警固公園に難民キャンプ現る
国境なき医師団 難民キャンプ展
世界中の難民の数は、およそ1800万人。国内避難民の数は2000〜2500万人(*1)。
全世界では4000万人もの人々が家を追われ、不安な生活を余儀なくされている。
日本の難民の受け入れは非常に消極的で、昭和57年の難民認定制度導入から、平成14年末までの申請数は2782件。
うち難民と認定されたものは305件、不認定は1932件となっている。(*2)
そして多くの人を難民と認めない上に、さらには国内に住んでいるアフガンの人々に対して強い弾圧とも言える処分を科しているのが現状だ。
しかし、それら難民の問題は一般の人とはかけ離れた存在であり、我々の身近に感じることは残念ながら非常に少ない。
それは、国やジャーナリズムの姿勢でもあるだろうし、知っているものの広める努力の不足かもしれない。
今回は、難民になったと仮定して、天神に設けられた難民施設に入り込むこととしよう。
それにより多くの難民のおかれている立場が少しでも理解できればと思う。
*1 MSFパンフレット
*2 外務省ホームページ
難民申請
まずは、難民登録を行う。
この”難民登録証”が無ければ、キャンプ内で食料の配給すら受けることが出来ない。
”難民登録証”を発行してもらい国境となるゲートをくぐりキャンプに入る。
多くの難民キャンプは数千人〜数十万人規模で形成され、たいていは街や都市のはずれに位置する。
例えば1994年ルワンダで大量虐殺が起こった際には、ザイールのゴマ近郊の広大なキャンプで100万人もの人々が生活せざるを得ない状況も発生している。
また、1999年に多くのコソボ難民が隣国のアルバニアへ流入した際には、多くのアルバニア人家族が難民のために数カ月間にわたって自宅などのスペースを提供した例もあるが・・
ここ警固公園では、数百人のキャンプが精一杯のようである。
住むこと
このような支援テントが割り当てられるのは希だ。このテントは通常の支援用。
キャンバス地で、しっかりとした作りである。これが割り当てられるとは今回は恵まれている。
緊急の場合等はブルーシートがこれからの我が家となることも多いらしいから・・
しかしながら、しょせん布1枚。雨露はしのげても、地面・大気中からの熱の放射をコントロール出来るわけはない。
単一家族用のシェルターが望ましいところだが、残念ながら、これからの長い間このテントに数家族が住むことになる。プライバシーなどあったものではない。
仮設トイレ
許可された領域内でしか難民は活動出来ない。もちろんその限られた領域内に住居をはじめとした施設が作られる。
トイレも例外ではない。トイレはキャンプ内の衛生を保つために非常に重要である。
基本的には、トイレは居住地から60メートル以上、600メートル以内の場所に作る。
もちろん水飲み場との位置関係も重要だ。そして今日はこの位置に作られているが、汚物で一杯になれば、また敷地内を移動しなければならない羽目になる。
また、トイレの習慣もその民族の習慣に従う必要があるのだ。メッカの方向にかがみ込むような作りでは、イスラムの人々は使ってくれない。
手を洗う習慣が無い土地では、衛生教育も必要であるが、彼らは得てして文字が読めないことが多い。
言葉の壁、文化の壁・・ この狭いキャンプの中でうまくやって行くのは、かなり難しい。
食料・水
食料の配給が有るらしい。多くの人が”難民登録証”を持って並んでいる。
テントの中で病気で寝ている家族の分ももらいに来ている人もいるようだ。
今日は、いつも食べ慣れている豆や穀物の支給は間に合わなかったようで、非常食BP−5が配られる。
こいつは、カロリーメイトと落雁を合わせたようなもので、かなりポロポロだ。お世辞にもうまいとは言えない。
このパックの中の小さな紙包み1個が1食分だ。毎食これではたまったもんじゃないが、必須栄養素は充分とれるらしい。
キャンプ内では”難民登録証”の強奪も頻発している。これがないと食料にありつけないのだが、ここでも犠牲になるのは女性、老人、子ども達だ。
水の問題も深刻である。
我々は1日に約20リットルの水を必要とする。暑い地域ならなおさらだ。
ここでは、公園の池の水を殺菌消毒して飲み水としている。
診療所
このキャンプに着くまで、栄養失調になっている難民も多い。特に子どもの状況は深刻だ。
栄養状態を調べるにはこの「命のうでわ(上腕周囲計測定帯:MUAC)」を使う。上腕に通した時の、その太さを計ることで判断する。
中には、上腕の直径が2センチに満たない子どももいる。軽度な患者には栄養補給プログラム、重症の患者には集中栄養治療プログラムを実施し回復を待つ。
また、予防接種も重要だ。このキャンプのような悪条件では、すぐにコレラが蔓延する。
難民および国内避難民が生じるような事態になると、すべての子どもを対象とする集団予防接種がすぐに実施される。
集団予防接種は様々な病気の大量発生を抑制できる最善の方法で、伝染病の発症が数例認められ、大量感染が心配される場合に開始されることになっている。
接種は、病気が発生した地域の中心で行い、難民や国内避難民だけでなく近隣の住民も含め、その地域のすべての人々に行き渡らせなければならないという。
接種はキャンプ内の施設で行うが、ワクチンは温度管理が重要だ。とにかく低温保存でないとワクチンがダメになる。
それに、使い終わった医療器具の処分も、この限られた領域内で処分しなくてはならない。多くは地面に穴を掘って埋めるのだが、
トイレで使用した後には無理だ。
コレラ
コレラが発生しても、このキャンプ内で処理をしなくてはならない。
その場合、キャンプ内の特別な地域に病人を隔離する。すぐに対処すれば致死率を1%以下に押さえることも出来るが、
へたをすれば、このキャンプ内で数ヶ月に渡り大流行する事態となる。致死率は50%を越えることもあるようだ。
閉鎖されたキャンプの中、この不衛生さと物資が不足している状況で、総てをまかなうことに限界を感じる。
外部からの支援なしには、キャンプは成り立たない。
地雷
地雷に関する教育をすることも、負傷者を増やさないために重要なことである。
被害に遭ってもキャンプ内で対処しなければならないからだ。
現在、世界中の多くの地域で地雷がばらまかれており、約80ヶ国に1億個近い地雷が埋まっている。
毎年15000人以上が死傷している。
地雷の製造にかかる平均費用は3〜30ドル。1つの地雷除去にかかる平均費用は300〜1000ドルである。
ICBL(*2)によると、現在の地雷除去率でいけば、世界中に存在する全ての地雷の除去に1000年以上、330億ドルがかかるとされている。
*2 ICBL 地雷禁止国際キャンペーン
住まい、食べ物、トイレ、診療所・・・。とにかく、生活する上で最低限の物はそろっているとはいえ、
これまでの住み慣れた土地で家族と一緒に過ごすのとは大違いである。
戦争が発生すると、それまで普通に暮らしていた人々が一瞬にして難民となり、国境を越え、異国の地で暮らす羽目になる。
難民となるか、難民を受け入れ側となるか・・・。いずれの立場でも、それは明日起こることかもしれない。
願わくば、1999年のコソボ難民が発生した時のように、民族の違いを尊重し、生活をシェアし、
お互いに助け合うことが、自然に出来るようなれればと思う。
何事が発生しても、決して憎しみで解決することなく、智慧と融和で乗り切ることが、
これからの世界に最も必要とされていることだと思う。
■国境なき医師団
■地雷廃絶日本キャンペーン
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難民:
1951年の「難民の地位に関する条約」では、難民は「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に
属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた」人々と
定義されている。今日、難民とは、政治的な迫害のほか、武力紛争や人権侵害などを逃れるために国境を越えて
他国に庇護を求めた人々を指すようになっている。
出展:UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)
国内避難民、紛争被災民:
紛争が原因で故郷から避難したものの国内にとどまっている人々のことを指す。
国内避難民は依然として自国当局の管轄下にあるため、難民とは異なり国際法の下で特別な保護を受けることができない。
地雷:
地雷は、人を殺すことよりも手足などを吹き飛ばし「けがをさせること」に重点を置いています。
地雷の本来の目的は、敵方の兵士にけがを負わせることで、敵の進行を遅らせ、国境や味方の軍事施設を守るためでした。
軍隊にとって、兵士を殺すよりも、けがをさせる地雷は有効な戦略手段だからです。
なぜなら負傷した兵士は放置できないので、敵に負傷兵を連れて帰る手間をとらせることができるからです。
また、治療・リハビリなど、長期にわたり人的・経済的負担を課すので、敵対勢力を消耗させることも可能です。
そして、対人地雷で手足を吹き飛ばされ苦しんでいる仲間を見て受ける精神的ショックによって、
戦争を続ける気持ちを無くさせることも計算され作られているのです。
※地雷廃絶日本キャンペーンサイトより
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