春の淡雪 〜パステル〜  

 

 どんよりした空に白い息を吐き出す。吐き出してから、驚いた。

 今日は息が白いんだ。もう春はすぐそこに来てるのに。

 ぼんやり空を見上げてると、ぽろぽろと雨粒が落ちてきた。

 目に入ったその粒が、涙みたいに頬をつたった。

 冷たい雨。これじゃ起き始めてたやわらかな緑もひっこみそうだね。

 目覚めそうだったわたしの気持ちも怯んでどこかに行きそうになる。

 どこに行きたいのか、何を見つけたいのか。

 よく分からないまま歩き出した。気づけば雨は雪に変わってた。

 

 どうしてだか、白くなってく世界の中でわたしは春を探してた。

 冬と春の狭間のこの季節に降る雪は一体何を隠したいんだろう。

 すぐにとけてしまうのに。すぐに隠せなくなっちゃうのに。

 だからそれを探してた。誰よりも早く見つけたかった。

 隠せないよ、すぐに分かっちゃうよ。……誰にそれを教えたいんだろう?

 

 わたしの心に、春の雪が降る。

 何を隠したいんだろう? 誰に探して欲しいんだろう?

 ……隠せないよ、すぐに分かっちゃうよ……

 どこに行きたいんだろう? 誰に会いたいんだろう?

 ……隠せないよ、すぐに分かっちゃうよ……

 心にある、ひとつの答え。

 

 たぶん、分かっていたこと。

 歩きつづけるわたしの目に、あったかな一人の『春』が映る。

 ……隠せないよ、すぐに分かっちゃうよ……

 そうだね、隠せないね。

 

 体中が、春の訪れを教えてる。

〜END〜

 

 とある、春の近づいた3月の終わり。ひらひらと雪が降りました。
 それを見ながら当時ネタに困っていたわたしは「よし! 使える!!」などと考え(笑)、即トランス状態に突入、書き上げたものです。

 トランス状態に入っていたのでパステルはわりとさくっと書き上げられました。
 ぼんやりと雪を見ながらこの話の2連目の2行目の部分を思いついて、そこから膨らませて書いていくことができましたので。
 パステルのお相手はどのお方なのでしょう? 実は書いた本人も分かっていなかったりします(笑)
 相手を特定しないで書いた話はこれが初めてですね。当初は決めてしまおうかとも思ったのですけれど。

 

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