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クトゥルフの呼び声~クトゥルフ・ハイパーボレア~

番外:乙女に映しておぼろげに
 

1.怪しい執事

 「ここですよ~。我が故郷は!」
 リズがにこにこしながら言った。冒険の帰りに立ち寄った、それなりに大きい街のこれまた
貴族の邸宅だと思われる、それなりに大きい屋敷の前で。
 「サー・アンダーソン邸?あんたと姓が違うじゃん。」とはトリシア。
 リズはにこにこしながら、表札の下を指さす。そこには小さく「アンダーソン孤児院」とあった。
 「意外ですね。リズは孤児でしたか・・・」とはリタ。
 (それで、こんなにたくましいのか・・)とリーヴィは思ったが、当然口には出さなかった。が・・・
ペシ!と額を叩かれた。
 「何すんだよ・・・・」
 「・・・・なんとなく・・・ま、勘ですわ」
 いけしゃあしゃあとリズが言う。勘ではたかれてはたまらないが、悔しいことに当たっているの
で、ぐうとリーヴィは文句の言葉を呑み込んだ。
 リズが呼び鈴を押すと中から、リズそっくりの娘がでてきた。再会の言葉を交わしてから、リズ
が紹介した。
 「双子の妹のジェシカですわ。」
 「あんた双子だったのか・・・・・・」ぼそっとトリシアが言う。
 「ジェシカです。ジェスかジェシーと呼んで下さい。今はここの院長代理をしてます。」
 「・・・・・・・・。」。リズと言ってることが同じだ・・・・まさか、性格も同じなのでは・・・。
 中に入ると主のサー・アンダーソンと妻のベアトリス・・・娘のメアリーとその夫(婿養子)のニー
ルを紹介された。館の中は玄関から部屋まで、様々な調度品があり、ちょっとした博物館状態だ
った。
 どうみても孤児院っぽくないが、リズをみつけると子供たちが「リズ姉ちゃんだ」と集まってきた。
結構、人気者らしい。

 夕食がは子供達も一緒なのでかなり賑やかだった。
 食堂も高価そうな壺やら、絵画やらが所狭しと並んでいる。今、手にしているワイングラスも、かな
りの値打ちものだと思われたが、メアリーが笑いながら「全て、贋作ですわ」と笑いとばした。
サーも、ベス(ベアトリス)もリズも笑いながらうなづく。
 「うーん。やっぱり、孤児院らしくありませんね。何か経緯があるんじゃないですか?」
突然、質問したのは、シンシアだ。何やら考えこんでいたが、そんなことを思っていたらしい。
 「あー。前は別のとこであたしが、経営していたんだけどね。」
と言ったのはベスだ。50にさしかかろうか・・・という歳らしいが、まだ、30代で通用する容姿と性格
の持ち主らしい。
 「アレからですね~。」美味しそうにワインを呑みながら言う。
 「あれって?。」とリタが問う。
 リズとジェスが顔をあわせて「ふっふっふ」と笑う。やはり、リズが二人だ・・・とリーヴィは思った。
 「我が、幼少の懐古録をお聞かせしてしんぜよう・・・」

 その頃の・・リズがまだ8歳の頃・・孤児院はアダーソン邸から少し離れた、街の片隅にあった。
院長のベアトリスが面倒をみているのは、リズ姉妹を含め12人。
 ベアトリスは30代半ばの女性で、未亡人だとか離婚したとか言う話だが、真相は分からない。
 運営費用は、ベスの裏家業から捻出されている。裏家業とは、盗品の贋作作りや、盗品の売買と
言ったそういうことだ。当然、一番年長のリズ姉妹と餓鬼大将肌のレイフ以外の子供たちには内緒
だが。勿論、ベスは孤児院をやっているからと言って、子供達を売りさばく・・・人身売買をするような
悪人ではない。善意で運営していた。
 ある日のこと、孤児院にニールが訪ねてきた。
 「あ、またあいつだ・・・。」レイフがいやそうな顔をする。ニールはメアリーのとこの執事だ。メアリー
は貴族だが、自由奔放な少女・・・もう16なので、リズたちより8も上だったが・・だったので、それ
なりに交友があった。
 アンダーソンは、先祖が泥棒で財をなし、今、館にある調度品は全て盗品だ、と言う噂もある。
 「最近、良く来るね。ベスの新しいパトロンかしら・・」にやにやしながら、わざとジェスが言う。
 「そんなわけあるか!」レイフが返した。
 実はレイフはメアリーに好意を寄せていたが、メアリーはニールに好意をよせており、後々は夫婦
になるだろう・・・と言う噂なので、ふたまたをかけているあの男が嫌いなのだ。
 二人が院長室に入っていくと、ドアのところに集まって、聞き耳をたてる。
 中からは断片的に「またなの?」「今度何の贋作を?」と聞こえてきた。どうやら、最近、頻繁に訪
れるのは、ベスに贋作職人の仲介を頼んでいるらしい。
 「メアリーのとこの執事がなんで、贋作なんか必要なんだろう?」とレイフ。
 「そういえば、メアリーのとこって、たくさん壺やらなんやらあったよね。」リズが囁く。
 「まさか・・・・それを偽物とすりかえて、お金にしてるのかしら?」とはジェス。
 「それ、大変なことだろ・・・・」
 「でも、ゆくゆくは苦なく自分のものになるんだから、そんなことする必要ないんじゃないかしら」
 リズが当然のことを言う。
 「もしかしてさ・・・あいつ詐欺師かなんかじゃない?」ニールを悪人にしたいレイフが言った。
 「うーん。」今すぐお金が必要な感じには見えないし、そうだろうか?とリズ姉妹はうなった。

2.アンダーソン家の人々

 そんなことがあった数日後、メアリーが手作りのクッキーのおみやげを持って孤児院に遊びにきた。
 「お前んとこのさ。ニールさ、なんか怪しくね?」
 クッキーをつまみながら、レイフが早速言う。
 メアリーは一瞬きょとんとしたが、ため息をついて「良く分かったわね」と言った。
 「と、言うと?心当たりが?」リズが問う。
 「実は、この間、偶然みちゃったのよ。ニールが、廊下にあった花瓶をそっくりなものとすり替えて
いるのを・・・」
 「それって、泥棒じゃん・・・・」ジェスが言う。
 「それ、親父に言った?」
 「うーん。どうしようかなーと悩んでるとこ。」
 メアリーはニールに好意をよせていたので、迷っているらしい。
 「よし、メアリーの家から本物がなくなる前に、ニールの尻尾をつかんでやる」
 レイフが息巻く。「・・・このおませが・・・。」ジェスが呟いたが、幸いレイフには聞こえなかったらし
い。
 「できれば、こんなことはやめるように言ってね」
 メアリーに念を押され、しぶしぶながらレイフはうなずいた。

 それから、ニールの後を尾行すると、外出する度に3~4軒の家を訪問するのが分かった。
 「何してるのかしら。」ジェスが呟く。
 ニールが訪問するのは、中流以上の裕福な家ばかりだ。
 ニールがウイルキンズと家を訪問して帰った後、その家の人に何しにきたのか、聞いてみたら、
 「いえね。トイレを貸してほしいって。」とその家の奥さんは言った。
 「トイレって・・・」うーん、と3人で首をひねる。
 「まさか、メアリーの家では飽き足らず、そこら中の家の骨董品を盗んでるんじゃ・・・」リズが言う。
 「その為に、贋作作りの依頼をベスに?」ジェスが答える。
 「じゃあ、凄い大悪党じゃないか。」とは、勿論、レイフ。
 「そういえば、さっき玄関から見えた壺、院長室にあった贋作と同じものだったわ」
 目ざといリズがいった。
 「それじゃ、やることは決まりましたね・・」二人で、ふっふっふと笑う。
 「・・・・?。さっぱりわかんね。」レイフが一人ごちる。
 「だから、今夜、私達が、忍び込んで、その偽物を本物とすりかえるのよ。」
 「そうすると????」
 「だーから、あたし達が、先にすりかえておけば、ニールは、知らずに偽物を本物をすりかえる
ことになるわけ。」ジェスが説明した。
 「あ。なるほど・・・・お前たち頭良いな」
 ほめられるほどのことじゃないと思うが・・・とは二人とも口に出さなかった。

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