(中経出版)『食いしん坊な脳 うつになる脳』に関する
緊急アピール
(最終更新日/2002.3.15)
よこはま発達クリニック :内山登紀夫
『食いしん坊な脳 うつになる脳』におけるアスペルガー症候群の説明についての見解
当事者から
「アスペルガー症候群」の人たちは、決して“何も感じない人”ではありません。“一般的な人と同じように感じていない”とは言えるかもしれませんが、だからといって“人の感情が全くわからない人”ではありません。それどころか、人の感情を敏感に感じるあまりに、それに対する反応の仕方がわからなくて何もできなくなってしまったり、困惑のあまり逆に奇妙に見える行動をしてしまうことさえある人たちです。特に、不安を感じる感受性が高く、その傾向は、周りの人が「アスペルガー症候群」のことを知らないことによって一層強くなります。
だからこそ、医療・教育・社会の様々な方面で「アスペルガー症候群」のことを知ってもらう必要があり、多くの人が尽力して支援体制を作ろうとしている矢先に、このような書物が生化学(遺伝子研究)の専門家の名の元に監修されて世に送り出されてしまったことに、憤りを感じます。
(2002/02/09)
(2002/02/16訂正)
(2002/02/23一部削除)
この本を読んでしまった人へのお願い もし、あなたがアスペルガー症候群と診断された本人の場合
この本に書かれていることは、アスペルガー症候群の知識がない人が、世間の風評をまとめたものです。アスペルガー症候群の「脳」はこういう「脳」だという文章を、鵜呑みにしないで下さい。
ここに書かれている「言葉」ではなく、あなた自身を見つめてください。あなたには、たくさんの素晴らしい面があるはずです。あなたは、決して、この本に書かれているような人ではないと思います。それに、「脳」はあなたの一部でしかありません。
もし、あなたがアスペルガー症候群と診断された方のご家族の場合
この本に書かれているような短絡的な発想をする人に、全く会ったことがない方は、恐らくいないと思います。「発達障害」のあるお子さんの行動・発言・学習面での問題を、事件として報道されるような触法行為に結びつけて意見された経験は、誰しもがお持ちなのではないでしょうか?
しかし、そのような解釈をすることでは問題は全く解決せず、むしろ悪くなることの方が多いということも経験されてはいないでしょうか? だからこそ、「障害」としてとらえて早期から対応する必要があるし、そのための療育システムを作って行こうとしている大事な時です。このような本が世に送り出されたことに惑わされることなく、成長しつつあるお子さんに“今・するべきこと”を念頭に置いて、きちんと向き合っていかれることを願っています!(診断名が服を着て歩いているのではなく、そこにいるのは一人の人間だと思います。)
もし、あなたがアスペルガー症候群のことを事件報道でしか知らない人の場合
アスペルガー症候群と診断された人に、実際に会ったことがありますか? アスペルガー症候群の知識はありますか?
この本を読んでアスペルガー症候群に興味を持たれたのは、何かのご縁かもしれません。もっとちゃんとした、良識ある本がたくさん出ていますので、これをきっかけに、アスペルガー症候群のことを勉強していただけたら幸いです。
(2002/02/13)
経過報告 中経出版ホームページに、以下のような措置がとられたと報告されました。(2002/02/07)
弊社刊行書籍「食いしん坊な脳 うつになる脳」(2001年12月21日付刊)につきましては、内容に関して一部の方々から大変懇切なご教示と不適切な箇所がある旨のご指摘を賜りましたことを重視し、出荷を中止いたしました。
中経出版ホームページに、以下のような措置がとられたと報告されました。(2002/02/18)
弊社刊行書籍『食いしん坊な脳 うつになる脳』(Dr.Stephen Juan著:2001年12月21日刊行)につきましては、内容に関し一部の方々から不適切な箇所がある旨のご指摘をいただきましたことを重視し、弊社からの出荷を中止すると共に書店から回収する措置をとりました。図書館の貸出しご担当者各位におかれましては、上記事情にご留意の上、ご収蔵の上記書籍のお取扱いにつきましてご慎重を期されますようお願い申し上げます。 2002年2月18日 中経出版
中経出版ホームページに、以下のような措置がとられたと報告されました。(2002/03/03)
2001年12月21日弊社刊行の書籍『食いしん坊な脳 うつになる脳』の内容の一部に、アスペルガー症候群に関する重大な誤りの記述がございました。弊社では早速本書の出荷を一切中止し、次いで、全国の書店から本書を一斉回収する措置をとりました。アスペルガー症候群でお悩みの方々ならびにその正しい理解の普及のためご活動なさっておられる皆様そしてご関係の皆様に多大なるご迷惑をお掛けいたしましたことを衷心よりお詫び申し上げます。弊社は二度と今回のような事態を引き起こすことのないよう最大限の努力をしてまいる所存です。 【図書館の貸出しご担当者様】もし貴館にて本書を収蔵しておられます場合はご返品をいただくか、あるいは上記事情ご勘案の上、そのお取扱いにくれぐれもご慎重を期していただきますようお願い申し上げます。(中経出版)
[絶版決定]2001年12月21日弊社刊行の書籍『食いしん坊な脳 うつになる脳』は、英文の原著の一部を省いたのち改編して日本語に翻訳したものですが、アスペルガー症候群に関する日本語訳の一部に重大な誤りのあることが、社団法人日本自閉症協会東京都支部様をはじめとするアスペルガー症候群ご関係の皆様からのご指摘ならびにご教示によって判明いたしました。弊社では早速本書の出荷を一切中止し、次いで全国の書店から本書を一斉回収する措置をとりました。アスペルガー症候群でお悩みの方々ならびにその正しい理解の普及のためご活動なさっておられる皆様そしてご関係の皆様に多大なるご迷惑をお掛けいたしましたことを衷心よりお詫び申し上げます。弊社は二度と今回のような事態を引き起こすことのないよう最大限の努力をしてまいる所存です。(中経出版)
日本自閉症協会東京都支部ホームページの「お知らせ」に、経過が追って報告されています。
[要チェック!]交渉内容とその回答・関連資料など、随時更新されています。
- この本には、一部、誤解に基づく間違った記述があります。
- 本書中に引用されている論文の解釈にも、誤りがあります。
- 全体の構成や訳語の選択にも不適切な箇所があります。
- 原著からの著しい逸脱があり、アスペルガー症候群への誤解をまねいています。
- 全国のアスペルガー症候群の人々、そしてその家族を深く傷つけています。
「自閉症協会・東京都支部」と出版社との交渉の結果、回収・絶版が決まりました。 図書館に対しては、取り扱いを慎重にするようにとのお願いが出されています。
ここにこのような記事を掲載しているのは、国民の“知る権利”と“言論の自由”が保証されていることに、異議を唱えるものではありません。また、情報操作しようとか、不都合なことが書かれている本を排除しようとするものでもありません。普通の人と同様に、アスペルガー症候群の人”も”触法行為をすることがあるでしょうし、そういう事実を隠蔽しようとするものでもありません。
ただ、ここで後に引けないのは、この問題が障害の理解と受容に直結する重大な事柄にかかわるからです。アスペルガー症候群の子どもは、一見、攻撃的と解釈されてしまうような行動をしてしまうことがあります。でも、そのような行動には、認知の障害や、不安によるパニックといった原因があることがほとんどで、単なる善悪の分別の次元ではなく「障害」としてとらえ、行動の「結果」ではなく「理由」に対して対応することが必要なのです。それは、「生まれながらの悪」とは程遠いもので、医学上の分類としても間違っています。
学問上の研究成果には、反対意見や違う考え方があって当然ですが、このケースでは科学的な根拠を欠いた風評に基づく記述が多く、世間の誤解と偏見を助長するものという点に問題があると思っています。⇒この監修者の他の著作から。
(2002/2/12)
(2002/2/18)
(2002/2/23一部書き換え)