『アスペルガー症候群とパニックへの対処法』について
この本を買われる動機の主なものは、身近にパニックを起こす子どもがいて、「どうすればいいか知りたい」ということなのではないかと思います。
しかし、この本に書かれているパニックというのは、通常のものではなく、我慢の限界に達した時に起きる発作性のものです。まずは、このような発作性のパニックは、そうそう頻繁に起きるものではないことを、強調しておかなければなりません。この本は、「何らかの理由でこういうパニックを起こすことがあった時のために」ではなく、このような「発作性のパニックを起こさせないようにするため」に書かれたものです。この本を読んで、アスペルガー症候群はこういう人のことだという印象を持たれないように、お願いします。
また、くれぐれも以下の点を忘れないでいただきたい思います。
- パニックは、その場で対症療法的に対処することよりも、パニックを起こした状況を入念にアセスメントしてその「原因」を探ることの方が、はるかに大事だということ。
- パニックを起こさせないように、予防的措置をとること。つまり、環境を整備したり、社会的な認知のズレを最小限に抑えるための努力を惜しまないこと。
- 実際にパニックが起きた時には、決して慌てないこと。
- パニックを起こさせたその「状況」が、状態をさらに悪化させていることにいち早く気づくこと。
アスペルガー症候群の人たちは、非常に豊かな個人的感情の持ち主です。しかしながら、自分以外の人は、感情を他人に対して(社会的に)使っていることを知らないために、不利益を被り続けています。
こうしたズレをそのまま放置していると、お互いの心情は離れていく一方です。それに加えて、神経学的な弱さを併せ持っていることが、より一層、不利な状況に本人を追い込みます。また、そうしたズレから生じるストレスに、自分で気づいていないことが往々にしてあります。
そのストレスを軽減するためにも、社会的な振る舞いを学習することはとても重要です。第3章には、他者の感情を読み取る・状況を論理的に説明する・自分の感情をコントロールする、などのさまざまな手法が紹介されています。それは、アスペルガー症候群や自閉症でない人なら、わざわざ学ぶ必要のないことかもしれません。
どうか、この本を、単なるアセスメントの指南書として読まないで下さい。パニックを起こす状況を分析するだけでは、問題は解決しません。その原因を探って、必要としているスキルを供与することの方がよっぽど大事です。パニックは、本人がどれほどの苦境に立たされているかを表わしています。パニックを起こすところまで本人を追い込まないように、また、本人が自覚のないままに行っている、前兆となる行動を見逃さないためにも、この本が活用されることを願っています。