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クトゥルフの呼び声~クトゥルフ・ハイパーボレア~

第3話:CRY FOR HELP
 

1.怪しい傭兵

「それにしてもものものしい警備ですね」。
「重要な情報をもってるのだろ。」
 シンシアが呟き、それにリーヴィが答えた。拠点情報をもってるらしい
ヴーアミ族の高位司祭(?)をツコ・ヴルパニミから新首都ウズルダロ
ウムに護送する途中のことである。
 勿論、護送は軍が行っているが、リーヴィ達のほかに、傭兵や冒険
者も数多くみられる。鬱蒼と茂る森の中を首都目指して、結構な人数
が進んで行く。出発してから3日、明日には森を抜け、あさってには到
着する予定だ。
「こんだけものものしいと、逆に目立つんじゃないか?まあ、うちらは、
 依頼料もらえればそれで良いけど。」
とトリシアが言う。
「確かにね。ま、国にお金が有り余ってるなら、そのおこぼれに頂戴す
 るさ。」とネス。
 その辺のことはお構いなしに
「それにしても雲1つない良い天気ですね~。」のほほ~んとリジーが
言い、即座に「森の中で空が見えないだろ・・・」とトリシアに突っ込みを
入れられる。
「いいえ、私には見えるのです。ツァトゥグアさまがいつでも心に太陽
 を、与えてくださっています。」
 良く分からない理屈だが、リジーにとってはそうなのだろう・・とリーヴ
ィは妙に納得した。
 襲撃の気配もなく、暫くするとお昼になった。一時休憩になり、護送の
メンバーが思い思いに休み、昼食をとる。
「具合が悪いようですが、大丈夫ですか?」
 昼食をとっている時、リタが近くの傭兵に声をかけた。リーヴィが目を
やると、確かに土気色の顔色で、貧血気味な感じだった。
「ああ。大丈夫だよ。それに今、幸せなんでね。」
 青い顔をむけて、その傭兵がにた~と微笑む。元は、精悍な戦士だろ
うと思わせるような感じだが、今は見る影もない。
「そうですか・・・お大事に。」
 リタもすぐに引っ込む。どんな事情があるかは知らないけど、他人のプ
ライベートに土足で入り込んでも仕方のないことだ。
「あれ・・手首に包帯まいてるね。血がにじんでる。」
 トリシアが小声で言う。リーヴィも見て見るると確かにその通りだった。
単純にリーヴィは傭兵なら、怪我もするだろうと思ってしまうのだが、
「この3日間、戦闘なんてなかったし、まだ新しい傷なとこみると、自分
 で傷つけてるんじゃないか・・・多分。」とトリシアが付け加える。
「何のために、そんなことを・・・?」
 ?マークでリーヴィが問う。
「さあ、知らない。そういう趣味なんじゃない?。」とトリシア。
「世の中にはいろんな趣味の方がいますね~」関心したようにリタ。
「絶対、希少価値高い趣味だと思うけど・・・・。」うーむ、と考え込もうと
したけど、やっぱり他人の性癖について思いめぐらしても仕方ないので
すっぱり忘れることにする。

 昼食が終わり、そろそろ出発の準備をしているところにヴーアミからの
襲撃があった。何とか撃退したものの、かなりの規模の集団で、こちら
側にも少なからず被害がでた。
 さっき、リタが声をかけた傭兵・・・イーヴィトンはその顔色の悪さに似
合わず、獅子奮迅の活躍で、ブーアミ人を一刀両断にしていった。
 リーヴィは顔に似ずではなく、顔色に似ずと思わず言いそうになった位
だ。が、同じ戦士としては、その活躍ぶりに感嘆する。
「凄いね。僕もあなたのようになりたいですね。」
と声をかけると、
「たいしたことじゃないさ・・」
とやはり、本来であれば、精悍な笑みなのだろうが、今は弱弱しく微笑む。
「ところで、気になったのだけど、ヴーアミ人が言ってた『我々の宝を返せ』
 って何のことだろう?」
とリーヴィが口にした途端、イーヴィトンは、警戒した表情と冷たい目にな
って「しらんな。」と、もう話すことはないとばかりに見えない壁を作った。
 リーヴィの見たところ、今回の襲撃は護送に半分、イーヴィトンに半分集
中していたような気がする。イーヴィトンが何か、ヴーアミの宝でも持ってい
るぼだろうか・・・。休憩時間になれば、背負い袋とかは無造作におくし、
それほど大切にしているものを持っているとは思えないのだけど。持ってい
るとすれば、常に身につけているものだろうか・・・。
「多分、あの手首の傷とか、体格に似合わないヴーアミ人を一撃で倒す、
 パワーとかと何か関係があるんじゃないか?」冷たくあしらわれ、皆の所
に戻ってきたリーヴィにトリシアが言う。
 トリシアの言うように、彼の剣は巧みな技巧で斬りつける類のものではな
く、どちらかというと力で叩くタイプだった。
「呪いの品とかでなければ良いのですが・・・。」
 シンシアの心配ももっともで、あの今にも倒れそうな貧血気味の顔色から
は、『絶対に何か呪いがかかっている品』としか思えない。
「呪いの品と言うと、イホウンデーのエムボスのついたダーク(短剣)のこと
 ですね。」とリジーが言い、皆から「絶対に違うと思う・・・」と否定された。
後々、ダークなのは、偶然にも合っていたのが分かったのだけど。
 それにしても、ヴーアミ族の襲撃からの護衛の為に雇われている本人が
狙われているのでは、本末転倒ではないか・・・・。

 その後、襲撃もなく夜になり、夜営をすることになった。明日はやっと、視
界の悪い森を抜けることができ、首都まで目と鼻の先になる。森の中を進
軍したのは、当然目立たないようにするためだが、一長一短でこちらからも、
どこに襲撃者が潜んでいるか分からない。初めて襲撃があったこともあり、
警戒を強め3分割で夜哨を大目にとって、その日は何事もなく終わる・・・・
はずだった。


2.ヴーアミ族の秘宝

 その夜。リーヴィ達の他にもイーヴィトンの持つ「宝」とやらに関
して聞いていた者がいたらしく、数名の傭兵がイーヴィトンを取り
囲んだ。
「おい。宝って何なんだ?お前が持っているのだろう?。」
「見せてみろよ。」
 口々に言う。イーヴィトンも別に隠すつもりはないのだろう、懐か
ら取り出すと「ほら、これだよ。」と言う。
 それは何の変哲もない一振りの漆黒のダークだった。
「これが・・・?」
 傭兵達は落胆した。仕方ないだろう。財宝と言うからには同じ
短剣でも宝飾されたものとか、そういうのを誰だって想像する。
「何で、こんなのが宝なんだ?どっかの集落にまつわる昔話でも
あるのか?」
 少し離れた場所で聞き耳をたてていた、リーヴィ達も、当然の
疑問だと思う。
「これを使うとハッピーになれるのさ。」
 少し自慢気にイーヴィトンが言う。
「ハッピー?なんだそりゃ?魔法剣か?。」
 と一人が口にしたん
「いや。こうするんだよ」
と、あろうことか、左手の手首にまかれた包帯を外し、自分の手
首をそのダークで斬りつけた。その手首には幾つもの銃創があっ
た。何度もこの行為を繰り返しているのだろうと容易に想像できる。
「おいおいおいおい・・・。」
 逆にあわてたのは傭兵達の方だ。だが、当のイーヴィトンの方は
全くお構いなしに、陶酔しきった表情をしている。
「ああ~。幸せだ・・・。」
 リーヴィと一緒に傍から見ていたトリシアが、凄い嫌そうな顔して
「なんだありゃ。そういう趣味なのか?」と呟く。これにはシンシアも
リジーも全員頷く。
「奇妙だね。」とネスが呟く。「何が?」とリーヴィが問い、
「血が滴り落ちない。丸で、あのダークが血を吸っているように見え
る。」と言われよく見れば、その通りだった。吸血してるように見え
なくもないし、そう言われると血を吸ったことによりより闇に近い色に
なったような気もする。
 当のイーヴィトンの方は「お前達にもこの幸せを分けてやろうか?」
と勧めたりしてる。
「いや。俺は・・・・」と皆、嫌そうな顔して辞退したが、一人・・・一番
屈強そうな戦士が
「面白そうだ。やってくれ。」と冗談交じりに左手首を差し出す。
 周りは当然のことながら、この人里離れた何もないところなので、
酒の肴の余興になるので、はやし立てた。
 リーヴィも、まあ、あの体格だ、この程度の切り傷大丈夫だろう・・
と思う。リジーは勿論のこと、既に「大地の恵み」を飲んでいるので
面白そうに眺めている。
「じゃあ。」と言って、イーヴィトンがダークで、その戦士の手首を斬り
つける。
 恐らく、イーヴィトン以外は、何事もなく、笑い話で終わるのだろう
と思っていたはずだが、その予想は覆された。
 イーヴィトンが斬りつけた瞬間・・・・やはり血はしたたり落ちず、
吸収していると思われた・・・その戦士に変化が現れた。イーヴィトン
と同じく陶酔した表情で
「ああ。幸せだ・・・。」と呟いたのである。
「おいおい。しっかりしろよ。どうしたんだよ。ルザール。」と戦士の傍
らにいた、恐らく相棒であろう戦士が声をかける。
「やっぱり呪いの魔剣かね~。リズが言ったのとは少し違うけど。」と
トリシアが呟く。
「少し危険な代物ではないでしょうか・・・。」とリタが言った通り、イー
ヴィトンと戦士・・・ルザールで「それを俺によこせ」「だめだ。幸せは
分けてあげられるけど、これはだめだ。」ともみ合いになっていた。
 最初はこれは面白いことになったと、「やれやれ」とはやし立ててい
た傭兵達も、ルザールがグレートシャムシール(大太刀)を抜くに至っ
て、「これはまずい。」ととめ始めた。
「たかがダーク1本でやめろ。本当にどうしたんだ?」と間に入った相
棒をルザールが大太刀で一刀両断にした。
「相棒を斬るとは。。。こいつは尋常じゃない!。」と他の傭兵達も剣
を抜く。
「やはり、呪いの品か!!。」と真っ先に戦闘準備に入ったのはトリシ
アだった。

 そろそろ日も上がろうかという頃、リーヴィは、仲間達に他1名の計
7名で森の中に佇んでいた。
 あの後は、大変だった。平穏な夜は破られ、阿鼻叫喚の地獄絵図
とはこのことじゃなかろうか・・・と後々、思ったほどだ。
 イーヴィトンを押さえつけようとした傭兵3名は、呪いの効果かいとも
かんたんに投げとばされ、ルザールは元の怪力にプラスして邪魔する
傭兵達を切り刻んで行く。騒ぎを聞きつけた兵士達も混じって、野営地
は一変して血なまぐさい戦場と化した。しかも、バーサーク(狂戦士)化
効果があるのだろうか・・・幾ら斬っても相手は痛みを感じてる気配がな
いのである。
 それに混じって、その「宝」の持ち主であろうヴーアミ族の襲撃もあり、
敵味方おかまいなしに叩き斬っていた二人のバーサーカーがこときれる
までに、生き残ったのはリーヴィたちだけになってしまった。
 軍の指揮官がこときれる前にリーヴィに任務の継続を譲渡したので、
運良く生き残った他一名こと、捕虜のヴーアミ人が傍らに縄で縛られて
佇んでいる。
「とりあえず。この6名で後、二日の行程をこなさないとならないのか・・」
トリシアが、絶望的に呟く。
「このダークどうしましょうか・・・。」例の呪いのダークことヴーアミの宝を
弄びながら、シンシアが言う。「呪術師としては少し興味ありますが・・。」
と付け加える。
「捨てた方がよさそうだ。」とリーヴィは判断した。襲撃の半数はこの宝が
目当てだからだ。
「捨てるのは、ダメだ。」とヴーアミ人の捕虜・・・高位司祭らしい・・が初め
て口を開いた。

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