……これが正しいと思っていた。泣き顔を見るまでは……
ベッドの上に寝転がったまま、わたしは今日何度目かのため息をついた。
朝から、おなかには何も入れていない。トラップやクレイとどんな顔して会えばいいのか分からなくて、気分が悪いからと言ってずっと部屋にこもっているからだ。
昨日、クレイは泣きじゃくるわたしが落ち着くまで、ずっと側にいてくれた。何も訊かないで、ただ側にいてくれた。もしかしたらクレイは、何があったのか知っていたのかもしれない。でも黙ってそこにいてくれるだけで、わたしを安心させてくれた。
結局それに甘えてしまったものだから、今日は顔を合わせにくかった。
……お腹すいたなあ。こんなときでもお腹すくんだから、体は健康なんだろうね。喜ぶべきか、どうなんだろう。
そんなとき、小さく音がしてドアが開いた。
「ぱぁーるぅ、だいじょぶかあ?」
「パステルおねぇしゃん、大丈夫デシか?」
ルーミィとシロちゃんだ。わたしは体を起こして、ベッドに腰掛けるように座った。
「うん、大丈夫よ。それよりどうしたの? お昼ごはん食べに行ってたんじゃなかったの?」
わたしが訊くと、ルーミィが手に持っているバスケットを見せて言った。
「ぱぁーるに、おひうごはん持ってきたんらお。しゅっごぉーくおいしいから、こえ食べたら、きっと元気になれるお!」
とてとてとやってきて、バスケットをベッドの上に置いた。サンドイッチが中に入っている。うわー、ほんとにおいしそう。リタが作ってくれたのかな。
「それじゃ、いっただっきまーす」
ベッドによじのぼって座ったルーミィとシロちゃんにそう言って、わたしはひとつサンドイッチを手に取った。
ぱくり。
う〜、おいしい! 何にも食べてなかったから、余計においしいのかも。
食べながら、わたしはふっとルーミィを見た。あれ?
「ルーミィ、髪の毛の後ろ、何つけてるの?」
「ほへ?」
そのおいしそうな姿の誘惑に負けちゃったのか、サンドイッチに手を伸ばしかけていたルーミィがきょとんとした顔でわたしを見上げた。
わたしはとりあえず、手に残っていたサンドイッチを食べきって、ルーミィの髪に手を伸ばした。
あらら、こりゃひどい。ルーミィの髪についているのはどうやらリボンらしいのだけれど、あっちこっちの髪がからまってしまっている上にかた結びされちゃってる。
「い、いちゃーおう、ぱぁーるぅ」
「やだ、ルーミィ動いちゃダメ!」
やっとの思いでそれを取ってあげたときには、ルーミィの髪が二・三本ひきちぎられてしまっていた。うう、ごめんね、ルーミィ。
でも……、それよりわたしを驚かせたのはそのリボンだった。それは、わたしがトラップにあげたチョコレートのラッピングに使ったリボンと全く同じだったのだ。
「それ、トラップあんちゃんがルーミィしゃんにつけてたデシ。パステルおねぇしゃん、そのリボン知ってるデシか?」
シロちゃんが首を傾げてわたしにそう訊いた。やっぱり……これはトラップが持ってたんだ。でもどうして? わたしからはチョコレートなんてもらってない、って言ってたのに……。
わたしがそのリボンを握り締めると、シロちゃんが再びわたしに訊いた。
「パステルおねぇしゃん、トラップあんちゃんとけんかでもしたデシか?」
びっくりしてわたしはシロちゃんを見つめた。シロちゃんはその黒い瞳をくりくりとさせて、こう言った。
「よくわかんないデシけど、トラップあんちゃんが意味もなくパステルおねぇしゃんをいじめたりはしないと思うデシ。だから、大丈夫だと思うデシよ」
わたしは、胸がいっぱいになってしまって、そっとシロちゃんの頭を撫でた。
「うん……そうだよね」
そうだ、きっと何かわけがあるに違いない。トラップは口は悪いけど、そんなふうに人を傷つけたりはしないやつだから。
3月13日。明日は、ホワイトデー。
もう一度、トラップに訊いてみよう。それでももしも、わたしの気持ちがトラップに届いていなかったら……
1ヶ月遅れてしまったけれど、今度こそしっかりと伝えればいい。わたしの中にある、この想いを。
|