「マリーナ、寝てるのか?」 クレイの問いに、部屋の入り口に立っていたトラップが無言で中を顎で指し示した。 抱えていた荷物を置きながらのぞきこむと、ベッドの上に眠るマリーナの姿。当たり前ではある。太陽はまだ昇ったばかり、という早朝なのだから。 ずっと開けっぱなしになっていたのだろうか、部屋の窓から涼しい風が入り込んで来た。夏とはいえ、この時間の風はわずかに湿り気を帯びており心地よい。 「気持ち良さそーに寝てやがる」 ずっと一緒だった、三人。その当たり前が崩れてしまう日が今日だった。二人は今日、エベリンへ向かって出発する。冒険者になるために。 「最後に一言、言っておくべきだったな」 「『最後に』なんてしんみりした言い方するんじゃねーよ。これじゃ死にに行くようなセリフじゃねーか。俺達はまたこの街に帰ってくるんだぜ。辛気臭せーのはなし! ここに帰ってくりゃ、また会えるんだからよ」 いつものように、また三人で。これは終わりではないから。お互いに進む道は違うけれど、ここに来ればまた会える。 薄手のふとんをかけなおしてやりながら、クレイは小さく微笑んだ。と、マリーナがゆっくりを目を開けた。二人の姿がその瞳に映る。が、そのうつろな光は彼らを見止めてはいなかった。まだ完全に目が覚めてはいないようだ。二人は顔を見合わせ、それからのぞきこむようにしてマリーナを見つめた。 「行ってきます」 部屋のドアが開く。二人は風に背中を押されるようにそこを後にした。 |
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