女の名詩集
| 青木はるみ詩集『火薬』 水野るり子詩集『はしばみ色の目のいもうと』 紫野京子詩集『火の滴』 島田陽子詩集『大阪ことばあそびうた』『ほんまにほんま』 野田寿子詩集『母の耳』本年度丸山豊賞受賞 塔 和子詩集『記憶の川で』第29回高見順賞受賞 江島その美詩集・日本現代詩文庫第二期O』 |
| おいで あのひとが私にいう おいで 私は犬にそういって抱きあげる 犬は私を批評しない でも もし 犬のことを書いて 犬に いいねといわれたなら どんなに頬があからむだろう 傘がひらくような わずかなことば すぐに閉じるかすかな官能 私は ただ ちょっと 壁のない家で眠りたいだけ さて眠ってしまえば だれもかれもが聞き分けがない 有頂天で 行ったり来たりする 闇のなかにリンゴの芯が 突き立っているところが目じるし そんな看板の下着屋さんで 黙って あのひとが私をたしなめる たしなめるからには 連れて戻らなければいけないのに 家具や棚や抽斗のいっさいが 透けている さらに有頂天で 行ったり来たりする 好都合のはずなのだが なぜか体じゅうが熱をもち ひりひりする 擦り傷だらけなのだ じつは 壁のない家の玄関には 数個の アオキの鉢が置かれていて どの葉の先端も黒く焼け焦げている おいで ようやく あのひとが私にいう |
| 丘 ゆぐれになると 山高帽子をかぶった きつねたちの行列が すすきの丘をのぼっていきます (・・・先頭の お棺のなかは いわしぐも〜)と うたう声が遠ざかるころ ふもとの村で くりかえし 発熱する ちいさいいもうとがいて 秋ふかく すすきの穂を分けて いったきり・・・ その名も 今は空に消えた わたしの 素足のいもうとよ |
| そのころ庭は生きものたちの青く太い匂いをこもらせ、土地は木々 の影を深い帽子のように被ってうつむいていた。だれもその土地の 素顔を見たものはいなかった。木たちもまたそれぞれの出生を隠す もう一つの名前をもっていた。ちいさないもうとがいくたびも呼ん だ名だった。 ある木は笑い上戸で、ある木はきまじめだった。ある木はなくて七 癖をもち、ある木はせっかちで、ある木ははにかみやだった。木た ちの名前は今も月の光のように、私の耳の底に溜まっている。ある 木は《くすくす笑いのチェシャ猫》といった。ある木は《自縄自縛》 だった。ある木は《急がば回れ》と呼ばれてた。その響きの向こう から、春ごとに全身をのぼる樹液にくすぐられてひとり笑いをして いた(ハナミズキ)の姿や、隣の土地からはるばると蔓をくねらし てやってくる(美男かずら)のせわしない呼吸がきこえてくる。 (後略) |
| *ちいさいいもうとのシリーズは、葉書詩の「丘」から生れたそうです。
水野さんの葉書詩は、 水橋晋さんのかわいいイラストつきで私も頂き 毎月楽しみにしていました。ファンタジーの 本来の意味「生の深みに 見えかくれするこのような存在への憧れ」として「はしばみ色の目 の いもうと」が創造されたようです。(おんなこども)(永遠の少女性) というかつては否定的 に見られたものを呼び戻しています。それは、 ヒトと木の交感、生きている私と別の私、うつつ と夢などの境を自由に越え られる存在だからでしょう。そこには、近代的合理性への批判も あるでしょう。 でも、この詩集の最大の魅力は柔軟な言葉が次々に開いていくような言葉の 豊かな森であることです。その点では、「レタス宇宙」のような行分け詩にも 引かれます。 (2000円+税・現代企画室) |
| 地表の裂け目にあらわれる 黒い蛇 かつて ひとりの女の 踝を噛み 頭(こうべ)を砕かれたー ゆきどまりの橋を渡って 奈落の果てに 陥ちてゆく 春 燃えあがる 家々 崩れ果てた 樹々のかけら 地に満ちる ヨブの叫び 夢を見たかったら こんなところへ来てはいけない ここは 地の涯 行方知れずのひとを探して 幾千もの日々を経てきた いのちのぬくもりを 再び 感じるまでに 幾夜の不眠と 涙がいるか 街の形骸に 風が渡る 煤けた壁を震わせて |
| 神戸の街を 「きれいすぎる」と言った人がある あなたは知らない 「あの日」が 薄汚れた街を 根こそぎ持ち去ったことを 整った取り澄ました表情の 底に隠されている 土埃と 猛火 幾千ものひとびとの 呻きと 叫び 生きている街は 立ち続けなければならない 通り過ぎてゆく時を乗り超えて 鱗雲がたなびく空に 一羽の鳥が舞っている 瓦礫と 夢が 二つながらに埋まった 道の果てに 鳥の名は知らなくても 私たちにはわかる それが 天と地の はざまにいることを 今 見えるものは すべて見えなくなり 今 触れるものは すべて儚くなりー それでもなお残るものを求めて 歩き続けることが 生きることだと知った日から 私たちは皆 はざまに生きている 逝ったひとと 遺されたひと 消えた家と 脳裏に灼きついた思い出 在ることと 無いこと− 誰かが 空の裂け目から 白いハンカチーフを振っている |
| *紫野京子さんは阪神淡路大地震を経験され、「すべてが儚くな」って、「なお
残るもの」 として詩を書くことを自覚されたそうです。そのように切実に詩が 求められることは、現在 では稀有のことでしょう。この詩集は震災の外的記録 であるより、内面の記録です。精神的 にも深い傷を負うなかで生の意味を問う 真摯さが感動的です。挿画は、為金義勝さんで 「どこまでもあたたかく澄んだ 色彩に魅かれ」たそうです。生と死の裂け目に射す色彩を感じ ます。麻生秀顕さん のHPにも書評があります。紫野さんは、芸術文化団体半どんの会 文化賞「現代芸術賞」 を受賞されました。(月草舎・定価2,100円) |
島田陽子詩集『大阪ことばあそびうた』『ほんまにほんま』![]() 日本万国博覧会のテーマソング「世界の国からこんにちは」の作詞者としても広く 知られている島田陽子さんはことば、特に大阪ことばを生かす名人です。ことばあそびが おもしろく、また、辛口の批評やあったかいヒューマニテイー・ユーモアが効いていて 笑いながらしんみりさせる作品も多いです。 いうやんか いうやんか やさしい かおして いうやんか やんわり きついこと いうやんか いうやんか やきもち かくして いうやんか やたらにべんちゃら いうやんか いうやんか やつしの くせして いうやんか やらしい いけずを いうやんか *べんちゃら・・・・おべっか。おせじ *やつし・・・・おめかしや。おしゃれ *やらしい・・・・いやらしい *いけず・・・・いじわる だいじない きんの あたま きってん あ だいじない きったんは あたまのけ ゆんべ あし おれてん あ だいじない おれたんは いすのあし さいぜん かわに はまってん あ だいじない はまったんは よそのこや いんま いえ ながれてん あ だいじない うちもいっしょに ながれてる *だいじない・・・・大事ない・しんぱいない *きんの・・・・きのう *ゆんべ・・・・ゆうべ *さいぜん・・・・さっき *はまってん・・・・落ちこんだのよ *いんま・・・・いま あかんたれ(回文) あかんたれほれたんかあ あかんたれがこがれたんかあ あかんたれふられたんかあ あかんたれあれたんかあ *回文・・・上からよんでも下からよんでも同じことば *あかんたれ・・・だめなやつ。よわむし おんなの子のマーチ きかいに つようて げんきが ようて スピードずきな おんなの子やで うちのゆめは パイロットや ジャンボジェット機 うごかしたいねん おんなの子かて やれるねん やったら なんでも やれるねん しんぼう づようて あいそが ようて しゃべるん すきな おんなの子やで うちのゆめは 外交官や せかいのひとと あくしゅをするねん おんなの子かて やれるねん おかあさんになったかて やれるねん ちからが つようて どきょうが ようて スリルのすきな おんなの子やで うちのゆめは レンジャーや 災害おきたら たすけにいくねん おんなの子かて やれるねん そやけど せんそう いややねん へいたいさんには ならへんねん |
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