他のコーナーではおさまらなかった作品です。単にジャンルを分けるのが面倒だったということもありますが…。今のところこれだけしか紹介していませんが、書きたりないぶんを追加していく予定です。
「春さんは、まだ、帰ってこない。」専業主婦の三津子は忙しい夫、忠春の帰りを待っている。ただ好きだから、一生一緒にいたいから、一分でも長く同じ時間を過ごしたかったから結婚した。なのに、『旦那様は忙しすぎたのです。』さみしいけれど、そう思うのはわがままと心を抑えた三津子だが…。
はっきり言ってこわいです。人が死ぬホラー小説より、恐ろしいかもしれません。春さんのことが好きで好きでしかたがないのはわかるけど、こうなってしまうとちょっと…。三津子の心の動きは日記にあらわれます。本音を書くこともあるのですが、そういう部分は無意識のうちに塗りつぶしてしまう。人間、心を抑えすぎ、思い詰めるのはよくないと思いました。バランスを崩して自分が見えなくなってしまうのは、本当に恐いことです。
この話もNHK-FMのラジオドラマで聴きました。谷山浩子さんが三津子役だった気がするのですが、声がとてもよくあいすぎていてこわかった…。
実は最初、『おしまいの日』がこういう話だとは思っていませんでした。早川司寿乃さんの表紙イラストにひかれたのです。偶然だと思うのですが、谷山さんのアルバム『天空歌集』のイラストも早川さんが描いていて、わたしの中で『天空…』が『おしまい…』のイメージアルバムのようになってしまいました(^^;)
(98/08/15) |
いつもあやしい研究をしているプロフェッサーPとそれを手伝う助手。今日の研究は何でしょう?
この本の分類はマンガだと思うのですが、岡田さんをマンガ家として扱うのはちょっと違うかなという気がするのでこちらで紹介することにしました。もちろん、児童文学の分類にはあてはまらないと思います。
この教授は次々とわけのわからない発明をします。「人間に害になるものを吸い取る装置」を使ったら、教授本人が吸い込まれてしまったり、「不満やストレスを熱エネルギーに変える装置」を使い、熱気球を飛ばしたら、途中でストレスが解消されて落ちてしまったり。思わず笑ってしまう話で盛りだくさんです。
(00/07/30) |
あやしいプロフェッサーPがふたたびやってきた!研究内容はさらにパワーアップ!
教授がまたもやさまざまな発明をしているこのマンガ。今回は教授のお義母さんがパワー全開です。教授が必死になって研究していることを,いとも簡単にやりとげてしまうのです。
教授の発明品で一番欲しいのは,「もとの持ち主くん」という装置。落とし物を置くと,持ち主の顔がパッと画面に出てくるのです。これ,教室に1台絶対欲しい!
前作に引き続き,17出版から出ている本です。(02/08/14) |
「この高校は女子の存在を認めないところだもの。本当はいなくていいの。名前のない顔のないものがそう言うのよ。」有理の言う名前のない顔のないものとはいったい何なのか。
荻原規子さんの作品ですが,これは児童文学ではないなと判断しました。
舞台は明治から続く伝統ある高校。自分の母校とよく似ているので,高校時代を思い出しながら読みました。
一言で言うと,赤川次郎風の学園ミステリーと北村薫『スキップ』の雰囲気を合わせたものというところでしょうか。自分の通った高校は,このお話の高校と非常によく似ていて,旧制中学から新制高校にかわり,途中から男女共学になったのですが,私が在校していた当時はまだ男女の比率が2:1。男子のほうが圧倒的に多かったのです。本編の辰川高校とまったく同じです。でも,女子の居場所がないとか存在を認めないと感じたことはないし,球技大会や鍋山祭(文化祭と体育祭)なんて夢中になってやりました。部活だって楽しかったのです。
登場人物の近衛有理は「この高校には名前のない顔のないものが巣くっている」と言います。それは,元男子校だったこの高校全体に流れる男子校としての伝統意識なのだと思います。でも,それは決して女子を排斥するものではないとわたしは思うのです。だって,実際にわたしは母校の伝統をすばらしいと思っているし,わたしたち女子が排斥されていたなんて感じたことはないのだから。むしろ,数では圧倒的に少なかった女子のほうがパワーがあったと思います。 きっと,作者は自分の実体験として排斥を感じていたのでしょうね。だから,このような内容になったのだと思います。
携帯を使っているところから舞台は完全に現代に設定されているけれど,高校の実態としては10年以上前の伝統校という感じがしました。ちなみに,主人公の上田ひろみさんは,『これは王国のかぎ』の主人公でもありました。でも,前作はファンタジーであったのに対し,この作品はファンタジー色はまったくありません。ひろみも完全に現実世界の高校生で,アラビアンナイトの世界は夢だという認識になっています。
それにしても,荻原さんの作品はどうしても「女の子」がメインに出てくるのですね。今回も,女の子としての意識が全面に出ていて,男の子の存在感というか現実性があまりありません。女子を認めない雰囲気というけれども,準主役級の生徒会執行部の面々からも男子を意識させる人物はそんなに見られないので,ちっとも排斥されている感じがしませんでした。
もし,自分が高校時代に同じような思いをしていたら,もっとおもしろく読めたかもしれない,そんな作品です。(02/08/14) |
楡家の当主・基一郎は代議士であり楡病院の院長でもある。ハイカラ趣味の基一郎は子どもたちにも風変わりな名前を付けた。そのせいか、はたまた家風のせいか、楡家の人びとの行動は実に風変わりなのである…。
この話に出てくる人たちにはモデルがいます。当主の基一郎は、歌人・斎藤茂吉さんの妻である輝子さんの父にあたります。茂吉は作者の北杜夫さんの父です。彼らも名をかえて小説の中に登場します。しかし、誰よりもインパクトがあるのは基一郎の娘、龍子(輝子)ではないかと思います。輝子さんについては北さんの兄、斎藤茂太さんもエッセイで書いています。とにかくすごい人です。そのすごさは読まなければわからない。周りから見ると妙なことでも、輝子さん本人はいたって真面目。思わず笑い出してしまいます。
(98/08/24)
|
『スキップ』『ターン』『リセット』 北村 薫
<時と人>3部作のうちの2冊。3冊目の『リセット』はまだ刊行されていません。 わたしは北村さんのことを長い間女性だと思っていました…。(98/08/15)
ようやく3冊目の『リセット』が刊行されました。長く待った甲斐があったと思います。一気に読み終えることができました。(01/02/18)
|
『スキップ』
目覚めるとそこは見知らぬ部屋だった。しかも、その家のわたしと同い年の女子高生、美也子はわたしを「お母さん」と呼ぶ。わたしは17歳なのに…。17歳の真理子は突然42歳になってしまった。心は17歳のままで…。
時間を扱った小説は数多くありますが、その中でもこの作品は印象的でした。自分ではずっと17歳でいる感覚なのに周囲から見ると記憶喪失になったかのよう。もし記憶喪失であるなら、空白となってしまった時間は自分にとっていったい何だったのだろう。記憶のない自分は、自分と言えるのだろうか。
美也子にしてみれば母親を失ったに等しいのですが、彼女は17歳の真理子を受け入れていきます。そして、母を好きだった自分に気づきます。真理子もまた、42歳の現実で前向きに生きていこうとする。失ったものは大きいけれど、逆に得たものも大きいのではないかと思います。
(98/08/15)
|
『ターン』
自分の他に誰もいない世界にまぎれこんでしまった真希。毎日同じ時間になると、「昨日の今」に時が戻ってしまう。そんなとき、電話のベルが鳴った…。
何かを創造しても時が戻ってしまい、作ったものは消えてしまう。自分の他に誰もいない世界なんて、わたしだったらとてもたえられない。でも、この話で救われるのは、たった一人だけど電話の向こうにいる人と話ができること。その人としか話ができないのは、運命なのでしょうか。感性が近く、気が合う人、電話でのやりとりだけでなく会ってみたい。でも、ターンしてしまう世界にいる自分には夢でしかない。今読み返すと、真希の気持ちに共感するところがたくさんあります。でも、現実にこうして存在しているわたしは、会いたかったら相手に会えるのだから恵まれていますね…。(98/08/15)
|
『リセット』
もう一度会いたかったから…だからもう一度生まれてきた。あなたに会いたいから、あなたのことを思い出す。
強く願えばその想いは届くものなのでしょうか。あの戦争の時代を純粋にお国のためを思いながら生き、想いを寄せる人がいてもそれを表に出すのを恥じらう真澄は、当時としてはごく当たり前の少女だと思います。どんなに強く願ってもそれが叶わない時代に巡り合わせてしまった真澄と修一。けれど、その想いの強さは時間を超え、生き続けていきます。
真澄は修一を失い、修一の生まれ変わりの和彦は真澄を失ってしまいます。けれど、二人ともだからこそ自分が生きなければと思うのです。自分が生きることで相手の想いも自分の中で生きていく。それは誰でもができること。想いを伝えていくことで心は生きていくのです。心が死ぬことはないのです。生まれ変わることで人生はリセットされるけれど、その想いはリセットされることなく繋がっていきます。「元通りになる」という意味でリセットなのかもしれません。(01/02/18) |
イーハトヴ詩画集です。宮澤賢治の詩に共感した作者が描き出す賢治の世界。空や雲が美しい画集です。
こちらも黒井さんの画集です。黒井さん本人も言っているのですが、空や雲の絵が多くなっています。賢治の詩に最も共感したのが空と雲についてだったのだそうです。賢治の詩に黒井さんの絵がとてもよくあっていていつまでも眺めていたくなる、そんな画集です。「丘の眩惑」「雲の信号」「風景」「青い槍の葉」「わが雲に関心し」が特に好きです。(99/01/31) |
宮澤賢治の詩集に心を動かされた作者のイーハトヴへの旅。それは、自分探しの旅でもあります。草花、木、建物のスケッチ、その時々の想いを記した取材ノートをもとにした画集です。
どのジャンルで紹介したらよいのかわからなかったので、このページに持ってきてしまいました。黒井さんの絵は淡い色彩で描かれていて、見ていてとても安らぎます。わたしは黒井さんの描く空がとても好きです。同じ晴れでも絵によって色が全然違うのです。空にはこんなにたくさんの色があったんだと思わされます。岩手のさまざまな風景がとても美しく描かれています。「さっきは陽が」「黄いろな花もさき」「霧のあめと 雲の明るい磁器」「午前の仕事のなかばを充たし」がお気に入りです。(99/01/31)
|
伝統競技である歌合。古式ゆかしいこの勝負,現代によみがえらせると…。詠み人でなくても十分楽しめる!短歌なんて難しくない!
わたしは『萬葉集』を卒論で扱ったにもかかわらず,短歌にはどうも苦手意識があります。「どう解釈するの,これ?」と疑問に思うことがしばしばあるからです。
でも,この本を読んだら「なーんだ,短歌って自分の感じたように解釈すればいいんじゃない。」と思えるようになりました。
基本的に歌合になっていますから,勝負ごとなのですが,2つもしくは3つ同時に出てきた歌を読み,どちらがいいと思うか自分で判定してから読み進めると非常におもしろいと思います。
(02/08/14) |
桜の花が咲くとうかれて陽気になるのは嘘です。昔は、桜の花の下は人の姿がなければ怖ろしいと思ったものです。これから語るのは、鈴鹿峠の桜の森の下でのできごと。一人の山賊と桜の物語…。
わたしは桜の花が大好きです。桜を見るといつも、在原業平の「世の中にたえて桜のなかりせば春の心はのどけからまし」を思い出します。桜が描かれている話はないかと探していて見つけたのが、『桜の森の満開の下』でした。
日本人は昔から桜を愛でてきました。和歌を見る限りでは、平安時代には花と言えば桜というくらい多くの人に愛されるようになっています。それだけ長い間愛でられているのは、やはり桜の花が美しいからなのでしょう。咲いているときはもちろん、散りゆくさまもまた美しい。けれど、何となく心が落ち着かなくなるのはなぜなのでしょう。『桜の森…』はその答えの一つかもしれません。(98/08/24) |
克美荘で共同生活をする4人の男とその仲間の青春の日々。魅力的な人々のあやしい行動が引き起こす笑いと涙(?)
はたから見るとばかばかしいことでも、真剣になってやっている若き日の椎名さんとその仲間達。文章のいたるところからパワーがあふれ出しています。思わず笑い出してしまうので、電車の中で読んではいけない本でした。
椎名さんの作品では他に『岳物語』『白い手』も気に入っています。『哀愁…』とはだいぶ雰囲気の違う小説です。(98/08/15) |
『本の雑誌』を作り続ける男たちの熱き日々!本書は『本の雑誌』の誕生とその成長に関わった人々の姿を描く「実録」である。
こんな紹介文をつけるととても堅苦しい感じがしますが、雰囲気は『哀愁の町に霧が降るのだ』と基本的に変わりません。発作的座談会が突然始まったり、沢野ひとしの連載マンガ(?)があったりすると、やはりこの作品は『哀愁の町…』系列なのだなあと思います。文庫で読んだので、最初はその分厚さに少しひきそうになりましたが、いざ読み始めるともう止まりません。このすさまじいパワーを持った人々の実録に思い切り笑い、感動してしまいました。(01/02/18) |
『発作的座談会』 目黒 考二 椎名 誠 沢野 ひとし 木村 晋介
テーマを決めるのも発作的なら、話の展開も発作的。つまり、行き当たりばったりの座談会!
克美荘仲間+本の雑誌社発行人の目黒考二さんが『本の雑誌』で行っていた座談会をまとめたものです。「寝る前に読む本」というテーマがあれば、「コタツとストーブ、どっちがエライか」「茶わん蒸しはおつゆかおかずか」というテーマもある。酔った勢いで話の展開がむちゃくちゃになる場合もあるので、真剣にその話題について考えたい人は「何だこれ?」と思うかもしれません。何も考えずに大笑いしたいときによく読みます。座談会そのものもおもしろいのですが、注があることでさらに楽しめます。
『いろはかるたの真実』というパートUでも、「ごはんと麺類はどちらがエライか」「カニとエビはどちらが正しいか」と語り合っています。(98/08/15)
パートVの『超能力株式会社の未来』でも、あいかわらずの会話が繰り広げられています。途中で沢野ひとしさんは眠ってしまうのだそうだ(笑)。沢野さんといえば独特のイラストが印象的ですが、その謎にせまる(?)『沢野絵の謎』『沢野字の謎』も出ています。こちらもいつもの面々で沢野さんのイラストや文章について語っているのですが…どういう経緯でその作品ができたのか本人も覚えていないらしいです。
(01/02/18)
|
理科嫌いな大人のための本。「人生に必要ないいらんことをたくさん教え、心の底に黒いものをもっている」という清水ハカセと「思春期のおり、交通事故にて後頭部を強打しており、とても頭が悪い」というでし・サイバラのバトル!
何と言ったらよいのか…。とてもわかりやすくまじめに「理科」を解説する清水ハカセの努力をすべてぶちこわすかのようなでし・サイバラのマンガ。絶妙のコンビですばらしいです(^^;) この二人の著書にわたしが転んだのは言うまでもない…。続編の『もっとおもしろくても理科』もすばらしくて(笑いで)泣けてきます。 『おもしろくて…』では、最初に慣性の法則についてハカセが語っておられます。でし・サイバラの「走っている電車の中でとびあがったとき、どうしてとびあがったその同じ地点に降りてくるの?」という疑問は、わたしもずっと持ち続けていました…(物理に弱いことがばればれ。)この本は、わたしのような理科音痴のためにあるのかもしれません。(98/08/15) |
『おもしろくても理科』『もっとおもしろくても理科』に続く、清水ハカセとでし・サイバラの迷コンビによる社会科(?)エッセイ。なぜ昆布が沖縄でたくさん消費されるのか、知多半島についての考察等、なるほどと思わせるハカセの解説とサイバラのつっこみが冴え渡る!
理科よりもわかりやすい内容になっているのは気のせいではないようです。わたしは自慢ではありませんが、社会はとても苦手です。でも、この本に書いてあることは、なぜかすんなり頭の中に入ってきます。身近にある社会を取り上げているからでしょうか。そうそう、あいかわらず西原さんのマンガは冴えています。ハカセの理屈で頭がこんがらがったら、迷わずマンガを読みましょう。(98/12/12) |
日本の文学作品のパロディ集。『古事記』『源氏物語』をはじめ、『浮雲』『吾輩は猫である』など、さまざまな作品の別の一面にめぐりあえる!?
原文を知っていると100倍楽しめます。巻末のおまけまで手がこんでいます。清水さんの作品は『学問のススメ』から読んだのに、小説以外のものにはまってしまいました。『偽史日本伝』『国語入試問題必勝法』も笑えました。(98/08/15) |
空にあるもの。太陽、雲、風、雪…。一言でまとめてしまえばこんなに少ないけれど、実はたくさんの名前があるのです。昔から日本人が使ってきた天候や季節に関する美しい言葉の数々がよみがえります。
「空」に関する名前だけでなく、季節に関する日本古来からある名前が写真とともに紹介されているのがとてもすてきです。『万葉集』に出てくる言葉も拾ってくれています。「風花」「風光る」「野分」「斑雪」「翠雨」…。日本人の感性の繊細さに感動させられます。(98/09/22) |
老齢で体の不自由な父親のかわりに従軍することにした花木蘭。木蘭は実は女性なのだが、軍のだれもそのことは知らなかった。良き戦友である賀廷玉でさえも。
中国の詩、『木蘭詩(木蘭辞)』をモチーフにした作品です。田中さんにとって初の中国歴史長篇なのですが、史実をねじ曲げないようにという配慮が細部にわたってなされています。それでいて、とてもドラマチックな構成になっていて感心させられます。
この作品で一番好きなのは、最後のシーンです。木蘭の戦場での活躍ぶりもよいのですが、木蘭の女性らしさとかわいらしい様がよく出ている最後のシーンがとても印象的です。
ディズニー映画の『ムーラン』で、久しぶりにこの作品を思い出しました。(98/11/01) |
『創竜伝』 田中 芳樹
竜堂家の4兄弟は、実は竜王の生まれ変わり。その力をねらう連中が次々と彼らにおそいかかる…。
絶妙なセリフまわしが気持ちよい作品です。キャラクターがとても魅力的です。個人的には、「天使のなっちゃん」こと小早川奈津子さんという方が印象的です…。強烈な人です、よい意味でも悪い意味でも。
中国神話の世界も織り込まれていて、だいぶ文献を調べさせていただきました。願わくば新刊が早くでてほしいものです。1年以上待っても出ないことがしばしば…(T_T)このままでは文庫版に追いつかれそう…(文庫版の発刊をおさえているから抜かれないだけ?)
ちなみにわたしは巻末の座談会から読むずるい読者です。
田中作品では他に『夏の魔術』シリーズが好きです。(98/08/15) |
七瀬は18歳。お手伝いさんとしてさまざまな家庭の中に入っていく彼女には、不思議な力があった。他人の心を読み取ることのできる能力を持っていたのだ。
『七瀬シリーズ』は、『家族八景』『七瀬ふたたび』『エディプスの恋人』の3冊です。3冊とも舞台が異なるので、だいぶ雰囲気が違います。七瀬が18歳であることと、お手伝いさんをしているというのは『家族八景』での設定です。
最初に七瀬に出会ったのは、NHKの夜6時台に放送していたドラマ『七瀬ふたたび』でした。旅に出た七瀬が超能力者と出会い仲間になっていくのですが、超能力者を抹殺しようとする組織に追われ、次々と仲間を失っていきます。当時小学生だったわたしは、超能力を持っているというだけで殺されてしまうことに納得がいかず、あの結末にがっかりしたのを覚えています。でも、何年も経ってから小説で読み直して、七瀬の魅力と作品の奥深さにクラクラッとしてしまいました。
この3冊は、発表された順に読んだ方がよいと思います。『七瀬ふたたび』を読んでから『家族八景』を読むのだけはやめたほうがいいです。でも、ドラマ化されるのは『七瀬ふたたび』ばかりだから、それも難しいですね。(98/10/04) |
少年アリスは、借り物の色鉛筆を学校に忘れてしまった友人蜜蜂に誘われ、夜の学校に忍び込む。誰もいないはずなのに、理科室のあたりが明るくなっている。そこで彼らが見たのは…。
高校生の時にNHK-FMのラジオドラマで聴いて、それから本を読みました。ところが、読んでびっくり。イメージがまったく違うのです。長野さんの小説の特徴ともなっている、視覚に訴える言語表現に圧倒されました。頻繁に出てくる旧仮名遣いや難しい漢字のおかげで、それまで想像していた現代から、大正・昭和初期、しかもどこか硬質な異世界へと舞台の変更を余儀なくされました。長野さんの作品は他に『八月六日、上々天氣』『賢治先生』が好きです。長野作品には宮澤賢治的な色彩を感じます。(98/08/15)
|
夜の空にある月や星。古来から人々は夜空を見上げては、美しい星に負けない名を考えていました。昼間の空を扱った『空の名前』の夜空版です。
現在使っている星座は西洋から入ってきたものです。西洋の星座は、神話と結びついていてとても面白いのですが、わたしは古来から日本に伝わる星の名の方にひかれます。月の名には、十六夜(既望ともいう)、立待月、居待月、弓張月、月の船、月の剣といったものがあります。星の名では、麦星(アルクトゥールス)、南斗六星、昴(プレアデス星団)、釣鐘星(ヒアデス星団)、28宿などが紹介されています。
この本はドラマ『白線流し』に登場していました。
それにしても、日本人は名前を付けるのがうまいなあとつくづく思います。(98/09/22)
|
真秀は14歳の女の子。淡海の国・息長の邑に母と兄と3人で暮らしている。息長の一族ではない真秀は同族の仲間を求めている。ある時自分の一族である佐保の人々に出会うが、真秀は佐保を滅ぼすと予言された子だった…。
「古代転生ロマン」という名にひかれて読みました。『古事記』に出てくる沙本毘古の反乱を下敷きにしてあります。「真秀の章」が完結したところで止まっていますが、続きはどうなるのだろう…。
氷室冴子さんの本は中学生の時に『多恵子ガール』『なぎさボーイ』『なんて素敵にジャパネスク』『ざ・ちぇんじ』など、山ほど読みましたが、高校生になってからはなんとなく読まなくなっていました。もう一度氷室作品を読むきっかけになりました。『いもうと物語』も好きです。(98/08/15) |
「美鈴を死なせたくない!」ただその想いだけで,哲哉は時を越える。10年前,美鈴を失ったあの時へ…。
昔の自分に戻ってやり直したいことってたくさんあります。わたしが教師をしているのも,もしかしたら学校という空間で過ごした数々のできごとを忘れられないから,もう一度取り戻したいからなのかもしれません。哲哉ほど強い想いがあるわけではないけれど。
でも,こんなふうに今の記憶を持ったまま中学生や高校生の頃に戻れたらどんなにいいかと思います。もう一度,みんなで力の限り遊んで,部活をして…。そんな郷愁を感じさせる作品でした。
主人公の哲哉にはどうしても修正したい過去があり,タイムスリップを試みるのですが,実際に成功した時に,なぜタイムスリップをしてきたのか,その目的がすっかり記憶から抜け落ちてしまっています。いろいろな場面に遭遇することで少しずつ記憶が戻り,目的も思い出していくのですが,その展開にハラハラドキドキさせられました。本当にギリギリまで哲哉は記憶を取り戻さないのですから。
よく,自分の時代の記憶を全部持ったままタイムスリップして過去を変えるというお話は読みますが,この作品は,肝心な部分の記憶がなくなっていて,少しずつ思い出していくという展開にしたことで,緊迫感が出たのかなと思いました。哲哉の友人の雅和と聡司と美鈴もそれぞれ個性的でよかったです。美鈴のような女の子,憧れますね。確かに,女の子の中では浮いてはじかれてしまうかも知れないけれど。
タイムスリップものにはタイムパラドックスがつきものです。過去を変えたために現在が変わってしまうというものです。もちろん,この物語でもタイムパラドックスが起きます。大切な思い出が消えてしまうこともありました。でも,大切な人の命を守れたことのほうが,何にも代え難い思い出になるのだと思います。タイムパラドックスで,きっと,4人とも自分の夢が叶ったのでしょうね。さわやかな読後感でした。あと,タイトルも良かったなあと思いました。読みたいと思わせましたから。
(02/08/14) |
俺はプロの泥棒。今回の仕事は簡単に済むはずだった。そう、雷さえ落ちてこなければ…。しかもついていないことに、怪我をした俺は双子の中学生に助けられてしまった。中学生なんてかわいいもんじゃないかって?とんでもない!この双子、両親がそれぞれ別の相手と駆け落ちしちまって、金がないから俺に父親になって稼いできてくれなんて言うんだ。しかも、俺の指紋をとっておいたって脅しやがる。俺は泥棒だぞ?しかも、若いんだ。それなのに中学生の父親だって?冗談じゃないぞ!
ミステリとして楽しむより「俺」と双子、情報屋の柳瀬の親父とのユーモアたっぷりのやりとりを楽しんでいます。初めはいやいや父親役をしていたはずの「俺」は双子と一緒にいろいろな事件に巻き込まれているうちに、いつのまにか双子のペースにすっかりはまってしまいます。この双子、一人でまとめてすむませられるものをわざわざ二人で交互にしゃべったり書いたりと、少々かわっています。でも、知恵が働き、「俺」を義父にしてしまったりうまくトリックを仕掛けたりと、大人顔負けの活躍をします。明るくさわやかなミステリ作品です。(98/08/17) |
妖精の国は永遠の世界。何かをなくしたり、死んだりすることのない、いつまでたっても変化しない世界。そんな世界から来た妖精フィツには、絶えず移り変わりゆく地上世界は不思議なもの。そこでフィツは一人の少女と出会った…。
久しぶりに読み応えのあるファンタジーに出会いました。フィツが出会った少女ペチカは性格が悪いという
設定なのですが…。実は読んでいて性格が悪いとは思わなかったのです。ペチカはみなしご。教会で働い
ているが、そこではみんなにいじめられ、食べる物も着る物も満足になくひとりぼっち。そんなペチカが魔法を使えるフィツにお願いしたことが世界を滅ぼすことであっても、不思議はないと思ったのです。それよりも、ペチカがさまざまな人と出会って変化していく様子やペチカをいじめていたルージャンの成長していく姿の方が印象的でした。そして、フィツ。永遠でないというのは変われるということ。変われることがどんなに大切なことか気づいたフィツ。一番得た物が大きかったのはフィツなのかもしれません。
この話は登場人物も魅力的です。ペチカを助けてくれたおばあちゃんとロバのテディーがよかったなあと思います。インパクトがあったのは守頭。田中芳樹『創竜伝』に出てくる天使のなっちゃんこと小早川奈津子嬢を思い出しました…。(99/07/22)
|
時田秀美は高校生。「健全な肉体に健全な精神が宿る」って言うけど、どういうのが「健全」っていうの?健康な心って何?
これは高校生の時に読みたかった本。秀美のセリフに共感しながら読みました。個人的に、秀美くんはとーっても健全だと思っているのですが。
人間は25日を1日の周期として生きる動物だという話が印象的です。1日にたった1時間だけだけど、自分一人だけの空白の時間を義務として持っていたら…。それは秀美の言うように「とてつもない孤独との戦い」になると思います。それこそ、どこまでも一人で考え込んでしまいそうです。健全じゃないぞ!
(98/08/15) |
15歳で岡山の土建屋に嫁ぐことになったあぐり。けれど、結婚相手の栄助はあぐりのことなどおかまいなしで、東京で好き放題にしています。やがて、あぐりは東京へとやってきます。そこで出会ったのは、美容師という仕事でした。
NHKの連続ドラマ「あぐり」の原作となった本です。「吉行」という名でわたしが真っ先に思い出したのは、作家の吉行淳之介さん。次に女優の吉行和子さん。そのお母さんであるあぐりさんの話だというので楽しみにしていたのですが、誰よりも栄助=エイスケさんに参ってしまいました。あらゆる意味でとんでもない人です。はたから見ていると非常におもしろいのですが、身内にいると大変でしょうね。
それにしても、あぐりさんは素敵です。こんな風に年を重ねて行けたらいいなと思います。(98/08/24)
|
メールはこちらへ