オーストラリア版・アスペルガー症候群の診断基準

『ガイドブック・アスペルガー症候群』−親と専門家のために−                  トニー・アトウッド著    東京書籍

という本が出版されました。私は、昨日、買って読みました。この本について語り始めるとキリがないので、とりあえずその中で紹介されている、「オーストラリア版・アスペルガー症候群の診断基準」を転記します。ただし、日本の精神医学界では、DSM‐WならびにICD‐10の診断基準が用いられているのが一般的です。また、医師の元を訪れる経緯についても、下の六つのルートのうちの最初の2・3までしか認められていない場合が多いことも併せて考えると、この本が普及・浸透するまでには、まだかなりの時間がかかるだろうと予想されます。

  1. 幼児期の自閉症の診断から
  2. 初めての学校生活の経験から
  3. 別の症候群の変則的な現れから
  4. 近親の自閉症かアスペルガー症候群の診断から
  5. 二次的な精神医学的障害から
  6. 成人期に残存するアスペルガー症候群から

何はともあれ、紹介だけにしておきます。


アスペルガー症候群の診断を受けるまでには、二つの段階があります。第一ステップでは、この症候群なのかもしれない子どもを見分ける質問表、つまり評定尺度を親御さんか先生に記入してもらいます。第二ステップでは、発達障害の子どもの能力や行動を診る経験を積んだ臨床家によって、この症候群の特徴を明確に述べた公式の診断基準を用いた診断的評価がなされます。

 

第一ステップ  評定スケールを用いる

ASAS(アスペルガー症候群豪州版スケール)

以下の質問表は、小学校時代の子どもに見られるアスペルガー症候群の兆候を示す行動や能力の有無を確認するためのものです。この年代では、そのかわった行動や能力のパターンがとても目立ちます。それぞれの質問や叙述には、その年代の子どもに期待できる通常レベルをゼロ(ほとんどない)とする評定尺度が付されています。

A、社会的・感情的な能力

  1. ほかの子どもとの遊び方の理解に欠けることがありますか? 例えば、グループ遊びに暗黙のうちにあるルールに気づかないなど。
  2. 昼休みのような、ほかの子どもと自由に遊べる時間に、ほかの子どもとの接触を避けますか? 例えば、離れていられる場所を見つけたり、図書室に行ったりするなど。
  3. 人との接し方の決まりやマナーがわからないらしく、穏当を欠く行為や発言をすることがありますか? 例えば、相手の容貌に関することを口にして、それが相手の感情を傷つけるかもしれないことに気づかないらしいことなど。
  4. 相手の気持ちに共感する、つまりその直感的な理解に欠けることがありますか? 例えば、相手に対して謝れば少しは機嫌を直してもらえると分かっていないなど。
  5. 他人は、自分の考えや経験、意見などを判っているものと想い込んでいるなことがありますか? 例えば、何かに居合わせていない人は、そのことを知らないことをよく分かっていないなど。
  6. 普段とは違うことをしたり不都合に対処するときに、普通以上にそれを繰り返し確認してやることが必要ですか?
  7. 感情の表し方に、分別を欠いたところがありますか? 例えば、実際とは掛け離れた感情の落ち込みや起伏を見せるようなこと。
  8. 感情の表出を、適度に行えないことがありますか? 例えば、相手が違えば妥当な感情表現レベルも違うことを理解していないようなこと。
  9. スポーツやゲーム、その他の課外活動でも、かち負けの争いに加わることに興味をもてないことがありますか?
  10. 仲間からの社会的圧力に「無感覚」なことがありますか? 例えば、遊具や服装などの新しい流行を追わないなど。

B、コミュニケーションの技能

  1. 言われたことを、字義どおりに受けとることがありますか? 例えば、「えりを正す」「お目玉を頂戴する」「胸に手を当てて考える」のような言い方に混乱するなど。
  2. 口調にどこか不自然なところがありますか? 例えば「外人風」のアクセントだったり、肝心な言葉を強調しない一本調子だったりするなど。
  3. 子どもと話しているときに、相手側のことに関心がないように思えることがありますか? 例えば、会話中に相手の考えや意見を聞かなかったり、それに対する自分の考えを述べないなと。
  4. 会話中に、期待するより目を合わせることが少ない傾向がありますか?
  5. 話し方があまりに厳格だったり、細かなことにこだわることがありますか? 例えば、形式ばった言い方をしたり、生き字引のような細かな話し方をするなど。
  6. 会話をスムースに継いでいくことに問題はありますか? 例えば、相手の言ったことが分からないときに、相手に聞き返さないで、いつもの話題に移ったり、延々と返事を考えているなど。

C、認知的な技能

  1. 本を読むのは、知識を得るためが中心で、フィクションには無関心なように見えますか? 例えば、事典や図鑑、科学の本には夢中になるが、冒険物語には熱心ではないなど。
  2. 以前あったことや事実に関して、ずば抜けた長期的記憶力がありますか? 例えば、隣家の数年前の車のナンバーを記憶している、何年も前に起きた場面をありありと思い出すなど。
  3. 仲間との想像的遊びをしないことがありますか? 例えば、自分のする想像的遊びにほかの子どもを入れなかったり、ほかの子どものしているごっこ遊びにはとまどって入れないなど。

D、特別な興味

  1. ある特定の関心事に熱中して、その情報やデータを熱心に集めたりしますか? 例えば、乗り物や地図、リーグ戦の順位表などの知識が、まるで生き字引のように詳しくなるなど。
  2. 毎日の決まりや予測が変化すると、甚だしく気分を害することがありますか? 例えば、いつもと違う道順で学校に行くことに苦痛を覚えるなど。
  3. やらねば気が済まない手の込んだ約束ごと、つまり儀式的行動がありますか? 例えば、寝る前に必ずおもちゃを一列に並べるなど。

E、運動の技能

  1. 動作のまとまりが悪いですか? 例えば、ボールの受け取りがうまくできないなど。
  2. 走るときに、足の運びがぎこちないですか?

F、その他の特徴

ここでは、それぞれの特徴が、少しでもあればチェックして下さい。

  • 電気器具などの、日常的な物音
  • 肌や髪の毛に軽く触れること
  • 特定の衣類を身につけること
  • 予期せぬ騒音
  • ある特定のものを見ること
  • 人の集まる、スーパーなどの騒々しいところ

 

第二ステップ  診断的評価

(注)診断の基準は、今現在四組あります。その中で、筆者が用いているギルバーグたちの定めた基準を掲載します。

1、社会性の欠陥(極端な自己中心性)    (次のうち少なくとも2つ)

2、興味・関心の狭さ               (次のうち少なくとも3つ)

3、反復的な決まり                (次のうち少なくとも1つ)

4、話し言葉と言語の特質            (次のうち少なくとも3つ)

5、非言語コミュニケーションの問題      (次のうち少なくとも1つ)

6、運動の不器用さ


       

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