1.題材名 わにのおじいさんのたからもの
2.題材について
この作品では、わにのおじいさんの宝物に対する思いとおにの子にとっての宝物の意味が異なって描かれている。わにのおじいさんは、宝物を奪われることを恐れ、守るために必死で戦ってきているのに対し、おにの子はわにのおじいさんに思いやりを持って接し、その心によって自分にとっての宝物を探し出すのである。
このことは、それぞれの人間にとって宝物とは何なのかと問いかけている。それがこの作品の主題であると考える。この作品には、わにのおじいさんの宝物がいったい何であったのかが語られていない。そのことによって、宝物の意味を想像する余地が生まれ、わにのおじいさんにとっての宝物、おにの子にとっての宝物、そして読み手にとっての宝物が何であるのかを深く追求することができるのである。
「宝物」という言葉を聞いたとき、真っ先に思いつく物は一体何であろうか。金銭欲や物欲の現れとして考え出される宝石やお金を思いつく子が多いのが現状である。わにのおじいさんも例外ではない。わにのおじいさんの宝物が何であるかは語られていないが、おそらくそれは金銭欲や物欲からきているものだと思われる。しかし、おにの子のわにのおじいさんに対する見返りを期待しない行動がわにのおじいさんの心を変え、それまで守り続けてきた宝物を譲り渡す気持ちになったのである。おにの子は、「宝物」という言葉さえ聞いたことがなく、当然宝物に憧れたり欲望を感じたりしたことがない。無垢で純真な存在なのである。また、わにのおじいさんとはまったく面識がないのに、思いやりを持って接することができる。だからこそ、わにのおじいさんの信頼を得ることができたのである。
おにの子が最後に得た宝物は美しい夕焼けであった。わにのおじいさんが譲った宝物ではなかったが、おにの子にとっては十分宝物になっているのである。これは、おにの子の心が純粋であること、そして、美しいものに感動する心を持っていることを表している。
その心こそが、おにの子の宝物ではないだろうか。
3.児童の実態
男子19名、女子16名、計35名である。読書が好きな児童が多く、1/3近くの子が毎日図書室に通っている。読み聞かせも好きで、身を乗り出しながら話の続きを聞いている。物語を読んで、場面を想像することはできるのだが、登場人物の心情を深く読み取り、味わうまでには至っていない。また、意見は積極的に出されるが、一部の児童に偏っている。特に、正解がはっきりしているものについては多くの児童が自信を持って発表するが、自分なりに考える場面になると、あまり想像力豊かな発想をすることができず、発表も積極的にできない。
事前に「おに」「わに」「宝物」についての印象を調べたところ、次のような結果になった。
◎わに
・こわい ・食べられてしまう・かみつく ・きばがあってこわい・飼ってみたい
◎おに
・こわい ・怒る・楽しい ・つのがある・雷 ・殺される・桃太郎
◎宝物
・ゲームソフト ・指輪 ・宝石・ダイヤ・金 ・お金・一輪車・人形
・マンガ・手紙 ・友だち ・家族・心
「わに」については、ほとんどの子が「こわい」という印象を持っていた。口が大きく、歯がギザギザしていてかみつかれると考えている。中には、わにを飼ってみたいと考えている子もいる。
「おに」についての印象は大きく2つに分かれた。「こわい」と「楽しい」である。おには体が大きく、つのがあり、悪いことをするからこわいという印象がある一方で、おにごっこや、豆まきに出てくるおにを想像し、楽しいと考えている子が多かった。「桃太郎」を連想した子も多く、ほとんどの子が桃太郎の話を知っていた。
「宝物」は、ほとんどの子が自分が大事にしているものか一般的に価値があると考えられている貴金属をイメージしていた。友だち、家族、心、手紙など、人との交流や目に見えないものを宝物と考えている子もわずかではあるが存在している。
このように、児童はわにもおにも「こわい」という印象を持っている。そこで、本題材ではわにのおじいさんとおにの子が、自分たちの持っていた印象とは違い、優しい心を持っていることに気づかせたい。また、わにのおじいさんがおにの子に宝物を譲る決心をした理由をしっかりと押さえておきたい。おにの子の欲がなく、他人をいたわるやさしい心、純真な心が、わにのおじいさんの信頼を得たことに気づかせたい。わにのおじいさんが譲ろうとした「宝物」ではなく、美しい夕焼けを宝物だと思ったおにの子の美しい心に気づかせ、人間にはお金や宝石より大切な宝物があることを感じとらせたい。宝物の価値は人によって異なるのだということにも気づけたらよいと考える。
4.題材の目標
・場面の様子や登場人物の心情を進んで思い描くことができる。(関心・意欲・態度)
・場面の様子や登場人物の心情が聞き手にも伝わるように音読することができる。(表現)
・場面の様子や登場人物の心情を想像しながら読むことができる。(理解)
・場面の様子や登場人物の心情を表す言葉に気づくことができる。(言語事項)
5.指導計画(12時間扱い)
学習課程 | 時配 | 主な学習活動 |
読みのめあてをつかむ | 1時 | ・全文を読み初発の感想を書く。新出漢字の確認。 |
2時 | ・好きなところやおもしろいところ、不思議に思ったことなどについて話し合い、読みのめあてを決める。 | |
読みを深める | 3時 | ・1の場面の前半を読み、おにの子がどんな子か考える。 |
4時 | ・1の場面の後半を読み、初めてわにを見たおにの子の気持ちと、動かないわにに話しかけるおにの子の人柄を考える。 | |
5時 | ・2の場面の前半を読み、わにに葉っぱをかけてあげたおにの子やさしいの気持ちを読み味わう。 | |
6時 | ・2の場面の後半を読み、わにがなぜ長い旅をしてきたのか考える。 | |
7時 | ・3の場面の前半を読み、宝物を知らないおにの子の様子を読み取り、それを知ったわにの気持ちを考える。 | |
8時 | ・3の場面の後半を読み、なぜわにがおにの子に宝物を譲ろうとしたのか考える。 | |
9時本時 | ・4の場面を読み、夕焼けという宝物を見つけたおにの子の気持ちを考える。 | |
味わう | 10時 | ・わにのおじいさんの宝物とは違う宝物を手に入れたおにの子をどう思うか話し合う。 |
11時 | ・自分の気に入った場面を選び、様子がわかるように音読する。 | |
12時 | ・物語の続き話を書く。 |
6.本時の指導(10/12)
(1)目標
・宝物を発見したおにの子の気持ちを進んで読み取ることができる。(関心・意欲・態度)
・苦労の多い旅の末に宝物を発見したおにの子の気持ちを読み取ることができる。(理解)
(2)展開
学習活動と内容 | 教師の支援 | 時配 |
1 前時までの確認をする。 ・宝物を譲る決心をした わにのおじいさんと、宝 物の地図を手に入れた おにの子のそれぞれの 気持ちを確認する。 2 本時のめあてを確認する。 3 本時の学習場面を読む。 ・音読をする。 4 困難な旅の末におにの 子が宝物を発見するまで の様子を追い、そのとき の気持ちを考える。 5 夕焼けを宝物だと思った おにの子の気持ちを考える。 6 いつまでも夕焼けを見てい たおにの子の気持ちを吹き 出しに書き、発表する。 |
・前時までの学習過程がわかるように、資料を掲示する。 ◎わにのおじいさん ・おにの子に宝物を譲る決心をした。 ☆優しい子だから宝をあげよう。 ☆親切にしてもらったお礼をしなくちゃ。 ☆宝物を知らない子にあげた方が喜ぶだろう。 ☆この子なら悪いことには使わないだろう。安心して 譲ることができるよ。 ◎おにの子 ・宝物の地図を手に入れる。 ☆宝物って何だろう。 ☆何で僕に宝物をくれるのかな。 たからものを見つけたおにの子の気持ちを考えよう ・おにの子の気持ちを考えながら読むようにさせる。 ・「峠、けもの道、つりばし、谷川、岩穴、森の中」から旅の 困難さを想像させる。 ・おにの子は宝物という言葉も知らないことを考えながら、 旅を続けるおにの子の気持ちを想像させるようにする。 ☆遠いなあ。はやく宝物のところにつかないかなあ。 ☆宝物ってどんな物かな。 ・本文の表現からおにの子の気持ちを読み取るようにする。 ・単に「夕焼けがきれい」ということで終わらないように、 なぜこの夕焼けが宝物なのか、おにの子の人柄と合わ せて考えさせる。 ・想像しにくい時は、本文を音読させて考えを深めさせる。 ◎目を丸くした。 ☆驚いている。 ☆うわぁ、きれい。 ・想像できないときには、どんな時に目を丸くするか自分 の場合に当てはめて考えさせる。 ◎口で言えないほど美しい夕焼け。 ☆とてもきれい。 ☆なんてきれいなんだろう。 ◎思わず帽子を取った。 ☆夕焼けがとても美しかったから、つのをかくしていた のを忘れてしまった。 ☆心配事も忘れてしまった。 ◎うなずいた。 ☆世界で一番すてきな場所なんだ。 ☆こんなにきれいなものは他にはない。こういうのが宝 物なんだ。 評:おにの子の気持ちを進んで考え、読み取ることができ たか。 ・読み取ったことをもとにし、おにの子になったつもりで気持 ちを想像させる。 ・机間巡視をし、書きにくそうにしている児童には発表で 出たことを振り返らせる。 評:おにの子の気持ちを自分なりに読み取ることができたか。 |
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(99/02/08)