猫のお伽噺

ある朝、目を覚ますと、ロイは猫になっていました。


いったいこれはどういうことだ…?!


ふかふかした両手を見て、ロイは思わずそう叫びました。なのに出た声は「フニー!」という猫のうなり声でした。ベッドから降りて(降りるのだって華麗ににゃんぱらりです)あわてて鏡を覗き込むと、そこには本当に普通の猫がいました。いえ、普通の猫よりかわいくない気がします。真っ黒だし、背中に大きな三日月形のやけどがありましたから。


どこかの錬金術師のいたずらでしょうか。
それとも悪い夢?


ぴょんと飛びあがった窓から見る景色は、いつものセントラルの街並みです。街全体があくびをしているような、靄がかった白い朝。隣のアパートの前へ車が止まり、コートに身を包んだ老紳士が運転手が開ける扉へ入っていきます。人間がみんな猫になってしまったというわけではなさそうです。ちょっとホッとしたような、がっかりしたような…。


こうしてずっと部屋にいたら、ずっとこのままなんじゃないだろうか。


ロイはそう思って鼻で窓を押し開け、初心者とは思えぬ猫らしさで、出窓を伝って路地へ降りていきました。