・第六回
「さてっと」
マンタ以外の見送りもなく、昨日の寺院内での騒ぎを思えば嘘臭い程の何変わりない外へと三人は出た。
大通りには相変わらず巡礼が流れを作っている。黄色い布を頭に巻いた年寄りが、通りすがりにクレイをちらりちらりと見た。
「……その格好に剣を背負ってるってのは、似合わないな」
クレイの姿をヴァーンが評す。それから自分の背中の大剣を親指で差した。
「町を出る前に、俺はこいつに柄と鞘を誂えに行くが、お前らはどうする? クレイは服が欲しいだろう」
「……ああ」
「マハル亭には? 済んだって連絡しなくていいの?」
「そうだなあ……」
チキの問にヴァーンは四角い顎を擦った。
じゃあこうしよう、とヴァーンが仕切った通りに、チキはマハル亭に向かって歩いている。クレイが無造作に背中の袋から抜き出した剣を一本、腕に抱えて。
ヴァーンは造剣屋に、クレイは服屋に、用が済んだら町の南の橋で落ち合おう、と約束した。
チキがマハル亭を訪ねると、亭主と女房は、おやまあ、と驚き歓迎してくれた。
悪さをしていた魔物は退治されて、大司祭は一寸怪我をしたけれど大事ないのだと報せると、それは良かった、と二人とも手を打って喜び、二度三度と天地神へのお祈りをした。
「それで、これ」
宿代の代わりに、とチキが剣を差し出すと、宿代は要らないと言ったんだと、やはり亭主は受け取ろうとしない。なので、
「持って帰ったら、おいらが叱られるんです」
チキはしょぼんとして見せた。それで亭主は剣を受け取ってくれたのだから、これくらいの方便は許されるだろう。
「……それで、これからどこへ?」
聞いたのは女房だ。
「おいらやっぱり、グラードのお医者に診てもらうことにしたんです」
紹介してもらったお医者が駄目だと言う訳じゃないけれど、と付け足すと、女房は頷いて「寺院に連れて行ったと聞いてたけど、そうかい」と、駄目だったのだと思ったらしい。
「グラードかい……」
亭主が考え込んだので、チキは「何か?」と尋いてみた。亭主と女房は、互いの顔を目をしばたかせて見詰めた。
チキが橋に辿り着くと、緩く山なりになっている橋の上に、クレイを見付けた。服屋の用事は既に済ませたらしい。白い長衣ではなく、枯れ草色のシャツにポケットの沢山付いたズボン、そして丈の短い革のチョッキと膝迄の革のブーツ。欄干寄りに、ただ立っているだけである。だが少しの間、チキは黙って見蕩れていた。
(かっこいいなあ)
不意にハンナの台詞を思い出す。
(あなたもこれくらいしなくちゃ駄目よ)
頬が熱くなって、クレイから目を離して俯いた。
一緒に旅出来るだけでいいんだ。いつも姿を近くで見ていられる。
例え本当に、瞳(め)が綺麗だったとしたって。
……そんなことくらいで、釣り合うとは思えないから。
「チキ」
クレイが呼んだ。橋の袂のチキに気付いたのだ。顔を上げると、こちらを見ている。チキは大きく息を吸って、笑って橋を駆け登った。
「早かったね、クレイ。ヴァーンはまだ?」
「ああ」
「剣、ちゃんと渡して来たよ」
「そうか」
クレイは相槌を打つばかりだ。それでも二人で話しているのが嬉しくて、チキは色々と話し掛ける。ヴァーンを待ちながら、二人欄干の方を向いて、川と互いの顔を交互に見て話した。そう言えば、ヴァーンが旅に加わってから、チキは漫才……ヴァーンもクレイも不本意だろう……を聞くばかりだったな、と思った。
「ヴァーン、ハンナの事何か言ってた?」
クレイは軽く瞬いて、ああ、と答えた。
「なんて?」
「……自分のような放蕩者にハンナをもらえるもんかと」
チキはぱあっと笑う。
「もらうつもりなんだ?」
「俺もそう言った。……他の男にくれてやるよりは、だがハンナはまだ十五だぞ……と……困っていたな」
チキはくすくすと気の毒がる。
「ハンナには悪いけど、やっぱりヴァーンったらお父さんみたいだなあ」
あっそうだ、とチキはクレイを振り仰ぐ。
「ヴァーンはおいらのこと男の子だと思ってたんだって。それでハンナに叱られてた。……クレイは、すぐにわかった?」
「……知ってた」
「……ふうん?」
何だか嬉しい気分がする。自分の村では、チキは女の子にしか付けない名前だけれど。クレイはあちこちを旅してるだろうから、知っていたのかもしれない。
「えっと、チキっていうのは、おいらの村じゃ、女の子が愛されますように、って付ける名前らしいんだ。クレイは、名前に何か意味がある?」
そういう意味じゃないかもしれんが、とクレイは話す。
「俺が生まれたのは造剣が盛んな村だったからな。ナークだのクレイだのは大勢いた」
「……? なんで?」
「……ああ。そうか」
クレイは気が付いた、という顔をして、体をチキの方に向けた。
「最近では見なくなったが……ナークレイに祈る時はこう」
言って、自分の両手の指先を唇に当てて、そのまま両手を額と胸に動かした。
(あっ……)
――兄神様のお慈悲を――
村を出る日の風景を思い出す。
「それおいらが村を出る時、隣の爺さんがやってくれた!」
叫んだチキに、そうか、ならこうだろう、と、もう一度唇に触れた指を、チキの額と胸に、ちょん、と当てた。
「武器と慈愛を司る兄神の名は、残ってないに等しいからな……隣の爺さんとやらは物知りだ」
クレイも、物知りじゃないか。そう思ったのだが、チキはどきどきして、口が利けなかった。
「あー……おほん」
後ろから聞こえた低い咳払いは、ヴァーンだ。
チキは振り返って、遅かったね、と言おうとしたが、先にクレイが「早かったな」と言った。
ヴァーンは「混ざるぞ」とクレイの横に並び、ぐいぐいと肩で押してくっついた。クレイの体が傾くので、横のチキまで押される。……クレイとくっついた。
「ああ、早かったさ。急がせたからな。にしちゃあ、良い出来に仕上がってるぜ。見るか?」
「こんなところで抜くな。邪魔だ」
「お前はまた、代わり映えのしねえ格好にしやがって」
たまにはこう、ひらひらーっとした裾やら袖やら襟やら着てみたいとか思ってみろよ、とクレイの目の前で手を振るヴァーンをクレイは無視する。また漫才に戻ってしまった。
(……楽しいから、いいや)
「それでな。造剣屋で聞いた話なんだが」
ヴァーンは、ダットンという町で魔物が暴れている、という話を聞いて来たらしい。
「グラードとはまた少し方角が違うんだが、どうする?」
チキはクレイと目を見交わして、ヴァーンに答えた。
「それ、おいらも宿屋で聞いた。行こうよ、ヴァーン」
うん? とヴァーンはチキとクレイを見比べる。
「……なんだ、既決事項か」
「うん。宿のおばさんの友達が、ダットンで怖がってるんだって」
今度は友達か、とヴァーンは呟く。
剣も減ったしな、とクレイ。背中の袋に売り物の剣は三本。それはお前が要らん宿代代わりに配るからだろ、とヴァーンは言い当てて、んじゃ行くか、と欄干を離れた。
「因に俺の名前は、偉かった曽爺さんの名前だそうだ」
……そこから聞いていたのだ。じゃあ、クレイに兄神のお祈りをされて照れていたのも見ていたんだ、とチキは自分も歩き出しながら、「ヴァーンはナークレイ様って知ってるの?」と尋いた。
橋を越えながら、うん? とヴァーンは振り返る。
「文献でな。名前は知らなかったが……父神ダラーシャ、姉妹神ガラシア・アルシナはチキも知ってるだろ? ナークレイってのは、その家族の兄ちゃんだ」
「ふうん……でも有名じゃないんだね」
「父神が子供達に世界を分け与えた時に、兄神は神を辞めて人間(じんかん)に混じってしまった。だから、神じゃなくなった兄神は、奉られなくなったのさ。兄神の血が混じった一族は長く造剣を良くしたと言われ、今でも武器を扱う連中の中には、たまーに兄神を信奉してる者がいるな」
俺も物知りだろ? とヴァーンはにかっと笑う。
そうか、とヴァーンは立ち止まり、一番後ろからついて来るクレイを見やった。
「お前の神は兄神か。それで天地神の加護から外れてるって言うんだな?」
チキもつられて立ち止まったが、クレイは答えず先へ行く。クレイに並んで歩きながら、ヴァーンは声を落として尋ねた。
「じゃあ奴が言った『ナーク』ってのは」
チキは二人の後ろをついて行く。橋を下って、クレイは小さく答えた。
「多分な」
「魔物が怖がる神様かよ……おい、次の魔物退治に、お前呼び出せ」
「俺は魔法使いじゃない」
「俺の神様は姉妹神なんだよ。お前の神様だろ?」
「……信じていない」
ヴァーンは口を噤んだ。手で顎を擦り、一度視線を外して、またクレイに目を戻した。
「……滅んだのは何年前だ?」
「百より先は知らん」
「……ああ。そうか。そうだな」
ヴァーンはぽりぽりと頭を掻く。
「……クレイの国はここじゃないの?」
チキの問に、クレイはちら、と目線をくれた。
「どの辺にあるの? なんて国?」
クレイはふいっと前を向く。「どこにもない。とうに滅んだ」何の感銘も無い声で言う。
「神の加護など受けなかった」
ヴァーンの手が、チキの頭にポン、と乗る。
「昔のこった。お前が謝る事じゃねえ」
チキが罪悪感を覚えた事を、どうして気付いたのだろう。
「この爺いは俺が成敗しておく」
そう言って、ヴァーンはクレイの頭に、とう、と手刀をくれていた。
やがて橋を渡り切り、チキ達は三つに別れた街道を一番右へと進んだ。橋が随分後ろになった頃、クレイは突然口を開いた。
「もう少し、南にあったと思うがな」
「……え?」
「俺の生まれた国だ。名はスガルダといった」
ヴァーンはチキを振り向いて、にやにやと笑った。
「反省したらしいぜ」
ダットンの町まで、この道を真っ直、徒歩三日。
途中、村を三つ通る。一日目の夜は最初の村で過ごした。宿屋は一杯だったが、親切な老夫婦が、三人共を泊めてくれた。お礼に、ヴァーンが鳥小屋の周りの柵を直した。いつの間にか姿を消していたクレイが、小刀を手に戻って来て、ヴァーンに何やら魔法を掛けさせ、果物ナイフにでもしてくれと、その小刀をお婆さんに渡した。後で聞くと、家の裏に小物が出たので始末したとの事。少ない邪気でも耐性の落ちた老人にはきついかと思って、ヴァーンに浄めの魔法を頼んだのだそうだ。
「こんなとこに魔物か?」
「チャルダの空いた縄張りに引かれるんだろう」
二日目は急に雨に降られたので、街道を少し外れ、林の木陰で雨宿りした。雨足も強くなり、日も暮れて来たので、その日はそのまま野宿した。「いるな」「ああ」眠りに落ちる直前にそんな声を聞いたが、チキはヴァーンの貸してくれた上着に包まって、そのまま朝まで起きなかった。
翌朝、昨日は何を言っていたの、と聞こうと思ったが、クレイの荷袋に剣が二本増えているのを見て、チキは「有難う」と礼を言った。クレイは何も答えず、ヴァーンは「良く眠れたか?」と笑った。ヴァーンもクレイも、特に血に汚れた様子は無い。チキの視線に気付いたか、「いい具合に雨だったからな」とクレイは言った。
「……おいら、何の役にも立たないね」
先を歩く二人が、同時に立ち止まって振り向いた。
「あ? 何言ってんだ、チキ」
「だって……ヴァーンみたいに力も無いし魔法も使えないし、クレイみたいに……かっこよくないし」
待て、とヴァーンは低く突っ込む。クレイは笑った。
「チキ、お前はそれが言いたくてか? おい」
「ち、違うけど」
クレイが笑ったのが嬉しくて、チキもつい笑いながら手を振るので否定に見えない。
ヴァーンはぬっと腕を伸ばして、チキの頭をはっしと掴み、ぐりぐりと掻き回した。
「俺もかっこいいだろうが、こら。前の村で、お前、ずっと婆さんの話し相手してただろ? 爺さんの肩揉んでやってただろうが。クレイじゃ話し相手にゃならないし、俺じゃ爺さんの肩を壊しちまうんだよ。わかるだろ」
適材適所ってやつさ、とヴァーンはチキの頭をぽふぽふ叩く。
「……うん」
クレイはもう歩き出している。
「ほれ、先生なんか、話す程の事でもねえってさ。先を急ぐぞ」
ヴァーンはクレイを追っかけて、おい、俺を通訳に雇わんか? と尋ねる。要らん、とクレイは即答した。
正面から、急に強い風が吹いた。
「わっ……」
よろめきそうになり、チキは顔の前に腕を上げて息を詰める。……温い臭いがした気がした。
クレイが、僅か遅れてヴァーンも足を止める。
「こりゃ……」
ヴァーンは顔を歪めて呟いた。クレイは眉を顰め、背の袋を降ろすと確認するように中の剣を眺めた。そして、じっとチキを見る。
「……なに?」
どぎまぎとチキは尋ねる。
「……いや」
剣に目を戻して、クレイは袋を背負い直す。行くぞ、と再び歩み始めた。
二つ目の村に着いたのは三日目の昼過ぎ。三つ目の村は近いから、素通りしようという事になった。
「剣を売って下さい!」
村の真ん中の道を行く三人を、脇から飛び出して来て止めたのは、チキよりも小さい男の子だ。
「お兄さんは、剣売りでしょう? 売って下さい!」
クレイの前に走り出て、背中の袋を指差し訴える。クレイは子供を見下ろして、手を背にやり、無造作に一本を掴んだ。
「……柄も鞘もないが、よければ」
「そっちの、柄のあるのが」
「これは売り物じゃない」
「そんな……じゃあ、なくてもいいです。だから」
おい坊主、とヴァーンは声を掛けて、坊主だよな? と確認した。
「え? うん」
子供はきょとんとして、隣の大男を振り仰いだ。
「誰が使うんだ? まさか、お前じゃないだろ」
「俺だよ!」
「お前にゃこの剣は一寸でかいぜ。それに、こいつの剣は目茶苦茶高価(たか)いぞ」
子供はぐっと口を噛む。
「……一生かかっても、払うから」
ヴァーンは目を眇めて言い放つ。
「死んだら払えねえだろ」
「……!」
男の子はぽろぽろと泣き出した。「坊主」ヴァーンは子供の前に屈み込む。
「男が泣くだけの理由があるんだろうな。おい。話せ」
暫くはしゃくり上げる声だけがして、子供は涙と鼻水を垂れ流して突っ立っていた。待つうち、子供は袖で顔を拭い、鼻水を啜り上げて口を開いた。
「姉ちゃんが……」
ぎゅっと目を瞑る。再び涙が溢れた。
「俺の姉ちゃんが、殺される……」
チキとクレイとヴァーンは、シデ少年の家に招かれた。「きっと父ちゃんも剣が欲しいって言うから」と子供に腕を引かれて、広くもない家の居間に、家族三人と一緒に向かい合っている。
「……ダットンから、魔物が来るんです」
父親は酷く窶れて、諦め切っていた。その隣で、母親はずっと涙ぐんでいる。
「作物の実りが悪くなるのはまだ我慢出来た。やつらが来ると、空気が腐ったみたいになって、運の悪い鳥は落ちるし、逃げた獣は戻って来ない。でも何とかやってた。あの、でかい奴が来て、村の人間を順番に駄目にしてしまうまでは」
「駄目に……?」
ヴァーンが尋ねる。
「食うんじゃないのか」
食うさ、父親は吐き捨てる。
「搾り取って、搾り取って、吸い尽くして、それから食う。……だから、被害が一遍に出る訳じゃねえ。誰か一人が吸われている間は、他の人間は無事なんだ」
うっうう、と母親が泣き伏した。
かたん、と戸が開く音がして、奥の部屋から女が出て来た。
「姉ちゃん!」
母親の横で堪えるように座っていたシデが立ち上がる。
「駄目じゃねえか、ちゃんと寝てろよ」
デラ、と呼んで母親も寄って行く。ふらふらとする女は乱れた栗色の髪を揺らし、誰かを捜すように天井と床を眺めた。二人掛かりでデラを支えて、戸の中へと連れて行く。戸の向こうから、ンゲアーアーと、奇妙な声がする。うん、うん姉ちゃん、とシデが泣き声で返事をした。
狂っているのだ。
「……こんなざまで」
父親は俯いた。
「どんなに家の奥に隠しといても、いやあーな臭いがしたと思ったら、娘は外に出てる。外に出て、嬉しそうに、魔物に抱き付いてやがるんですよ。……何でこんな事に」
チキは唇を噛み締めた。娘も、後一、二回吸われたら動けなくなって、食われて御仕舞いだ。皆そうだった。呟く父親は、自分もその順番に組み込まれているのを承知しているようだ。
「……どう思う」
ヴァーンはクレイに尋ねる。クレイは軽く眉間に皺を寄せて、「主だな」と言った。
「ダットンで暴れているという主だろう」
「ここまで出張って来てるのか」
小声でヴァーンは続ける。「縄張りが空いたからか?」
「いや……予定の行動だろうな。おそらく、チャルダの奴より数段厄介だ。徐々に縄張りを広げている途中に過ぎん」
ヴァーンは目を見開く。
「……あれよりか?」
「お前も臭いを嗅いだだろう」
「……ああ」
「魔物が来るのは夜ですか」
急に尋ねられて、父親は顔を上げ、「あ、ああ」と頷く。そして「そうだ、まだ日は高え」と頭を下げた。
「足止めしちまって、今夜もきっと魔物が来るから早いとこ次の村に行った方がいい。といっても、この辺の村はきっと、どこも同じようなもんだろうが」
父ちゃん、とシデが戸から駆け出て来た。
「剣は! 買わねえのか?! 姉ちゃんを守ってやんねえのかよ!」
父親は返事をしない。シデは必死に言い募る。
「俺が買う! 支払いは、ええと……俺のもんなんて、服と、草履と、本が一寸ある、畑はまだ分けてもらってねえけど……」
きょろきょろしながら、自分の持ち物を探す。クレイはすっと立ち上がった。シデの顔は絶望する。
クレイは、チキはここで待たせてもらえ、と荷物を置いたまま居間を出た。出しなに、シデにこう言った。
「……剣は売れないが、宿代代わりに譲らないでもない」
ヴァーンは、やれやれと頭を掻いて立ち上がる。
「魔物は何とかするから、一晩泊めてくれってよ」
何で俺を通訳に雇わないかねえ、とクレイを追って外に出た。
シデも父親も、ぽかんとそれを見送った。
「……やっつけて、くれるのか?」
誰にともなく、シデは尋ねた。
「……大丈夫だよ、あの二人、強いから」
小さく言ったチキを見るシデの顔には、先程まではまるでなかった希望の色が、ほんの微かに混じっていた。
(続く)