<美女シリーズ第7弾「江戸川乱歩 白髪鬼より 宝石の美女」>

90分枠での最後の作品。

原作「白髪鬼」には明智が登場しないせいか天知さんの出番は少なく、
田村正和、亮のお兄さん・田村高廣が髪を逆立てて大活躍。
白髪+サングラスのいでたちは、ミスターKそっくりですね。
最期のいさぎよさに、惚れました。

出番が少ないので、天知さんも今回は三種類のジャケットとシャツの組み合わせだけです。
そこは天知さん。後半の事務所シーンでは、クリーム色の縞のジャケットに
黒の開襟シャツ+金のネックレスと、実にシゲルらしい服装で魅せてくれます。
(衣装イラストはもうすこし待ってね)

脚本は、新東宝時代から「五百時間はゆうに超え」るほど(「天知茂」ワイズ出版 1999) 天知茂作品の脚本を書いてきたという宮川一郎です。 このひとって、あの「地獄」(中川信夫監督 1960)の脚本書いていたんですね。 天知さんがらみのTV作品では、他に「非常のライセンス」とか「雲霧仁左衛門」「大奥」とか。 (「大奥」1968 では徳川慶喜を演じたんですか、天知さん!見てみたいなあ) 「美女シリーズ」でも8本の脚本を書いています。 「宝石の美女」はシリーズの中でも、結構かっちりと構成ができているように感じられます。 ちょっとこれはないよな、ってシーンも例のマネキンくらいしかないし。 (このシーンは結構綺麗に撮れてるので、もったいないと思うのですよ、ホント) 美女にあんまり魅力がないし、天知さんともまったくからまないのでその点はやや不満ですが、 ポーの「早すぎた埋葬」の原書をさりげなく読んでたり(波越警部のリアクションが素敵) 「この女性には魔性を感じるなぁ」とか、らしい台詞もちらほらあって、なかなか。 大牟田家の墓をバックに、里見(田村高廣)との3度にわたる静かな対決も、 セット・ロケーションと相俟って、いい味を出していると思います。 「黒水仙の美女」のとき同様、エンドタイトルの変則的演出もいいですよ。 小林少年も、文代さんも今回は実に有能。てきぱきと仕事をこなします。 あ、この作品にも若き日の宅間伸がホテルマン役で登場。 当時は「詫摩繁春」だったのですね。


<バカな企画>

えー、ずいぶん以前ですが友人に
おまえが天知茂の「美女シリーズ」が面白いというから
DVD買って見たけど、くそ面白くもない、金返せ。
と怒られました。
ごめんなさい。ごもっともです。

天知サンの表情や眉間のしわの本数、
次から次へと変わる、ヤクザの幹部のような
素敵な服装(それにネクタイ!)のセンスに
愛を込めてつっこみをいれるのが
我が家の「美女シリーズ」鑑賞法です。
これをみながら食事をすると
家族の会話が弾みます。

で、すこしでも天知サンの「美女シリーズ」の魅力を
世の方々に解っていただけないものかと
毎回の明智探偵の服装を全シリーズにわたり、
絵入りで紹介しちゃおう!・・と企画を立てました。

以前にも「怪奇大作戦」をこれまでにない切り口で取り上げるぞ!
とばかり、SRIのさおりちゃんの服装を全話イラスト入りで描こうとして(ばか!)
挫折したことがあるのですが、その発想の延長線ですね。

試しに「江戸川乱歩の暗黒星・黒水仙の美女」を見ながら
服装を細かくノートに絵入りでメモして
ペインターで書き直したのが、このイラストです。

これに、スタッフ・あらすじ・主要人物のイラストを添えて すべてのエピソードを網羅しようというバカ企画。 たぶん誰も望んでないと思われる、この企画の運命やいかに! って、もうむなしくなってるのですが・・。

<シゲルのこと>

トシオ。シン。ユタカ。そして、シゲル。
我家では、好きな俳優をファーストネームで呼び捨てにする。
トシオは、LDで「10-4、10-10」を見て以来はまっている黒沢年男。
ここ最近では、TV版日本沈没のDVDや「格付けチェック」を見ながら
かれの登場シーンには「おっ!トシオがんばってるね」
「トシオ、眼がマジだよ!」と声をかけずにはいられない。
「怪奇大作戦」好きの我家では、シンといえばもちろん(?)岸田森だ。
ピーマン白書のDVD化を願ってやまない。
そしてユタカとくれば。そう水谷豊。
しかも「熱中時代」でも、「傷だらけの天使たち」でもない、
「浅見光彦シリーズ」のユタカ!である。
原作(読んだことないのだが)のイメージからもっとも遠い(らしい)浅見光彦役なのだが、
ビデオ借りて全部見るくらい好きなのだ。

****

で、シゲルである。
泉谷でも、赤木でも水木(はちょっとあるか)でもない。
我家でシゲルといえば、天知茂である。
しかも、「探偵の中の名探偵」明智小五郎(土曜ワイド劇場『美女シリーズ』)に限る。
個人的には「東海道四谷怪談」や「江戸の牙」も捨てがたいが。
うちのオクサンが大ファンで「アマチさん」とさんづけで呼ぶこともある。
中古レコードセールで、天知茂のLPに思わず手を出しそうになるくらいのファンである。
去年までは、レンタル店で「黄金仮面」のTとUを借りて、渇きを癒すことしかできなかった。
しかも黄金仮面は角刈りの伊吹五郎である。それはそれでイケテルが食い足りない。
ああ。
だが!古谷一行の「横溝正史シリーズ」をDVD化してくれたキングレコードが英断!!
今年の8月から毎月3本づつ全25話をDVD化してくれるというのだ。
いったい誰が買うのだろう、こんなものを。
といいつつ11月7日発売分で、早くも半分12本も買ってしまいました。
毎月・発売日から3日間、我家では夕飯食いながら
「お!またシゲルの眉間に三本の横じわが!」
「趣味の悪いネクタイするなよ、シゲル!」
「サントラ出たら、即買いだね。着メロにできねぇかな」
などと盛り上がっております。
文代役の五十嵐めぐみも、ボーイッシュでなかなか。
大和田獏が一作目だけ小林少年だったのは、今回はじめて気が付きました。
無名時代の宅間伸が水責めにあったり、剥製にされたりしていたのも発見。
そして、波越警部=荒井注!これほど事件解決に役立たない人も珍しい。

****

いよいよ1月には伊東四朗と叶和貴子主演・ジェームス三木脚本で、
「パノラマ島奇談」が原作の『天国と地獄の美女』が発売になるのです。
ああ、人間花火。
小学生高学年の頃、「少年探偵団」ものにあきたらなくなって、
春陽堂書店の文庫版乱歩全集に手を出したものです。
結局、講談社から出た、箱入りの全集も揃えることに・・・。
「二銭銅貨」「心理試験」「D坂の殺人事件」などの本格ものから
「芋虫」だとか「鏡地獄」「人間椅子」あたりのヤバイ方向へはまってしまいました。
明智ものでは、当時NHKラジオでドラマ化された「人間豹」とか
(たしか主題歌の楽譜プレゼントに応募した記憶が・・)
「吸血鬼」「緑衣の鬼」「魔術師」(文代さん初登場。これが縁で後に明智婦人に)あたりかな。
なかでも「パノラマ島奇談」はお気に入りでなんども読み返したものでした。
しかもBGMに「未完成」をかけてたので、いまでもあの未完の交響曲を聞くたびに
パノラマ島のことを思い出します。
伊東四朗で人間花火・・たのしみ、楽しみ。

<コンラッドと伊丹十三>

ちゃんとした目的もなく、かといって要領もよくなかった当時の私にとって、
大学の(今は無き)教養学部は、かなり退屈で苦痛でした。

                * * *

そんななかで数少ない収穫だったのは、
生物の授業のテキストに紹介された「微生物の狩人」(岩波文庫)を読めたこと。
顕微鏡の発明者のエピソードとか、かなり興味深く読みました。

もうひとつは、英語の授業の課題に
ジョ−ゼフ・コンラッドの小説「闇の奥」(Heart OF darkness)が取り上げられたことでした。
アンチョコとして岩波文庫版の「闇の奥」を買って読んだんですが、
なんかねぇ、表現しがたいのですが、うん。インパクトがあったっていうか良かったんですよ。
一回読んだだけじゃ、理解できなかったんですけどね。実は。

「闇の奥」ってなに?とおっしゃるかたも、
たぶんコッポラの撮った「地獄の黙示録」の原作と聞けば、わかるかなぁ。
19世紀末のコンゴ河流域の植民地を舞台に、文化とか文明のギャップを描いた
(というか、ヨーロッパ的な教養を身につけたひとびとが、
彼らからしたら「文化果つるところ」に暮らすうちにイカレテいく様を描いた?)
この作品は、オーソン・ウェルズが映画化を企画してたらしいんですがうまくいかず、
コッポラは舞台をベトナム戦争下の東南アジアに置き換えて、あの映画を撮ったわけです。

                * * *

コンラッドの小説は結構映画化されてまして、
古いところではキャロル・リードが「文化果つるところ」(1951年)を、
最近?ではリドリー・スコットの「デュエリスト」も彼の短編が原作だったんですよ。
そういえば、デヴィット・リーンが亡くなる前に準備してた「ノストローモ」もコンラッドでした。

作家から映画監督になって「冷血」とか「プロフェッショナル」(これ面白かったです。モーリス・ジャールの音楽も最高)
を撮ったリチャード・ブルックスという監督がいます。
彼がコンラッドの原作で撮った映画が「ロード・ジム」です。

深夜のTVでこの映画をはじめて見たのですが、(その後ビデオでちゃんと観ました)これが結構面白い!

                * * *

わたしの大好きなピーター・オトゥールがタイトルロールを演じるこの映画には、
なんとあの伊丹十三(当時は一三)が結構重要な役で助演してたりします。

              
当時の事を伊丹は「ヨーロッパ退屈日記」(文春文庫)に書いているって事を
(またしても)和田誠の「お楽しみはこれからだ」で知った私は、速攻ゲットしました。
「ロード・ジム」出演のいきさつを興味深く読んだのはもちろんなのですが、
独特な雰囲気のある文章で、チャールトン・ヘストンの乗馬靴購入エピソードから、
果ては「スパゲッティの正しい食べ方」まで。私はその語り口にすっかり中毒!

当時発売されていた伊丹の文庫はすべて読み漁り、
(「女たちよ!」「日本世間噺体系」あたりがおすすめ。どちらも文春文庫です)
あげくに本に書いてあるとおりにスパゲティを茹で、オムレツを美味く作れるように練習したりしたものです。ばかですねぇ。

(彼のエッセイを読むと、「タンポポ」は実は、過去に伊丹の書いたエッセイのなかから
「食べる」ことをテーマにしたものを選んでお話に仕立て上げた映画だった事が実感できます。)

                * * *

一等航海士として将来を嘱望されていた主人公が、
ある日暴風雨の中、恐怖のあまり乗客を置き去りにして船から逃げ出してしまいます。
裁判で資格を奪われ卑怯者と呼ばれ、自責の念にさいなまれながら東南アジアの港を転々とするジムは、
ひょんなことから将軍とよばれる男に暴力で支配される村を救い、
「ロード・ジム」と呼ばれ尊敬されるようになります。
この村の村長の息子を演じたのが伊丹十三です。
やがて将軍の仲間たちが復讐に来て伊丹を殺し、ジムは彼らを全滅させるけれど
村長の息子を死なせてしまった責任をとって死を選び、
ようやくずっと背負ってきた自責の念から開放される。
というのがあらすじです。

中盤の「将軍」たちと村人とのの戦闘が、いろいろな趣向を凝らしていて面白かったです。
後半は、やや観念的にすぎ西洋人のみた東洋思想みたいなものが前面にでているのがややクサイかな。

音楽はブロニスラウ・ケイパー。メインテーマが素敵です。
ケチャとか日本の雅楽を大胆に(というか、モロに)とりいれたりしてるのはご愛嬌。
サントラ盤を最近になってやっと手に入れることが出来て、聴きまくってます。

原作の邦訳はずっと手に入らなかったのですが、
(読めもしないのにペーパーバックなんか買ってたアホな私)
遂に講談社文芸文庫で発売されることになりました。めでたい!

                * * *

以上、「ロード・ジム」邦訳発売記念の、たわごとでした。


 


<福田善之って知ってます?>

 

ウルトラマンの「悪魔はふたたび」の登場人物のひとりに
宇宙考古学の権威・福山博士がいます。

演ずるは福田善之。

科特隊の隊員たちと、代々木のオリンピック競技場にあらわれた
怪獣にむかってスーパーガンを放つ大活躍(?)です。
福山博士は「地上破壊工作」でも科特隊本部を見舞う電波撹乱の
原因調査に力を貸したりします。(えっ、宇宙考古学の権威だったんじゃ・・・)

福田善之はウルトラセブンの「遊星より愛をこめて」でも
スペル星人の宇宙時計の分析をする博士役で助演してるのですが、
残念ながら現在欠番となっているので、見ることが出来ません。

もちろん子供だった私は、
福山博士を誰が演じてるかなんか気にしませんでした。
福田善之なんて名前も憶えるわけないですよね、普通。

福田善之という名前と再会したのは20才のころでした。
当時、新潟の映画館に加藤泰という監督さんが
自分の作品の上映会を兼ねた講演に来た事がありました。
オールナイトだったと思います。
加藤泰なんてまだ知らなかった私ですが、友人と行きましたよ。
なんでだろう。藤純子と高倉健の「緋牡丹博徒」やってたからかな。
和田誠の「お楽しみはこれからだ」のPART2で
セリフとさわりだけは知ってましたから。

緋牡丹ものが二本くらいと(花札勝負とお竜参上かな)
「人生劇場」(高橋秀樹が飛車角で田宮二郎が吉良常)
「みな殺しの霊歌」(佐藤允が強烈!)
「沓掛時次郎・遊侠一匹」(中村錦之助)

そして、他の作品とは異質で、一番インパクトがあったのが
「真田風雲録」だったのです。(本当は沢島忠が監督するはずだったらしいです。)
中村錦之助が猿飛佐助、先日亡くなった千秋実が真田幸村を楽しそうに演じたこの作品は、
なぜか奇妙に心に残ったんです。
佐助は山に落ちた隕石の放射能を浴びて超能力を持つは、
いきなりみんなで「わっわっわっ、ずんぱぱ!」と歌い出すは、
「てんで、かっこよく死にてぇな。」と歌う十勇士たちの頭の幸村は
死体につまずいて転んだ拍子に、槍に刺さって
「か、かっこわるい・・・。」といいながら死んじゃうし。
燃え盛る大阪城と運命を共にする大野修理の
最期の言葉が火にまかれて「あ、あちぃ!」

この妙に現代劇っぽいモダンなミュージカル風時代劇映画の
原作と脚本を書いたのが、そうです、福田善之だったんです。
かれは、演劇人だったんですね。
もともとは30分のラジオドラマ(1960年)として誕生し
その後、61年にTV化。その暮れから翌年にかけて戯曲化。
62年に初演だそうです。
で、63年に映画化。ウルトラマンの放映の2年前ですね。
「真田隊マーチ」(最高!)「篭城小唄」ほか印象に残る挿入歌を作曲したのは林光。
かれは、ほかの福田作品でも作曲してます。
ふたりは「安保」を共に闘った同士だったらしく、
安保闘争そのものの影響がこの映画にも色濃くでています。
安保を闘った人たちと、大阪冬の陣、夏の陣を闘った人たちが
ダブってみえてくるんですね。

ウルトラセブンはアメリカの第七艦隊だとかいう評論家もいますから、
安保を闘った彼がウルトラマンやセブンに出演したってのは皮肉ですね。
でも、結構しゃれのわかる人なのかもしれません。

実はこの「安保」をキーワードにしたTVドラマを、
福田はウルトラセブン出演の年に作ってたんです。
で、私も子供の頃に見てたんですね。忘れてたけど。

手塚治虫原作の「バンパイヤ」がそれです。
メインの監督はまふねてい。
(たぶん「ウルトラマンタロウ」の真船偵と同一人物)
福田は脚本監修として、この作品にかかわっています。
音楽は林光。「真田風雲録」のコンビです。
原作でもそうでしたが、TVでもロックが唐突にギター片手に歌い出すなど
ミュージカルっぽいのも「真田風雲録」と共通ですね。
そしてなんと「安保」を「バンパイヤ革命」と重ねあわせた演出をこころみてるんです。
バンパイヤを追う警察の姿を安保闘争のニュース映像を
編集したもので見せるなど、結構過激です。
案の定、ワンクール(13話)もたずに脚本は破綻。
主要な登場人物をむりやり殺して、
ドラマを「主人公トッペイ対ロックとその仲間」という
単純な勧善懲悪に持っていってしまいました。
たぶん福田さんも脚本から降りてるんでしょうね。その時に。
前半は脚本やストーリーにやや無理があるものの、
当時建設中だった横浜ドリームランドをロケ地にした撮影が
セットにない迫力を持ってましたし、
かなり見ごたえがあっただけにとても残念です。
あのまま原作どおりに話がすすんでいれば傑作になったかもしれません。
(そう思ってるのは私だけかも・・)

福山博士から、バンパイヤまで芋蔓式に
思い付くまま書いちゃいましたが、
え、なんのこっちゃかわかんない?
すんません。

「真田風雲録」は東映からビデオが廉価ででてます。
ぜひ、見て欲しいです。
脚本集は、三一書房からでてましたから、
古本屋で気長に探せば見つかるかもしれません。
ウルトラマンはレンタルできますよね。
「バンパイヤ」はLDBOXにやっとなったんですが。
値段がねだんですから、あまりオススメしません。

ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。


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