「パステル、明日の夜、あけとけよ」
「え? 何を?」 みんな揃っての夕御飯が終わり、それぞれの部屋に戻ろうとしたときだった。いきなり、トラップがわたしの腕をつかんでこう言ったのである。
わたしはとっさのことでわけが分からず、間抜けな答えを返してしまった。トラップはハァ? と首を傾げ、人差し指をわたしに突きつける。
「あのな、このくそ寒い季節に誰が窓開けろなんて頼むと思う? あけとけって言ったら、おめぇの予定のことに決まってんだろ」
ああ、そっか。当たり前だよね。トラップにそんなこと言われるなんて思ってなかったから、ついつい的外れなことを言っちゃった。
……でも、なんでだろ?明日は別に、特別なことがあるわけじゃないし。
「ねえねえ、何かあるの?」
わたしは、言うだけ言って部屋に戻ろうとしていたトラップの袖を引っ張り、首を傾げて訊ねた。
でも、トラップはニッと笑うだけ。それでも懲りずに体を揺らして訊き続けると仕方ない、という顔で短く答えた。
「いいとこに連れてってやるからさ」
「いいところって?」
「ヒミツ」
わたしの手から袖を抜いて、軽い足取りで行ってしまう。
わたしは大きく息をついて、軽く頬を膨らませた。
勝手にそれだけ言って行っちゃうなんて。強引だよなあ。まあ、別に用があるわけじゃないしいいんだけど。
それより、どこなんだろう? いいところって。
夜、って言ってたよね。それで、トラップと二人きり!?
やだ、今更ドキドキしてきた。なんでだろ。何かあるはずなんてないのに……。
わたしはぶんぶんと首を振った。どうせトラップのことだ。「いいところ」っていってもカジノか何かに決まってる……
なんとか顔の火照りだけは冷まそうと、冷たい手のひらをあててみた。でも、逆に手のひらが熱を帯びてしまうだけで顔は熱いままだ。
それを振り切るように、わたしは急いで部屋に戻った。早くしないと、ルーミィの寝相の悪さにベッドが占領されてしまう。そんなことを考えながら、思考をなんとかそらそうとしてみた。
それでも、部屋に入ってからしばらくしても。
一度熱くなった顔の火照りと、体中を駆け巡る血が運ぶ興奮は、なかなかさめてくれなかった。
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