その瞬間、探していたものを忘れてしまった。
ぽつりと、頬に落ちた雨粒に。
覚えていたはずなのだ。
探していたはずなのだ。
忘れることなどないはずなのだ。
それを、見失った。
ちょうど、言おう言おうと思っていた言葉が口を開いた瞬間に霧散するように。
探し当てかけた瞬間に、零れ落ちて転がって消えた。
つい先の瞬間までの記憶は、雨に流され時に埋もれて。
探していたものを、忘れてしまった。
彼らが、心の焦点を絞りはじめたところから、この話は始まる。
時の隅、道の端に落としてしまった想いを拾い上げるために、彼らは、記憶の焦点を絞る。
ゆっくりと、目を細める。
雨の奥にあるはずの、忘れてしまった想いを。
忘れたかった想いを。
気づけなかった想いを。
見つけ出すように、彼らは目を細める――。
雨はただ、降り続ける。
冷たいほどに、切なく。
冷たいほどに、優しく。