- 6月1日(木)
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- 大学の会議施設で研究打ち合わせをした。その施設自体は何度も使っているが、和室を使ったのは初めてである(他の部屋が予約で埋まっていたため)。
- 6月2日(金)
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- 6月3日(土)
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- 6月4日(日)
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- 週末。近所のパン屋さんで昼食を買った際に、おやつ用にとアップルパイを買って帰ったつもりだったのだが、アップルパイではなかったことに食べ始めてから気が付いた。ぼーっとしている。
- 6月5日(月)
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- 今日から一週間、愛媛大学の藤田博司先生に「集合論における独立命題」という表題の集中講義をお願いしている。表題には「集合論における」とあるけれども、今回の講義の特徴は、連続体仮説に代表されるいかにも集合論的な命題ではなく、むしろ集合論とは直接関係なさそうに見える命題の中にもZFC集合論と独立な命題があるということを紹介する点にある。うちの大学(院)には今のところ集合論方面を専門とする教員がいないので、放っておくと学生の皆さんがこうした話題に触れるチャンス自体がなさそうで、それは残念だと思ったので(あと、単に私自身が興味のある話題なので)今回の集中講義を設定した次第である。初日はイントロダクションということで、ZFC集合論の基本的な話と、そもそもある命題がある公理系と独立であるとはどういう意味であるか、といった概説的な内容だった。
- 6月6日(火)
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- 集中講義「集合論における独立命題」二日目。この日は整列集合や順序数の定義や基本的性質、最小の不可算順序数であるω1の定義、ω1の部分集合に関するいくつかの定義(CLUB集合や定常集合など)や、定常集合に関連する独立命題であるダイアモンド原理などの話。CLUB集合や定常集合まわりについては以前キューネン集合論の邦訳(訳者は今回の集中講義の講師と同じ藤田さんである)である程度勉強したのだが、久々で色々と忘れていることが多くて良い復習になった。
- 6月7日(水)
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- 集中講義「集合論における独立命題」三日目。この日は半順序集合に関する独立命題であるマーティンの公理について。マーティンの公理も、主張自体はそんなに変なものではないと思うのだけど、こんな命題が独立命題だというのだからやはり驚きである。
- 上記の件と関連して。組合せ論や離散数学の文脈でいう半順序集合の「フィルター」Fは上向きに閉じた(つまり、Fのある元よりも大きな元はすべてFに属する、という性質をもつ)部分集合のことなのだが、集合論の文脈でいう半順序集合の「フィルター」Fには上向きに閉じているという条件に加えて、Fのどの2元にも共通の下界がF内に存在するという条件が追加されている。このように数学の異なる分野で同一の用語が微妙に異なる意味で使われるということはそこそこ発生していて(ある意味で有名な例としては、集合論では「自然数」には0を含めるが整数論では0を含めない、など)、特に数学の非専門家の方から「紛らわしいから統一してくれ」といった意見が出ることもあるのだが、数学の分野は「数学全体を統べる唯一の権威」がいるわけではないのでこういう用語の統一はなかなか難しいのが現状である。たとえ話としては、日本には「同じ漢字を使っているが読みが異なる人名」が存在するわけだけれども、じゃあそうした人名の読みの統一が可能かというとそれは難しいわけである。
- 6月8日(木)
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- 集中講義「集合論における独立命題」四日目。後半戦に突入して、今回のメインディッシュであるホワイトヘッドの問題がようやく登場した。ホワイトヘッドの問題は(有限生成とは限らない)アーベル群(可換な加法群)に関する問題である。アーベル群Aについて、核が整数全体の加法群と同型である全射準同型B → Aが常に分裂する(逆向きの準同型A → Bで、合成A → B → AがA上の恒等写像となるものが存在する)とき、Aをホワイトヘッド群と呼ぶ。このとき、「ホワイトヘッド群はすべて自由アーベル群である(つまり、整数係数の範囲で一次独立である生成系をもつ)か?」という問題がホワイトヘッドの問題であり、件のアーベル群の濃度がアレフ1すなわち最小の不可算濃度である状況で、「ω1の任意の定常集合に対するダイアモンド原理の成立」を仮定すれば問いの答えはYES、「アレフ1に対するマーティンの公理」を仮定すれば問いの答えはNOになる(そして、これらの前提「 」はどちらもZFCから独立であるため、濃度アレフ1でのホワイトヘッドの問題も独立命題である)、という具合である。上記の通り、ホワイトヘッドの問題の主張(その独立性ではなく、問題の主張自体)は数学科の学部生レベルの代数学の知識で充分に理解可能なものであり、そんなところに独立命題が現れるというのは驚きであるように少なくとも私には感じられる。数学科の代数学の講義で有限生成アーベル群の構造定理を紹介する際の余談として、有限生成でないアーベル群ではどのようなことが起きるのかをちょっと紹介するだけでも、学生の皆さんのアーベル群に対する印象が変わるのではないかなぁと想像している。
- 6月9日(金)
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- 集中講義「集合論における独立命題」最終日(五日目)。昨日の日記に書いた、濃度アレフ1でのホワイトヘッドの問題の答えがYESになる場合とNOになる場合のそれぞれが解説された。めでたしめでたし。なお、今回の集中講義は残念ながら受講者がとても少なかったのだが(私以外の受講者がゼロではなかったのがまだ救いだが…)、講師の藤田さんのウェブページで今回の講義資料が公開されているので、興味のある方に講義資料を手に取っていただければ、今回の集中講義の世話人としても嬉しい限りである。
- 6月10日(土)
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- 週末。今週は集中講義でかなりハードな週だったのだが、この日も所用があったためゆっくり休むというわけにもいかなかった。
- 6月11日(日)
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- 6月12日(月)
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- この日の組合せ論の講義は、数え上げ組合せ論におけるいわゆる包除定理(Principle of Inclusion-Exclusion)について。半順序集合のMöbius関数を定義して、包除定理のステートメントを述べる直前まで進んだ。
- 6月13日(火)
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- 健康診断。私は視力検査の結果がその日の体調にかなり大きく左右されるたちであり(検査としてそれでよいのか、という疑問はあるが)、今回は調子が良く、片目だけ昨年より0.3ほど数値が良くなったので、視力検査の担当の方が訝しんでいた。
- 6月14日(水)
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- 某論文誌に投稿中の共著論文の査読レポートが届いた。かなり好意的な内容のレポートだったので喜んでいる。
- 6月15日(木)
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- 在宅勤務の予定だったのだが、急遽直筆の署名入りの書類を提出する必要が生じたため大学へ。
- 6月16日(金)
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- 国際会議IWSEC 2023に論文がアクセプトされていたのだが、accepted papers listが公開されたので公知の事実となった。リストを見ると今年は外国からの論文の割合が高めな気がする。ちなみに、私も色々と多忙な立場になったとはいえ、指導学生メインの論文や共同研究での共著(相手メイン)だけでなく自分が主体の論文もコンスタントに(具体的には毎年度1本以上は)出していきたいという目標があり、今年度はこの論文で無事達成となった。よかった。
- 6月17日(土)
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- 週末。夕食後にコーヒーゼリーを楽しむなどした。飲み物としてのコーヒーはどうも胃が荒れやすいので苦手なのだが、コーヒーの香りは好きなので、風味だけ楽しめるコーヒーゼリーはお気に入りの食べ物の一つ。
- 6月18日(日)
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- 週末なのだが、組合せ論の講義のレポート課題の採点をしていた。今学期の講義はふと思い立ってレポートを2回出題することにしていて、今回は前半の分である。事前に想像していたよりも点数が低めの受講生が多かったので(ちゃんと高得点を取っている受講生も少なくなかったのだが)、後半のレポート課題はちょっと難度を調整した方がよいかもしれない。あとこれは愚痴なのだが、数列の一般項を答える問題で間違った答えを書いてきた受講生、制限時間のある筆記試験ならまだしも時間がたっぷりあるレポート課題なのだから、初めの方の項が正しい値になるかちゃんと検算してもらいたいものである。
- 6月19日(月)
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- 組合せ論の講義。ふと思い立って、事前に準備していなかったとある性質の証明を即興でやってみたら難航してしまった。
- 6月20日(火)
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- 大学院入試が近いということで、このところ私を希望指導教員にして出願したいという学生さんとの面談が続いている。ありがたいことです。
- 6月21日(水)
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- Twitterでのらんぶる氏が
有理数の切断の濃度が有理数の濃度よりも真に大きいことって,実数の小数展開を使わずに(できるだけ「切断」の概念だけで)証明できたりするのかな
という疑問を発していたので、実数の小数展開や無限級数を用いない証明を考えてみた。折角なのでこちらにも書き記しておく(TeX記法が使えないので読みにくいですが…)。
- (証明)有理数の切断の各々はその左側の部分(小さい方の元からなる集合)だけで特定できるので、以降ではその左側の部分のことを「切断」と呼ぶ。つまり、切断とは有理数体の空でも全体でもない部分集合で下向きに閉じているもののことである。また、切断Aと有理数rについてA + r := { q + r : qはAの元 }と定めるとこれも切断となる。さて、切断全体の濃度は有理数体の濃度以上ではあるので(有理数rについて「r以下の有理数全体」がそれぞれ異なる切断をなすため)、あとはすべての切断をAn(nは正整数)と番号付けできたと仮定して矛盾を導けばよい。ここで切断Cn(nは非負整数)たちを、C0は何らかの切断(例えば負の有理数全体)として、1以上のnについては、有理数anを用いてCn := Cn-1 + anと再帰的に定める。ただし
- AnがCn-1 + 2/4nの部分集合であるとき、an := 3/4n
- そうでないとき、an := 0
とする。すると各anは非負であるから、Cnたちは切断でありCn+1はCnを包含する。よってすべてのCnたちの和集合Cも空でなく下向きに閉じている。また、どのnについてもa1 + a2 + … + an ≦ 3/4 + 3/42 + … + 3/4n < 1であるからCはC0 + 1の部分集合である。特に有理数全体とは一致しないので、Cも切断となる。すると仮定より、あるnについてC = Anとなっているはずである。しかし、
- もしこのnが上記の場合1.を満たしていると、C = AnはCn = Cn-1 + 3/4nの真部分集合となるが、これはCの定義と矛盾する。
- そうでない、つまりAnがCn-1 + 2/4nの部分集合でないときには、n+1以上の各整数mについてan + an+1 + … + am ≦ 0 + 3/4n+1 + … + 3/4m < 1/4nであることからCm ⊆ Cn-1 + 1/4nとなり、Cの定義よりC ⊆ Cn-1 + 1/4nとなる。するとAn = CよりAn ⊆ Cn-1 + 1/4nとなるが、これは「AnがCn-1 + 2/4nの部分集合でない」という仮定と矛盾する。
こうしてどちらの場合にも矛盾が生じることが示された。よって切断全体の濃度は有理数体の濃度よりも真に大きい。(証明終わり)
…という証明を投げた後で思ったのだが、これを一般化した「自己稠密な無限全順序集合の切断全体の濃度は不可算」という命題についても、区間縮小法っぽく「各n番目の段階について、n番目の切断の位置に応じて、区間を3分割した先頭の区間もしくは末尾の区間を選ぶ」という具合に証明できる(はずである、詳細に清書したわけではないが)。この証明を有理数体の場合にそのまま適用すれば、上記のような有限和の評価も必要としない証明が得られることになるのでそちらの方が簡単だったかもしれないが、上記の証明は(切断の番号付けが与えられていれば)反例となる切断を具体的に構成できるという利点があるのでこれはこれで存在価値があるかもしれない。
- 6月22日(木)
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- 在宅勤務しつつオンラインで打合せをするなどしていた。暑さのせいか疲労が溜まっている。
- 6月23日(金)
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- 若島正氏がTwitterで「将棋盤の右下4×4の範囲内【引用時注:この範囲内の最左上マスには先手の王が既に置かれている】に、先手の飛角金銀桂香歩を1枚ずつ追加して、どの駒にもヒモがついていないようにしてください。」というパズルを出題していた。この問題自体も面白くて、こんな条件で唯一解になるのはうまくできているなぁと思う。それはそれとして思うこととして、この手のパズルを理詰めで解けるような思考能力(というより、思考を整理する能力というべきか)というのは世の中でわりと役立つものであり、そうした能力は数学を修める中で鍛えることができる(注:数学以外では鍛えられないという主張ではありません)、という点はもっと世間に知られてもよいことだと思う。
- 某所の日記の移行作業。2012年8月分について、まずは2012年8月19日の分:
「数学女子」のスピンオフ作品として、作中に登場する女性教授の渡教授を主役とした「数学女史」という作品を妄想した。自分に絵心があったら本当に描いてしまいかねないので絵心がなくてよかったなぁと思った次第である。
- ↑次は2012年8月21日の分:
夏休みその2。妻の猫レーダーが偶然にも猫カフェを捉えたので初めての猫カフェ体験をしてきた。個人的にツボだったのは本棚のラインナップ。ドラゴンボールやドクタースランプを置かずにこれを置くあたりに猫カフェとしての矜恃が感じられて心が躍った。
上記の「これ」というのは鳥山明『ネコマジン』のこと。
- ↑↑次は2012年8月29日の分:
会場の方々によれば、私は今「組合世論サマースクール」に参加していることになっているらしい。それはそれで何となく意味が通ってしまうのがまた困りものである。
これは「組合せ論サマースクール」という研究集会に参加した際に、懇親会会場の入口に「〇〇ご一行様」みたいな表示があってそこに絶妙な誤植が、という想い出である。漢字で書いても似ているが、音声でも「くみあわせろん」→「くみあいせろん」ぐらいの聞き間違えなら(特に電話越しなどでは)普通にあり得ることだと思うので、会場の方々を責める気にはならない(が、面白いことは面白いので話のネタにはさせてもらっている)。
- 6月24日(土)
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- 6月25日(日)
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- 週末。三浦大知のファンクラブイベントに参加してきた(直接ファンクラブに入会しているのは妻なのだが、同伴者枠として非会員も参加できる)。どんなジャンルであれ、突き抜けたパフォーマンスを見せてくれる人というのは得難い存在である。
- 6月26日(月)
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- 組合せ論の講義の日。本日の目標の定理について、具体例を講義資料に何も書いていなかったので、急遽いくつか具体例を提示するなどした。
- 6月27日(火)
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- 今日の学生セミナーのうち1件は学生さんの体調不良のため中止になった。先日は別の学生さんも体調不良でセミナーを欠席していたし、体調不良の人が多いので心配である。
- 6月28日(水)
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- 今日の学生セミナーでは多項式の終結式(正確には部分終結式だったが)が出てきたのだが、一般の次数での終結式の定義はいつ見ても行列の成分の配置を正しくイメージしにくい印象である。「一般の場合の定義を見てもよくわからないから具体例で納得しましょう」というかなりアレな発言をしてしまった。
- 6月29日(木)
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- 6月30日(金)
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- 雨がかなり強く降っている。今年の梅雨はあまり雨が降らないなぁと思っていたのだが、たまに辻褄合わせのように激しい雨が降るというのも困ったものである。