ロバート・J・ソウヤーの新作です。
前作「フレームシフト」もこちらに紹介しましたが、最近のソウヤーは読んでてひどく引き込まれます。
ヒッグス粒子を発見するはずだった実験を行ったその時、全人類は2分間、21年後の世界を垣間見た。
変わったことを絶望するもの、変わらぬことを絶望するもの。あるいは21年後に実用化される新発明を見て特許取得に走るもの。
そして、何も見えなかったもの。
この21年後のヴィジョンをみたことで人々がさまざまな行動を起こします。
上記の特許取得なんてのはいかにもアメリカらしいな、とかおもうものの一つなんですが。
この後は主に未来を変えられるか変えられないかのふたつの命題のせめぎあいとなります。
不確定性理論を持ち出してきて変えられる、とするもの、あるいは交流解釈を持ち出してきて変えられない、とするもの。
そこには運命論や人々の自由意志、あるいは多数の人々が2分間の当然の意識遮断により命を失ったことへのうしろめたさ
などがからみあい、論議が白熱します。
その論議に決着をつけるのは。
この作品は2分間の意識遮断を起こしたその事故の顛末を描く第一部と、上記の白熱する論議とその決着を描く第二部と、
そして21年後の第三部とわかれています。
さまざまな努力や論議のはてに21年前に見た未来を変えようと努力したはずの主人公
たちが結局、あの時見た未来と
ほぼ同じ状態になったいたことには驚きを隠せませんでした。
それでも未来は確かに変わっており、それだけは確実なのですが。
最後の第三部で行われた再度の未来視での「映像」は想像を超えたものでした。
よくぞ考え付くな、と。
確かに理論的にはありえる話なのでしょうが、さすがにプロ、というか。
あまり派手なアクションがあるわけではありません。
私自身はこの作品で一番熱中したのは中盤にある「未来は変えられるか、変えられないか」という議論とその決着部分でした。
そういう意味ではソウヤーらしい、地面を足をつけた未来SF作品なのかもしれません。
まぁ、最後はちょっとびっくりしましたけど。
書名 | 著者 | ISBN | 値段 | 出版社 | 初版 | 装丁 |
---|---|---|---|---|---|---|
フラッシュフォワード | ロバート・J・ソウヤー | 4-15-011342-4 | \840 | ハヤカワ文庫/早川書房 | 2001/01/31 | 文庫 |
いやしかし、この作品は冗談ぬきで新作を読む直前に既刊全巻に一通り目を通しておく必要が
ありそうです。
ブギーポップをして「たちが悪い」と言わし召した今回の「世界の敵」。
解決したのは「炎の魔女」と、進化した人間を監視する謎のシステム=統和機構に属する
少女でした。
ブギーポップは結局見届けただけ。
今回はこの「ブギーポップ」シリーズの真の主人公ともいえる、「炎の魔女」。
ある意味、彼女の独壇場でした。
そして、これは「炎の魔女」の命名秘話だったのです。
誕生秘話、ではありません。命名の秘話、です。まあ、どちらにしても過去話であることにはかわりなく、
時間軸とすればおそらく第一作の「ブギーポップは笑わない」のさらに過去の話となります。
なにせ正義の味方である「炎の魔女」がまだ中学生だったころの話。
同時に、「VSイマジネーター」と、「パンドラ」のふりがほどこされており、先の2作品を読んでおく必要があると、感じられました。
いや、実際は細かな所で「未来」の出来事が語られているせいで、冒頭の「既刊全てに目を通す」という言葉になったわけなんですが。
こなれてきたせいでしょうか、確かに読みやすいし、引き込まれるし、ライトノベルだな、と感じさせるし、
読んでてもかなりの透明感を感じるのですが、どうしても第一作にあったような感覚がありません。
どんなものかといって非常に説明しずらいのですが・・・・・・
こればかりは本当に「感覚」なので、読んだ人を相手に話をしても共有は、おそらくできないでしょうけど。
書名 | 著者 | ISBN | 値段 | 出版社 | 初版 | 装丁 |
---|---|---|---|---|---|---|
ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド | 上遠野 浩平 | 4-8402-1736-X | \530 | 電撃文庫/メディアワークス | 2001/02/25 | 文庫 |