ 友を見送りに
/水田宗子


来る人去る人送る人、出会いは人生の縮図
そして、新しい価値を生む
井戸も掘り、種も蒔いて、水をかけ
新世代のイノベーションを育てたい
/村井 隆


植えた記憶もない花が咲いた
そう、確かに何かを植えた
今日も手に入った名も知らない種を蒔いておこう
季節に誘われ 季節にまかせて
/杜 鳳剛


季節の饗宴に思いを寄せて
春の匂いを嗅ぎ尽くそうとする
蒔いた種はいつかは芽生えるだろうと
固く信じて、待って、また、蒔いて
/劉 利国


※「大連四行連詩」を収めた『四行連詩集T 新天地』が出版され
ました。「あとがき」を書かせて頂きました。表紙は柳澤紀子さんの
すてきな絵です。
発行者 カリヨン通りの会/学校法人城西大学日中短詩協会
発行所 城西国際大学出版会 定価1000円+税



第5回 大連四行連詩
<色>の巻

秋風が絵筆をフルに使い
大地を赤く黄色く染め始めた
人間にはどんな色付けをするのだろう
それが鮮やかか暗いかはわれわれ次第
/陳 岩


雲の変化に誘われて夜が長くなった
時間を織り込むように木々が染まる
人と自然の出会い 秋思も色も深める
沈む夕日を見ながら 違う自分にも会いたい
/村井 隆


待宵の月に思いをはせる
同じ名月を仰ぐ友はいずこに
秋思が一層掻き乱される
願わくばいつまでも元気であれ!
/劉 利国


いつまでも分からないものに向かって
言葉は熟していく
春の暁の夢 白い本は鳥に変わり
秋の実は 赤い辞書になる
/佐川亜紀


ヒグマの大あくびが聞こえる
記憶にない記憶の時間への憧憬に駆られて
もう夢も食べ物もいっぱい詰め込んだ
葉先に掴まってほら眠りが近づいてくる
/水田宗子


たらりと葉先から垂れ落ちた雫
夏の暑さに温められて濃縮された古酒に
酔い潰れ 色っぽくなった虫たちは
木のもとで人間の真似をしてカラオケを歌う
/杜 鳳剛


(「カリヨン通り」第5号より。旧字が新字になって
いる所があります。私の詩も一部改作しました)







第4回 大連四行連詩
<アカシア>の巻

窓の向こうで変化する季節
たどりつけない夢の旅のような寒い春
四季と自然が寄り添って
もうすぐアカシアも咲くだろう
/村井 隆


これからもアカシアは花をつけてくれるだろうか?
ハイチのちょっとした揺れで、死者20数万!
アイスランドの一たびの噴火で欧州の翼が切断!!
2012年地球の末日―― 願わくは出鱈目な予言であってほしい……
/陳  岩


三月は出鱈目な月
桜と雪をごっちゃまぜにして心を操り
気がつけば逝ってしまって知らん顔
次ぎにくる季節の兆しも残さず
/水田宗子


季節は呼吸が止まったようだ
寒さに怯えて花の蕾は開こうともしない
一旦芽生えた草木の芽はまた引き籠り
じっと忍んで東風を待つ
/杜 鳳剛


雲の歯が 生えそろい
太陽の果汁を 滴らせ
芽の中の 牙が光る
緑の龍が 五月の空を駆け巡る
/佐川亜紀


初夏の日差しにさそわれて新芽が光る
異次元の空の下 人は出会うためにあり
一期一会は新しい扉を開く
歴史の染みついた町で未来と出会う
/村井 隆


半生夢見てきたのは未来
毎日追いつつあるのも未来
九十九の未来が失われて
一つだけの未来が目の前に
/陳 岩


深草踏み分け踏み分け
ああ ここまで来た
戸口に立つ白寿の女
恋路は千年の旅と追い返された
/水田宗子


地球の戸口に立って、旅にたつ
何万光年の彼方を眺めて
僕は、地球とともに軽くなり
輝いて星となる
/杜 鳳剛


窓から彼方の心が吹きこむ
体がみるみる白い花をつけたアカシアの木になる
軽やかな羽がガラスを通り抜ける
胡蝶の夢のように
/佐川亜紀


第3回大連四行連詩
<新天地>の巻

鳥の巣を作る 古今東西の
比喩の枝 リズムの羽 驚きの! 思索の?で
じっくり温めると 古い殻を破り
生まれたての声が水晶のように輝く

(佐川亜紀)


歴史の風は毎年アカシヤの花を散らし
逆風と順風とそよ風が磨いた町大連
新しい北方の真珠とよばれ
今煌めいている

(村井 隆)


北風は凛冽、南風は温和
逆風は凶悪、順風は愛撫
風の中に生きる草木は東西南北を問わず
枯れるときもあるが、萌芽は年毎に

(陳 岩 )


冬気流に乗って渡り鳥がやってきた
旅心に誘われた風来坊も現れた
風の中に生きる詩人たちも集まった
今宵抱えて来たそれぞれの光でグラスが反射し合う

(水田宗子)


寒々と凍った街灯の光
積もる雪に吸収されて土地を暖める
春の夢でも見ているのか
樹木の枝たちは寒さに震えながら寝言を呟く

(杜 鳳剛)


海のつぶやきを パソコンに書き込む
珊瑚の問いかけ 魚語で応答あり
心は潮の香りがする
日々少しずつこぼし それでもまた満ちる

(佐川亜紀)


無限にあると思った時間が日々消えていく
異なる交流を未来に紡ぐ街大連に行こう
和と漢の詩人たちの笑顔が未来に咲き
心豊かな融合が新たな明日を生む

(村井 隆)


生命は物差で計れば段々短く
秤で量れば益々重くなる
未来のために両者を併用
短い間でも重量を増やそう

(陳 岩)


嵐の後の水かさが増した水路
船を待っている人がいる
港を繋ぎ記憶を繋ぎ
時を超えた地平まで辿り着こうと

(水田宗子)


銚子で地平は丸く見えるという
話を聞きながら、「銚子丸」で寿司をご馳走になる
僕は、新天地を求めて
今にも地球の斜面に沿って滑り込もうとする

(杜 鳳剛)





第2回大連四行連詩
<目覚め>の巻


緑の呼吸を感じるキャンパス
JIU、本館、五階にある宿舎から
カリヨンの曲を聞いて目覚めた
日常の、ある日の大連の朝でした

(大連   杜 鳳剛 )


星空のキャンパス
果てしなく美しい謎を学び
眠りの夢の路を通って
闇から朝へのノートを開く

(佐川亜紀)


大連は不思議な歴史の色を持つ
ロシア街(まち)に綿菓子を売っていた
日本街(まち)は歴史の夢の中
大連富士の夕焼けは日本の色だった

(村井 隆)


アカシアの町―――大連
不思議なお伽噺の国
ここにはいつも香しい風が吹いている
人々は逞しく生きる 今日も明日も

(陳 岩)


海を渡った逞しい人たち
帆を張り、蒸気を噴き上げ、プロペラ機を飛ばし
ある時は下駄履きで、ある時は新品の革靴を履き
末裔たち世界中が自分たちの街、自分たちの故郷

(水田宗子)


地球は誰の末裔だろうか
休むことなく、まわって親探しに
地球に乗っているわたしたち
結局、どこへ、行くだろう

(杜 鳳剛)


李白の月 白蓮の夢
魯迅の「阿Q」 春樹の「1Q84」
言葉に乗って 時空を超え
心の異次元にワープする

(佐川亜紀)


言葉は形を残さなかったが
文字は詩となり形を残した
時空を超えて三次元へ
鐘声の余韻は続く

(村井 隆)


今も続く鐘声の余韻
それは千古一帝の雄叫び、ローマ奴隷の喚声
僕らは労働、友情、詩歌を用いて
そっと、そっと未来の者達の心の琴線に触れる

(陳 岩)


かすかに触れたものを確かめようと
霧の中くぐり抜け異国の小さな村まで辿り着いた
老いたる詩人たちが休んだというカフェで
うたた寝から目覚めればまずはいっぱいの緑茶

(水田宗子)




★くちなしの巻★


昨日は白かったのに 今日はもう土色
狡猾なくちなし
時の先回りをして
死をやり過ごそうとの変身術
(水田宗子)


く く くっと
ちょっと思い出し笑い
なお時の後追いをして
しっぱい しかえし 言葉のしっぽ
(佐川亜紀)


メール送信にしっぱい
指と頭をつなぐ古びた回線のトラブル
しまい込んできたわたしの告白は
超特急で見知らぬ人へ落雷
(水田宗子)


風の五線譜
草の四分音符 たんぽぽの八分音符
野原はあけっぴろげに歌ってる
蝶の四分休符 トンボのト音記号
(佐川亜紀)


今日はもう門を閉めましょう
梅雨前線も沖を通過していったとか
あなたもきっと野原に寝転んだまま
夢は違う道を行ったのでしょう
(水田宗子)


生命はそれぞれ違う夢の道を行っても
同じ源に還って来ます
クーロンでも サイボーグでも
ついには人間を超えたはるかな宇宙の胎に
(佐川亜紀)


旅で電気仕掛けのイルカを買った
アカシア祭りの屋台のおもちゃ屋
くるくる回るイルカのサイボーグと
日本人街をわたる風の中でしばらく過した
(水田宗子)


パラム ロム フォン
ウインド ヴァン ビエント
四方八方の地球の息を集めたら
見事にカゼを引いちゃった
(佐川亜紀)


ひまわりは退屈しているって?
太陽を追いかけても掴めなかった
吐く息荒く、油汗いっぱいかいた
永遠に向かって もう何もすることがない?
(水田宗子)


永遠の虹
ラモンの木の葉先にかかっている
ゼロの発見のマヤ文明遺跡
一瞬の神殿
(佐川亜紀)


今日もまた一瞬の思い出となった
アルバムにもポストヒューマンな海馬にも
記録は残らない
ものがたりの波間
(水田宗子)


マンゴー 沖縄の陽の雫
黄色いチョウチョウウオがよぎる青い海
とっくり舌に残る甘さ
火鳥の卵 悲の水宮
(佐川亜紀)


スコールに濡れたスカートを絞ると
剣を振り上げて男たち流れ出てくる
女たち苦い米食べて染めている
花も動物も ベールまとわず
(水田宗子)


ベールの中に湧く言葉のオアシス
空飛ぶ夢の絨毯
エメラルド色に光るペルシャ猫の瞳
王の殺戮を止めた千夜一夜物語
(佐川亜紀)


みんなタブローの中へ帰ってくる
絵柄の中に収まった男たちの戦争
女たちの瞳だけははみ出している
泣き、嘆き、笑い、密かに策略し
(水田宗子)


しまうまは泣く
草原はどっち
砂漠広がるな
飲む水口無し
(佐川亜紀)


※水田宗子さん 英米文学・比較文学・女性学学者・詩人。
城西大学理事長。教授。
詩集『帰路』(思潮社2008)
『サンタバーバラの夏休み』(2010思潮社)
『アムステルダムの結婚式』(2013思潮社)
『青い藻の海』(2013思潮社)
『東京のサバス』(2015思潮社)
著書『尾崎翠ー『第七官界彷徨の世界』』(新典社2005)
『女性学との出会い』(集英社2004)
『ジェンダー文化の外部へ』(学芸書林2003)
『モダニズムと<戦後女性詩>の展開』(思潮社2012)
など多数。
共著『韓流 サブカルュアと女性』(至文堂2006)
『ジェンダーで読む<韓流>文化の現在』(現代書館2006)など多数。
2013年スエーデン大使館よりチカダ賞受賞。





★四行連詩はがき★

海原 (パブロ・ネルーダ)

一つの波より澄みきる肉体、
その線を洗う塩、
そして光る鳥は
根っこなしで 飛び。

Ocean (Pablo Neruda)
Body purer than the wave,
salt that washes the line
and the luminous bird
flying without roots.

さらに高い道 (木島始)

山々の頂きでは 必ず
果てしない青さを 仰ぐ
そこ 煌きを放つ鳥 羽が
とわの飛び回り している所を。

Higher Orbit(Kijima Hajime)
Mountain summits coerced me
to look up into infinite blueness,
where timelessly a luminous bird
is believed to be flying around.

★合図の巻★

駆けっこ駆けっこ
駆け出したい
駆け出そう
風を合図に
(文月奈津)

何の合図だろう?
難破かも!
なりふりかまわず
何故なだれこんでいく?
(木島始)

なだれていくのは
なのつく野草
なずな なでしこ ながいも なべな
何か異変が季節の迫間に?
(文月奈津)

異変つづきは すぐ
インターナショナルに注目される
命の危なさが世界じゅう
いたるところだもの
(木島始)

いたるところに
いちごのハウス
戦を棄てた大和の大地
いつの世までも埋めるな地雷
(文月奈津)

ためらうことなく
たわいないことに夢中
他人が棄てる物を拾って
淡々とコラージュを楽しむ
(木島始)

楽しみたいわ
確かな一語
妙なる調べ
耐えず流れて私の命
(文月奈津)

流れに逆らう人々は
長いあいだに
なせか一つになりきれず
仲間割れして なむあみだぶつ
(木島始)

仲間われして
泣くのはだーれ
なべて人の世
なぜか争う
(文月奈津)

争いのさなか
アラを美化する
あなたは何者?
あこぎな阿片?
(木島始)

阿片はだめよ
合図の手旗
あしたの国から
アメージング・グレイス
(文月奈津)
*詩誌「インデイゴ」23号より転載。
文月奈津さんは高知市の方。

★口の巻★

週末―Cへ
車が高速道路に駆けあがると
ゆっくりと雨がきた
これから行く街の涼しい蛇口が開かれたのだ
彼は魚の背に乗って待っているだろう
(財部鳥子)

夜な夜な滝壺に眠りにいく
夢遊行のわたしめがいて
どんな荒廃墓地でもつい蛇口を上へ向ける
もしやの虹を生きがいにして
(木島始)

足もとから虹が立ち上るのを
あなたと一緒に目撃した
富士山麓の遠い夏休み
この色々も登っていけると思った
(財部鳥子)

一行の歴史資料と化す
今世紀末に噴火ありやと
浅間山麓から頂き仰ぎ
解読できない蜿蜿を見る
(木島始)

蜿蜿とつづく
宛先の無い手紙
虫の息の難民のつぶやき

神々の衝突 いびつな金貨
(佐川亜紀)

救う役割 忘れていいの 神々さあーん
口さがない うからやから 抱きかかえ
闇の谷底へ 堕ちようって わけ?
蓋を閉じた貝たちが うるさいこと!
(木島始)




★洪水の巻★

水色翡翠色のアオザイ
すそを風にはためかせ走る
ホーチミン市のバイクの洪水
独立した民のしなやかさ
(佐川亜紀)

「愛する民衆の愚昧と聡明な時の流れ」と書いた詩人
声が浮いたり沈んだり
洪水の向こう方へ流されていく
水の面は怒号に満ちて
(新延拳)

皺という皺は 暗号に満ちて
良い読みとり手には 多弁だ
あっけなく 父母の没年をこえ
時は 怒涛 溺れをまつ鰐?
(木島始)

幸福のメールは取扱注意
I LOVE YOUウイルスが
あっけなく壊した世界のパソコン
一瞬のテロが予兆する未来の危うさ
(佐川亜紀)

未来から降りてくるのはカンダタが掴っている蜘蛛の糸
ということは ここは地獄?
むかし 土管からのぞいた
春の空は丸かったな
(新延拳)

四十雀が 餌を啄みにくるのだから
木槿が イマを溢れさせるのだから
胸中に ムカシをとぐろ巻かすまい
電子の コレカラに怖じ気づくまい
(木島始)

コレカラ はじまる
ココカラ あるく
カレカラ はなす
カラカラ うまれる
(佐川亜紀)

植物状態と診断された
母に話しかける
長いこと話していなかったね
良いことだけの物語
(新延拳)

「ぎんめしとけて」という物語
最後に読者へのクイズを入れて
忘れるな 発表誌は「話の特集」
読みかえすたび苦しい胸キュン
(木島始)

世界の音符を連れてきて
傘に10オクターブもの音階
午後から雨の発表会
この今の地と天の曲に耳澄ます
(佐川亜紀)

天がいかに縹緲としていても
人はこの狭い地にて死ぬほかない
笑ってしまうではないか
今日もカラスを従えて歩く
(新延拳)

養父を紹介しよう 文学の上でのだ
切手でごらん ヒューズの肖像を
この本「泣くまいとして笑う」―
半世紀前に贈られ励まされた本
(木島始)

光の半径がどこまでも伸びて
みどりはひたすら
野原を走って回って
一面に新しい命の円を描く
(佐川亜紀)

日輪はようやく衰えをみせる
かるい飢えの感覚
一日 木魂といっしょに走り回った
禽獣の目から零れ落ちる・涙
(新延拳)

虫魚の目で自分を見てみよう
と 直立猿人たちは恐竜どうよう
絶滅寸前の歩きまわりよう
舌に初鰹のタタキを逢わせよう
(木島始)

木全体が時の金色の魚
土は一瞬の尾を捕まえ
落葉寸前に黄金のうろこが一斉にざわめき
風の流れに泳ぎだす
(佐川亜紀)

絵本の中から出てきて泣いている子
また本の中に返してやるしかあるまい
黄金のうろこ雲の下
この子を必死で探している人の姿
(新延拳)

あわよくば必死(?)で見つけたい
情報洪水のなか消えて蘇る我執を
検索エンジン一瞬の猛作動のあいだ
あ 私は今 幻鳥たちに触っているうっ
(木島始)





★★★★★三言語四行連詩はがき★★★★★
☆Trilingual Postcard of Linked Quatrains☆

四行連詩の創始者・木島始さんは世界の詩人と連詩を
交わされ、日本語・英語・詩人の言語と三言語で表わし
絵はがきを作られています。その一部をご紹介します。

スザンナ・ヨルン(デンマーク)
はじめ東京の空は、なじめなかった
月だけが私のものだったが、とうとうある日のこと
富士山に立ってみた と とたんに一本の絵筆が
日本中の空を 描きあげた 青い墨で。
Susanne Jorn(Danish)
At first the sky over Tokyo was foreign.
Only the moon was mine,until one day when I stood
on Mt.Fiji and a brush painted
the sky over Japan ink blue.

木島始
何とかやっと これで決りという自画像を
ものにしたと思った      が変貌とは
止まることのありえないもの 一本の絵筆が
動きやまない私を描いている 無色の墨で。

Kijima Hajime
At last I got my final self-portrait,
I thought so. Yet metamorphosis
can't but be endless,a brush is painting
the ever-moving me with colorless ink.

非馬(中国)
腫れた足は
もがく
宥めを求めて
靴からの

William Marr(Chinese)
A blistered foot
squirms
seeking compromise
from the shoe

木島始
放たれた矢は
飛ぶ
的を求めて
交じろうと

Kijima Hajime
Any shooting arrow
flies
seeking a target
interplayable

<音楽>金光林(韓国)
鍵盤の上を駆け廻る手指
轟く象牙海岸の海嘯
たまには花畑に踏み入る馬の蹄だったり
アルプス山頂の雪崩だったり

<Music>Kim Kwang-rim(Korean)
Fingers runnning up and down the keyboard
Tidal waves roaring off the Ivory Coast
Occasionally horse's hoofs trampling on flowerbeds
Avalanche on the Alpine summit.

<絵の下地>木島始
画布に描ける色のきわみとは?
我とわが身を燃しつくす赤
たまには星を深みに生み落しそうな青
癒しと和みで大地ささえる黄

<Background Colors>Kijima Hajime
What colors suit the canvas best?
Red burning itself out into nothing
Blue occasionally giving birth to a star in its depth
Yellow supporting Earth with healing softness.

アグネシュ・ゲルゲイ(ハンガリー)
異なった風土から
かっと激発しそうな気分で
同じ廃墟に戻るまいと意気ごむ
誠実さには由緒などない

Agnes Gergely(Hungarian)
From different climates
with veins ready to explode
never to swim back to the same ruin;
fidelity has no history.

木島始
お互いが誰かも分らず
喜んで分ちあえるものとて無く
かつてはこれでも同じ廃墟の出身なのに
多種多様さこそが私たちの定め

Kijima Hajime
Impossible to identify each other
Nothing to be shared with joy
Once having arisen from the same ruin;
Our diversity,our destiny.


四行連詩集<充たす>の巻き


<充たす>の巻(その二)

ニール・フィリップ(木島始訳)

こっちへおいで まさに今
昔はじゃなくて いつもここ
充たしとくれ あなたの今 で
二度となくとも もうすぐ で

Linked Quatrains- The Cycle of "fill"

Neil Philip

Come here this moment
Never-before yet always-here
Fill me with your nowness
Never again yet still to be

木島始

毎日あうよ なじみのお化けたちが
「わが国こそ 冠たるべし」と叫んでいるのに
心つたえうる斬新さで お化けの頭 充たしとくれ
そうなりゃ TVも 楽しくなろうさ

Kijima Hajime

Everyday I meet familiar phantoms
Crying ‘our nation should be superior'
Fill them with newer communicability
So that the TV news be more pleasurable

ニール・フィリップ(木島始訳)

そんなに多くのことを 私はきみに語らなかった
そんなに多くのことを きみは私に語らなかった
だから今 何を言おうと どうにもならない
だってもう 一言たりと 語ってこないきみ

Neil Philip

So many things I never said to you
So many things you never said to me
And now what does it matter what I say
For you will never say another word to me

木島始

なぜ しばしば 嘆きの言葉を
逢えない人に そうっとだ?
はかない人間 抱き合うのは大切
別離をへての絶滅が ほぼ確実だもの

Kijima Hajime

Why do we utter repentant words so often
So softly to those who can't be met again?
Sure it matters for us mortals to embrace
Our extinction via separation getting tangible


*ニール・フィリップは、『新オックスフォード子ども詩集』、
『戦争と戦争の悲哀』、『女の世界』と好評の詩集を編みつづ
けている。また、民俗学者でもある彼は、W.B.イエイツの
『アイルランドの昔話』を編み、その解説を岩波書店版で読む
ことができる。夫人と英国コッツウオルズに居住。
この<充たす>の巻は、その一で、他に坂本宮尾、石原武、
角谷昌子、新延拳の方々との連詩を英訳とともに収めていま
す。(土曜美術社出版販売。500円)



「詩と思想」2000年4月号「連詩への招待」



インターネットのHPでも連詩がさかんです。連歌という
日本の伝統ゆえでしょうか?欧米では詩作は個人の創造が
原則ですが、日本では、連歌が発達し、さらにその中から
俳句が生まれ、独得の詩歌の展開をしています。
この特集では、以前から連詩の試みをされてきた方、特に
現代詩連詩の元祖・川崎洋さん等からインターネットの連
詩まで取り上げました。
HPの連詩はいろいろな形式・やり方があっておもしろか
ったです。ルールがかっちりしているのから、ゆるやかな
ものまで。それぞれの良さがあるでしょう。
連詩は個を超えるといっても、逆に参加者の個が露
わになり、個の力量が問われるような気がしました。
しかし、ふだん、詩作を全くやらない人でも一行でも
参加できる所が連詩の良さでしょう。
《 目次》
@連詩作品集
Aエッセー
* 一行連詩・原子修
*ゆりかごの四行連詩・木島始
*「櫂連詩」事始めの記・川崎洋
*連詩船《東アジア号》出航す・高橋喜久晴
*連詩とルール・西岡光秋
*ダイアローグの磁場で・鈴木漠
*大西洋の小さな島で・有馬敲
*大きな何かに・津坂治男
*連詩という実験・新延拳
*インターネットの連詩佐川亜紀
以上ぜひご覧下さい。(2000年・4.23)


<椅子の巻>

(詩誌「波」10号から、水島美津江さん・新延拳さん・
山田隆昭さん・佐川亜紀による四行連詩)

港ホテル カウンターの角隅
ベイ・ブリッジを渡ってくる金色のテールライトを
椅子取りゲームに疲れたサイボーグが
グラスに悲哀の花火を打ち上げみつめている
(水島美津江)

台風がいってしまった
ビルのどの窓もやさしく幽かに灯っている
その中のいつ見ても誰も座っていない椅子
欅の大樹が黒い夕日を抱いている
(新延拳)

夕日は燃やしつくす
ありふれた一日でも
雪の結晶の一粒一粒まで
ルビーに変えるように
(佐川亜紀)

水の匂いがする明け方の月
町は霧にまとわりついて
夢の粒を砕いている
醒めてもなお影が重い
(山田隆昭)

ふと醒めた風の爪先が
ひらり と 向きを変えて
重なり合っている街路樹の葉を
ひややかに切りとっていく
(水島美津江)

切り取られた未来の断片
そこには落ち葉が積もり
誰かが夕焼けに染まった空っぽの墓を洗っているのだ
少しずつ時計が遅れていく
(新延拳)

マンモス時計でお目覚め
フウ 百万年の昼寝か
地雷とゴミだらけの大地見て
フン 人間の頭は僕の牙みたいなのかな
(佐川亜紀)

途中で結ばれたズボン
硝煙が赤く染まったのだ
少年の太腿が地に届かない
もう生えてこない幼年の日々
(山田隆昭)

新しいミレニアムを祝うマーチの中
光の愛撫を浴びながら次の世紀へ渡っていく
あなたの太腿はまだ痛むのでしょうか
過ぎ去った五十年よりも重たく引き摺っている影
(水島美津江)

なんじゃもんじゃの木の影は
永い時間をためています
年の初めの昼酒に酔っている人々
あれは無数の死者と酌み交わしているのです
(新延拳)

言葉の水を酌み交わそう
アンデスの麓の水楽器
李白が溺れた月の酒
失っていくアフリカの秘水
(佐川亜紀)

失ったものが迫ってくる
茶器の欠片がいとおしい
火欅(ひだすき)の紋様にしばられ
夕陽を浴びる椅子もひとりぼっち
(山田隆昭)

*「波」は、水島美津江さんの個人詩誌です。巻頭に「日記ではな
く/ より 美に近いものへと/書きつづけてゆきたい」とあるように
詩の美学を熱心に追求して、10号を重ね、その記念に連詩を行
われたそうです。私は、4人の連詩は初めてでしたが、それぞれの
個性がおもしろく刺激されました。


『四行連詩集 ・近づく湧泉』ついに出版!

塔野夏子さんと木島始さんの連詩
<黒の巻>
(一部ご紹介します。)

別れを
貯え
黒こそ
豊か
(木島始)


沈黙を
覆い
黒こそ
響く
(塔野夏子)


響きつづける
風景を 内部から
探しあてられれば
詩が歩きだす
(木島始)


歩きだす
そのリズムを
あるがままに刻むため
あたらしい道へ
(塔野夏子)


生き 愛し 蓄え 争い
みな 消えさるからこそ
空にさえ 刻みたくなる
ありったけの心 言葉で
(木島始)


ありったけの閃きで 翼をつけて
この手から はばたかせよう
知り得たことの虚ろも
知り得なかったことの重みも
(塔野夏子)

*塔野夏子さんは、五行歌の会所属(筆名・南野薔子)で代表詩集
『透明塔より』をお持ちの若手のポープ。落ち着いた深みのある
詩ですね。続きは『近づく湧泉』でどうそ。




このコーナーでご紹介している木島始さんが発明された 四行連詩集がついに一冊の本になりました。私の他、 俳人の矢野織女さん、詩人の佐岐えりぬさん、津坂治男 さん、井之川巨さん、坂上清さん、青木明代さん、塔野 夏子さん、田部武光さんとの連詩を収めています。
詩歴の長い方、五行歌の会の方など多様で、それぞれの 相手によって、同じ詩形でもずいぶん雰囲気がちがうこ とが分かりおもしろいです。下段のエッセイも連歌や 連詩のさまざまな見方を語っています。
(土曜美術社出版販売・2800円)


<とほうもないの巻>

夢を横切るアリ
死んだ子どもの耳から出てきて
とほうもない歌をひっぱる
宇宙よりも美しい世界をひっぱってる
佐川 亜紀


The ant goes across the dream.
Coming out of the ear of the dead child,
it is pulling a stupendous song,
pulling a world for more beautiful than the universe itself.
( translated by Koriyama Sunao)


しんそこ敬いたくなるだろう
人類のごみぜんぶの再生へ
とほうもない発明の道へと
若い脳髄たちを引っぱる人を
木島始


脳髄に埋め残した
二百万発の化学兵器
島の美しさを浮き立たせよう
火の海に囲まれないように
佐川 亜紀


象形文字は叫んでいる
鳥がとまれるからこそ
島の美しさがあるのだと
胸きゅんと松よ枝をさしだせ
木島始


胸きゅんと待つ鳥来ない朝
頭を変えなくちゃ
雀が乗ってさえずるくらい
やさしいヘアースタイルに
佐川 亜紀


どんな骨折りだろう
静まる大会場に
眼光がさえずるくらい
気を漲らせるのは
木島始


漲る湖
とまでは行かなくとも
一粒一粒の言葉のしずく
をためたい心の水筒
佐川 亜紀


地を空へつなごうと
光の発信に絶えまない
唐松の梢のしずくくん
次は霧にかき消え三千里
木島始


三千里の彼方から
いたずらな少年がやって来た
草原の髪をかきあげ
竜巻となって空へのぼった
佐川 亜紀


ふり乱すだけで
占い文字ひねりだす
巫女さながら髪を
描いてしまう鷲ペン
木島始


鵞ペン鴎ペン鶏ペン
烏ペン梟ペン鶴ペン
シー!勝手なおしゃべりはやめて
私より先に羽あることばを書かないで
佐川 亜紀


ブレーキのきかない巨大な
機械が片隅の私をも揺るがす
シー!きみの心電図の針が
虚空楽譜への指揮棒のよう
木島始


光の指揮棒が
雪山の譜面台をたたく
さあ みなさんもう一回
春のシンフォニー練習中
佐川 亜紀


聞こう雪解けのラプソデイを
とほうもない人呑み込む響きを
重ねる年輪とともにもう一回二回と
本番を踊りつづけるしかない
木島始
<了>





若手で期待の星・有松裕子&佐川亜紀の連詩です。(99.7.10)







<ハイヒールで走るの巻き>

大股な「はじめの一歩」が
勝ち抜けるとは限らない
ハイヒールで走るには いつも
ちょっとしたコツがいる
有松裕子


砂と波の会話を聞きながら
地球のドキドキを感じて
ハイヒール脱いで歩く
足裏を耳にして
佐川亜紀


耳のなかがかゆくって
もじもじしてしまうとき
帽子を深くかぶり直して
二度目の電話をかけてみる
有松裕子


柔らかい頭は考え続ける
ヒロシマの空に遺された
白いつば帽子
記憶の影は切れ切れに
佐川 亜紀


あなたの記憶はどこへいく
ちりぢりに飛ぶのが見えるだろう
汚れた手がかなえる奇跡
もう動かない「人形の目(ドルーズ・アイ)」で
有松裕子


いま この猫といるおどろき
いま この川にさわるときめき
いま あなたに出会う奇跡
いま ここに私がいるふしぎ
佐川 亜紀


この部屋にはだれもいない
すさんだテーブルの支配下にある
感熱紙から言葉を剥がし
撒き散らし謀議にはうってつけ
有松裕子


思いはアンバランス
熱くなれば冷たく
感熱紙で計ってみたい
ことばのホットさ
佐川亜紀


クール感いっぱいの服を着て
のろまな梅雨をだしぬこう
姿をうつす水たまりは
すこしだけ海の匂いして
有松裕子


自分の姿は
あたしがキメルわ
夢に遅刻しそうなら
ハイヒールで走っていくわ
佐川 亜紀


*有松裕子さんは、若い女性三人(ほかに住友葉里さん、高梨聡美さん)の詩誌「新月」 を出されていました。いろいろな所でご活躍の期待の星。東京都在住。 <了>



木島始さんと石原武さん、石原武さんと新延拳さんの 『LINKED QUATRAINS』をご紹介します。


<肩の巻き>

高い 高い ばああ
坊やは突然魚になる
肩の上でばたばたして
沖の眠たい魚にオーイという
石原武


いまだに体で父の先祖から
伝わった川泳ぎを覚えている
ところが父のひどい肩こりのもみほぐしは
戦争で商売がゆきづまってむりだときていた
木島始


戦争の間にじいちゃんは肺炎で死んだ
二月の桟橋に釣り糸を垂れたまま
前線から帰ってきた魚の屋根に
雪は今も降りつづく
石原武


古稀になって遠路の旅はつらく
国から国へ空想をめぐらせるしかない
同じように酸性雨も国をこえて降っており
枯木は声立てることもなく歌いつづける
木島始


折りにふれ私は天井の明かりの中で
乾いてしまった蚊を数える
乳白色の光の中を幽霊たちは泳いだり
今日など春の遠雷に破れた羽根を震わしたり
石原武


「破れた羽根でも生えてたらな」
見知らぬ人々の仰ぐ顔の上を
崖から飛ばざるをえなくなったわたしの呟き
よく起こる奇態な目ざめ
木島始


凍った波のようにたどたどしい
かれのピアノの旋律の痛々しさにもう耐えられない
かれは俯いてピアノの崖に坐っている
ぼくらが出て行く海はみぞれ混じりの雨にひかる
石原武


「なみだのかずだけ
つよくなろうよ・・・」
孫のピアノが弾くその曲は
ほんの一部なら私も歌える
木島始


雑踏を駆けていく記憶の断面
いつになく風の強い午後だった
はあはあ私は喘ぎ 万引きしてきたナイフを見つめた
今日 風 さくらの間を 私は怯えた少年のように駆ける
石原武


若ものには ひどいつらさの
軍事教練を逃げられなかったのに
ナイフの使いかたひとつ 覚えられん
かったので ついにさびついちまったっけ
木島始


「頼りになるのは旧式なタイプライターだけだ」と
最近の手紙であなたはいいました
これから先きっと私は コンピュウター社会で迷子になった少年が
母ちゃんを呼ぶくらい恋しく あの言葉のカチカチ音を思い出すでしょう
石原武


どうこの汚れた地球って
重荷を両肩に背負えばいい?
いたるところで軋む音に気づかないまま
人らしく生きようたって無理じゃないのかな
木島始

<了>



<天井の巻>
The Cycle of "Ceiling"

通りすがりの女の横顔を大胆に描いているうちに
はたと気がついたのだ
おれこの女と何処か知らない町でくらすかも知れない
「起きなよ」女房が戻ってきて天井のように割り込む
石原武

A Bold Pencil

As I drew a profile of a woman passing by with a bold pencil,
I was suddenly awared
I might live with her in an unknown street.
"Wake up!"Wife returns as the ceiling's coming in.


冬の蝿がゆっくりと天井を離れた
さっきから烏森神社近くの飲み屋にいる
俺もこのカウンターを離れて帰ろうか
この蝿はこの冬を越せるどろうか そしてこの俺も
新延拳

A Winter Fly

A winter fly fell out of the ceiling
I have been in the tavern near Karasumori Shrine.
I think I might fell out of the bar counter and go back home.
I wonder whether this fly could exist when the winter is over,and I?


朝鮮半島から帰って
かの女が弾く夜想曲を聴いている
バーカウンター向うの窓に木々が泳ぎ
絹のブラウスが女をつつみ 漢江は溢れる
石原武


夜道に迷って いつの間にか
丈の高いひまわりに囲まれてしまった
狂院の窓に大きな蛾がはりついているのが見える
降りそそぐ月光がすべてを青白くする
新延拳


月が屋根のむこうに落ちた
女は部屋を出ていった
私は見ていた 白い蛾が
闇の壁のふちを走っていくのを
石原武


大空の虹の切れ端が今にも消えそうになっている
今日会社で上司に怒られ
部下には突き上げられた
紫陽花の枝にいる蝸牛を棒でつついている
新延拳


かの女は遅れてやって来た
固い蕾のように装って
私は立ち上がり 雑踏を突っ切った
足の下で潰れる蝸牛を思いながら
石原武


夕焼のなかを群集がいく
その中に母がいた
突然雑踏の陽画が陰画に転換する
そして それは私のアルバムに収まった
新延拳


アルバムから抜け出した男が
暗がりを私と並んで歩いた
するとふいに駅のベンチに私を置いて消えた
誰? いつもあやふやな私?
石原武


昼間から泥酔して列車の中で目が覚めた
ホームに降りて酔い醒めの水を飲み ふっと思い出した
亡くなった母が炎天の無人駅で私を待っていたことを
いいや 今でも彼女は小さな日傘をさしながら待っているに違いない
新延拳


赤いパラソルの少女の傍らで
小石を川面に投げて水切りをした
かの女は歌うように かろやかな石の跳躍を数えた
今日 テントウムシが水辺の葉の日差しの中から動かない
石原武


テントウムシに乗って星から少女達が降りてくる
あれは双子座か そうすると双子が降りてくるのか 二人だ
私はいつも数を数えている まるでカウント伯爵のように
今度はテントウムシの羽根の星の数を数えることとしよう
*カウント伯爵はテレビ番組のセサミ・ストリートの登場人物*
新延拳


星祭の夜
天の河は曇り 星の娘の姿は見えず
蟹の影がいっぱい その岸辺を走っていた
私は遠い村の知らない少女に恋唄を書いた
石原武


聖者に似たカマキリを虫篭の中に飼い殺してしまった
屍の影が長く静かに横たわっている
影は時を止める
私の額にしっかりと刻印されている鉄格子の影
新延拳


天井が落っこちる 落っこちる
わたしはぺちゃんこ 蛙みたいに
もう籠から抜け出すときだ
天井の蜘蛛たちも遠い森へ急いでるよ
石原武

<了>




四行詩で分かる?!性格診断



四行連詩のコーナーですが、今回は、四行詩で性格診断テストを やってみましょう。


*次の四行詩の最後の一行を入れるとしたら、あなたは何番にしますか?


とおいうみ
ときのすみ
とけるきみ
*****

@ とわのえみ
A とわのつみ
B とんだゆみ
C とりのみみ
D とみのあみ
E ととろのみ
F ○○○○○(自分で作る)


《ホントっぽい診断》
@の方。めちゃ性格がいい人か、もしくはブリッ子。相手を思う気持ちがあり、楽天的。 自分の気持ちを抑えすぎることもあり、しばしば仮面人間になる。

Aの方。内向的。自省心・探求心が強い思索型。不倫中かも。海のごとく深いトラウマ(精神的傷)あり。

Bの方。行動力にあふれている。外向的。ときどき攻撃的になる。ストレスがたまっているかも。

Cの方。柔軟な発想で意外な局面にも強い。感性のアンテナをはって好機に飛ぼうとする意欲あり。 やや気まぐれな面も見える。

Dの方。堅実型。「この世は金だ」と現実をしっかり把握している。そのくせ、大損したり、 網から富がこぼれおちることも結構ある。ふっと夢を見てしまう。

Eの方。アニメ命。トトロのみ。自分の好みにこだわる。永遠の少年少女。ややオタク。

Fの方。独立心旺盛。自分の感性と知性に自信を持っている。または、単なる遊び心。 創造力豊か。

*Fの方。ご自分で作られた一行をお知らせ下さい。

*また、下記の連詩作法のように、第三行目の「とける」「きみ」か、もしくは、反対語 (「かたまる」「こおる」「わたし」など)をご自分の第三行目に使って四行連詩して 下さい。お待ちしています。気軽に作ってみて下さい。 次回は、いろいろな方の連詩をご紹介します。


四行連詩をやっています。これは、詩人の木島始さんの発明です。 四行の詩は、中国の絶句、マレーシアのパントンなど古今東西さまざまな 国、地方で作られています。簡単なルールで楽しんでみれば、世界中の、 歴史上の詩人たちともつながることができます。一つの詩に複数の人が付 けると違いがおもしろいです。

謎の巻

ちがう神の下にある死者たちと
生きるわたしがどう手をつなぐか
その解けない謎ときが胸の中だ
また今宵も新しいキスゲが咲く
木島 始

天のゆりかごゆすられて
光と影の入り組む網目
解けない謎は赤んぼう
解き続ける汗が心太らせる
佐川 亜紀

心痩せさせるのは
御馳走の食べすぎ
ただもう規則通り
しか動かない頭さ
木島 始

定型封筒に畳んだ心
野原にのびのび広げ
規則やぶりの思いで
飛行船をふくらまし
佐川 亜紀

ふくらませたかったのは
戦争の渕源への探照光
森林浴できる都市公園
自由に加われる魂の遊歩道
木島 始

ピースの組み合わせの妙
人はいつも未完成
都市に散らばった謎
ジグゾーパズルの心
佐川 亜紀


*****四行連詩作法*****
@先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、 あるいは反義語(反義句)を、自作四行詩の第三行目に、入れること。
A先行四行詩の第四行目の語か句をとり、その語か句を、自作四行詩の 一行目に、入れること。
この@とAの規則を交互に守って連詩がつづけられる場合、最初に えらばれた鍵となる語か句が、再び用いられた場合、連詩が一回り したとみなして、終結とし、その連詩一回りの題名とすることがで きる。


*****Rules To Follow When Making Linked Quatrains
Two or more poets may create chains of linked quatra-
ins by following either of the two rules below;

1,Choose a word(or phrase) from the third line of another poet's quatrain. Use either its antonym
(antonymous phrase) or its synonym(synonymous
phrase) in the third line of your new quatrain.
2,Choose a word (or phrase) from the fourth line
of another poet's quatrain. Use that same word
(phrase) in the first line of your new quatrain.


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