木々の葉の間から、深い闇がのぞいていた。 背中に大地の冷たい感触。時折ぱちんと音をもらす炎がすぐ隣で揺れている。 「ったく、また野宿か……」 アクシーズとギアが問答を繰り返していたおかげで、今日は予定の行程の半分も進まなかったのである。中途半端な場所で野営をすることになってしまったのが、ダンシング・シミターには気に入らなかったらしい。 「その通りかもしれないが……どうしてなんだろうな」 胸の奥にわだかまる不安。重く、鈍い痛み。 夜空に、小さな光がぽつりぽつりと瞬いていた。 『闇』、『光』、『赤』。『赤の呪い』、『金の糸』、『光のかけら』 そのすべての問いは、あいまいな言葉での答えしか与えられなかった。まだまだ、分からないことが多すぎる。 ギアは、あの夢の天使と向き合わなくてはならないのだ。不安をもたらしているあの夢と。 その考えにたどりついて唇を歪めた。 「くそっ」 アクシーズの話を聞いてからだろうか。今まで何も知らないままに苦しんできたのとはまた違う痛みが、胸にのぼってきてからのことだというのは気づいていた。 身体が崩れても保たれたままの笑みがギアを苦しめた。瞬きをする一瞬までも浮かんでくる映像に、いつしかギアは目を閉じることができなくなってしまったのだった。 ……あのころと同じだ。仲間を失ったばかりの頃。 行動をする昼の間は、ひたすらレベルアップなりに専念していられたからまだ良かった。 夢の中で彼らは笑う。生きているはずがないとギアが言うと、「なに寝ぼけてるの」とサニー・デイズがからかった。「生きてるに決まってるじゃない、どんな夢を見てたの?」と。 そう、今と同じだ……。 向き合うことができないもの。恐怖がそうしているのか、それとも向き合えないから恐怖を感じるのか。 「『闇』は空……か」 もう少しだけ、逃げてみたい。例え逃げきれるものでないにしても。 瞬きをすることもなく、ギアは夜空をまぶたの代わりにするように見上げつづけた。 |
普段は、サブタイトルは書き上げた後に決めています。けれど、この回だけはサブタイトルの方が先にありました。 サブタイトルに引きずられてストーリーが動いた、という非常に珍しいパターンだったのがこの回なんです。 そもそも、最初の段階ではギアが不眠症だなんて全然考えてなかったんです(ヲイ) それが、何時の間にかこうなっていた……そーか、不眠症だったのかギア。気づいてやれなくってごめんよ(違) パーティを亡くしたころのギアの心情描写は、多分にわたしの体験が混じっています。でもやっぱり、ギアは強いよなあ、と。そう思っています。 |