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クトゥルフの呼び声~クトゥルフ・ハイパーボレア~
第2話:狐狩り
1.皆さん、今度は冒険者らしい依頼です!
後に「ヴィレッジ・ジェノサイド事件」と呼ばれることになる
前回の依頼の後、リズを除く、リーヴィたち一行は街の酒
場でうららかで平穏な一日を満喫していた。・・・つまり、あ
いもかわらず暇していた。
が、以外にも懐は結構暖かかったりする。
あの後、リズがどのような根回しをしたのかは知らないけ
ど、”成功報酬”として規約よりも50ほど多い、1人250G
もの報酬がツァトゥグア神殿から支払われたからだ。当然
の如く、リズの地位もあがっていて、今では、ツァトゥグア神
殿の司祭さまである。重要な会議にも顔を出すことを許可
されているらしい。
そこへ、”閣議”に参加していたはずのリズが帰ってきた。
「みなさーん。お喜び下さい!依頼ですよ~。」
なんだか、デ・ジャヴを感じさせるシーンだ。
「おお~!」と一同が声をあげる。
これもどこかで見たような気がするな・・・とリーヴィは頭を
抱えたくなった。
違うのはリズの傍らに兵士か衛士をおぼしきプレートメイ
ルを着込んだ精悍な顔付の青年が立っていたことだ。
「依頼ですか?それより、そちらの方は?」
前回の事件の後に仲間になったため、依頼は初めてなリ
タが聞く。
「依頼はですね~」リズが朗らかに言い「ま、その前にこち
らへ・・」と衛士を促し、自らもリーヴィーたちのいるテーブル
につく。
「あ。大地の恵み2つね」と注文する。自分と、その衛士の
分だろう。それだけなら良いが、
「当然、リーヴィのつけね」と付け加える。
これは聞き捨てならない。
「何で僕のつけなんだよ?。しかも僕の分はないし・・・」
「ま、細かいことは気にしない。”ブラッドバス・リーヴィ”の
通り名が泣きますわよ。」
「気になるわ!それに何だよ、ブラッドバス・リーヴィって、
そんな通り名聞いたこともないし、呼ばれたこともないぞ。」
「当たり前ではありませんか。今、私が思いついたのです
から。」平然と言うリズ。
「えーと・・・・よろしいでしょうか?」
彼らのやりとりを半ば唖然と聞いていた衛士が声をあげた。
「はいはいはい~。いいです」
とリタが言う。こういうキャラだったっけ?とリーヴィは思った。
「私は衛士隊の小隊長をしております、アルザークと言いま
す。実は・・・」
アルザークの話によれば、度重なるヴーアミ族の襲撃の
被害を受けている街からの依頼があり、今度大規模な討伐
作戦ーー山狩りが展開されるそうだ。
この世界の衛士は、治安維持を目的とした兵士で、現代で
言えば警官機構としての職務を一番としているので、このよう
な作戦の立案・遂行をする。
前回の「事件」で少なからず有名になった~~この影にはリ
ズが何らかの風聞を流した・・とリーヴィは思っている~~リー
ヴィたちにも、討伐隊の1員として白羽の矢がたったというわ
けだ。
ブーアミ族とは、ブーアミタドレス山脈をネグラにしている蛮
族のことだ。違う星から来た人間に酷似した生物と人間との
混血から生まれたとも言われているが、定かではない。
「本営は、ヴーアミタドレス山脈の北東に位置するエムボスで
す。そこまでの移送は衛士隊で行います。」
勿論、そこまでの費用や、エムボスで宿泊費等は全部、国
家の支給だ。
「当然、受けますよね?」
にこにこしながらリズが聞く。どこから”当然”と言う言葉がでて
くるのか分からないが、すでにやる気だ。
「まあ、暇だし、いいんでない?」
トリシアは相変わらず。
「僕も、構わないよ。依頼元が国家なら、数十年前のように首
都が壊滅しない限りは報酬が支払われないことも、ないだろう
し」とはネス。
「して、報酬額のほどは?」
と聞いたのは、言うまでもなくシンシアだ。
3日後、エムボスの街に一行はいた。
「結構、栄えているわね」
トリシアの感想通り、石作りの街には活気がり、人々の表情
も明るい。だが、路商の影の塀がかけていたり、石畳に血糊の
跡があったりと、かすかに襲撃の跡もみてとられた。
「では、作戦決行は明日の09:00です。今日は、各自休養をと
って下さい。」
討伐隊の指揮官である、アルザークが、リーヴィ達冒険者に
向かって言った。
討伐隊は2分編成で、衛士たちと、冒険者達にわけられてい
た。衛士隊はヴーアミ族が拠点としていると思われるところまで
軍事的な作戦行動を行う。リーヴィ達冒険者は脇から遊撃隊と
いて、衛士隊のとり逃したヴーアミ族の駆逐を行うことになって
いた。
衛士隊は一ヶ中隊ほどいた。その隊長であるから、アルザー
クはかなり身分の高い人物なのだろう。そんな人物を、酒場ま
でほいほいつれて来て、直に依頼の話をさせてしまうのだから、
リズも、かなりの大人物か顔の皮がプレートアーマーの装甲より
も厚いかのどっちかに違いない。
一ヶ中隊は四ヶ小隊から編成されていて、一ヶ小隊が約40名
ほどだから、衛士隊だけで160名・・・その他に冒険者が50名
ほどいるから、かなり大規模な作戦である。
「では、お言葉に甘えて、明日の決戦のために、禊の儀式でも
行いますか!」
リズの言う「禊の儀」とは、当然、お酒を飲むことだ。衛士隊員
には自由時間などないが冒険者は関係ないので、明日の朝ま
では何をしていようと自由だ。
「二日酔いにならない程度にね。」
黙ってれば、一晩でも飲み続けるリズにシンシアが釘をさした。
2.ヴーアミ族討伐隊
リズにつき合わされ、明け方まで飲んでいた一行は
酒場の2階の宿屋で、思い思いに寝転がっていた。
「起きなさい、朝ですよ~。」
リズ以外は・・・。
「うわっ。なんだこりゃ・・・あてて・・頭いたい・・」
目の前に、突然、ツァトグアの落とし子の姿が現れ、
驚いたリーヴィであったが、すぐに二日酔いの頭を抱
えた。
「どうですか。ツァトゥグア神の落とし子の目覚めのキ
スの味は。」
手のひらサイズのツァトゥグアの落とし子の木偶を
もてあそびながらリズがにこやかに言う。
「気持ち悪い・・・」
勿論、木偶が気持ち悪いこともあるが、半分は二日
酔いで、と言う意味だったが、
「気持ち悪いとは何事ですか。今すぐこの落とし子さま
に謝りなさーい。」リズが憤慨する。
「何故・・・・あやまらなければ・・・」
「接触して、神罰をくだしますよ」
「・・・ごめんなさい・・・・」
ツァトゥグアの落とし子を召還されてはたまらないの
で木偶にむけて頭を下げなら、リーヴィは世の中の不
条理を感じずにはいられなかった。
その後、リズが、面々を起こしてまわり、二日酔いで
重い頭を抱えつつ、何とか出発の準備が整った。
しかし・・・と、リーヴィは思う。リジーが一番飲んでい
たはずだが、一番元気だ。あの大量の「大地の恵み」
と「清めの水」はどこへ消えたのであろうか。人間の姿
は仮りで、実はリズ本人がツァトゥグアの落とし子なの
ではなかろうか・・・
討伐隊は、まず衛士隊が整列し行軍する。その後に冒
険者たちが続いた。
山のふもとまで来たら、冒険者たちは散開し、遊撃を行
う手はずになっていた。本隊はそのままヴーアミ族の拠
点までは、斥候を放ちつつ進み、途中に集落が見つかれ
ば、これを襲撃する。
少し、いきあたりばったりな感もあるが、小集落を見逃す
わけにもいかないので仕方ないのかもしれない。
その日は2つの小集落への襲撃と、冒険者たちは数度
の小競り合いがあった。このペースなら、明後日の朝には、
目標拠点につけそうだ。
ヴーアミ族が夜行性だという話は聞いたことないので、も
しかしたら、朝までまたず、夜討ちになるかもしれないが。
冒険者たちは衛士隊を中心に、その周りで各々、野営
することになった。冒険者が衛士隊を守る形になる。
衛士隊は戦闘・治安維持のプロではあるが、こういった
状況では冒険者の方に利がある。
村娘だったので炊事に慣れているリタが支給された食料
を温めなおしていると、ネスが
「向こうに明かりが見える」と言った。
狩人な分、野外活動は得意分野だ、多少の夜目も利く。
言われて、目をこらすと、森の木々の間に、かすかに”明か
りかも?”と思うものがリーヴィにも見つかった。良く発見で
きたものだ。
「動かないから、僕たちと同じ夜営か家か何かの明かりか
な。」とネスが続ける。
「ちょっくら、アルザークに報告してくるわ」
とトリシアが腰をあげ、ほどなくして、2人の衛士をつれて帰
ってきた。
「この二人をつれて、見てきてくれってさ・・・」
全員で行っても仕方ないので、すばやく食事をすませ、
リーヴィとネス、トリシア・・それに衛士2人の5人で見に行く
ことにした。神官のリズもいると心強いが、リズは当然の如
くすでに飲んでいる。
木々をかき分け、100m位進むと、ヴーアミ族の建物とは
異なる・・・つまり人間のものと思われる・・・一軒の家が見え
てきた。窓から明かりがもれているので、人が住んでいるら
しい。
「こんなところに家があるなんて・・・」
衛士も知らないらしい。それ以前に、こんなヴーアミ族が跋
扈する場所に住んでいることが不思議だ。
とりあえず、訪問してみることにする。何だか怪しげな山姥
でもでてきそうだったが以外にもでてきたのは、20代半ばの
女性だった。
「何でしょう?」
衛士の一人が事情を説明すると、
「そうですか・・・父がここで研究に没頭しているものですから、
世間のことにはうといもので・・・」
その娘・・・コーリヴィアの話によると、父と兄の3人暮らしで、
母は早くに亡くなり、父はエンレベルクという、エンボスの街で
はそれなりに有名な学者であったが、息子であるメルレバクト
・・・コーリヴィアにとっては兄・・・・が難病にかかってからは、
ここで治療の研究に没頭しているそうだ。
この世界では学者のことを賢者という。賢者には世捨て人の
ように学究にのみ情熱を傾ける者が多いが、いささかこれは世
を捨てすぎな感もしないではない。それに、ここは危険な場所だ。
「ま、そういうわけですので、十分に気をつけてください。では
失礼します。」
作戦の支障になるようなことがないので、衛士が辞する挨拶
をした。
リーヴィたちも、別にとどまる理由もないので、夜営地に戻る。
賢者は様々な知識に精通していて、色々な助言を与えてもらう
こともあるが、その分、考え方が常人の理解の範囲を超える場
合が往々にしてある。エンレベルクも、その一人なのだろう・・・
とは思うが、ちらっとトリシアとネスを見ると、どこか釈然としな
い表情だった。
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